秋終わり、恋は終わり始まる
御坂美琴はこの世界がずっと続くと、過信していた。
そんなのは全て幻想だったのは最近知った。
全て悪いのは自分、風習ではなく自分だと保身に走った彼女は言った。
「お姉様」
変態な相棒、白井黒子が数日前から元気の無い御坂を見て言った。
しかし、お姉様と慕われる資格は無いと思っている御坂は黒子を避けれているのだが。
一度だけ、あの後メールを送ったのだが、着信拒否設定にされているらしく、メールは妙なエラーコードを共に帰ってきた。
「私って最低ね?黒子」
そう落ち込む相棒に向かって自暴自棄気味に言ってしまう。
しかし、黒子は捨てられそうな事を悲しんだりしている事で悲しんでいる事ではなく頼って貰えない事にあった。
となれば、自分から介入するしか無いなと黒子は全ての関係者である『上条当麻』から話を聞こうと初春飾利に調査を依頼した。
そんな行動性がある後輩とは相まって、御坂はもうどうでもよかったのだ。
幾度と無く、勝負を挑み、出会い、告白したあの公園の時点ではどこまでもいける気がしてた。
いつも決まって、彼の最大の武器である『幻想殺し』の右手で守ってくれた。
そして決まって、右隣に御坂が居た。
胸が高鳴ってたのもまた一種の精神病だったのだ。
二人の幻想はあの公園で始まり、あの公園で終わった。
未来は同じ、想う彼と同性になる未来が幸せで、そして『成功』した時から未来を容易く決めけていた。
「ごめんね」
茜に染まった一室で呟いた。
*
御坂と別れてから二週間の時が過ぎた。
不幸は続く。
インデックスはイギリスに帰ってしまった。
上条は小うるさい同居人と衣服類が無くなってスッキリした部屋を見てため息を付いた。
彼の肩の上には寂しそうに三毛猫のスフィンクスが居たのだが、窓から出て行ってしまう。
帰って来いよーとは言ったものの上条には喪失感だけが残った。
理由はとても単純。愛想が尽かされた。
『まだ短髪の事でウジウジ悩んでるんだね。とうま、私イギリスに帰るんだよ。もう知らないかも』と言い残して心配そうな表情を浮かべていた神裂火織や目を伏せていた
ステイル=マグヌスに連れられて飛行機に乗って行った。
海原光貴には『約束も守れない男だったんですね、失望しました』と言われ、ステイル=マグヌスも『実にくだらない。君にあの子を預けた時点でこんなのは予想できたがな』と
言い捨てて上条を罵倒し、失望し、そして去っていく。
「畜生……!」
茜色に染まった部屋でベッドにもたれ掛かりながら呟いた。
何に?と聴かれると勝手に出て行ったインデックスでもなく、勝手に捨てた御坂美琴でもなく。そうさせた自分自身。
一度だけ、デートに行ったことがある。
第八学区にある少し大きな遊園地だ。手を繋いで辺りを見て回った。
途中、青髪ピアスや土御門元春に茶化されたり、一方通行や打ち止めに見つかったりなんて大変だったが楽しかった。
心に流れる温かい気持ちを今でも忘れない。
彼女が残してくれた最後の痕跡で、上条が残した最後の痕跡。
「ちくしょう……な、なんだよ!!!アイツ等……俺が一体……な、なにを……」
上条はうずくまった。
たった二週間足らずの日々だったが、輝いて見えた。
彼女が居なくなってから、同居人に愛想を尽かされ、とある男に失望され、親友には怒鳴られ、孤立し、全てが狂っていく。
暗い夜も、絶望に塗れた日々も乗り越えて来られたのは全て彼女のおかげだというのに。
何故、忘れていたんだろう。
妙なプライドで彼女の痕跡を消して、謝らないと意地を張って、時には同居人に当たった。
彼女が居たから、上条は『正常』でいられた。
「わぁぁああああああああああああッッッ!!」
大声を張り上げて泣いた。
もう時は既に遅い。
御坂という存在は上条の中では何よりも大きく輝くモノだった。
しかし、絶望し、上条は御坂との記憶を愛しさに溶かしていく。
積もり積もっていく想いは、粉雪のように儚く、そして何より幻想的なモノに変わり
御坂を、綺麗な存在として片隅に置いておくことが出来る。
そうでもしないと上条が壊れてしまう。
「……なぁ……み、みざがぁ。ご、ごめんなぁ……っ」
第二章 秋は更けて冬を越え、春が始まる
「貴女……またネットゲームしてましたわね」
「し、してませんよ!依頼通りカミジョーさんの事を調べてたんですよ!」
黒子は信用してないのか、パソコンに付いていたイヤホンを引き抜くと、大迫力のBGMが聞こえてきて「ハハハ」と初春は乾いた笑みを浮かべてすみません!と謝った。
しかし上条の事は調べてあったのか、プリントアウトした資料を黒子に渡した。
とある高校の一年生で能力は国家機密レベルらしく、初春でも踏み込めないらしい。
住所なども全て記述してあって文句ない資料だったのだが、住所以外にも知りたいことがあった。
そんな事を考えていた時、佐天涙子がドアを勢い良く開けて「こんにちわー!」と叫んだ。
「佐天さん、ちょうど良かったですの。この人に見覚えはなくて?」
「……誰?カミジョートーマさん?聞いたこと無いなー」
佐天は頭の描く動作をしながら、資料を机の上に置いた。
手掛かりは無く、上条に直接聞くしか無い。
黒子はドアを開けて、外に出た。
ココからそう遠くはない寮に住んでいたが過去に火事があった寮なのを思い出した。
テレポートを繰り返しながら数十秒で着くと、インターフォンを押した。
しかし、出る気配がない。数回押すが誰も出てこないので黒子は家の中にテレポートした。
(な、なんですの?コレはッ!?)
目の前に広がる光景は皿が散らばり、綿埃が舞う部屋の真ん中で痩せ細り、不気味に眼球だけ動く上条の姿だ。
窓ガラスにはガムテープや新聞紙が貼られて、携帯電話や受話器は水に付けられていた。
「……るい、上条さん」
「……白井、黒子」
「何がありましたの?この有様は」
「………なん、にも無い。帰れ」
コンクリートを削るような低くお腹に響くような声だった。
冬場だというのに、生暖かく、そこら中に赤い液体が……?
そう思った黒子は上条の胸ぐらを掴んで、右手を見た。
皿の破片が刺さっていたのだが、既に固まっていた。自殺行為だと思いながら上条をテレポートさせようと演算したが……
(そうでしたの、この方にはテレポートは効かなかったのでしたわね)
1人では持ち運べない黒子はドアをテレポートさせて、救急車を呼んだ。
10分やそこらで救急隊員が来て、上条の様子と部屋の有様を見て「酷い……」と呟いて病院へ搬送した。
あと一日でも発見が遅れていたら死んでいたらしい。
脱水症状と、栄養失調。そして精神病。
「初春。佐天さんを連れて第七学区の大通りにあるカフェに集まってくださいな」
『へ?カミジョーさんはどうしたんですか?』
「そのことも含めてお話致しますの」
*
「で?カミジョーさんはどうしたんですか」
「……上条さんは精神が極限状態となり、現在搬送されましたの」
黒子は続けた。
「最近、お姉様の様子がおかしい。その理由は上条さんにあり、二週間ほど前からお姉様と上条さんは男女としての交際をしていたらしいですわ。
しかし一週間ほど前、お姉様が上条さんとトラブルがあったのか落ち込んで帰って来ましたの。
いつもなら気持ち悪いほど携帯電話にへばり付いているお姉様が一度だけメールを送って、そのままに」
「その理由が何なのか、ですねー」
佐天はパフェを頬張りながら不可解な御坂の動きに疑問を持っていた。
「お姉様、が何かあったのかもしれませんわね。上条さんを脱水症状と栄養失調にならせる何か」
その時だった、黒子の携帯電話に一通の着信があった。
見覚えのない番号だった。
「……もしもし?」