春、始まり
昨日は卒業式だった。
もちろん自分のではない。自分の卒業まであと一年はある。
上条「はー。俺は一年後、卒業できんのか?」
美琴「ぷっ、どうかしらね、その前に進級の方がヤバいもんねアンタ」
そう、昨日卒業を迎えたのは目の前に座る御坂美琴である。
昨日までは常盤台中学の制服を着用する義務があった。が、今日からはその必要が無くなり私服の姿を上条当麻に見せている。
上条が美琴の私服姿を見るのは久々であり、なかなかに新鮮且つ寂しくもある。
一つの節目。
美琴「ほら、そこ。また間違えてるわよ」
上条「えっ、またかよ」
美琴「同じ間違いはしない」
ながら、日常は続く。
一年前も大きな節目を終えた。第3次世界大戦からグレムリンとの闘争、世界を廻る大きなうねりに一つの決着をみた。
それで世界が平和になったかと云うとそうでもない。
人がいれば人の数だけ悲劇はあるものなのか、目を閉じていれば関わらず過ごせていた筈、であっても上条は関わりを避けることなど考えもしなかった。
心が向くまま行動した結果、少しでも救われる人がいた。しかし自らに返ってきたものといえば宿題の山である。
これが上条の日常。
無事進級を済ませるにはこの宿題の山を片付けなければならなかった。
宿題の山を前にして、途方に暮れる上条に救いの手を差し伸べてくれたのが昨日卒業式を終えた美琴。
ファミレスで待ち合わせして勉強会と相成ってる訳だが、美琴の指導はなかなか厳しい。
とはいえ厳しい指導のおかげで宿題の山は減りつつある。
一息いれても良い頃合いと思い、
上条「美琴先生、もう頭がクタクタです」
甘え、と言えばそれまで
美琴「仕方ないわね、休憩にしましょうか」
でも、応えてくれる、そんな関係。
美琴の前にある紅茶を容れてあった器も空であった。
上条は自分の飲み物と美琴の紅茶の追加を取りにいき戻ると、
上条「けど、御坂。今日は本当に良かったのか? 忙しいんじゃないのか?」
美琴「大丈夫よ、心配しないでも、進学先はもう決まってるし、寮の引っ越しも済んでるもの」
上条「えっ、そーなのか? この時期にはもうそこまで進んでるもんだっけか?」
美琴「自分のときを思い出しなさい、ってゴメン。記憶が無かったのよね」
上条「記憶のことは気にすることねーよ。それより進学先はどこに決めたんだ? 御坂なら長点上機か?」
美琴「さあ、今まで聞きもしなかったアンタがいまさら気にするの?」
上条「いや、まあ御坂ならどこでも大丈夫だろし、心配する必要が無いっていうか」
美琴「ふーん、やっぱそういう扱いなんだ」
何故だか美琴が不機嫌そうに見えた。
上条「……怒ってらっしゃる?」
美琴「怒ってないわよ、ただ気落ちしただけ。アンタから見たら私なんて」
上条「違う、その御坂は戦友って言うか、ハワイのとき言ってくれただろ? 『その重荷は私も背負う』 『アンタと私は、同じ道を進んでいる』その前には今度は一人じゃないだっけ?」
美琴「……よく覚えてるわね」
一年以上前のこと、それを今言われると恥ずかしい気持ちが強い。
上条「救われたんだよ、一人で空回りしていただけだった俺に仲間がいてくれるって」
上条「だから、その何て言うか」
美琴「あー、もう良いわよ」
理不尽なのは自分だと美琴はわかっている。理屈では上条の言うとおりなのだ。美琴の成績なら高校ぐらいどこでも行ける、高校など飛び越えて研究者への道もありだ。
上条に心配されても役には立たない。特別な関係では無いのだから。
ただ上条にとって面倒な女にはなりたくない。美琴は上条の背負う荷を軽くしてあげたいのだから、逆に重く感じられるような存在になるのは不本意であった。
それでも気にかけて欲しかった。そんな理不尽な感情がざわめいてしまった。
上条「その」
美琴「ゴメン、アンタの所為じゃない……昨日卒業式だったから、離ればなれになる人もいて、感傷的になってるのかな」
上条「御坂……」
美琴「4月になれば分かるわよ」
上条「え?」
美琴「え、って私の進学先の話しじゃないの」
上条「そーだけどよ、4月になればわかるって当たり前だろ」
美琴「じゃあさ、ヒントあげるから当ててみなさいよ」
上条「おいおい、学園都市に幾つ高校があると思ってんだ、生半可なヒント貰ってもわかりませんよ、御坂」
美琴「ヒント1、女子校じゃないわ」
上条「それで対象が絞れるとでも」
内心、美琴が進学先に選ぶような学校である、霧ヶ丘を含む名門と呼べる女子校は外せる。それに長点上機は最初に上条があげた学校、美琴の返答から違うことは予想できた。
美琴「ヒント2、男女共学」
上条「同じ意味じゃねえかよ!」
美琴「ヒント3、第7学区」
上条「おっ、大分絞れるなあ」
第7学区、高校は数在れども第18学区ほどには名門校は少ない。長点上機もまた第18学区、ブラフではなかったようだ。
美琴「まだわかんない?」
上条「それでわかったら探偵になれる」
美琴「ふふん、ならヒント4、引っ越し先の寮の隣人は巨乳」
上条「はっ?……それがヒント」
(つーか、その巨乳の人を俺が知らなきゃヒントにならねー……えっ?)
美琴「おまけ、その学校にはレベル5がすでに在籍している」
上条「まさか……御坂」
一方通行が転校してきたのは去年。
美琴「ソイツのせいで校舎が何回か崩壊してるって話しね」
上条(何度校長室に呼び出されたことか)
美琴「4月からアンタの呼び方も変わるかもね」
上条「……それは楽しみだな」
上条「何でだ?」
美琴「何でって言われても楽しそうだし、社会に出るまでに必要なことは常盤台で学んでるからそういうのも良いかなって」
上条「……それだけ?」
美琴「……それだけよ」
上条「なら、呼び方を変えるって御坂、リクエストして良いか?」
美琴「かもよ、かも」
上条「名前で呼んでくれるか?」
美琴「はぁ?……な、なんで名前で呼ばきゃ、いいけないのよ」
上条「ホワイトデーにはとびっきりのお返しをすっからさ」
美琴「ぎ、義理チョコにそんなとびっきりのお返しされても!」
上条「あれが義理、手の込んだ手造りのあれが?」
美琴「そ、そうよ!」
上条「それでも良いさ、俺なりの気持ちだと思ってくれ……それで、ダメか?」
美琴「か、考えとく……」
4月、高校に入学した美琴は登校途中の上条を追い掛ける。
美琴「当麻、おはよう」
おわり