とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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仲良く入院 2日目

仲良く入院 の続編です。



グレムリンとの戦いで怪我を負った上条当麻と御坂美琴。
二人はとある病院に入院することになったが、偶然にも同じ病室となったのだった。
そして入院してから2日目、上条はカエル顔の医者も驚くほどの回復を見せていた。

「やれやれ、君の体には本当に驚かさせられるよ。
 普通は骨折はこんなに早く治ったりしないんだけどね?」
「はあ……」
「これだけ丈夫にくっついているならもうギプスは不要だね、早ければ明日には退院できるよ」
「本当ですか? よかった、これで入院代が節約できる」
「入院しないようにするのが一番だと思うけどね。まあ君に行っても無駄かもしれないがね。
 ところで、昨日と比べて打撲や噛み傷が増えているようだけど、何かあったのかい?」
「聞かないでください……」
「……まあ、無茶もほどほどにしておくんだよ」
「はい……」

ギプスを外してもらった後、上条は自分の両手足の感覚を確認する。

「んー、違和感もほとんど無いかな」

大怪我を繰り返したので、回復力が増してきたのだろうか。
それとも、何か他に原因があるのだろうか。
例えば、今回はいつもの病室ではない。ベッドとの相性などもあるのだろうか。

(あと、いつもと違うと言えば……)

病室の反対側に目を向ける。そこにはもう一つのベッドがあり、今は御坂美琴が利用している。
いつもの部屋が空いていなかったために2人部屋に入院となったが、どんな偶然か彼女も同室に入院することになったのだった。
さらに、訳あって昨晩は二人は同じベッドで眠ったりしていた。
ちなみにその原因となったエアコンは、現在は修理され順調に稼動している。

(そういや、昨日は凄くよく眠れた気がするなあ。治ったのはあいつおかげか……ってそんな、まさかな)

上条は昨晩の美琴の寝顔を思い出し、少し照れくさそうに頬をかいた。
ふと美琴の事が気になったので、視線をそちらに向ける。
あちらの空間も、今は静かなものだった。どうやら今は誰も見舞いにきていないようだ。
ぼんやりと眺めていると、ベッド付近のスタンドにお見舞いの品と思われる果物が置いてあることに気付いた。

(うまそうだなー……そういや、いろいろとドタバタしてたから朝から何も食えてねえ……)

上条の腹の虫が泣き声を上げる。
他人のお見舞いを分けてくれと頼むのは非常に気が引けるが、
朝食を逃したの責任の一端はあちらにもあるし、一緒に食べれば問題だろと勝手に納得し、
上条は食料を確保するために美琴のベッドへ向かった。

---


「よっ」
「……ん、おはよ」
「わりい、寝てたか?」
「うん、暴れた黒子を押さえるのに疲れてね……って、あああ!」
「へ?」

勢いよくカーテンが引かれ、美琴の姿が見えなくなる。

「どうかしたのか?」
「いいから! ちょっと待ってなさい!」

呆気にとられる上条だったが、ちょうどいいやと側に置いてあったナイフでリンゴの皮を剥きながら美琴を待っていた。
そしてしばらく経った後、美琴が姿を現した。何をしていたのかといぶかしむ上条だったが、
寝癖などが直っていたところからして、どうやら身だしなみを整えていたらしい。

「あれ、そのリンゴ……」

美琴は早速リンゴに気付いたようだった。

「ああ、待ってる間暇だったから切っちまったけど、よかったよな?」
「う、うん」

上条が自分のためにリンゴを切ってくれたのだと思い、少し喜ぶ美琴。
しかし、

「どれどれ」

そう言って、上条は近くにあったフォークでリンゴを刺し、自らの口にそれを運んだ。

「……ちょっとー、それアンタのじゃないんだけど。……ま、別にいいけどさ」

美琴は不満そうにしていたが、上条はそれに反応を返さずに咀嚼を続けていた。

「……」
「どしたの?」
「……うめえ」
「……ああそう。んじゃ、好きなだけ食べたら?」
「いいのか? じゃあ遠慮なく、ってさすがにそういうわけにはいかねえ。ほれ、お前も」

そう言って、上条は美琴の前に切ったリンゴを差し出した。

「あ……」

美琴は目の前のリンゴを見つめたまま固まってしまう。

(こ、これは、アーンってしろってこと!? ……む、無理! そんなことできるわけないじゃない!!)

少し迷った後に、美琴は口を開けるのではなく、手を伸ばして上条からフォークを受け取った。
そして少し残念そうな表情をしつつも、リンゴを口の中に運ぶ。

(うう、ちょっともったいなかったかも……両手が使えなかったら、言い訳できたかなあ……って、このフォーク!!)

美琴は気付く。今使っているフォークは、先ほど上条が使っていたものだということに。
つまりは、間接キス。次の瞬間、美琴の顔は真っ赤に染まった。

「おーい、御坂? どうかしたのか?」
「……なんでもない」
「いや、なんか様子が変だぞ?」
「……」
「おーい」
「も、もういい! 後はアンタが食べていいわよ!」

そう言って、美琴は逃げるように布団にもぐりこんだ。

---




美琴はしばらくの間、頭から布団をかぶっていたが、しばらくすると
カチャカチャと軽い金属がぶつかり合うような音が聞こえてきた。
気になって頭を出すと、上条がベッドのそばで何かをやっているようだった。

「何やってんの?」
「ん? これか?」

上条は手に持っていた物を美琴に見せる。
それは、細い二つの金属の棒が、先端の部分が複雑に絡み合っているような形状をしていた。

「ああ、知恵の輪ね。でもなんで急にそんなのやってるのよ?」
「俺の担任の先生のお土産でな……」

上条の話によると、この知恵の輪は能力開発の補習1回分の課題らしい。

「そんな簡単なことでいいの?」
「まあ、もともとこれは能力の実技がどうしてもできない無能力者用の、救済策みたいなもんだしな」
「そっか……ごめん、ちょっと無神経だったかも」
「別に俺は無能力者だってことを気にしてねえけどな。それに、これけっこう難しいんだぜ? 
 前にやらされたのは1時間以上かかっちまったし」

話しながらも上条は知恵の輪と格闘を続けていたが、それが外れる気配は全くなかった。
そして、美琴はそんな上条の様子れをしばらくの間眺めていた。

「ねえ」
「ん?」
「なんとなくだけど、解き方わかるわよ、それ」
「マジか!?」
「うん。でも私がやっちゃっていいのかしら?」
「課題は他にも山のように残ってるんだ! 頼む!!」
「わ、わかったわよ。じゃあちょっと貸して」

美琴は上条から知恵の輪を受け取る。

「んー、やっぱり片手じゃやりにくいわね……」

美琴の左手はギプスで固められているため、自由動かすことが出来ない。
そのためほとんど右手だけで知恵の輪を解こうとしていたが、うまく安定させられずに手こずっていた。
しかし、美琴は器用に右手だけで少しずつ知恵の輪を外していく。
最初は2本の棒が複雑に絡み合っていたが、今ではもう少し工夫すれば外れそうなところまできていた。

「片手じゃきついだろ、手伝おうか?」

そう言って、上条は美琴の隣に腰掛ける。美琴はベッドで寝ていた状態から体を起こしていたので、
上条の座った場所はちょうど美琴の背中のすぐ後ろに位置していた。
上条は美琴の背中から両手を回すようにして知恵の輪を支える。
ちなみに上条は美琴の肩越しに覗き込むようにしているため、二人の顔はほぼ真横に並んでいた。

「ちょ、ちょっと……近」
「どうやればいいのか言ってくれれば、俺が動かすからさ。
 ……って、もうちょっとで外れそうじゃねえか。これなら俺でもできるかも」

上条は美琴の手の上から知恵の輪を持ち、外そうとあれこれと試みる。
上条の両腕は美琴の脇の下を通っているため、美琴には抱きしめられているようにしか思えなかった。
当然ながら意識は上条へと向いてしまうため、視線をそちらへ向ける。
そこには上条の真剣な表情があったため、美琴は長時間それを見つめ続けることはできず、頬を赤く染めながら視線をそらす。
そしてまた気になって上条の顔を見つめる、ということを繰り返した。




「できた!」
「!? そ、そう。よかったわね」

上条と目が合いそうになったため、美琴は慌てて視線を外した。
しかし上条はそんな美琴の様子には全く気付かず、一人喜びに震えていた。

「よぉぉぉぉし! これで留年が一歩遠のいた! ヒャッホゥ!」

課題が解けてテンションが上がったのか、突然上条は美琴を抱きしめた。

「えっ、な、何!?」
「御坂、ありがとな! こんなに早く終わるなんて!」
「う、うん……」
「おかげさまで、ようやく希望が見えてきましたよ」
「そ、そう……」

上条は美琴に感謝の言葉を色々と言っていたが、美琴の耳にはほとんど入っていなかった。

(うわうわうわ、アイツに抱きしめられてる……あああ、そんな耳元でしゃべったら、息が……)

背後から強く抱きしめられ、その上上条が意図したものではないにせよ、耳に息を吹きかけられ、
美琴はついに許容量の限界を迎えてしまった。

「ふ」
「ふ?」
「ふにゃー」
「何だよ変な声出して……って今のどっかで聞いた事あったような……あれ? 御坂? おーい」

美琴は上条の腕の中で意識を失ってしまっていた。

「何か、嫌な予感が……」

上条の脳裏に過去の出来事が浮かぶ、
少し前にも同じような言葉を聞いた事があったはずだった。そして、その言葉の後に何か面倒なことが起きていたはずだ。
それを思い出した瞬間、危機感から全身を電撃が駆け抜けるような錯覚を覚えるとともに、上条のテンションは急速に通常状態に戻っていった。
上条は冷静に今の状況を確認しようとする。

(お、落ち着け俺……とりあえず腕を離して……ってそれはまずい、今右手を離したら死ぬかもしれん。
 考えろ、この状況を切り抜ける方法を……
 ってよく見たら今、凄い体勢になってるじゃねえか! 思いっきり抱きしめちまってるし……
 こいつの体ってこんな柔らかかったんだな……髪もいい匂いだ……って、
 何考えてんだ俺は! 今はそんなこと考えてる場合じゃねえ! こんな姿誰かに見られたら……)

美琴を腕の中に抱えたまま、上条は祈る。願わくば、こいつが目を覚ます前に誰も訪れて来ませんようにと。

当然ながらそんな願いは叶うはずもなく、再び訪れる見舞い客によって、上条の入院期間は延長されることになった。








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