とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part10

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匿名ユーザー

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最終話 両想い


「助けだァ?」

 上条の意外な言葉に、一方通行は怪訝な顔をする。

「その通り。 頼むから、冗談抜きで助けてください!!」
「助けって……何をだよ」
「そりゃあちらの方々からわたくし上条を守っていただければ幸いです」

 上条は今自分が走ってきた方向を指差す。
 その指につられるかのように、一方通行はその方向へ首を動かした。

「あちらの方々だと……ッッ!?」

 一瞬。 
 それは本当に一瞬の出来事だった。
 一方通行が視線を移した時、ドゥッッ!!という自然のものではない音。
 そして人ごみの間を抜けて飛んできた光線。

 一方通行を襲ったもの。
 それは――

「麦野ォ……テメェ一体どういうつもりだァ? 本気で『原子崩し(メルトダウナー)』なンて撃ちやがってよォ。反射してなかったら死ンでたとこだぞ?」

 麦野沈利。
 学園都市に7人しかいないレベル5の第4位である彼女の攻撃が、容赦なく一方通行を襲ったのだ。
 一方通行は上手い具合に反射を使い、真上に『原子崩し』を飛ばしたが、下手をすれば大惨事になっていただろう。
 また、打ち止めに危険があったことも関係してか、赤い目でギロリと麦野を睨むと

「どういうつもりって……私は上条を狙っただけよ。けどアンタが直線上にいたから当たりかけただけでしょうが。」
「コイツを狙っただァ? なンでだ?まさかまた暗部が関係してンじゃねェだろうなァ。」
「はぁ? そんなもん関係してるわけないでしょうが」
「……じゃあなンなンだよ…………まさか二股かけられたとかじゃないd」
「その通りなんだよこんのスケコマシがぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!」

 同時に麦野の手から発射される無数の死の光線。
 上条と打ち止めは一方通行の後ろに隠れ、一方通行はその光線を全て上空へ吹き飛ばした。
 この攻撃により、辺りからは悲鳴が聞こえ、一般人は上次々と条達から離れていく。
 打ち止めは怖いのか、全く声を発せないようだ。

「……かァみじょ~うく~ん……どういうことか説明してもらおうかァ? なンでお前に麦野と付き合ってることになってンだァ!?」
「ど、どういうことって……まあいろいろあったんだよ」
「そのいろいろを聞いてンだ…………ちょっと待て、お前さっき『あちらの方々』って言ったよなァ?」
「ああ、言ったぞ」
「…………ってことは、なぜか麦野の後ろにいる番外個体とヴェント?ってやつと、それからありゃイギリスの第2王女にも追われてる……ってことか?」
「その通りでございます……」
「どンだけ豪華な追っ手だよ」

 冷静に考えれば王女とか超能力者とか、一方通行の言う通りものすごく豪華な追っ手だ。
 でも追っ手が豪華でも何も嬉しくない。

(ていうかまだ俺振ったりしてないのに……なんで麦野さんはキレてんの? それに他のやつらも明らかに機嫌悪くなってるし……)

 麦野はすでに攻撃してきたが、残りの3人もいつ攻撃してきてもおかしくない雰囲気だ。

「で、他の3人にはなんで追われてンだ? まさか全員お前の取り合いで追いかけ回してるわけじゃあるまいしよォ」
「そのまさかなんだけど」

 そう言ったのはヴェントだ。
 大斧を片手で持ち上げるその様は迫力満点。
 そして、ヴェントの言葉を聞いて困惑の表情を見せる一方通行に、番外個体はイラついた様子で

「ていうか関係ないんだからちょっと黙っててくれる? そ、れ、で? 結局誰を選ぶわけ? もちろんミサカを選んでくれるよね?」
「おい、何勝手な事言ってるし。 上条は私の夫に決まってるだろーが」
「だからなんでそうなるのよ、絶対におかしいだろ。 最初に上条に声をかけたのは私よ?」
「さあ、上条…………10秒以内に答えを出さないと『原子崩し』をぶっ放す」

 麦野は若干ヤンデレ傾向があるのだろうか。

 そんなことはさておき、上条に与えられた残り時間は10秒。
 刻一刻と時間が過ぎる中、

「お、俺は…………」

 打ち止めを含む6人の視線が上条に集中する。
 一体誰を選ぶのか、それとも他の答えがあるのか、上条が出した答えは――

「――――残念だけど、4人からは選べない!!」

 その瞬間、目の前の4人は上条に牙を剥く――



 ♢ ♢ ♢


 一方その頃――

「おい、舞夏! 早くするんだにゃー!! 見失ったら1番面白いところが映像に収められなくなるぜよ!!」
「そんなことはわかってるんだなー。 けどこの掃除ロボはそこまで早く動けないぞ兄貴ー」
「いや、今日くらい走ってもいいんじゃないか……?」

 全ての元凶土御門元春と、その義妹舞夏。
 2人の企みとは……?


 ♢ ♢ ♢


「よ、よし、なんとか撒いたわね」

 路地からひょこっと顔を出し、大通りを見回しているのは、いろいろめんどくさいことがあったせいでインデックス達に追いかけられていた美琴だ。
 かなり全力で走ったためか、彼女の額には汗が光り、息も途切れ途切れ。
 その姿はいかに大変な目に遭ったかを物語っていた。

(なんで私がこんな目に……ほんとにもう大丈夫でしょうね……)

 改めて周囲に彼女達がいないことを確認し、美琴は大通りへと足を進める。

「さて…………アイツを探さなきゃ! ……でもさっきの場所(カラオケ)からかなり離れちゃったのよねー……」

 今いる場所は、先ほど上条がハーレム地獄に陥っていたカラオケBOXから3キロほど離れている。
 まだ第7学区内ではあるのだが、3キロという距離は地味に遠い。
 さらに上条も移動してしまっているだろう。
 相変わらず会うだけで一苦労である。

「携帯さえ壊さなきゃ連絡とれたのに…………はぁ……偶然アイツが通りすがればい「あ、お姉様!」いのに……??」

 お姉様、と恐らく自分を呼ぶ声に少しドキッとしながらも、声のした方向を向いてみると、

「あ……御坂……」
「ッッッ!? あ、アンタなんで……?」

 本日3度目の再開。
 その場に立っていたのは、なんという偶然か、美琴と同じように息を切らした上条だった。

「なんでって言われてもな……さっきまでいろんやつに追いかけられて……攻撃食らうって瞬間に間一髪で一方通行に助けてもらってさ。 俺と打ち止めだけ逃がしてもらったんだよ……って御坂? 聞いているか?」

 聞いていなかった。
 美琴は胸の高まりを抑えるのに必死、上条のすぐ隣にはある打ち止めの姿も、今の美琴には認識できていなかった。



(うわ……こう、面と向かうとちょっと恥ずかしいわね……)

 先ほどカラオケ店ではっきりと“彼女宣言”したためだろうか。
 いつもと違う緊張が美琴にはあった。
 しかし、上条も美琴と同じようにちょっとした恥ずかしさ、というか照れのようなものを感じており、2人の会話が一向に始まらない。
 と、ここで

「…………あの、なんだかミサカはお邪魔みたいだから、退散するね!」
「ッ!!」

 いいタイミングで打ち止めの一声が入った。
 美琴はこの声で打ち止めの存在をようやく認識したものの、“あ、いたんだ”とか言ったら泣かれなねないので、

「え、と……そう、帰るんだ……って、1人で帰ったら危ないわよ」
「大丈夫、だいじょーぶ! ここからミサカのマンションまではすぐだから! 2人ともそれじゃーね!! ってミサカはミサカは心の中でお姉様頑張ってって密かに応援してみたり!」
「あ、ちょっと……て、ていうか何を頑張れっていうのよ……」
「行っちまったな……」

 打ち止めは全然密かじゃない堂々としたエールを送りつつ、走り去ってしまった。
 これで正真正銘2人きり。
 周囲に人の姿は多々見えるものの、2人の邪魔をする存在はない。
 だが、

「「…………………………………」」

 やはり2人きりでは話づらい。
 再び気まずい雰囲気に逆戻りだ。

(いっぱい話したいことあるのに……な、なんて切り出せばいいのよ……)

 とにかく何か言わなければ、さすがにこの状況が長引くのは、つらい。

「えと、ここじゃ騒がしいし……かといって移動するとまた面倒なことになる可能性が高いから………」

 で、美琴がとった行動は

「ろ、路地裏ってなんか静かだなー、うん……」
「そ、そうねー……」

 気まずさ、倍増。

(み、ミスったぁぁぁぁぁあああああ!!!!! なんで路地裏なんかに移動しよって言ったのよ私のバカ!!!)

 大通りと比べ、全く人目がない上かなり静かなこの場所は、いろんな意味でヤバい。
 上条を目を合わせることもできず、ただひたすらオロオロしていると、

「……おい御坂。なんか服とか汚れてるっぽいけど……なんかあったのか?」
「え、あ、う、うん……黒子にテレポートさせられ後に、シスターとかに追いかけられて……」
「そうだったのか…………くっ……ごめんな御坂。俺のせいでこんな危険な目に遭わせて……」
「ッ!!! ううん、アンタのせいじゃないわよ。私は自分の意志でこの問題に関わろうと思ったんだから」

 そう、上条のせいではない。
 誰に非があるわけでは……強いて言うならば、上条に『増強剤』を飲ませた土御門元春のせいだ。 
 美琴はそんな考えが頭に浮かんだものの、彼のおかげで上条に抱きしめてもらえたのだから、複雑な気持ちだ。



 しかし、正義感、責任感が強過ぎる上条は全く納得していない様子で、頭の悪い学生が難関テストに臨むかのような難しい顔をしていた。

(悩んでる姿もかっこいい……じゃなくて!!)

 その通り上条に見惚れている場合ではない。
 今自分には真っ先にやるべき事があるのだから。

「あ、あの!」
「ん? どうした?」
「悩んでるとこ悪いんだけどさ、『これ』飲めば……みんな元に戻って全部解決するんじゃない?」

 と、言って美琴がポケットから取り出したのは、土御門から渡された、解毒剤が入っている小便。 
 それを見た途端、上条の顔は輝きだす。

「おお! そうだ、そうだよ、そうだった!! じゃあ早速……」
「あ、ちょっと待って。この解毒剤の説明書をもらってきたからのよ」
「説明書なんてあんのか……」

 美琴が風紀委員の支部を出る際に、解毒薬と一緒に渡された1枚の説明書。
 雑に折り畳まれている紙切れを開くと、そこにはおそらく土御門元はのものと思われる文字が書かれていた。

 読みにくい。

 急いで書いたのか、適当に書いたのか、それとも元々字が下手なのかはわからないが、とにかく字が読みづらかった。

(もうちょっときれいに書いてよね……ていうか手書きなんだ……)

 まさか手書きだとは思っていなかった美琴は、若干の不満が生まれる。
 とはいえ読まないわけにはいかない。
 もしこれに重要にことが書いてあったら大変だ。
 上条に薬を飲ませてから『実は正しい飲み方をしないと治りません』とかわかったらシャレにならない。

 そんな想いもあるので、美琴は箇条書きの文字を丁寧に読み進めていく。

「何々………えーと…………………はぁ!!?」
「!? なんだどうした御坂!! 何が書いてあった!!」
「え、えと……」

 美琴が思わず声を出してしまうようなこと。
 それは――

「あ、あのね……落ち着いて聞いてよ?」
「ああ。 なんだ?」
「これに、正しい薬の飲み方が書いてあるんだけど……」
「うん。」
「その方法がね……」
「うん。」

 真顔の上条。
 そんな彼を前に、美琴はかすれるような声で言う。

「……女の子に口移しで飲ませてもらうことなんだって…………」
「うん…………え?」



 ♢ ♢ ♢


 口移し。
 要約すると口頭で言い伝えること……ではなく、飲食物を自分の口から相手の口へ直接移し入れることだ。
 簡単に言うとキスである。

(それを……御坂をやれ、と? …………まあ俺としては超嬉しいんだけどさー……えぇ~……?)

 もはや上条の頭の中から、『なぜ御坂は俺を好きになったりならなかったりするのか』という疑問は吹き飛んでおり、『御坂とキス』という考えが脳内を侵略していた。

 で、上条的に美琴と口移しをすることは余裕でOK。
 美琴のことは心から愛しているので、問題はない。
 だが、問題が無いのは上条の事情のみ。

(でも御坂は絶対怒るよな………って、今は薬の影響受けてるから逆か)

 今の美琴なら、喜んでしてくるかもしれない。
 それはそれで上条としては嬉しいのだが、薬の影響を受けているわけなので、普段の美琴の意志ではない。

(さすがに、ダメだよな。でも俺は御坂以外とキスする気なんてさらさらないし…………あれ? これ元に戻れなくね?)

 美琴とキスするのはダメ。
 他の女の子とキスする気は無し。
 ということは、誰とも口移しができないということになる。
 これでは元に戻りようが無い。

(……………み、御坂はどんな反応してるんだ?)

 美琴とキスをする気はない。たぶん。
 ないけれども、もしキスを迫って来たらほんのちょっとだけする方向に考えようかなー、とかいう思いを胸に持ち、視線を美琴に移すと

「…………………ぇと……」

(すげー真っ赤だな、おい。大丈夫なのか?)

 上条が心配になるほど、美琴の顔は赤かった。

「あの……御坂?」
「ッッッ!!あ、あの!く、くくくくく口移しって、えと、その…わ、わわわ、わた、私は!別に…し、してもいいいいいいいいわよ!!?」
「お、落ち着け御坂!」

(テンパりすぎだろ。まあ御坂のこういうとこって可愛いけどさ。)

 OKはもらったからといって、口移しをしていいわけではない。

(どうしようもないじゃん……ていうかキスのことばっか考えてるとあの夢のこと思い出すな……)

 あの夢、とはカラオケ店で黒子に気絶させられた時に見た夢のこと。
 街中を走り、美琴に会い、告白され、キスした夢だ。



「……………………」
「あの、えと……ど、どうするの? まさか私以外の人と口移しすr」
「大丈夫だ。それはない」
「そ、それならいいんだけどさ……」

 美琴がちょっぴり嬉しそうなのは気のせいだろうか。
 いや、気のせいではないっぽい。

(御坂思いっきりにやけてるじゃん)

 美琴は俯き、表情を隠そうとしているようだが、すぐ目の前に立っている上条には、彼女の表情が見えていた。
 このクソヤバい状況にもかかわらず、なんだか癒される。

(………って癒されてる場合じゃねーな。土御門に会って他に解決策を聞くしかないか)

 あーめんどくせ、とか思いながらも、土御門と連絡を取るためポケットに入っている携帯に手を伸ばす。
 その時だった。

「あ、あのっ!!」

 美琴の言葉が上条の行動を制止させる。

「ん? どうした? 」
「その……口移しすれば……全部解決するんでしょ? えと……今回のみんなアンタのことを好きになっちゃうって騒動が……」
「ああ、まあそうだな。でも御坂にさせるわけにいかないかr」
「だ、大丈夫!」
「…………え?」
「わ、わた、私は……大丈夫だから……これは、ほんとに……冗談抜きで…………大丈夫だから……」

 顔を真っ赤にして俯く美琴は、持っていた小ビンを震える手で開け、中から一つの薬を取り出した。
 その薬を見つめること数十秒、美琴は無造作に口へと放り込んだ。

「ん……」
「え!? お、おい御坂…………マジで?」

 目の前の美琴は、真っ赤に顔を染め、目を瞑りこちらを向いている。

(え? いいの? これってマジで…………でも御坂は薬で……ああでもこんなチャンスもうないよなー……)

 紳士上条であるべきなのか、それともオオカミジョウさんとなるべきなのか。
 すぐ側の騒がしい大通りから、まるで隔離されたように静かなこの路地裏で、上条の耳には自分の心音しか聞こえていなかった。

(……薬を飲めば、全部元通りか。 おかしくなったみんなも、今日1日の記憶が無くなるから、今日の御坂との思い出も……)

 美琴が目を瞑ってからすでに1分近くが経過している。
 様々な感情が渦巻き、2つの選択肢で揺れる上条。
 待ち続ける彼女に対し、上条が下した決断は–––––



「………………………………ん」
「ッ!! ……んぁ………」

 路地裏にひっそり聞こえる甘い声。 
 できるだけ優しく。
 そう心がけながら、上条は美琴から口移しで解毒剤を受け取り、直径1センチほどの小さな球体をそのまま飲み込んだ。

「――――ッッ!!?」

 その瞬間、上条の体の中で何かが起こった。
 具体的に何が起こったのか、上条本人にもわからない。
 だが、確実に何かが起こり、何かが変わっていた。
 それと同時に、上条は美琴から離れ、全ての終わりを待つ。

(う……な、なんか熱い……? ほんとに大丈夫なのか、これ――)

 ほんの数秒、始めに土御門に薬を飲まされた時と同じような症状に見舞われたが、その後体調はすぐ元に戻った。
 では、薬の効果のほうはどうだろうか。

(本当に全て、元に戻ったの……か?)

 自分自身に目立った変化がないため、どうなったのかがわからない。
 となれば、目の前にいる美琴に尋ねるしかない。
 大丈夫か、上条がそう口にしようとした瞬間、

「……し、しちゃったね…………キス………」
「え」

 ものすごく恥ずかしそうに、けれどもものすごく嬉しそうな様子で、美琴がそう言った。
 見間違いでも聞き間違いでもない。
 これはつまり――

(記憶が消えてない!? なんでだ!? って、待て待て!! 記憶が消えてないってことは何も元にも戻ってないのか!?)

 だとすれば最悪だ。
 また土御門を探し出して一から解決方法を探し出さなければならない。
 などといろいろなことを考え、上条が落胆の表情を見せていると

「あ、あの…………ひょっとして、わ、私とキスするの、嫌……だった………?」

 美琴が今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。
 どうやら盛大に勘違いされているようだ。

「い、いやそういうわけじゃないんだ!! ただな、結局元に戻らなかったなーって思ってただけだぞ!?」
「ならよかったけど……元に戻ったかどうかは誰か他の女の子を見つけてみないと意味ないでしょ?」
「え?」

 何か話が噛み合ない。
 それに薬の影響を受けているのなら、もっとおかしな方向に会話が進みそうなものだが、先ほどから美琴との会話にそのようなことはない。
 一体どういうことなんだ、と上条が考えていると

「だって私は薬の影響を受けてないんだから」



「………………はい?」

 影響を受けていない、そんなことはないはずだ。
 現に昼間には、他の女の子同様抱きついたり名前で呼んだりしてきた。
 ここで上条は頭をフル回転させる。
 本当に増強剤の影響を受けていなかったのか、本当だとしたらなぜか。
 考えられる可能性から導きだされる答え、それはつまり

「ひょっとして……俺のことを前から好きだったから……?」
「ッ!! ちょ、ちょっと……声に出して言うの止めてよね……は、恥ずかしいんだから……」

 上条は美琴の反応を見て確信した。

(マジか……御坂って俺のこと好きだったのか…………やっべ、超嬉しいんだけど)

 うっきうきだった。
 長い間片思いだと思っていた相手が、自分のことを好きだった。
 上条が天にも昇る気持ちでいると、

「てことは、増強剤の影響をマジで受けてなかったんだよな……?」
「もちろんそうよ? なんでそんなこと聞くの?」
「そりゃあれだ、まさか御坂が俺のこと好きだなんて思ってもみなかったし……」
「え……あ……」
「だから絶対増強剤の影響受けてると思ってたんだよ」
「あ……そう……なんだ……」

 上条の言葉を聞いた美琴の顔から、徐々に笑顔が消えていった。
 美琴は気づいたのだ。
 『まだ上条とは付き合ってもなんともなかった』という事実に。

「御坂……? どうかしたか? なんか急に元気なくなったみたいだけど……」
「えと……あ、あの言葉って、ほんと……なのかな、っていうか……」
「あの言葉……って?」
「いや、だから、その、お昼に広場で言ってた……その……あぅ……」

 美琴がなんだかとてつもなく、不安そうな表情でこちらを見ていたかと思うと、そのまま視線を外してしまった。

(あの言葉……? 本当? なんだ? なんのことだ?)

 上条は必死に考える。
 美琴の『お昼に広場で言ってた』

(昼っていうと、あれか。 御坂に抱きつかれた時か? あの感触は最高だっt……じゃなくて、えーと………………あれか!)

 『あれ』、上条が結論に達した時、美琴が

「……ごめん、変なこと言っちゃって……ほら、早くここから出よ?」
「…………なあ、みさ……美琴」
「ッ!! え、な、何……ていうか名前……」

 ぴくりと反応し、顔を上げる美琴。
 その顔からは、不安、驚き、喜びなど様々な感情を読み取る事ができた。
 そして、上条が彼女に告げることは、ただ一つ――――

「いろいろ不安にさせてごめんな。 それに今日一日いろいろ大変なことがあったけど……あの時言ったことは嘘じゃない」
「!!!!! じゃ、じゃあ、あの、『お前が大好きだ』っていうのは……」
「ああ、ホントだ。 美琴、俺はお前のことだ大好きだ。 ずっと、好きだった。 だから、俺と付き合ってくれるか?」
「……もちろんよ……私も大好き!」

 狭い路地裏、美琴は上条に飛びついた。
 首に腕を回し、ギュッと抱きつき、上条も美琴をしっかりと受け止めた。
 上条と美琴、2人の想いがようやく通じ合った瞬間だった――




 ♢ ♢ ♢


「……兄貴ー? これは一体どうなってるんだー……?」
「……俺にもわからんぜよ……まさか上やんがキスするなんて思ってもなかったし、その上うまいこといくなんてとても予想してなかったんだが…………」

 土御門的には、上条が口移しを選択できるわけがないので、困り果てる姿を映像に映そうと思っていたのだが、予想の斜め上をいく展開がまっており、撮れたのは上条と美琴の感動シーンだった。

 さらに言うと『女の子に口移しで飲ませてもらう』というのは、土御門の真っ赤なウソ。
 あの解毒剤は普通に飲むだけで、元に戻る事ができる代物だった。

「まあなんにせよ御坂が幸せそうだし、これにて一見落着ってことだなー」
「いや! 俺は納得してない!! 今からでも2人の邪魔しに行ってくるぜよ!!」
「ッ!! 兄貴ー、今日くらいはそっとしておいt」
「そっとなんかしておくわけないぜよ!!

 土御門が舞夏相手に声を荒げ、路地へ特攻しようとしたその時、

「おいこらそこの金髪ヤンキー!!」
「誰が金髪ヤンキーだ……ってその声は……」

 土御門にとってよ~く聞き覚えのある声。 
 案の定、その声の先に立っていたのは

「あー青ピ……お前無事だったのかにゃー」

 行方不明になっていた、上条と同じ薬の被害者青髪ピアス。
 特に目立った外傷はない……どころかなんかハッスルしているように見える。

「……お前なんか雰囲気変わったっふぉい!?」

 鉄拳制裁、というべきだろう。
 土御門が青髪ピアスのいる方向へ一歩踏み出した瞬間、グーパンが腹にヒットした。

「あ、青ピ……お前何を……」
「女の子に害をもたらす存在は……ボクが許さへん!!!」
「…………は?」

 土御門は知らなかったのだ、青髪ピアスが『変態』ではく『女の子への想い』が強化されていたことを。
 ふらふらと立ち上がった土御門は、青髪ピアスに声をかけるが、そんなことは意味が無い。

「お前何言ってるんだにゃ……」
「うるさいで!! 問答無用で…………鉄 拳 制 裁 !!」

 ドフッ!! という鈍い音と共に、土御門は正義の鉄拳をもう一撃を腹(みぞおち)にくらい地面へと倒れることになった。

「またやったで!! これで女の子に…………………あれ……? ボクは……何しとったんや?」
「な、なんでこうなるんだにゃー……」
「義兄貴……今回に関しては自業自得じゃないかー……?」

 こうして今回の大事件の元凶である土御門は、罰を受けたのだった。


 これにて今回の事件は晴れて解決。
 科学と魔術を巻き込んだ大騒動は、上条と美琴が付き合い、土御門が罰を受けるという形で幕を閉じた。
 そして、増強剤の影響で上条に惚れていた女の子たちだが、上条があの薬を飲んだ事で全員元に戻り、今日の記憶は全て消え去った。

 ただ、事件の映像はバッチリ残ってしまっていたため、さらなる混乱をまねいたり、勝手に学園都市を訪れていたキャーリサが騎士団長に怒られるのを避けるため、学園都市を逃げ回ったりしたためいろいろ大変だったとかなんとか。








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