とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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Summer story




「Summer story」
青い空と白い雲といって思いつくものは夏の海。蝉が鳴き、風鈴の音で涼をとる。
1日は1年で1番長い。さて、今日は何をしようか?
暑いだけじゃ終わらない。青色の春、夏の間にたくさん吸収するんだから―――…
________________________________________
August 11th AM 11:02

「あつーい…ミサカそろそろ溶けるかも」

「さっきからうるせェよ、1人で溶けて地面と同化してろ。誰かが打ち水でも撒いてくれるだろォに」

「このアイスクリーム本当に美味しいーってミサカはミサカはバニラアイスに夢中になってみたり」

一方通行、打ち止め、番外個体の3人は炎天下の中アスファルトの上を力なく歩いていた。
番外個体が家を出た瞬間から今までで「暑い」を79回ほど言ったところでアイス屋を見つけ、
打ち止めが一方通行を引っ張ってバニラアイスをゲットし、90回を超えた今、自分の分を食べ終わってしまった。
なぜ3人がこの炎天下の中歩いているのか。

「ペットショップってどのくらい動物がいるのってミサカはミサカは夢中になりつつ尋ねてみたり」

「妹達ぐらいじゃねwwあ、全部同じ顔じゃねーかアレは」

「そ、そんなにいるの!?ってミサカはミサカは驚愕を露わにしてみる!」

「ンなもん万単位でいたら入んねェよ」

「ま、見てからのお楽しみってことでー、ミサカも行ったことないし」

そう、長期休暇を利用して打ち止めが前々から行きたがっていたペットショップに行くためだ。
犬や猫は見たことがあるが魚や鳥などの哺乳類以外の生物を目にしたことがないのだ。
行くのは都内の巨大ショッピングセンターだが、バス停から徒歩15分の道のりをだらだら歩けば当然30分以上かかる。
今現在25分経っていることに、3人は気付かない。このころでようやく目的地が視界に入った。

「おー、うわさ通り大きな建物だーってミサカはミサカは目を輝かせてみる!」

「こっから見ると人がゴミみたいに小さいねー」

「お前は比喩が下手クソなンだよ。おい打ち止め、早く食い終われ」

「え!?こんなにたくさん余ってるのにってミサカはミサカはアイスを見せてみたり」

「んじゃ捨てるしかないねーあ、ミサカが食べてあげるよ!それ」

「ダメー!!ってミサカはミサカは遠ざかるーっ」

「あ、待てー!」

いつの間に仲が良くなったのか、クローン姉妹。追いかけっこをしてどこかへ行ってしまった。
はぁ、と一方通行は溜息をつく。
ペットショップに行くという話が出てから彼は重要なことに気づいていた。
まだ本人達には話していないが、彼女達は動物に触れられない。
体から出る微弱な電磁波が動物達を怖がらせてしまうのだ。
しかし楽しげに待つ打ち止めを見ると何も言えなくなり、結局舌打ちで終わってしまう。

これから行くペットショップには、ショーケースの中に入れられた動物以外にも、実際に触れるようにケージに入れられた動物がいる。
触ろうとする前に、必ず言わなければならない。
しかし言ったらどんな顔をするだろうか。
こんなことになるなら違うところにすれば良かったと後悔したその時、2人が戻ってきた。

「バカバカバカーッ!!!ってミサカはミサカはあなたへの怒りを全身で表現してみるーッ!」

「だからごめんってばー、重力に引かれてするっといっちゃったんだもんw」

どうやら番外個体が打ち止めのアイスを落としたらしい。打ち止めは彼女に向かって小さなパンチを繰り返している。

「ったくお前らはどこに行っても騒がしいな…」

白髪の少年は呆れた調子で言った。しかしすぐに「ほら行くぞ」と告げる。
最初に行くのは、1階にあるフードコート。そこならアイスの1つや2つ売っている店があるだろう。



同日 AM 11:26

「しっかし暑いですねー、白井さん。私もう汗だくです」

「私もですわ。この炎天下でパトロールを頼むなんて先輩の頭はどうなっているんですの?」

同じく、都市内をだらりと歩く2人の少女がいた。初春飾利と白井黒子。風紀委員の仕事のパトロール中だ。
炎天下の中誰が犯行や暴行なんて面倒なことをやるのだと思ったが、犯行がなくても子供が外で遊んでいるから危険な遊びをしていたら
注意してくれと適当な調子で言われたそうだ。

「早く終わらせたいです…ってまだ1時間!?」

「あら本当ですわ。あと2時間弱ありますわね」

「あと30分くらいかと思ってました…はぁ…」

すでにぐったり疲れきっている初春は肩を落とすが、ここで白井が公園で遊ぶ子供たちを見つけた。
しかしよく見ると―――5~6人の子供が1人の子を囲んでいるような…?

「初春!あの公園に行きますわよ!遊んでいるにしては様子がおかしいですわ!」

「はッ!?はい!」

頭の花が枯れそうな初春を連れて、2人は走って横断歩道を渡り公園の敷地内に入ると、子供たちに駆け寄った。
5人の男の子が、1人の男の子に向かって暴言を吐いている。

「何やってるんですか!?あなたたちは!」

「げっ、風紀委員だ!逃げよーぜ!」

「ヤバっ!おい、行くぞ!」

「お待ちなさい!」

子供たちが一斉に走り出した先に、白井がヒュンっと空間移動を実行。何もなかった空間に、ツインテールの少女が現れる。
「何だコイツ!」「テレポータ―か!?」と騒ぎ始める子供たちに向かって、白井は言い放った。

「風紀委員一七七支部の白井黒子ですわ。義務としてあなたたちにお話を伺わせてもらいますわ」

「くっ…」
場が一瞬、静寂に包まれた。そして、観念したように1人の男の子が話し始めた。

「コイツが、俺たちの秘密基地を能力で壊したんだ」

「壊してない…」

「じゃあ何で今あんな形になってるんだよ!せっかく作ったやつなのに…」

「し、知らないもん…僕…」

「喧嘩はおやめなさい。とにかく、壊れたなら作り直せばいいんですわ。その基地というのはどこにありますの?」

「ここから見えるだろ?林の間にある木が倒れてる所…」

白井は基地まで一気に空間移動すると、落ちていた木々を次々と転移させて新しく作り直した。
形がめちゃくちゃになっていたわけではなく、上部がまとめて吹き飛ばされていただけだったのですぐに元通りになった。

「これでいいですわね?」

「わぁ、白井さん上手ですね!」「おぉ、すげー!」「元通りだぜ!」「戻った……」

子供たちから次々と歓声があがる。不愉快な顔をしている者は誰もいなかった。
ここで初春が締めをくくった。

「じゃあこれで、仲直りですね。みなさん、もう喧嘩はダメですよ?」

「おう!」「わかった!」「お姉ちゃん、ありがとう…」

それぞれの返事を聞くと、2人は公園を後にした。


「さっきの子、きっと能力が暴走したんでしょうね」

「そうですわね、自分でもよく分かっていない様子でしたし」

「はぁ…それにしても暑いです…海にでも行きたい気分です」

「今海に行っても私にとっては地獄の光景しか見られませんわ。まさに生き地獄ですの」

「え!?そ、それってもしかして…」

「お姉様は類人猿と泊まりがけで海へ行っていますわ」

初春の悲鳴が響いたのは言うまでもない。



同日 AM 11:14

「ひょうかー!!すごいんだよひょうかー!!」

「そんなに言ったら私がすごいみたいになっちゃうよ…」

「食という文化は人類の歴史に無限に貢献しているんだよ!!」

ペットショップへ向かうもの、炎天下の中ひたすらパトロールしているものがいる中で、風斬氷華とインデックスはのんびり
グルメロードに来ていた。年に1度だけ行われるこのイベントで使われる名だ。
全国各地のB級グルメや各コンテストで最優秀賞を取った料理が集まり、宣伝+紹介をすることが目的だ。
もちろん、試食は全て無料。買って持ち帰ることも可能だ。
インデックスは上条からこの話を聞き、1か月前から風斬と約束をしていた。
そして今、彼女は興奮の絶頂だ。あちこちから漂ってくるこの何とも言えない匂いや、肉を焼く音が彼女を誘う。
我慢できなくなった白いシスターは風斬の手を握って猛ダッシュでロード内に入った。


同日 AM 11:22

「美味しいの一言じゃ足りないんだよ!おじさんおかわり!」

「はいよぉ」

「そ、そんなに一気に食べたらお腹こわしちゃうよ?もっとゆっくりよく噛んで食べなきゃ…」

「ひょうかが遅すぎるんだよ!そんなペースじゃいつになっても食べ終わらないんだよ」

あなたのペースが異常です、とはさすがに言えないがこのシスターは掃除機のように目の前の料理を平らげていく。
さっきまで大きなステーキがのっていた皿はすでに何もない。この小さな体のどこにこの量の食べ物が入っていくのだろうか。

「お譲ちゃん、いい食べっぷりだねぇ。いいことだ」

「褒めてくれて嬉しいかも」

この店の人は厚いステーキが数分でなくなっていく現象に疑問を持たず、むしろ喜んでいる。
ちなみに風斬はまだ半分も食べていない。

「ねぇ、ここでそんなに食べたら後からあんまり食べられなくなっちゃうんじゃないかな」

「はッ!それはそうかも……うぅ、残念だけどこれが最後の1個になってしまうんだよ…」

肩を落とす暴食シスターを「ま、まだたくさんあるから大丈夫よ」と宥めつつ、残りをゆっくりと味わうのだった。


同日 AM 11:43

「ねーねーひょうか!あれは何!?」

「あれはね、ケバブっていう中近東の食べ物で、羊の肉を剥ぎ取ってパンの生地に挟んで食べるのよ」

「へー!聞いたことあるけど初めてみたかも!ね、一緒に食べようよ!」

「ま、まだ食べるの…?」

到着して20分ほどでこの小柄シスターは10種類以上食べているような気がするが、まだまだ腹の虫は騒ぐらしい。
ゲバブは羊の肉を上からナイフで豪快に削ぎ落とす場面が有名で、ボリューム満点な食べ物だ。
有無を言わせずインデックスは風斬の手をひき、列へと引っ張る。
前には数人ほどしか並んでいなかったので、すぐに順番がきた。

「はい、どうぞ」

「ありがとうなんだよ」

インデックスは2人分のケバブを受け取ると、「はいっ、ひょうか」と言って風斬に渡した。
作りたてなのでほかほかと湯気がたっていて、香ばしい香りが鼻孔をくすぐった。
2人は近くのベンチに腰掛けると、「いただきます」と揃えてからぱくりとかじりついた。

「美味しいかも!お肉とパン生地の相性が合ってるんだよ!」

「そうね、味も濃すぎず薄すぎずで丁度いいと思う」

一見すれば、2人の少女が仲良くゲバブを食べているだけだ。
でも、2人がこうして穏やかに肩を並べるまでに、どれだけの試練があったのだろう。
ゴーレム事件から始まった、地獄絵図。
もう2度と会えないかもしれない、なんて思ったりもした。
最初から「友達」にならなければよかったのに、なんて後悔もした。
だけど今は―――、「この幸せ」が、ずっと続いてほしいと心から願っている。
本当が存在しない人だとしても、能力者に寄って作られた肉体でも、大事な居場所ができたから。
風斬は隣ではむはむと美味しそうに食べ続けるシスターを見て、くすっと笑った。

2人は太陽が照りつける中、その後もたっぷりと(主にインデックス)イベントを楽しんだ。
また1つ、思い出ができたのだと実感した。



同日 AM 11:31

「あ!海が見えて来たわよ!」

「ホントだ。意外と綺麗だな」

電車で2時間弱揺られてようやく目的地の海が見えた上条と美琴の2人は期待に胸を膨らませていた。
初の泊まりがけデート。1泊2日でホテルに泊まり、2日目は帰り際に祭りに寄る予定だ。
昨日の夜は興奮してほとんど寝られなかったでしょ、と問われても否定はできない。

「アンタ、ちゃんと水着持ってきた?忘れたら…分かってるわね?」

「後半の台詞が異常だよな。もちろんありますのことよー、この日のためにわざわざ買って来たんだぞ」

「途中で落としてたりしてー」

「んなわけあるか…って、そういうお前はちゃんと持ってきたのか?」

「忘れるわけないでしょバカ!海に行って水着なかったら意味ないじゃないっ」

ふん、と怒ったような調子の美琴だが、彼女は1か月も前から準備を始めていた。
どんな柄の水着にしようか、どんなタイプにしようか…などと迷いに迷って決めた1着の水着。
子供っぽいのは卒業し、選んだのはシンプルな無地タイプ。
彼がどんな反応をするかが楽しみなのだが…似合わなかったらどうしようという不安もある。
一応、試着はしたのだが。

「次の駅で降りるわよ。荷物持って」

「はいはい」

上条は席を立つと、上にある棚から自分の分と美琴の分を引っ張り出した。
すると、美琴の分の荷物はかなり重いことに気がついた。持った瞬間、ズシィ、と下に引っ張られる。

「お前の荷物、すげぇ重いな。何入れたんだよ?」

「普通に…水着でしょ、浴衣でしょ、タオルと着替えと…その他もろもろ」

「俺の方が軽いからこっち持てよ」

上条はポスっと自分の荷物を美琴に渡した。当然、「いいって!私のなんだから私が持つから!」と手を振って遠慮したが
最終的には彼の優しさに甘えることになってしまった。


同日 AM 11:44

「わぁー!広いわねーっ」

駅から徒歩で10分弱で海岸に到着し、2人は潮風を全身で味わっていた。
人も多く、見ているだけで興奮が先立ってしまう。時折聞こえてくる波の音や人々の楽しそうな声が早く行きたいという衝動を
大きく膨らませる。

「なぁ、更衣室ってどこにあるんだ?」

「あれじゃない?」

美琴は向こう側にある大きな建物を指さした。入口からがたくさんの人プールバッグや浮き輪などを持って出入りしている。
近くにはシャワールームも設置してあるようだ。待ちきれない様子の美琴が上条の手を引っ張った。

「ね、早く着替えない?」

「そうだな」

2人は足早に更衣室へと向かった。


同日 AM 11:51

「言っておくけど、私が遅いからって覗くんじゃないわよ」

「それやったらおそらく警察に連行されて2日間が終わるよな」

「覗いたら…そうねー、超電磁砲でビーチバレーなんていいかもね」

「だから覗かねぇって!」

上条はそそくさと男性更衣室へと入ってしまった。その時、少し顔が赤くなっていたのを見て美琴はくすっと笑ってしまった。
彼は、自分の水着姿を見てどんな反応をするだろうか―――?
少し期待しつつ、女性更衣室へと入った。


同日 PM 12:17

「遅いな―、美琴のやつ…」

男と比べるとどうしても長くなってしまうのは知っているが、実感すると溜息がでるほどだ。
自分は10分もかからず終わったが、彼女はもしかしたら40分以上かかるかもしれない…とそんな考えが過った瞬間、
見慣れた姿が更衣室から出てきた。

「おまたせー、本当に覗かなかったわね」

見慣れた姿ではなく、ヴィーナスといった方が妥当かもしれない。
上条はそのまま思考が停止してしまった。

「どうしたの?いきなり石みたいに固まっちゃって」

不思議そうな美琴の様子もまるで見えていない。
今目に映っているのは、白を基調としたサイドにピンクのラインが入っている大人っぽいデザインの水着をバッチリ着こなした
美の神だった。セパレートタイプなので細いくびれもくっきり出ている。
スカートは右側に小さな3段フリルが入っていて、可愛さありの仕様になっていた。
そして―――どうしても目がいってしまう、最近また少し大きくなった胸の膨らみは、主張するように前に出ていた。
すべてをじっくりと見たあと、上条は無意識に呟いた。

「可愛い…」

「えぇ!?と、突然なに言い出してんのよ!あっいや…うっ、嬉しいけどね!?」

見惚れる彼氏と照れる彼女。
よくある風景だが、ちなみにいうとここは「人通りの多い」更衣室の入り口だ。
多くの人に見られていることに気付いたのは、そのすぐあとのことだった。



同日 PM 12:29

「さっきはホントにびっくりしたわ…っていうか今も恥ずかしんだけど…」

「し、仕方ねぇだろ…見惚れちまったんだから…」

ブルーシートを敷きつつ、上条は恥ずかしそうに目を逸らす。
美琴は借りてきたパラソルを差しながらふぅ、と息を吐いた。

「私、飲み物買ってくるから。何がいい?」

「お、サンキュー。スポドリで頼む」

美琴は財布の入っているポーチを取り出すと、「了解」と言って近くの自動販売機へと向かった。


同日 AM 12:40

「(スポドリと…私はお茶にしようかな)」

料金を投入すると、すぐにガコンっとキンキンに冷えた飲み物が出てきた。
2本購入し、頬に当てるとひんやりと気持ちのよい冷たさが伝わってくる。
念のためもう1本買おうかと考えたが、その時はもう1度買いに来ようと思い、戻ろうとしたその時だった。

「ねぇ、そこのキミ!」

「可愛いねぇ~、お兄さん達とどっか行かない?」

「ちょうどそこに休憩所あるし、何かおごってあげるよ?」

振り返ると、3人の男がニヤニヤしながらこちらを見ていた。見た目はかなり軽そうな男達だった。
ナンパは過去に何回かされた経験がある。ホントはすぐに電撃で追っ払いたいのだが、まさか初対面で黒コゲにするわけにもいかない。
ここははっきり断って走って逃げるのが1番だと思い、美琴は男達に向かって強めの口調で言った。

「待ってる人がいるので、さようなら」

すぐに走れば簡単に撒けるだろうと思い、くるりと振り返って走ろうとしたら人とぶつかってしまった。
「きゃっ!?」思わず後ろによろめいてしまう―――のが悪かった。

「おっと。いきなり逃げちゃだめだよ?」

3人のうちの1人、サングラスを頭にかけた男が美琴の手を掴んでいた。
美琴は小さく舌打ちすると、前髪からバチッと電撃を放った。
いや、放っていない。
正確には、直前で打ち消されていた。誰かの右手―――いつも撫でてくれる右手が、前髪の上に置かれていた。

「俺の彼女に何の用だ?」

まさにヒーローのような登場の仕方だった。彼はすぐにナンパ野郎の手を払うと、美琴を引き寄せた。

「…チッ、オス付きかよ」

「つまんねぇな」

「せっかくいい獲物だったのに…もどろぜ」

上条が来たことで3人はあっけなく退散した。上条はふぅ、と息を吐くと着ていたパーカーを脱ぎ、美琴に羽織らせた。

「男物の羽織っとけばナンパなんてされないだろ?」

「そ、そうね…」

「お前は可愛いから、すぐに虫が寄ってくるんだな」

上条はぽんぽんと頭を撫でると、「ほら、もうブルーシートの準備は終わったから行こうぜ」と手を握って歩き出した。
…やっぱり彼の手が1番いい―…

「ねぇ、そういえばさっきは何でここまで来たの?」

「そりゃ、近くの自動販売機で買うのに10分以上かかってたらおかしいって思うだろ。
 んで、試しに行ってみたら見事にナンパされてて…行って正解だよな」

「あんなの電撃ふっとばしておけば逃げるでしょ」

「それもそうだけど…ちょっとムカついたしな。まぁ、これからはなるべく」

「ん?」

「2人で行動しような」

照れたように彼は笑った。頬が熱くなるのが分かる。こんなこと言われて嬉しいのが本音なのも分かる。
さすがに口には出せないが、せめて言いたい。

「うん…それと、さっきは助けに来てくれて…あ、ありがと」

思わずパーカーをぎゅっと握って俯いてしまう。でもきっと彼には届いただろう。
ほんの一瞬、頬に短いキスをしてくれたから。



同日 PM 15:37

さすがに2時間以上炎天下で体を動かしていると、疲れも出てくるだろう。
あの後2人は思う存分はしゃぎまわり、今ではすっかりパラソルの下でお疲れモードだ。
上条はスポーツドリンクを一口飲むと、隣で仰向けに寝ている美琴の頬に押し当てた。

「大丈夫か?熱中症じゃないよな?」

「はしゃぎすぎただけよ…」

そう言ってごろりと寝返りをうった。とても今からもう1度海へ行く体力はなさそうだ。

「ちょっとはやいけど、チェックインしに行くか?ホテルでゆっくり休もうぜ」

「うん…」

美琴は起き上がると、お茶を1口飲んだ。
2人は広がっていた荷物をバッグにしまい、パラソルを閉じてホテルに行く準備を始めた。


同日 PM  16:03

「わぁ、海が見えるじゃない」

「このホテルの売りだからな」

海岸から徒歩20分でホテルに到着し、チェックインを済ませた2人は、早速部屋に入った。
このホテルは海から1番近く、設立2年目でまだ新しい。格安でバイキングメニューが美味しいと評判で、予約には3カ月以上の余裕が必要だ。
2人が今いる307号室は、窓から海全体を見通せる位置に在している。
美琴は荷物を置くと、すぐさま窓を開けてベランダに出た。開けた瞬間から潮風の匂いがする。

「はー、気持ちいいー…」

「当たり過ぎないようにな」

上条は自分のバッグを開けて、これから使うものを出していった。
その後、潮風を十分堪能した美琴が帰ってきて、「あ、私も」と言いながら整理をし始めた。


同日 PM 17:08

1時間すると部屋に私物が並び始め、大分落ち着いてきた。
1泊2日なので大量に置いたわけではないが、今だけ2人だけの空間になっている。

「ふー、終わった。これからどうする?塩くさいから風呂でも入るか?」

「この時間帯に?まぁ、入るのはいいけど…人少ないだろうし」

「おーし、決まりだ。ほら、行こうぜ」

「え、何かテンション高いわね…」

上条は立ち上がると、バッグから着替えを取り出した。なんだかリズムにのってる気がするが。
美琴は何を着ようか悩みながらバッグから取り出し、ついでに化粧水などが入ったポーチも取り出す。

「あと何がいるんだろ…?」

「ホテルにシャンプーも石鹸も揃ってるんだからそんなに持っていかなくていいだろ」

「それもそうね…タオルは一応持っていこっと」

バッグからお気に入りの花の刺繍が入ったピンクのタオルを取り出し、「よし、準備完了」と言って立ち上がった。
その時、上条が突然「あ、忘れ物した」と言って美琴の方に振り返った。

「忘れ物?早く取ってきなさいよ」

「忘れ物っていうか、忘れ事」

上条はそのまま美琴の頬に片手を添え、もう片方の手で後ろの髪を持ちあげた。
隠れていた首筋が露わになり、そこから一気に風が通る。

「ひゃッ!?な、なにすんのよっ!?」

悲鳴をあげる美琴を抑えつけて―――……

「ん―…ッ!?」

首の後ろにチリっとした痛みが走ったと思った時にはすでに遅く。

「ん、ついたな」

ニヤりと笑う男の声。そっと首のうしろに手を当てると、見事な感触があった。
このウニ頭はホテルで2人きりになったことをチャンスにとんでもないことを仕出かしたと若干震えつつ、

「これからお風呂に入るときに限って何てことしたのよアンタはーッ!!」

「2人で行動できなくなるからつけたんだけどな」

「髪洗う時どうすんのよ!誰かに見られちゃうじゃない!」

「この時間帯に入ってる人なんてほとんどいないだろ」

ぎゃーっ!とわたわた慌てる美琴だが、その様子が面白い。
部屋を出ると、美琴は用心深く周りを見ながら風呂場まで歩いていた。

恋人だから、という理由で何でも許されている気がした。
しかしそれも、人生の中では1番幸せな瞬間なのではないだろうか。



同日 PM 17:34

今時露天風呂付きホテルなんて珍しいのではないか。部屋にバスルームが取りつけられていて、そこでせっせと済ませるのが当たり前だと
思っていた。

「むぅ…」

ちゃぽーん、とだだっ広い浴場に1人で浸かる美琴。やはりこの時間に入る人は少なかった。(シャワーを浴びる親子が2組ほどいるが)
この湯、遊び疲れた人たちのために疲労回復効果があるそうだが、入っている真っ最中では効果が感じられない。
せいぜい新緑の入浴剤がリラックス効果を高めているのが分かるくらいだ。
美琴は自分の首の後ろに触れた。

「……ッ」

痛くて声を発したわけではない。くっきりと残っているのが分かって頬が朱色に染まる。
すぐに手を離して肩まで湯に浸かった。

「(あのスケベ野郎…人のことも考えなさいよ)」

先ほどの仕打ちが許せない美琴は、何か仕返しでもしてやりたいと考えていた。
しかし自分ができる仕返しといったら、電子機器を壊すかハッキングで秘密を暴くなど精神的なショックしか与えられない気がする。

「(…先に部屋に行ってネタでも捜そうかしら)」

有言実行。美琴は立ち上がると、シャワーで体を流してから浴場を出た。
一緒に部屋まで行くという約束は特にしていないので、先に行って驚かそうと思っていた。
その時は。


同日 PM 18:08

「お前…何やってんだよ」

「悪かったわね!すっかり忘れてたのよオートロックってことーッ!」

このホテルは全室オートロックである。ドアが閉まると自動的にロックがかかる便利な機能だ。
一度閉まると鍵がない限り開かなくなるので、ちょっとそこまで♪が効かない。
まさか男風呂まで行くわけにもいかないので、美琴はドアの前で30分ほど待ちぼうけをくらってしまったのだ。

「鍵を俺が持ってることも忘れるなんてな」

「早く開けなさいよ!おかげですっかり湯冷めしたんだから!」

はいはい、と言いながらガチャリと鍵を開ける上条。

「何か寒い気がする…寝る前にもう1回部屋のシャワー浴びようかしら」

「寝る前にシャワーか…」

「何よ、その目…変なこと考えたような目ね」

「紳士上条さんは何も考えていませんのことよ」

「ったく、どこが紳士よ」

美琴は部屋に入ると、洗面用具を置いてゴロリとベッドに寝転がった。
ふかふかで弾力があり、なんだか眠りに誘っているようだ。まだ6時だが、今日は疲れたので少しくらい寝てもいい気がした。

「なかなか気持ちいいわね…ちょっと休憩しようかしら」

ここではあまりに自由なので、思ったことをすぐに行動に移せる。
ご飯は起きたら1階にある20時まで営業しているレストランに行けばいいだろう。

「もう寝るのか?」

「寝るというか休むわ…アンタはテレビでも見たら?あ、音量小さめでよろしく」

「飯はどうすんだよ?腹減ってねえのか」 

「起きたら食べる…7時に起こして。我慢できなかったら先食べてもいいから」

そこで睡魔が襲ったのか、何も言わなくなってしまった。
上条はそっと近づき、布団を掛けなおした。
遊び疲れたから先に寝ることが少し子供っぽくて微笑ましい。年下だということを実感させられた。
警戒心のない寝顔がなんだか和む。きっと、信用してくれているのだろう。
華奢な体をそっと抱きしめ、額をくっつける。

「愛してる、美琴」

その後、1日目はほっこりと過ごしたそうで。


August 12th AM 11:02

「ありがとうございました。またご利用、お待ちしております」

営業スマイルのホテルマンに見送られ、2人は外へ出た。今日も快晴で、暑くなりそうだ。

「いい感じのホテルだったわねー、また行きたいかも」

「気に入ってくれて何よりだ」

今日は帰り際に祭りに行く予定だ。重い荷物を持って屋台を周るのがネックだが、美琴はどうしても祭りの目玉、
巨大花火が見たかったのだ。毎年テレビでも放送される有名な名物である。
電車の中やビルの間からではなく、その場所で見たかったのだ。
―――上条と、2人で。

「花火…間に合うかな」

「間に合うって。まだ11時だし、むしろ着いてから結構時間が空くんじゃないか?」

「そうね…電車が途中で止まったら話は別だけど」

「今日に限ってそんなの起きるわけないだろ。不幸なこと言うなって」

普段通りの会話をしながら、2人は駅まで歩いて行った。



同日

余談だが、電車内で彼女が唐突にこんなことを言ってきた。

「私、小さい頃は都会が好きだったのよ」

「へぇ。今は好きじゃないのか?」

「そういうわけじゃないけど、何ていうか…あの頃は知らなかったことを知って、嫌いになった面もあるし好きになった面もあるから
 ±0かしら」

「都市に対して好きとか嫌いとかあったなんて驚きだな。俺は特に何も考えてなかったし」

「それが普通なんじゃないかしら?中には田舎を溺愛する人もいるらしいけど」

最初は都会が好きだったことを思い出と交えながら話していた。しかし次第に表情が曇り、内容も学園都市の話になっていった。

「規則正しい形をしたビルがたくさん並んでて、スーツを着た人が街中を歩いてるのがなんだか輝いて見えてたんだけどね」

「学園都市に来てから、そんなことはなくなったわ」

「日常で殺人事件も当たり前だし、超能力者になってからくだらない目的で軍用クローンが大量に生産されてるし」

「科学技術が外より2,30年進んでたって、尊い命を簡単に奪うような醜さが立ちこもってるようじゃ全然だめね」

言い終わると、美琴は溜息をついて窓の外を見つめた。美しい海が、茫然と広がっている風景を。
そんな切なげな美琴の頭を、上条は優しく撫でた。

「そんなにブルーになるなって」

「確かに学園都市は魔術師も潜入して死と隣り合わせになることもあるけどさ」

「俺たちは今日までちゃんと生きてるんだし、お前はもう超能力者で絶対的に強いんだから心配することねぇだろ」

「大覇制祭とか楽しいイベントもあるし、全てが悲劇で飾られてるわけじゃないから安心するべきだと思うぞ」

その言葉を聞いて、少しだけほっとした自分がいた。
頭の上にあるあたたかい体温が、とても心強かった。

「うん…ありがと」

230万人のうち、8割が学生の学園都市。
様々な学生が、今日も1つのストーリーを作りだしているのだろう。


同日 19:27

約7時間後、あたりはすっかり暗くなっていた。
19:30から始まる花火に間に合うように座って見られる場所を探し、ようやく一息ついた2人はぼんやりと夜空を眺めていた。

「1泊2日って、こんなに短いのね」

「充実してた証拠だな。まぁ俺も、すごく楽しかったしいい思い出ができたって感じだ」

「あ、あのさ…また来年も…行きたいなって、ダメかな?」

美琴が珍しくおどおどした様子で上目で見つめてきた。
上条は彼女の腰に手を回して、抱き寄せた。

「行こうぜ、来年も。今度は2泊以上にしような」

「うん…」

視線がぶつかると、美琴は目を閉じた。その桜色の唇に、そっと彼の吐息がかかる。
触れ合った次の瞬間―――、夜空に光の花が咲いた。

「…あッ」

「花火、始まったな」

音と共に、色とりどりの美しい花が闇夜に咲く。
周りからの歓声も一層高くなり、まさに夏だと実感した。

「きれいね…」

「あぁ…来てよかった、誘ってくれてありがとな」

「どういたしまして」


また1つ、青春のかけらが増えたこの夏。
秋がきて、冬がきて、春が来る。
巡る季節の中で、2人がどれくらいかけらを増やしていくのかは、2人だけの秘密になるだろう。

―Fin―









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