とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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美琴ちゃんってどうしてこんなにもネコが似合うの




―――ピンポーン

美琴はとある学生寮の一室まで訪れていた。
目の前にあるインターホンを押し、数瞬の間を置いてからそれに向かって声を出す。

「当麻ー。来たわよー」

そんな声を出している間にドアの向こうから人が近づいてくる足音と気配。
ほどなくして扉は開かれ、家主がにこやかに美琴を出迎える。

「おう。悪いな、わざわざ呼びつけて」

口調は申し訳無さそうだが、家主――上条当麻の表情が明るく陽気な雰囲気を醸している所を見ると、彼も美琴に会えるの楽しみにしていたのかもしれない。

「べ、別に気にしなくていいわよ。別にファミレスとかでも良かったんだろうけど、当麻の懐事情を考えると無理しない方がいいだろうし!」

上条に促されるまま玄関へと上がりこんだ美琴は、彼から目を逸らし早口でしゃべる。
別に自分を見てうれしそうな顔の上条を見てこっちまでうれしくなったとか、そんな自分に気付かれるのが恥ずかしいからとか、そんなんじゃない。
頬の辺りに血が集まってきているのも、心臓がドキドキと早くなっているのも上条とは関係ない。違うったら違う。

「……そんな顔して、上条さんに会えたのがそんなにうれしいんですかー?」

「ふえぇ!?」

しかし上条にはあっさり看破されていたらしい。
ほーら、そのかわいい顔を良く上条さんに見せてくださーい、と手馴れた動きで捕獲されてしまう。

「ちょ、ちょっと! 離しなさいってば!」

恥ずかしさMAX状態になってしまった美琴は、あわあわと体を捻ったり上条の肩をポコポコと叩く。
そんな美琴の攻撃にも上条はどこ吹く風の様子で、熟練したかのような手つきで彼女の喉元から顎、頬を優しくなであげる。

「…うにゃぅ…ふ、にゃ…」

そのあまりの手つきの心地よさに、美琴はまるで猫になったような錯覚に陥る。
喉をなでられて気持ちいい猫の感覚ってこんな感じなのかしらと思いながら、その優しい動きに身の動きを絡めとられてしまう。


「美琴…」

そして、いつもより低い音程の声と共に近づいてきた熱い吐息と唇の感覚に気が付いた美琴は……

「ダメーーー!!」

「ぐぷっ!?」

その上条の顔面に向かって思いっきり猫パンチをかました。

「ぶおお…は、鼻が…いっ! し、舌まで噛んでる、だと…!?」

美琴の柔らかい唇を堪能できるとばかり思っていた上条にはまさに不意の一撃で。
思わず美琴の拘束を解き、見事にクリティカルヒットした上に口内の部位破壊まで受けてしまった痛みに悶絶する。

「あ…ご、ごめんね…? で、でも! 今日はこんなことの為に来たんじゃないし…そ、そうよ! いきなりあんなことした当麻が悪いんだからね!」

思った以上のダメージを与えてしまったことに、さすがの美琴も心配になり、赤く上気した頬のまま上条の顔を覗き込む。
しかし再び上条に捕獲されることを警戒しているのか、微妙な距離を保ったまま。

しばし悶絶する上条の様子を眺めていた美琴だったが、逃げるかのような、空気を変えるかのような、努めて明るい声を出す。

「ほ、ほら! ちゃっちゃと終わらせるわよ宿題! 私はそのために今日呼ばれたんでしょ!」

恋人同士としてお付き合いする前から、美琴はちょくちょく上条の勉強の面倒を見ていた。
今朝、美琴の携帯電話には上条から「宿題が分からないから教えてほしい」という主旨のメールが届いていた。
その呼び出しに快く応じた美琴は上条の部屋に訪れていたわけなのだが。

宿題を教える場所としては上条の部屋以外にも、先程美琴が口走ったファミレスや図書館などの選択肢がある。
しかし、美琴は宿題を教える場所として真っ先に上条の部屋を挙げた。
それはお金がかからない場所という理由だと上条に説明していたが、美琴としては恋人と二人っきりになれるからという乙女の密かな理由もあったりした。
これに対して上条は、教えてもらうお礼も兼ねてファミレスで何か奢るからそこにしようと言うのが常なのだが、今日は素直に己の部屋での勉強会に応じた。

そして冒頭のうれし顔である。
大好きな彼と二人っきりな上に、当の彼もうれしそうな顔で出迎えてくれた。
美琴のテンションがうなぎのぼりになるのも当然なのだ。正直な話、上条といちゃいちゃすることに美琴だって不満はない。

しかし、そこはしっかり者の美琴である。
今後のいちゃいちゃ至福タイムのためにも、憂いは絶っておかなければならない。
ご褒美は頑張ったあとの方が達成感や感動もひとしお。上条とならいくらでも頑張れる。
そうした理性がかすかに働いてくれたからこそ、上条の猛攻から生還できたのだ。



もっとも、今日に限っては働かせる必要のないものであったのだが。


「飲み物取ってくるから先に座っといてくれ」

玄関から部屋の中に入った上条と美琴。赤い鼻頭のまま上条はキッチンへと消えた。
美琴はそれを見遣りつつも、中央の多用机の上に出されていた紙束を手に取り目を通す。

「(ふむ、この程度の問題なら2時間もかからずに…っていうか、これこの間教えたやつじゃ…あ! こっちも!)」

ヒクリと頬を引きつらせながらもぱらぱらと問題用紙をめくる。
中には今まで見ていないような問題もあったが、大半は以前解き方を講釈したものが占めていた。
上条の頭の出来が良くないことは身にしみて分かっていたつもりだったが、それにしてもコレはひどい。

以前といってもそんなに時間がたったわけではない。
あれだけ付きっ切りでじっくり教えた知識が既に彼方に流出しているのかと思うと非常に切なくなる。

「(勉強に関してはもうちょっと厳しくした方がいいかしら…)」

上条への怒りからか、それとも呆れからか。ともかく痛くなってきた頭を抱えて重苦しい吐息を一つ。
脱力ついでにベッドを背もたれに座り込むと、スムーズに解説できるように問題の読み込みを開始する。
美琴の頭脳にかかれば2時間どころか数分で解法にたどりつける。むしろそれを上条に理解できるように解説する方が難しい。

「ほい、粗茶がはいりましたよー」

キッチンから戻ってきた上条は手に持っていたグラスを美琴の目の前に置いた。
それの動き逐一を電磁レーダーで把握していた美琴は問題用紙から目を離さず、しかし正確にグラスを掴むと一口分喉に通し、

「ぶっ!? な、なにこれ!?」

その予想外の味に思わず噴出しそうになり、慌てて口元を押さえた。
粗茶と言う上条の発言からお茶だとばかり思っていた飲み物は、しかし美琴の予想と反して琥珀色で透明の液体だった。
どうにか喉の奥に流し込んだものの、その、なんというか、控えめに表現すると、非常に不味い。

「え、何って、そこのスーパーで配ってた新製品の試供品」

「なにもらってきてんのよ! 学園都市の試供品の中で食品関連が一番信用ならないって知らないの!?」

「試供品だぜ? 無料だぜ? 無料って素敵な響きだろ」

そんな美琴を前に、上条はあっちを向いて喋る。おいこら、こっちを見ろ。


そもそもこの学園都市には変な食品が多い。
それは学園都市に開発部門を構える食品メーカーが、試験がてらさまざまな食品開発を行うためだ。
そしてそれに応じて出来た試験品を製品として学園都市内で売り出すのだ。
もちろん製品ではあるが、あくまで試験品の意味合いの方が強いために、値段は非常にリーズナブルである。というかかなり安い。

しかしこれは違う。試供品と言う名の無料品だ。
無料であると言うことは、試験品でありながらも何らかの理由で値段をつけることすら憚られるような出来であったと疑えるわけで。

たとえば、不味いとか不味いとか不味いとかの理由で。

正直、この飲み物はかの「いちごおでん」や「ガラナ青汁」に匹敵するような不味さだと美琴は思う。
なのに平然とした顔で同じ琥珀色の液体を飲んでいる上条に戦慄する。薄々感じていたが、上条は自分と味覚がずれているんじゃないか。

「ほほう。つまりミコっちゃんは、怖くて、こんなもの飲めないと」

しかし上条はニヤリと笑うと、わざと「怖くて」の部分を強調しながらもう一口、美琴に見せ付けるように飲む。
その言葉に美琴がピクリと反応したのを横目で確認しつつ、彼女が声を紡ぐ前にやや大げさにため息をついた。

「は~あ。じゃあしょうがねーなぁ。怖がりでお子様なミコっちゃんのために。
学園都市の試供品なんか飲めないミコっちゃんのために、なんか別のジュースでも持ってくるわ」

こっちは善意で勉強見に来てやってんのに飲み物一杯で何様のつもりだコラとか、
恋人に対して何してくれてんだオイとか思っていたが、めんどくさそうに立ち上がった上条を見て、

「ビビッてなんかないわよ! こんな液体ぐらいで!」

美琴は拳を握って机を叩く。見事になんちゃら袋に亀裂が入ってしまったようだ。

「いやいや、無理すんなって。上条さんは出来ないことを無理にやらせるような鬼畜じゃありませんことよ~」

玄関先での出来事の復讐のつもりなのか、ニヤニヤ顔の上条は完全にミコっちゃんからかいモードに入っているようだった。

「ぐ、ぬ! そうやっていつもいつも子供扱いしてからかって…見てなさい!」

負けず嫌い、意地っ張り。そういった表現が良く似合う美琴は、挑発されることに非常に弱い。


声高に吼えるやいな、手に持ったグラスを一気に呷り、いっぱいに注がれていた件の液体を飲み干した。

「っ、ふう。はっ、どうよ! 誰が怖がりでお子様だって!?」

強烈な不味さを押し殺してどうにか全て飲みきり、美琴はそら見たかと不敵に笑ってグラスを上条に付き返した。

「んで、味はどうだった?」

だが、上条はニヤニヤ顔を崩さぬまま美琴に質問を返す。

「はぁ? んなもん不味いに決まって…」

「そうじゃなくって、具体的な味を聞いているんだよ。試供品だぜ?
どこがどう美味いとか、こんな感じで不味いとか、ちゃんとした感想じゃなきゃ次に生かせないだろ」

そんな分かりきったことを、とため息をついた美琴の眼前に、だが上条は手のひらをかざしてそれを遮る。
確かに、上条の言っていることは正論だ。しかし、

「具体的にって言われても…」

「まあ、あんな一気飲みしたら味わう暇もありませんものね」

渋顔をした美琴をよそに、上条はいつの間に取ってきたのかペットボトルのキャップを外して、美琴の持っていたグラスに中身を注ぎ始める。

「というわけで、もう一杯」

上条のニヤニヤ顔を見たくなくて、美琴はグラスの中の琥珀色を睨みつけた。

「…………」

「ミコっちゃーん。無理なら無理でいいんですことよー」

普段は誰よりも愛する男の声であるのに、今だけは無性に腹が立つだけ。
ここで引き下がっておけば良かったと後々後悔する事になるのだが、しかし今の美琴には引き下がるなどという選択肢はなかった。
退くわけにはいかない。プライドを刺激するような上条の挑発行為に負けるわけにはいかない。

美琴は覚悟を決め、グラスの中身を少量口に含む。


「……!!!」

思わず吐き出しそうになるのを必死にこらえる。
自然と涙が溢れてきたのだが、液体を飲み込むためにぎゅっと目を閉じたために美琴自身はそれに気が付かない。

「…どうだ?」

目を開けられないまま数秒、上条の声が聞こえてきた。
美琴はぼんやりとする頭のまま素直に思ったことを答える。

「…なんか、舌が、ビリビリする、とか、喉が焼けつく、ような、感じがするとか、あるけど」

「けど?」

「それが、どうでもよくなる、くらい、苦い……鼻にまで、苦さが抜けるって、いうか、においまで苦い…」

コーヒーやカカオの苦さとはまた違うような、渋みとかすかな辛味が混ざったような、しかししっかりと存在を主張してくるなんともいえない苦味。

「ほうほう。で? ビリビリするとか、喉が焼ける感じってのは?」

美琴がそうして苦味に涙目になっているにも関わらず、上条は変わらず味についての質問を重ねてくる。
あまりにも苦味が強すぎてその他を詳しく感じ取る余裕がなかった美琴は、仕方なくもう一口琥珀色の液体を飲む。

「~~~~~!!!!」

ガツンと襲い来る苦味を必死に意識の外に追いやる。
早く苦味から遠ざかりたくて急いで液体を飲み込むと、最初に感じたあの焼け付くような熱さ。というよりこれは、

「ある、こーる…?」

そうだ。この喉が焼けるような感じはアルコールだ。お酒の熱だ。
一体何故、学生に配られた試供品にアルコールが入っているのだろうか?

「そうだな。お前の持ってるそれはとある酒だよ」

冷静な上条の声が聞こえる。
肯定するってことは、コイツはこの液体がお酒だと知っていた? 知っていて自分に飲ませた?


とにかくこれはもう飲んではいけない。
そう思うのだが、頭がぼんやりするせいなのか行動が伴わない。
グラスを手放そうと思うのに、掴んだグラスの中を覗き込んでしまう。

「………?」

するとその時、先程まで苦いと思っていたにおいが、何故か今になってとても甘美な香りに変わったように思えた。
美琴は誘われるままに、なんの躊躇もなく琥珀色の酒を飲んだ。

「おいし…」

苦いことは苦いのだがそれ以上に、”なにか”が筆舌に尽くしがたいうまみを美琴に感じさせた。

「おー、効果覿面ってか、効果抜群って感じだな」

「んゃ……」

気が付くと、今まで机の対岸にいたはずの上条が後ろに回りこんでおり、あっという間にグラスを取り上げられてしまった。
おいしいお酒を取り返したいと思うのだが、上条に後ろから抱き込まれた瞬間、全身から力が抜けてしまう。

「ごめんな美琴。今お前に飲ませたのは試供品なんかじゃなくて、とある筋から手に入れた特別なもんなんだ」

上条の腕の中はとても心地のいい空間で、包み込まれてしまったら最後、確固たる意思がない限り抵抗なんてできやしない。

美琴を抱きかかえた上条はすまなそうに、しかしどことなくうれしそうに美琴を優しくなでまわす。
頭をなで、頬をなで、腹に添えられた手のひらをゆっくりと滑らせなでる。
上条に全身をなで回され、美琴は嫌な気分になるどころかもっとしてほしくなってしまう。
心地よい感覚にうっとりと酔いしれ”まるで猫のように”体を丸めて上条の胸に擦り寄る。

しばらく美琴を撫で回していた上条は、頬をなでていた手を喉にすべらせると、ほとんど猫にするかのような手つきでなで始めた。

「…ふ、に……うにゃ…にぃ」

喉をなでられた当の美琴は、大変気持ちよさそうに目を細め、頬を緩める。
普通の人間なら、猫にするかのように喉をなでられたって気持ちいいわけがない。
なのに、今の美琴にはその行為がとても気持ちいい。なんだったらゴロゴロと鳴いてもいいくらいだ。


「お前が飲んだやつな、学園都市特製の”またたび酒”なんだよ」

気持ちよくて、心地よくて、ご機嫌になっていた美琴は、意識の向こう側で上条の声を聞く。
その声は彼女の耳には届いていたが、その言語の意味を理解するまでには至らなかった。

それに気付いているのかいないのか。どちらでも構わない上条は意に介さず続ける。

「普通またたび酒っていうと、まあ、薬みたいなもんだな。美味いもんじゃないが、健康に良い」

猫が大好きといわれるまたたび。実は猫だけじゃなく、人間も食べられる。
完熟したまたたびの実は独特な味ながらも美味であるし、またたび酒のように焼酎に漬け込んで飲み物にすることも出来るのだ。

「ただ、コイツは学園都市特製。普通のまたたび酒とは違い、摂取した者にとある特殊な状態を引き起こす」

「…うにゃ?」

上条は喉をなでていた手を止め、おもむろに何かを取り出した。
不思議そうに眺めている美琴の顎を指先で持ち上げると、取り出したそれを彼女の首にはめる。

「うん、赤とオレンジで迷ったけど、赤で正解だな」

そう言った上条は満足そうに微笑むと、彼女の首にはめた物についていた鈴を指先で軽く弾いた。

「よく似合ってるぜ、”みこにゃん”」

「にゃあ!」

言われたことの意味は良く分からなかったが、なにやら上条がうれしそうなのでいいか。

自分までうれしくなってきた美琴は元気に上条へ返事を返した。
素直に返事をしたご褒美のつもりか、ニッコリと笑った上条は美琴の頭をなでながら、ゆっくりと彼女の耳元に口を近づける。

「このまま酒の効果が切れるまで、俺のかわいい子猫ちゃんでいてもらうぜ美琴」










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