You look like a sweet cake.
ケーキというと、代表的な洋菓子の1つである。クリスマスや誕生日、父の日や母の日、ひな祭りなどの記念日など、今や身近でいつでも手に入るものになっている。
ついでに言うと、駅前には美味しいケーキ屋さんがよくある、というのは事実らしい。
「ケーキ買ってきたぞー」
「ホント!?やった~!」
駅に行ったついでにケーキを買って帰る、という一般的なパターンを実行した上条。
今日は記念日でもなんでもないが、家で待ってる彼女が喜ぶだろうと思ったのだ。
「今日は30%オフだったんだ。お得だよな」
「そうね。わぁ、結構美味しそうなの選んだのね…お皿持ってくる」
早速食べてみようと思い、持っていた電子端末の電源を切って皿を取りにいく美琴。
今日買ったのは全部で6つ。どれも種類は違うのを選んできた。
店にはドーナツやプリンやタルトやクッキーなど、ケーキ以外のものも多く売られていた。
どれにしようか…と迷いながら選んだのは、ホワイトチョコクリームで包まれたカップケーキだった。
一目見て、彼女に似ているなと思ったのだ。
――――――――――――――
――――――――――
「んー、美味しいっ。チョコで作ったクリームってこんなに甘いのね」
「うまいな、コレ。新商品ってかいてあったからついでに買ったやつなんだけど」
上条が食べているのはチョコクリームがサンドされたスポンジケーキである。
2つともてっぺんに赤いイチゴがちょこんと乗っており色合いもいい。
「この、上にのってるイチゴも楽しみの1つよね。最初に食べるか最後に食べるか」
「俺は食ってる途中にたべるけど」
「…何かアンタ、KYね」
「そういうお前はいつ食うんだよ?」
「最後に決まってるじゃない。もったいないでしょ」
「ほーう?」
と、ここで何かを思いついた上条が二やりと笑った。そして、持っていたフォークを彼女のイチゴに突き刺すと―――
「あ、」
そのまま口の中に放り込んだ。
「あ―ッ!!私のイチゴ食べたーッ!!ふざけんなこの性悪男―ッッ!!」
当然、言ったそばから大事なイチゴを取られた美琴は怒り出した。
ガタンと立ち上がり、目の前で呑気に「お、意外と甘いな」とか言いながら人のイチゴを食べているツンツン頭に向かってティッシュの箱を投げつけようとしたとき、
「ほら」
「この野r…ッ!?」
口の中に、甘酸っぱい味が広がった。見ると、上条のイチゴがなくなっていて、目の前にはフォークを持った彼がいて。
どうやら取られたというより交換と言ったほうが正しい状況になっていた。
「交換してみるのも面白いな」
「な、何よ…同じの交換したって面白くなんかないじゃない」
「だから普通はやらないだろ?それが面白いなって思っただけだ。で、味はどうだ?」
「お、美味しい、けど」
「そっか。なら良かったな」
美琴はむすっとした顔で椅子に座ると、紅茶をすすり始めた。アールグレイの軽い味わいが口内に染みる。
しばらく大人しくケーキを食べていると、突然上条がこんなことを言い出した。
「なぁ」
「…何よ」
「美琴ってさ、ケーキに似てるよな」
…?今、コイツは何といっただろうか?
自分のことをケーキに似てる、と聞こえたのはおそらく聞き間違いではないだろう。
「えっと…精神科行く?予約入れようか?」
人がケーキに見える病気なんてあるのだろうか。
「いや、いいって。さすがに今の言い方じゃ分かる訳ないよな」
「ごめん、一瞬だけ頭がイってる人に見えたわ」
「そっか、なら教えてやるよ」
食べ終えた皿を片付ける際に、美琴の頭にポンっと手を置いて呟いた。
―――夜に、な。
PM 11:56
風呂上がりのさっぱりしたところでベッドに入り、電子端末で今日のニュースを一通りチェックするのが日々の日課となっていた。
今日も変わらず画面をスクロールさせながら、気になるニュースをクリックして詳細を確認する。
「人気ママモデル、離婚していた…誰よ、ママモデルって」
「航空2社、増収増益ねー…」
ぶつぶつ呟きながらごろんと寝返りをうつと、歯磨きを終えた上条が戻ってきた。
「その体勢で見てると目悪くなるぞ」
「5分だけなら大丈夫よ」
「お前も明日早いんだろ?ほら、照明消すぞ」
「あ、ちょっと待ってよ」
カチッと電気が消えたのと同時に小机の小さなスタンドの明かりがついた。
「まだ電源落としてないのに…強制終了させるか」
美琴が指先からバチっと電気を出すと、端末の画面が真っ暗になり電源が落ちた。
それを確認すると、小机の上にそっと置いた。
いつもこのタイミングで、上条の腕がのびてきて首の下に入り込む。
簡単に言うと、腕枕の姿勢だった。
「ねぇ」
「ん、何だ」
「ケーキに似てるってどういう意味よ」
「…それはだな」
昼に言われたことが気になって仕方がなかった美琴は、額に「?」を浮かべている。
そんな彼女のシャツのボタンを2つ開けると、襟を横に広げて白い肌に触れた。
「な、何すんのよいきなりッ!!」
「ほら、白くてやわらかくて、甘い匂いするし」
「さ、触るなッ…!!」
「今日は髪からイチゴの匂いもするし…シャンプー変えた?」
「こ、これはトリートメントで…!」
今日に限っていつも使っているフローラルタイプではなく、新しく買ったストロベリーシャワーという香りのものをつけてしまった。
もちろん無意識だが。
「そういうのがそそられるっていうか―――食べたくなるんだよな…
ほら、ケーキだって見てるだけで食べたくなるだろ?」
そう言って美琴の髪を一房とると、毛先をいじり始めた。サラサラな触り心地がたまらない。
「何よそれ!アンタは私のこといっつもそういう目で見てたわけ!?ただの変態じゃない!」
「いつもじゃねーって!ほらほら暴れんなって」
反抗する彼女を宥めようと、すっと手をのばして彼女の耳に触れた。
そのまま形に沿ってゆっくりとなぞり―――……
「やっ、くすぐった…」
「ん、いい反応だな」
弱点に触れると、すぐに目をぎゅっと閉じて手で押さえようとすることはいつものことだった。
今も耳からくるくすぐったさに耐えられずに上条の手を離そうとしている。
「ホント、耳弱いんだな」
「くっ…わかっててやるとかまさに変態ね」
「そういや背中も弱かったよな?」
「なッ……!?」
頬を赤くして警戒する彼女を見て、もっといじりたくなるのは本能なのだろうか。
今夜はなんだか止まれない気がしていた。
息が荒くなっているのも分かるし、心臓の鼓動も速くなってるのも分かる。
唸る彼女の両手を片手で拘束して頭の上に上げると、彼女の上にそっと覆い被さった。
「え…アンタまさか…」
「ダメ…か?」
「きょ、今日はその、えっと、ッ――…!?」
言い終わる前に、右手が頬に添えられて唇が重なった。
それが合図となって、2人はケーキのように甘い夜を過ごすことになった。
―――――――――――――――
――――――――――――
朝、腕の中で目覚めたときに言われた。
―――お前は、俺だけのデザートだからな、と。