とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part07

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第6話 不幸と幸福と漏電


「ど、どうしよう…」

 フランクフルト屋の側のベンチで、上条は困っていた。
 別に魔術師や科学者からの襲撃を受けたわけではない。
 美琴と抱き合っていたせいで、周囲に大勢のギャラリーが集まって来てしまったことでもない。
 彼が困っているのは、目の前で突然倒れた御坂美琴が原因だった。

(な、なんで倒れたんだ?俺は何もしてないし…まさか魔術師の攻撃か!?……でも御坂を狙う理由なんてないよな……)

 なぜ美琴は突然倒れたのか。
 魔術か、それとも科学の能力か、はたまた何かの病気なのか。
 気絶した美琴を抱え、必死に考えるも答えはでなかった。

 ……本当のところ、上条に抱きしめられられ付き合えたと勘違いし、嬉しさのあまり気絶したのだが、上条にわかるわけがなかった。
 焦る上条が次にとった行動は

(えーと、こういう場合は……そうだ救急車!!)

 たとえ魔術の特殊攻撃であろうと、たとえ敵の攻撃ではなかったとしても、美琴に何かが起こっていることだけは確かなのだ。
 ということは病院に運んだ方が、診察もしてもらえるし安心できる。
 それに、こんなところで大好きな彼女を失うわけにはいかない。
 上条は手に持っていた携帯を開き、電話をかけようとしたのだが

(………救急車って…何番だ?ていうか漏電してるっぽいから車に乗せられないんじゃないか?い、一体どうすれば…)

 今は右手で触れているため、美琴は普通に眠っているように見えるが、先ほど一瞬手を離したらかなり強い電気が漏れていた。
 これではとてもじゃないが、車に乗せることなんてできるわけがない。
 そんなわけで上条がオロオロしていると、

「むにゃ……えへへ…」

 頬をリンゴ色に染めた美琴が、呟いた。
 いや、正確には『寝言』と言った方が正しい。
 表情は緩みきっており、なんだかものすごく幸せそうな美琴は、ギュッと上条にしがみついてきた。
 とりあえず言えることは“可愛い”。
 そんな美琴を見た上条は、ある考えに辿り着いた。

「………ん?ひょっとして…寝てるだけ…?」

 しがみついてきている美琴に、苦しんでいる様子は全く見られない。
 それどころか、スースーと寝息をたてている。

(なんだ寝てるだけかよ……てことはそんな深刻な状態じゃないってことか。……よ、よかった…)

 これで一安心。
 美琴に異常なことが起こっていないとわかり、上条は安堵の表情を見せた。
 しかし、安心したのも束の間。

「ちょっと御坂さんじゃない!?」
「え?」

 人だかりの後ろから女の人の声がした。
 聞いたことがある…ような気がしたり、しなかったりする。

(この声……誰だ?それに御坂を知ってるんだよな。俺と話したことがない人じゃないとまずいんだけど…)

 もし話したことがある人であれば、こんな状況でにもかかわらず好きだと言われることは間違いなく、面倒なことになるだろう。
 そして人だかりの向こうから現れたのは、腕に風紀委員の腕章をつけた女性。
 残念なことに、上条はその人と話したことがあった。

「あ…こ、固法さん…」
「上条さん!御坂さん気を失ってるみたいだけどどうしたの?まさか事件に巻き込まれたの?」

 現れた女性とは風紀委員第177支部に所属する女子高校生、固法美偉だ。
 上条は以前美琴つながりで固法と会い、話したことが何度かある。
 それはつまり、増強剤の影響を受ける条件を満たしているということ。

(ヤバい、またしてもヤバいぞ…今にも好きだとか言われるんじゃ……)

 固法は普段なら、かなり頼りになるが今は話が違う。
 この場で告白なんてされれば、美琴を抱えて逃げることなどできないので、ジ・エンド。
 上条は美琴を抱えたまま、固法からジリジリと後ずさる。
 そんな上条に固法が

「?どうしたの上条さん……まさか御坂さんを気絶させたのって、上条さんなの…?」
「……あれ?」

 固法は上条に惚れる様子を見せるどころか、上条に敵意さえ見せ始めた。
 それを見た上条は少し考える。

(…どうみても俺に惚れてないよな。てことは……まさか固法さんって好きな人いるのか?だとしたらこれはチャンス!!)

 固法に好きな人がいる、というのは少し予想外であったが、何にせよ助かった。
 なんたってやっかいな増強剤の影響を受けないのだから。
 こうして固法が正常だと確信した上条は、

「いや違いますよ? 俺が何かしたんじゃなくて急に倒れたんですよ。それになぜか漏電してるから右手を離せなくて…だから救急車も呼んでも乗せられないから困ってたんです。」



 そう固法に説明した。
 実際は抱きしめていたのだが、それを言うと話がややこしくなるので省くことにしたのだが、特に問題はないだろう。
 上条の説明を聞いた固法は、

「あ…そうだったの。変な態度するから、てっきり上条さんが何かしたのかと思ったちゃったわ…」
「いや気にしないでください。それより御坂を運んだ方がいいと思うんですけど…どこに運べば………」
「あ、そ、そうね。えーと……177支部に行きましょうか。」
「はい、じゃあ運び……………!!」

 上条は気づいた。
 177支部へ行く、ということは車無しで気絶した美琴を運ぶということ。
 それはつまり……

(……御坂をおんぶするってことなんじゃ!?)

 なんという素敵イベント。
 固法に運ばせるわけにはいかないし、どう考えても他の方法もないので、必然的に上条が美琴をおぶることになるのだ。
 上条は固法に見えないよう、ガッツポーズをした。

「えーと…御坂さんをどうやって…あ、タクシーでも…」
「あ!いや!!お、俺が!俺がおんぶします!しますから大丈夫です!!マジで!!」

 上条は必死だった。

「そ、そう。じゃあお願いしようかしら?」
「よし!!さて……よっと。」
「大丈夫?じゃあ行きましょうか。」

 上条は気絶している美琴をおんぶし、固法と並んで風紀委員の支部へ向け歩き始めた。
 振動で起きないかが心配だったが、美琴は上条の背中で気持ちよよさそうに眠っており、今のところ起きる気配はない。

(ああ…御坂をおんぶできるなんて……幸せだ…)

 背中の美琴の感触や体温、匂いなど、美琴好きの上条にとってはたまらなく、ついつい顔が緩んでしまう。
 今日はなんといい日なのだろうか。
 美琴を抱きしめることはできしたし、おんぶもできたし、女の子に追いかけられた出来事が霞むくらいいいことが起こった。
 おんぶもいいけどもう一回抱きしめたいなー、とか上条が考えていると

「上条さん?」
「は、はい!なんでせう?」
「改めて言わせてもらうけど…さっきはごめんさないね…疑っちゃって…」

 隣を歩く固法は視線を下に落とし、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
 そうやらさっきのことをかなり気にしているようだ。

「そんなの気にしなくていいですよ。全く気にしてませんから。」
「でも…」
「いいですって。それより今日も風紀委員の仕事ですか?」
「え、ええ、そうなのよ。今第7学区に妙な男子学生が出没していて、多くの風紀委員が駆り出されてるのよ。」
「…男子学生…?まさかとは思いますが、その学生って髪の毛が青くて耳にピアスしてるとか…?」

 非常に嫌な予感がした上条はおそるおそる尋ねてみた。
 上条の言う、“髪の毛が青くて耳にピアスしてる学生”とは、もちろん青髪ピアスのことだ。
 できれば違ってほしいと思っていたが、固法は驚いた表情を見せ

「なんで知ってるの?まだ言ってないのに…」
「え…ま、まさか本当に?」
「ええ。私たち風紀委員は青い髪の高校生を捜しているのよ。ひょっとして、上条さん何か知ってるの?」
「い、いや別に…」

 間違いない、風紀委員が探しているというのは、増強剤で暴走した青髪ピアスだ。
 上条の顔はサーッ青くなり、心拍数が跳ね上がった。
 ぶっちゃけ上条も、いくら青髪ピアスが増強剤の効果により変態が強化されたといっても、そこまで問題はないと思っていた。
 だから特に青ピを探さずに美琴をメインに探していたのだ。

「そ、それで…被害は…?」

 上条は再びおそるおそる固法に被害状況を尋ねた。
 もし青髪ピアスが女の子たちに危害を加えていた場合、停学はもちろん、最悪退学になりかねない。
 頼むから何もしていないでくれと、願っていると

「被害?女の子達は被害になんて遭ってないわよ?」
「へ?」

 固法の口から出たのは予想外の答えだった。

「被害に遭っていない…?」
「ええ、むしろ逆よ。青い髪の学生は第7学区内の女の子たちを助けて回ってるの。だから是非ともお礼を言いたくて探してるわけなの。」
「えー…そ、そうなんですか……」

 上条は青髪ピアスの予想外過ぎる行動に驚きを隠せない。

(青ピが人助け……変態が増強されたんじゃないのか?…いや、あれは土御門の予想だから別の何かが増強されたのか。)

 だとすれば何が増強されたのか、上条が考えていると

「んん…」
「!?」



 背中の美琴が小さく声を出した。
 さらにちょっと動いた気がする。

(ま、まさかもう起きたのか!?頼むって、おい…もう少し眠ったままでいてくれよ…)

 美琴が起きれば、当然自分の足で歩くことになり、おんぶできなくなる。
 しかし…

「えへー……むにゃ…とーまぁ…」
「な…ッ!」

 どうやらまだ眠っているらしい。
 耳元で聞こえる美琴の可愛らしい寝言、美琴大好きの上条にとってはたまらない。

(何この可愛い御坂、結婚したい。ていうか夢に俺が出てきてるのか……どんな夢なんだろ…)

 青ピのことなど頭の中から消え去り、できれば2人でいちゃいちゃしてる夢がいいなー、と考える上条だった。

 そんなかんじで歩くこと約10分、風紀委員第177支部に到着。
 ちゃんと室内に女の子がいないと確認をとってから中へと入り、美琴をそっとソファへと寝かせた。
 背中から降ろすとき名残惜しいと思ったのは内緒だ。

「もう漏電してないみたいね。それに病院へ運ぶほどひどい症状じゃないみたいだから、しばらくここに寝かせておこうかしら。」
「そうですね。御坂もそのほうがいいと思います。」
「じゃあ私飲み物入れてくるから、ちょっと待っててね。」
「あ、どうもすみません。……さて、御坂の寝顔を堪能しますか…ん?電話か?」

 唐突に鳴った着信音、上条はポケットから携帯を取り出してみると

「土御門か……まさか元に戻す方法がわかったのか!?」

 だとすればありがたい。
 もう女の子に追いかけ回されるのは勘弁してもらいたいし、体力と気力がもつかどうかが怪しい。
 上条はすぐに通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた。

「土御門?何かわk」
『おーう上やん!元気にモテてるか!』
「なんか腹立つ。で、何のようだ?嫌み言うために電話かけてきたわけじゃないだろうな。」
『ああ、もちろん違うぜい。治し方がわかったんだにゃー。』
「ッ!!マジか!」

 上条は歓喜した。
 これで全てが元に戻る。
 女の子達はみんな今日あったことを忘れ、改めて美琴に告白することができる。
 それで振られても、上条は悔いないだろう。

 まあ絶対振られないけど。

「で、どうやったら治るんだ?」
『ああ。解毒剤ってのを作ったんだにゃー。だから上やん、俺の寮に取りにこい。』
「解毒薬……“毒”っていうことにちょっと引っかかるな…」

 それにそんなもんで治るもんなのか、少し疑いはあるものの、今は土御門を信じるしかない。
 早速取りに行こうと思ったのだが、立ち上がろうとしたところで1つ考えが浮かんだ。

「……あのさ、こっちに持って来るのって、無理?」
『え?いやーそれは…』
「頼むって!俺がそっちに移動すると絶対ヤバいことがおきるからさ!」

 と、言うのは立て前で、本音はこの場で美琴と一緒にいたいからである。
 しかし、土御門の声がなかなか返ってこない。
 電話の向こうでどうするべきか考えているのだろうか。 
 そして沈黙が続くこと約20秒。



『よし!わかったぜよ。今回は俺にも非があるからな、持って行ってやるんだにゃー。』
「おお!助かる!じゃ、そっちの携帯に俺の居場所を送っておくから、頼んだぞ!!」
『了解だにゃー。』

 そして土御門との通話は終了、想像以上に自分の思い通りの展開となった。

「いやー、土御門のやつ聞き分けよかったな。……何か企んでるんじゃ………ってそれはないよな。よし、アイツが来るまで御坂の寝顔を…」

 上条は携帯をポケットにしまい、ソファで眠る美琴に視線を移す。
 やはり可愛い、その一言に尽きる。

(………あ!写真とって待ち受けにしよう!!) 

 名案だと上条は思った。
 ここで写真を撮っておけば、携帯でいつでも美琴を鑑賞できる。
 固法がまだ戻ってこないことを確認してから、上条は携帯をかまえた。
 が、ここで上条に不幸が襲いかかる。

「固法先ぱーい!例の青髪の学生発見しました!ていうか佐天さんが…」
「こんにちはー!!あの、あたし学校の友達と遊んでたら不良にからまれて、そこを偶然青髪の人に助けてもらっちゃった……って、上条さん!?」
「…マジかよ……」

 上条に安息が訪れる時はないのだろうか。
 勢いよくドアが開くと共に、美琴の友人である初春飾利と佐天涙子が入って来た。
 いや、“入って来てしまった”と、言った方が正しいかもしれない。
 2人と目が合った上条はその場で停止。
 上条はこの2人とも知り合いになり、話したことがあるため、増強剤の影響を受ける可能性がある。
 が、しかし、それはあくまで“可能性”だ。

(まだだ。まだこの2人に好きな子がいるって可能性が残されてる。頼むからいつも通りであってくれよ…)

 上条は2人に好きな人がいるという可能性に賭け、イスに座ったまま2人の反応を待った。
 小学生なら話は別だが、2人は中学生なのだから好きな男の子がいてもおかしくない。
 その結果は…

「上条さん…あのー、今暇ですか?もしよければパフェ食べに行きませんか?私美味しいお店知ってるんですよ!」
「あ、ちょっと初春!抜け駆けはずるいって!上条さん私と買い物行きましょうよ!」
「ははっ……そうだよな…人生そう上手くいくわけないよな…」

 上条へ詰め寄る2人の女子中学生。
 完全に『増強剤』の影響を受け、上条に惚れ込んでいる。

「あの、上条s」
「逃げるが勝ち!!」

 上条は半分泣きながら逃げるように、というか逃げるために第177支部から飛び出した。

「もっと御坂と一緒にいたかったのに…不幸だぁー!!!!!」



 ♢ ♢ ♢


「いやーお腹いっぱい!後はとうまを探すだけかも!」

 お腹をさすりながら、そんなことをいうのは、大食いシスターインデックス。
 食料確保と上条を探すため、上条の部屋を出て町に来ていた彼女は
 よく飲食店でやっている『餃子100個食べたら1万円!ただし食べられなかったら5000円お支払い』というやつである。
 おかげで元からあった千円を使うどころか、今インデックスの手元には5万円という大金があった。

「お金ってこうやって手に入れるものだったんだ……ん?あれは…とうま?」

 インデックスが見たもの。
 それはものすごい勢いで走る上条と、追いかける2人の女の子だった。

「……ちょっと待つんだよ!とうまー!!」


 ♢ ♢ ♢


「はぁー…全然見つからない…」

 と、ため息まじりに独り言を言うのは、天草式十字凄教の五和だ。 
 名も知らない青い髪の少年(青髪ピアス)に助けられてから約1時間、上条のこと探し続けるも、見つけることはできていなかった。

「もー…これじゃ抜け出して来た意味が…ん?」

「かっみじょーさーん!私とデートしましょーよー!」
「待つんだよー!とうまー!」

 上条を追いかけているのは3人の少女。
 そのうちの1人は知っている。
 イギリス清教のインデックス、上条との同居人である。
 しかし、他の2人は見たことが無い。
 ということは…

「あ、新しいライバルが……ちょっと待ってくださーい!!」  


 ♢ ♢ ♢


 一方、こちらは上条のクラスメイトである姫神愛沙。

「おかしい。絶対おかしい。」

 第7学区の路上に設置されているベンチに座り、姫神は意味ありげに呟く。
 彼女は教室内で担任の小萌と、クラスメイトの吹寄が相次いで上条に告白するという異常事態を目の当たりにしていた。
 それだけにとどまらず、小萌も吹寄も上条を追って学校を飛び出して行ってしまったのだから、何かが起こっていることは間違いない。
 そう考えた姫神は、恐らくこの事件に絡んでいるであろう上条に会うため、放課後町を散策していたのだが、五和やインデックスと同様に上条に出会うことができず、今は休憩の最中だった。

「絶対に何か起こっている。だから上条君に会いたいのだけど……なぜだろう。会える気がしない。」

 何かと上条と縁の薄い姫神、諦めモードになりかけていた時だった。

「上条さーん!待ってくださーい!」
「とうまー!話があるんだよー!」

 姫神のすぐ後ろから聞こえてきたのは、聞き覚えのある声、そして名前。

「え?上条。当麻?」

 姫神が振り返ると、そこには逃げる上条と追いかける4人の女の子の姿があった。
 そんな光景を目にしたら、することは一つ。 

「……追いかけよう。」



 ♢ ♢ ♢


 場面は戻って、ここは風紀委員第177支部。
 上条が逃げ出してから30分近くが経っており、今室内には3つの人影があった。
 一人は風紀委員177支部支部所属の固法。まあここにいて当たり前である。
 もう一人は上条の呼び出されわざわざやってきた土御門。
 そしてもう一人は、晴れて上条の彼女になることができたと思い込んでいる美琴なのだが、他の2人に対して深々を頭を下げている。
 なぜ美琴が頭を下げているのかというと

「本当にすみませんでした!!」

 2人に謝罪をするためだった。
 美琴は本当に申し訳なさそうに、固法と土御門にただひたすら謝り続ける。
 もちろんのことだが、美琴が固法と土御門に謝るのには、ちゃんとした理由がある。
 その理由とは 

「いやそんな謝らなくても別にいいぜよ。…まあ目を覚ましていきなり漏電したのはびっくりしたけど……」
「す、すみません!ほんとにすみません!!」

 美琴の口から出てくるのは、謝罪の言葉のみ。
 自分が漏電してしまったため、固法と舞夏のお義兄さんを危険な目に遭わせてしまった。
 そのことが申し訳なくて仕方が無かったのだ。
 謝ることを止めない美琴に、漏電が怖いためか少し距離をおいている固法が

「土御門さんも言ってるけどそんな謝らなくていいわよ。それより、なんで起きていきなり漏電なんてしたの?」
「そ、それは…まあいろいろあったんです……」

 言えない。
 本当のことなど、絶対に他人に言うわけにいかない。

(アイツと付き合えたことが嬉し過ぎたからなんて…言えないわよ!)

 美琴の勘違いは続く。
 本当のところ、上条は美琴が増強剤の影響を受け、告白してきたと思っているのだが、美琴は上条が告白を受け止めてくれた、と思い込んでいるのだ。
 まあ実際のところ両想いなので、問題はないと言えば問題ない。多分。
 それにしても、今改めて思い出してみても、あの時の幸福感はヤバい。
 名前で呼ばれ、抱きしめられ、“好きだ”と言われる。
 それを上条にしてもらえたのだから、美琴には『今世界で1番幸せな女の子』だという自身があった。
 で、いつの間にか反省モードから妄想モードに切り替わっていた美琴は

(えへへへ……私がアイツの彼女……って、や、やば…顔に出てるかな。ていうかまだ抱きしめられてる感触が残って……あれ?そういえば…アイツは…?)

 今になってようやく気づいた。
 上条は一体どこに行ったのだろうか?
 改めて室内をきょろきょろと見回すが、彼の姿は無い。

(……あれ?目が覚めてからずっと漏電してたからわかんなかったけど……そういえばここにいないんじゃない?)

 もう一度見回してみる。が、やはりいない。
 じゃあどこに行ったんだ、と思っていると

「どうしたの御坂さん。急にきょろきょろしだして。」
「あ、あの…アイツ知りませんか?私気を失う前にアイツと会ってたんですけど…」
「“アイツ”って上条さんのこと?上条さんなら御坂さんをここまで運んでくれたんだけど、その後すぐに出て行ったわよ?」

 と、固法の答えを聞いた美琴が一番に考えたことは

(あ、アイツが運んでくれたんだ……なんか嬉しいな…)

 ささいなことでも、幸せな気分になる美琴だった。
 しかし、今大切なことは上条に運んでもらったことではない。

「あの、出て行ったって…なんでですか?」
「えーと…そうだ。初春さんと佐天さんが入ってきたんだけど、なぜか上条さんは2人に追いかけられて出て行ったのよ。」
「「あ…」」

 美琴と土御門は同時に声を出した。
 2人は固法の話を聞いて瞬時に理解していた。
 上条は薬の影響を受けた初春と佐天に言いよられ、ここから逃げ出したのだと。

(てことは、今にも初春さんと佐天さんがアイツに……は、早く探さなきゃ!!)

 予想外の事態に、美琴は慌てて支部から飛び出そうとしたのだが、

「ちょっと待つぜよ!」
「わっ!」

 急に土御門に腕を掴まれた。
 急いでいるのに一体なんだ、と美琴は不機嫌そうに振り返り

「なんですか?あの、私急用を思い出したんですけど…」

 急用=上条を探しに行くこと。
 とにかく、美琴は一刻も早く上条を探しに行きたかった。
 しかしそんなことはバレバレなわけで…

「いや急用って、どうせ上やんを探しに行くだけだろ?」
「な…!!そ、そんなわけないじゃないですか!私は別にアイツのことなんて…ただちょっと用事があるだけで……」



 ここできても美琴は素直ではなかった。
 土御門と目を合わせないようにして、バレバレのいいわけをする。
 そんな美琴を見た土御門はうんざりとした様子でため息をつき、

「…まあその話は置いておいて…上やんにこれを届けてほしいんだにゃー。ほい。」
「これ……なんですか?」

 美琴が土御門より手渡された物。
 それは液体の入った小さなビンだった。
 その高さ5センチ、直径2センチほどの小ビンには手書きの読みづらい文字が書かれたラベルが張られている。
 その文字を美琴は読んでみると

「『ANTIDOTE-解毒剤-』…?何の?」
「だから上やんが飲んだ増強剤の解毒剤ぜよ。それを上やんに飲ませれば、すぐに元通りになるんだにゃー。」
「え!?ほんとですか!?」
「もちろんだにゃー。俺はウソは言わないぜい。」
「これが……アイツが元に戻る薬…」

 土御門の台詞に美琴は目を輝かせた。
 彼の言葉が本当なら、これを上条に飲ますだけで全てが解決し、正式に上条との交際がスタートする。
 なんて素敵なアイテムを持って来てくれたんだ、と美琴は土御門に心底感謝した。

「て、ことで、俺はもう上やんを探すのは嫌だし、代わりに頼むぜよ。」
「あ、はい!任せてください!!」
「よし。じゃあよろしく。あ、それからこれ。解毒剤の説明書だにゃー。今急いでるなら、上やんに飲ませる直前にでも読んでくれ。」
「わかりました!」

 美琴は元気よく返事をした。 
 そして絶対になくさないよう、解毒薬と取扱説明書をカバンの中にしまい、ドアノブに手をかける。

「じゃあ失礼します!固法先輩もありがとうございました!!」
「お礼なんていいわよ。それより頑張ってね?」
「はい!!」

 美琴は元気よく、支部から飛び出していった。もう2人に上条を探しに行くことを隠してすらいない。
 もうすぐ全てが解決する、そう思うと足取りは軽かった。


 ♢ ♢ ♢


 そして美琴の後に177支部を後にした土御門は、

「舞夏ー!おまたせだにゃー。」
「おー、やっと出て来たかー!で、どうだったんだー?」
「いやー……これはもっと面白そうなことになるぜよ。あ、超電磁砲にはバレてないか?」
「それなら大丈夫だぞー。見えないところに隠れてたからなー。」
「よし、なら大丈夫だな。さて……上やんと超電磁砲を追うぜよ。」

 やっぱり土御門は土御門。
 支部の外で待機していた義理の妹である舞夏と共に、今日も元気に悪巧みをするのだった。







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