とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part09

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集



第8話 夢のような


「はっ、はっ……もうすぐ、もうすぐだ!」

 上条当麻は、街中を無我夢中で走っていた。
 足が地に着いていない気がする、まるで夢の中にいるような感覚だ。
 上条が言う“もうすぐ”、この台詞は“もうすぐ告白できる”、ということだ。

「御坂に渡された解毒薬は飲んだ!後は、御坂に会って告白するだけだ!!」

 周りの人なんて気にならない。
 一刻も早く美琴に会いたい、ただそれだけの理由で、上条は街中を駆けて行く。

 その後どれだけ走ったのだろうか。
 はっきりとした距離はわからないが、相当な距離を走ったはずだ。
 それでも疲れないのは、美琴への想いが強いからかもしれない。
 そして、ついに―――

「!!御坂!」

 直線の向こうに立っているのは、この世で最も愛しい人、御坂美琴だ。
 背を向けた状態で歩いていた彼女だったが、上条の声に気づいたのか、美琴はこちらを振り向いた。

(ッッ!!!!や、やべぇ、緊張してきた…)

 胸が高鳴る。
 上条は自分が歩いているのか走っているのかわからなくなるほど緊張していたが、なんとか美琴の元へ辿り着いた。
 目の前の彼女の顔がまともに見れない。
 視線をやや横にずらし、

「あ、あのさ、さっきは解毒薬持ってきてくれてありがとな。」
「……」
「そ、それで、だな、えーと、言いたいことがあって。」
「……」
「ずばり言うぞ?俺は、お前が好きだ。だから、付き合ってくれ!」

 緊張しているためか、手には汗が握られている。
 告白を受け止めてくれるだろうか、それとも断られるだろう。
 正直怖かったが、上条は美琴がどんな反応をしようとも、全てを受け入れるつもりだった。

「え!!?お、おい、御坂、あの、」
「私も、当麻のことが大好きだよ?」
「!!ほんとか!?」
「うん!だから、キスしてほしいな?」
「あ、え、お、おう。」

 美琴の意外な積極性に驚きながらも、
 上条は美琴の肩に手をかけ、距離を縮める―――――



 ♢ ♢ ♢


 暴走した黒子によって引き起こされた、『カラオケ店連続テレポート事件』から1時間後。
 気絶から復活した上条は、落ち込んだ様子で街中の路地裏に潜伏していた。

「はぁ……あの夢が現実だったらよかったのに…」

 夢。
 『俺、この騒動が終わったら御坂に告白して付き合うことが夢なんだ。』の、夢ではなく、寝ている最中に無意識に見る夢の方だ。
 つまり、解毒剤を飲んだことも、美琴に告白したことも、キスをしてことも、全てカラオケ店で気絶している間に上条が見た夢だった。
 目が覚めた後、全てが夢だとわかり軽く鬱になったし、解毒薬すら手元になかったことに絶望を覚えた。

「まあ展開が早かったし、背景もずっと同じだったし、走っても疲れなかったし……今思い出せば明らかに夢なのになんで夢の中で“あ!これ夢だ!”って気づかないんだろ…」

 よくあることである。
 夢の中では『自分は今夢の中にいる』、と中々認識できないものだ。

 で、上条が路地裏に潜伏するはめになった経緯だが、いい夢を見ていた後のことだ。
 黒子とは別に駆けつけた風紀委員の人によって幸せの夢の国から引っぱり戻されたのだが、不幸体質だからだろうか、その風紀委員は女子生徒だった。
 しかも、無意識に会話をしてしまったので、条件を満たすこととなり、その女の子にまで追いかけられるはめとなった。  
 そんなわけで、路地裏に潜伏しているわけである。
 散々追いかけられたせいか、制服には汚れが目立ち、今日1日彼がどれだけ苦労しているのかを現していた。

「風呂に入りたいな………そういえば、カラオケでの御坂ってなんかいつも通りだったような…あれ?増強剤の影響を受けてるなら初春さんとかみたいになるはずなのに……」

 改めて思い出してみるものの、美琴と他の女の子の上条への接し方の違いは明白だ。
 また、公園であったときの美琴とカラオケでの美琴でも、上条への接し方が違っている。

「……やっぱりよくわからん。とりあえず御坂を探しに行くか。」

 美琴を探す、というのは、単純に会いたいという理由だけではなく、彼女がまだ解毒薬を持っている可能性が高いからだ。
 カラオケ店になかったのだから、美琴が持っているという考えに辿り着くのは必然のこと。
 上条は美琴に会いに行くため颯爽と路地裏から飛び出し………はせず、路地から顔を出し、身長に周りの様子を伺う。
 もうこれ以上女の子に出会って追いかけられるわけにはいかない、そのためにもより一層慎重に行動する必要があるのだ。
 しかし、目の前の道は大通りで人が多いため、知り合いの女子がいるかどうかはよくわらない。

「結局は誰にも会わないことを祈るしかないか…よし!」

 上条は路地からの出発を決意。
 美琴を目指し、路地から一歩目を踏み出したときだった。

「んん?なんだお前、そんなとこで何してるの?」

 右側の人ごみから突然声をかけられた。
 しかもその声は女性のもの。
 振り向かずこの場から走り出すのか正解なのだが、上条は反射的に声のした方向を見てしまった。

「げっ!」

 上条は驚愕した。
 そこに立っていたのは、顔にかなりの量のピアスをつけ、黄色の服を着た女性。
 その女性の名は

「ヴェ、ヴェント…なんで学園都市に…?」

 上条にとっては最悪の展開。
 なんたってヴェントは『神の右席』1人、全世界でもトップクラスに位置する魔術師だ。
 その彼女がなんで学園都市にいるのか、上条にわかるわけもなく、ただただ唖然とするばかりだった。
 また事件か、それとも学園都市を侵略にでもきたのか、上条がガクブルっていると

「なんでって……連れてこられたのよ。」
「連れてこられた?」
「ああ。どこぞのバカ王女が急に“学園都市に観光に行くし”とか言い出してね。」

 ヴェントの言う『どこぞのバカ王女』。
 その言葉から上条が想像したのは、以前イギリスで思い切り殴り飛ばした王女だった。
 その人物が学園都市に来るわけが無い、来る理由も無い、そう思うも『バカ王女』に当てはまる人物は他に考えつかない。

「…一応聞くけどさ、それってキャーリサ?」
「アイツ以外誰がいるのよ。」

 ヴェントの答えに“ですよねー”、と上条は呟いた。
 これでキャーリサが学園都市にいることが確定、どうやら本日の不幸はまだまだ続きそうだ。



「でもそのバカ王女が勝手に国外に、ましてや科学サイドの学園都市に来るなんて公にできないのよ。だから誰にも内緒で来たんだけど…」
「だけど?」
「護衛がいるってことで強引に連れてこられたのよ……でも着いたら着いたで一人でどこかへ勝手に行っちまうし……」

 はぁー、とヴェントは深いため息をついた。
 かなり苛ついているように見えるのは、多分気のせいではない。
 だが、本当の問題はキャーリサが来ていることでも、ヴェントがいらついていることでもなく、ヴェントが薬の効果を受けるのかどうか、ということだ。

(ヴェントに好きなやつがいるなんて考えにくいし……逃げるべきか…?いや逃げられる相手じゃないよな…)

 つーかヴェントって科学の町嫌いだからキレたらヤバいんじゃね?とか考えていると、

「ちょっと、聞いてるの?で、アンタはこんな路地裏から出て来て何してたのよ。」
「あ、ああ悪い。ここから出て来たのは追いかけられ………あれ?お前…なんともないのか?」
「なんともない?何が?」
「え?…あれ?」

 驚いたことに、ヴェントは上条に惚れた様子を一切見せない。
 上条は睨んでくるヴェントから目を離し、なぜ変化がないのか考え始める。

(まさか好きなやつがいる……いやそもそもあんな薬の影響なんかヴェントは受けないんじゃないか?最高峰の魔術師だし、効かなくてもおかしくないよな。)

 そう考えた上条は確認のために、もう1度ヴェントに視線を移す。
 そして、端から見ると少し変に思われるかもしれないが、まじまじと全身をくまなく見回す。

「………?」

 ………やはり変わった様子はない。
 見てんじゃねーよ、と言わんばかりにギロリと睨んできているし、いつも通りだ。
 睨まれるということは普通なら怖いことなのだが、上条にとってはありがたかった。

「いやなんともないなら別にいい。じゃ、俺はもう行くからな。」

 ヴェントを町に放っておくことは若干危ないかもしれない。
 学園都市を壊滅に追い込んだことのある前科があり、危険人物であることは否めない。
 が、ロシアでほんの少しだけ共闘っぽいこともしたし、今回は護衛的なことで来ているし、大丈夫だろう。
 上条がヴェントに背を向け、人ごみの中を歩き始めようとしたとき

「あ、ちょっと待って。付き合ってほしいんだけど。」

 上条はヴェントに背を向けた状態で停止した。
 そして数秒かけ、ロボットのような動きでヴェントのほうに振り返る。

「な、なんで?」
「いいから付き合いなさい。」

 睨むヴェント。
 そして睨まれた上条は考える。

(この場合どうする…?買い物に付き合うくらいなら…でも時間かかりそうだな。それの御坂以外の女の子と2人っきりっていうのは嫌なんだよなー……)

 かといって断ったらぶっ殺されそうだ。

(買い物に付き合うふりをして、こっそり逃げるのが得策か。)

 増強剤の影響を受けていないのだから、他の女子のようにやっかいなことにはならないだろう。
 考えがまとまった上条は

「OKわかった。付き合うよ。それでどこに行くんだ?」 
「そうね…まずはすぐそこのホテルにでも行きましょうか。」
「了解、じゃあ早速……え?ホテル?」

 上条の額に冷や汗が吹き出た。

「え…っと、それは…なんで?体調でも悪いのか…?」
「はぁ?何言ってるのよ。私たちは“男と女”として付き合ってるんだから、ホテルに行くのは当然でしょ?」
「オーマイゴッ!!!」

 上条は空に向かって、力の限り叫んだ。
 そして周りの通行人からかなり注目を浴びてしまったのは、言うまでもないのだが、今はそれどころではない。

(ヴェントも思いっきり増強剤の影響受けてるじゃねーか!!誰だよヴェントには効かないって言ったやつ!!!)

 現在、上条の頭の中はパニック状態。
 なんたってヴェントは今までの女の子たちとは別格の強さを誇る。
 ということは、上条に振られて凶暴化した際に、より一層上条の命が危険にさらされるというこだ。
 この状況をどう切り抜けるべきか、考えようとするも、そんなすぐには良い案など思い浮かばない。



「さあ…ホテルに行k」
「じゃあなヴェント!また会う日まで!!!」

 上条はヴェントの話も聞かずに逃走を開始。
 絶対に追いつかれてはいけないので、背後に細心の注意を払いながら全力で走る。
 しかしそう簡単に思い通り物事が進まないのが、上条クオリティ。

「いてっ!」

 走り出してわずか10秒。
 背後を気にし過ぎ、前方不注意のため通行人にぶつかってしまった。
 上条はなんともなかったため謝ってすぐさま逃走を再開したかったが、相手が転倒してしまっていた。

「す、すいません!大丈夫ですか!?」

 急いではいるものの、自分が転ばしてしまった相手を放っておくわけにはいかない。
 慌てて相手を起こそうと思い手を差し伸べたのだが、上条の右手は途中で停止した。
 相手がひどい怪我を負っているからではない。
 その転んだ相手に問題があるのだ。

「いったーい!もう何するの……あ。」
「うっそーん…今度は番外個体かよ……」

 ぶつかった相手は、美琴の妹である番外個体(ミサカワースト)。
 末妹ではあるが『妹達』の中では1番外見年齢が高く、美琴よりありとあらゆる部分が一回り大きい彼女は、停止していた上条の右手を掴んだ。
 掴まれた上条は、冷や汗が止まらない。

(番外個体はどっちだ…?一方通行と一緒に住んでいることは知ってるけど…打ち止めと同じく一方通行のことを好きだったりするのか?)

 正直かなり気になる。
 果たして好きなのか、そうでもないのか、立ち上がった番外個体の反応は

「……ねえ当麻?今からミサカといいことしない?ほらそこにホテルもあることだし☆」

 上条は心の中で『番外個体、お前もか』と叫んだ。
 もう言葉にして叫ぶ気にもならない。
 目の前で上条の手を握っている番外個体の目は輝いており、上条は自分の貞操が危ないと全力で感じた。

 また上条は美琴のことは愛して止まないのだが、『妹達(シスターズ)』に恋愛感情は一切持ち合わせていない。
 あくまで“御坂美琴”という1人の女の子が大好きなのだ。
 そんなわけで美琴に一途な上条は、なんとか手を離してもらおうと思い

「いや、あのな番外個体。今はそんなことしてる場合じゃないんだよ。悪いけど手を離してくれないか?」

 番外個体のお誘いを丁重にお断りし、背後からヴェントに襲われないか後ろを振り返ってみると

「んん?上条じゃない。」
「……麦野さん…」

 後ろにいたのはヴェントではなく、学園都市に7人しかいないレベル5の1人、麦野沈利だ。
 おしゃれな服を着て、手にカバンを持っているところを見ると、今からどこかへ出かけるのだろう。
 まあもう予想はつくと思うが…

「………」
「えーと、麦野さん?どうかしましたか…?」
「あのさ、なんで手つないでるわけ?なんか腹立つんだけど。」
「やっぱり麦野さんも…浜面のこと好きなのかと思ったのに…」

 状況は一向に好転しない、むしろどんどん悪い方向へ向かっていってしまっている。

(もうこれ以上の不幸が起きない、ってくらい不幸な出来事が続いたんじゃね?ていうかこの局面をどうやって切り抜ければ…)

 バタンッ!という車のドアが閉まる音がした。

「おー!いたいた、かなり探したし。ヴェント、私に勝手に行動するな……ん?上条か?」

 上条の首はぐるん、と声の聞こえた道路の方向へ回る。
 この声、この話し方、聞き覚えがある。ありすぎて困る。
 できれば気のせいであってほしい、そう願うものの……

「おい、何をボーッとしてる。この私が声をかけたのだぞ。反応しないとか
「……な、何か御用でございましょうか、キャーリサ様…」

 やはり間違いではなかった。
 タクシーから降りてきたのは、真っ赤なドレスを着こなし、頭には王冠をのせた1人の女性。
 まさに『王女』と言うにふさわしいほど、凛とした態度で上条達の方向へ歩み寄って来るのは。イギリス国第二王女、キャーリサだ。



「ん?お前が私のことを『様』をつけて呼ぶなんて珍しいな。ま、そんなことはどうでもいいの。」
「あの、ヴェントを迎えにきたなら早くお引き取りを…」
「いや、予定が変わった。お前を迎えにきたのだし。」
「む、迎え?」
「うむ。私直々来たのだからありがたく思え。さ、早くイギリスへ飛ぶぞ。一刻も早く挙式の準備に取りかからねばならんからな。」

 話が唐突にもほどがある。
 いきなりイギリスとか、挙式とか言われても、普通なら話を理解できるわけが無い。
 しかし、理解できないのは『普通』の場合。
 現在普通ではない上条には、キャーリサが何を言いたいのかもうわかっていた。

(ですよね!!キャーリサは条件満たしてるわけだから、俺のこと好きになるよね!!もうこれ不幸とかレベルじゃないんですけど!!!)

 どうしてこうなったのか。
 やはり、薬の力で美琴といちゃいちゃしようと考えたのが間違いだったのか。
 半分泣いているところへ、

「ちょっと、なんで逃げ出してんのよ。」

 ヴェントも合流。
 もはや状況がカオスカオスアンドカオス。
 そんな最悪とも言える状況の中、さらに状況を悪化させる台詞を言い放ったのは

「ちょーっと待ってもらおうかしら?最後に出て来て何勝手に挙式とかわけのわからねーことほざいてんだ?」
「え?あの麦野様?」

 超絶腰の低い上条。
 キャーリサのみならず、麦野にまで『様』をつけ始めるとか、もうなにかしらが末期である。
 そんな上条の言葉など聞こえていないかのように、麦野は続ける。

「上条はね、私のモノなのよ?それをわかって言ってるの?」
「いや、俺は御坂のモn」
「ちょっと、勝手なこと言わないでほしいんだけど。ミサカを差し置いてその発言はないんじゃない?」
「え?番外個体?あの話がややこしくなるから少し黙っt」
「あのね。一番に上条に声をかけたのは私よ?後からきたのは黙っときな。」
「ヴェントさーん…これ以上上条さんを困らs」
「おい…貴様ら王女である私に逆らうというのか?……よかろう、死刑を執行するし。」
「…もうやだ……」

 まさに修羅場である。
 ヴェント、番外個体、麦野、キャーリサ、と普段ではありえない一癖も二癖もあるメンバーが上条を取り合っているのだ。
 ヴェントはハンマーを出現させ、番外個体はポケットから釘を取り出し、麦野はいつでも『原子崩し』を発射できるよう体勢を整え、キャーリサは今にもカーテナの欠片を振り回そうとしている。

(……これ学園都市消滅するんじゃないだろうか…)

 十中八九する。
 というか、周りに大勢の人がいるのだから、なんとしてでも4人の暴走を止めなければならない。
 しかし、正しい止め方があるわけでもなく、か弱い男子高校生である上条にできることは限られている。

(ハンマーとカーテナは右手で触ればなんとかなる、けど、『原子崩し』は撃ってきたとこを触れなきゃダメだよな。後、番外固体のは…)

 それぞれ技をどう対処するか、上条が対策を立てていると、言い争っていた番外固体が

「そうだ。当麻はどう思ってるの?」
「え?」
「だから、私たち4人の誰を選ぶの?」
「あ、と……えー…?」

 これは予想していなかった。
 まさか向こうから尋ねられるとは、上条は戸惑いを隠せない。

(これは……なんて返事をすれば…)

 選べ、と言われて誰も選ばなければ、4人は間違いなくブチ切れる。
 かといって4人のうち誰か1人を選べば、残る3人がキレる。
 まさに手詰まり。

「不幸だ…」

 そう呟いたかと思うと、上条は4人に背を向け猛スピードでその場から逃げ出した。
 誰も選ばないのなら、キレられる前に逃げるしかない、それが上条の辿り着いた考えだった。

(とにかく、今は人気の無いところへ…)

 全速力で歩道を走り、人の間をすり抜けていく。
 このままこの方向へ走れば、都合良く廃ビルの集合地域があったはずだ。
 そこへ4人を連れて行き、その後は…

(…………その後どうすりゃいいんだ?)

 肝心の対策を考えていなかった。
 よくよく考えてみれば、人気のないところへ連れて行ったところで、状況が好転するわけではない。
 周りの人に迷惑がかからなくなるだけで、上条本人にとって良いことがあるわけではないのだ。
 むしろ、街中を走り回っていたほうが、彼女たちに見つからなくて済む。
 だが、人がよい上条が他人に迷惑がかかる『街中を走り回る』なんて選択をするわけがなかった。
 行けば何かが起こるだろうと、後先のことを考えず廃ビルが建っている地点を目指す。

 しかし、そう一筋縄に行くわけがなかった。



(う、後ろから足音が聞こえるんですけどー!!)

 ダダダダッッ!と、聞こえる4人分の走る足音。
 それは明らかに上条を追いかけるものであり、徐々に距離が縮まってきている気がした。
 上条にとっては恐怖の音、もう背筋に寒気がしてならない。

(ヤッバいぞこれ、下手しなくても殺られる、ていうかいきなりハンマーで殴ってきたり、カーテナで次元ごと切り取られかねないんじゃ!?ていうかレベル5とか王女とかに追いかけ回されるって夢のような展開だよホント!!)

 夢は夢でも悪夢だ。
 後ろを振り向きたいが、振り向いてしまうとまた人にぶつかりそうなので向くに向けない。
 上条は“何もしてきませんように”と祈り、加速した時だった。

「わ~い!アイスだアイスだ~!ってミサカはミサカは―――」
「ッッ!!??」

 左の店の自動ドアが開いたかと思うと、そこから美琴によく似た一人の女の子がアイスを持った状態で元気よく飛び出してきた。
 飛び出してきてしまった。

(ラ、打ち止めァ!!?なんでこのタイミングで!?)

 悪過ぎるタイミング。
 こんな近距離でいきなり出てこられては、避けようがなかった。

(ダメだ、ぶつか―――――)

 ぶつかるはずだった。
 打ち止めは上条を見て固まってしまいるし、ぶつからなければ物理的におかしいのだ。
 しかし、打ち止めに衝突する直前、上条の視界から打ち止めの姿が消え、体に痛みが走った。

「い、いってぇ…何が起こったんでせうか…?」

 結論から言うと、上条はぶつからなかった。
 だが、自分から回避したわけでも、その女の子が避けたわけでもない。
 その代わりなのか、目に映る景色が混雑していた歩道から雲一つない青空へと、一変していた。
 どうやら『何か』により吹っ飛ばされ、回転した挙げ句電柱に激突し仰向けに倒れているらしい。
 その『何か』を確認するために、ひっくりかえったまま、打ち止めとぶつかりそうになったところを見てみると

「だからさっきから言ってンだろうが!飛び出すと危ないってなァ!!」
「だ、だってアイスが…ってミサカはミサカは苦し紛れの言い訳してみたり…」
「…ア、一方通行さん…」

 上条の目に映った人物、それは学園都市最強の能力者にして、目下デート中の一方通行だった。
 どうやら、打ち止めとぶつかる直前に一方通行が瞬時にチョーカーのスイッチを入れ、能力で上条を吹っ飛ばしたらしい。
 と、一方通行はようやく上条を見て

「あァ?…って三下かよ。ならもっと強く吹っ飛ばしてもよかったか。」
「あのな…お前は謝るってことができねーのかよ…」

 上条は愚痴をこぼしながら痛む体を強引に起こした。
 まあ“痛む”と、言っても一方通行が本気ではなかったため、軽度の打撲で済んだようだ。
 とはいえ打撲は打撲。
 上条は一喝するため一方通行に近づいた……かと思えばそうではなく

「まあいいや。そんなことより…」
「なンだ?やっぱなンか事件に巻き込まれてンのか?」
「その通りです。で、是非とも助けてほしいんだけど。」


 ♢ ♢ ♢


 一方その頃、上条が会いたがっている美琴は…

「短髪~っ!!とうまと付き合ってるってどういうことなんだよ!!」
「そうですよ!何があったのか説明してください!!」
「これだけは。絶対に説明してくれないと。」

 美琴がカラオケ店で“彼女”発言をしてしまったせいで、インデックス、五和、姫神に追いかけられていた。 
 ちなみにオルソラは脱落した。

「なんでこんなことに……ていうか以外とみんな早いんだけど!?」

 恋の力なのだろう、美琴は全力で走っているはずなのに、追いかけてくる3人と距離が広がらない。
 それどころか追いつかれかねない勢いだ。

(絶対に追いつかれるわけには……なんとしてでも逃げ切らないと!!)

 美琴は右手に例の解毒薬を握りしめ、必死に街中を駆け回るのだった。






ウィキ募集バナー