とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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Fine story 後日談

Fine story の続編です。



こんなことになるなんて思ってなかった。

いや、思ってはいたけどまさかそれが現実になるなんて―――・・・

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「外」から帰ってきた上条がそのまま病院に運ばれたという連絡があったたのは1時間前だった。
いつもは無事で帰ってくるはずなのに。今回は、今回だけは―――、大けがをして、帰ってきた。
毎回無傷で帰ってくる保証はないことを知っているはずなのに、アイツはいつも無傷で帰ってくるから考えが甘くなっていたんだ。
「行ってらっしゃい」を言ってからずっと不安で寂しかった。でも、病院に運ばれたと聞いてからはアイツの無事を祈ることしかできなかった。

御坂美琴は夜の街を走っていた。病院前のバス停から病院まで息を切らしながら走った。
面会時間は終わっている時間帯だが、あのカエル医者が気を効かせて「目がさめるまでなら」と許可を出してくれたのだ。
アイツが行く前に負った怪我も、大分治ってきたので包帯から絆創膏になった。―――やっぱり、あの時もっと説得していれば良かった。
ただひたすら走っていると、ようやく目的地の病院に辿り着いた。時刻は8時前で院内は少し暗くなっていた。
美琴は目の前の看護婦に向かって言った。

「…はぁ、はぁッ…。失礼します。先ほど連絡させていただいた御坂です」

「あら、あの人が言ってた子ね。話は聞いてるわ。ついてきて」

「は、はい…」

美琴は息を整えながら薄暗い院内で看護婦の後ろをついていった。


PM 20:02 病室にて

「治療は終わったからあとは意識が戻るのを待つだけだね?」
どこかカエルに似た冥土帰しと呼ばれる天才的な腕を持つ医者は、ついさっき運ばれてきたツンツン頭の男を見ながら言った。
「こんな派手な怪我、どうやったらなるんでしょうか?」
近くにいた看護婦が疑問を浮かべた。無理もない。おでこに包帯、右手に包帯、左足に包帯…ミイラとまではいかないが、道端で転んだくらいでは作れないような傷だ。
「彼は学生時代からこんな状態さ。まぁ、驚異的な回復力があるから心配はいらないね?」
そこまで言うと、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。開いたドアから顔を覗かせたのは、看護婦と美琴だ。

「待っていたよ?御坂さんだよね?」

「はい…あの、当麻は」

「命に別状はないから安心していいよ?ただ、いつ麻酔が切れて目を覚ますかが分からないだけかな?でも―――、
 目が覚めて1番最初にいてほしいのはきっと君だろうね?」

「え、えぇと、そんなことはにゃいと思いますよッ!」

「ハハ、照れなくてもいいさ。ともかく、今はそっとしておいて目が覚めるのを待つことだね?」

「はい、ありがとうございました」

「それじゃ、邪魔ものは退室するよ?」
カエル医者はニコニコしながら2人の看護師を率いて病室を出て行った。



PM 20:10

病室には2人の男女しかいなかった。少し開けた窓から入る風が頬を掠めた。
聞こえるのは、上条の寝息。

「(やっぱり、止めておくべきだった)」
今の上条の姿を見るたびにそう思う。限界まで体を張ったのだろうか、あちこちに包帯が巻いてある。
「(なんでここまでして、誰かを守れるのよ…アンタは)」
見ず知らずの人でも困っていたら助ける、優しくて強いヒ―ローのような人柄。大けがをしても、助けることができて良かったというだろう。
美琴は上条の右手を両手で包んだ。包帯で巻かれた、幾千もの幻想を殺した右手。
暖かいけど、動かない。

―――このまま寝息が止まったらどうしよう。心臓が動かなくなって、体が冷たくなっていったら。

ぞくり、と。背中に電流が走った。

「……バカッ…!!」
気付いたら、口に出していた。もう、何も話さずに黙り続けるのが辛かった。
「ちょっとは自分の事も考えなさいよッ…!!アンタは不死身じゃないんだからっ…いつでも無事なんてありえないんだから…ッ」

「ねぇ、何か言ってよ…、死んでるみたいじゃないッ……」

「起きなさいよッ…!!バカッ…」

頬に涙が伝う。拭えないくらいの涙が溢れ出し、布団に水滴の跡がつく。
しかしそれでも―――、彼女が起きているときに上条が目を覚ますことがなかった。
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PM 21:57

この少女は、泣き疲れて寝てしまったのだろうか。
上条はそう思った。ついさっき目を覚ました彼は、起き上がった際に右手に違和感を感じた。
見ると、見慣れた茶色の髪の毛が流れていて、その髪を耳にかけると目元が赤くなった美琴の顔があったのだ。
随分と泣いたようで、涙が流れた痕までついていた。

「ごめんな、美琴」

不安そうに眠る彼女の頭を撫でる。
起きたらビリビリ+超電磁砲連射をくらうかもしれないなーと苦笑する。

「…ここにいるってことは、あの医者が呼んだのか?ま、どっちにしろ来てくれたならいいか」

彼女はどんな思いでここにやって来たのだろうか。バカ、なにやってんのよ、そんないかにも彼女らしい言葉を想像してみる。
上条は、美琴の右手をそっと握った。
彼女はこの手でコインを弾き、正を撃ち抜いてきた。その先にある真実に向かって、轟音と光線と共に、一直線に。
超能力者と言う立場。中学生で世界で3番目に強いと呼ばれた電撃姫。
そんな高い場所にいるこの少女は、ホントに自分に釣り合っているのだろうかと疑問に思うことがある。
以前この話をしたら「なんでアンタはそんな単純なことも分からないのかしら?」と軽蔑された目で睨まれた。
鈍感な彼は未だに答えに辿り着いていない。



「んっ……」

しばらく経つと、右手に体温を感じた美琴が茶色の瞳を開いた。
彼女は自分の右手が包帯で巻かれた手に握られているのに気付くと、むくりと起き上がった。
たまたま握られていただけで起きてはいないだろうと思っていた美琴は、目の前でくすくす笑っている上条を見ると眠気が驚愕に変わった。
そして。

「ただいま」

たったそれだけで。

「と、当麻……ッ!」

絡んでいた糸が1つ1つ解けていくように。
2つのココロが晴れていく―――……。
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「何やってたのよ…アンタは…私がどれだけ心配したか分かってるのっ…!?」

「ごめん、ホントにごめんな。心配掛けて悪かった…」

美琴は上条に抱かれながら肩を震わせた。上条はよしよしと背中をさすりながら謝っていた。
と、ここで上条が何かを思い出して「ちょっと待ってな」とバックをごそごそとあさり始めた。

「お、あったあった。美琴、お土産買ってきたんだぜー」

「え!?それって……」

「ほら、横向け」

美琴は言われたとおりに顔を横に向けた。上条は彼女の左の髪につけていたお花のヘアピンを外すと、
袋から取り出した白リボンに青いバラが付いたヘアピンを付けた。

「前向いていいぞ。お、よく似合ってるな。可愛い」

「かわっ!?ていうか、それ…どこで手に入れたのよ」

「今回、依頼者の娘がウェディングデザイナーだったんだけど、その人に注文したんだよ。結婚式をイメージするような飾りのヘアピンを。
 だからこれは世界に1つしかない貴重なヤツなんだぞー」

これってお土産というよりプレゼントかもなー、と笑う彼に、美琴は照れたようにくすっと笑い、お礼を言った。

「ありがとう、当麻」

「どういたしまして。この間新しいヘアピンが欲しいとか言ってたもんな」

「まさか覚えてたなんて…嘘みたい」

「上条さんはそこまでおバカさんではないです!」

なんて…2人して笑ってしまう。美琴は上条の胸にトン、と寄り添うと「ねぇ」と話しかけた。

「私、もう当麻がどこにも行けないように子供産んでやるんだから」

それを聞いた上条の返事は言うまでもない。
幸せだけど、そんな関係。離れられぬ奇跡あれば儚い辛さも消える。
2人の間に雨が降っても曇っても。
必ず晴れる、Fine story.

Fin.







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