とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

014

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とある少女の初恋物語




―――今にして思えば、あれは初恋だったのかもしれないわね―――


 ◇


特徴的な大きなアホ毛をピコピコと揺らしながら、
その小学校低学年の女の子は、公園でブランコを漕いでいた。
片手には鎖と一緒に大きなカエルのヌイグルミを握り締めて、「キャッキャ」と笑うこの少女、
まだ学園都市に移って間もないが、これでも立派な電撃使いの端くれだ。

彼女の名は「御坂美琴」。
今はまだレベル1ではあるが、数年後に「常盤台の超電磁砲」としてその名を轟かせる、
未来のレベル5の第三位である。

美琴は勢いをつけたブランコからジャンプし、そのまま前方の砂場にダイブする。
そこに人がいるとも気付かずに。
砂埃が舞い、土煙で周りの世界がもわもわと茶色く濁り、美琴はケホケホと咳き込んだ。
と同時に、煙の向こうからも誰かが咳き込む声。
ここでようやく、美琴は自分の他にも、もう一人いると気付いたのだった。

「ご、ごめんね!? 私、前見てなかったから!」
「ケホッケホッ…あ、う、うん、いいよ。別に何ともな……あーっ!!!」

煙の向こうからおぼろげに見える人影は、優しそうな声(という美琴の第一印象)で受け答えしたが、
突然大きな声を上げたので、美琴はビクッとする。
だが、やがて土煙が晴れた事で目の前の現状がハッキリと分かり、
美琴は何が起こったのかを理解した。

砂場には二人。その内の一人は勿論美琴だ。
もう一人は、ツンツン頭の少年。おそらくは小学校中学年ぐらいだろう。
少年の周りには、小さなスコップと水の入ったバケツが転がっていた。
そして美琴の足元には、砂で作られた小さなお城…の残骸。
完成間近だったと思われるそのお城は、進撃の巨人【みこと】によって破壊されていたのだ。

「あー…はははー……不幸だー…」
「ごごごごごごめんなさいっ!」
「あっ!? ううん、いいよいいよ!
 『不幸』って言ったのは口癖みたいなもんだから、気にしないで!」
「でも…でも……」

美琴は目に涙を溜め始め、ぐすぐすと鼻を鳴らす。
男の子は、そんな美琴の頭を撫でて、あやすようにこう言った。

「ホント、大丈夫だから。友達を待ってる間の、ただの暇つぶしだったし」

男の子は今日友達と遊ぶ約束をしていて、この公園で待ち合わせをしていたのだが、
しかしその友達が学校の用事で来るのが遅れているので、
こうして砂場で一人寂しく遊んでいたのだった。
スコップとバケツは、ここで遊んだ他の誰かが忘れて置いて行った物らしい。
確かに、小学校3~4年生の男の子が、理由も無く一人でお砂場遊びというのは、
中々どうして悲しいものがない事もないが。

「ぐすっ……ホント…? お兄ちゃん、怒ってない?」
「う、うん。怒ってない怒ってない」

怒ってはいないが、美琴の『お兄ちゃん』呼びに、何故かむず痒く感じる少年である。
まだ、それが『妹萌え』だと理解するには早すぎる。

「そ、そう言えばお前、もの凄く嬉しそうにブランコ漕いでたよな! 何かいい事でもあったのか!?」

少年は、自分の心に芽生えそうな『イケナイ何か』を誤魔化すように、話を逸らす。


「あっ! うん! 私さっきね! 良い事したの!」
「へぇ~、どんな事?」
「あのね! お医者さんにね! 私のDNAマップをあげたの!」
「そっか~……ってあれ? DNAマップって誰かにあげたら駄目って学校で最初に習ったような…」
「そうだけど…でもね! 私のDNAマップで治せる病気があるんだって!
 きん…きんじす……えっと…そう! 『きんじすとろふぃー』っていう病気なの!
 だからあげたの! お医者さんも『ありがとう』って言ってたもん!」
「へぇー! すっげぇじゃん!」
「えへへ~」

男の子は、再び美琴の頭を撫でた。
この男の子に撫でられる度に、美琴は心の奥底が温かくなるのを感じていた。

「…お兄ちゃんの右手ってフシギだね」
「…っ! そう…かな?」

ふと、美琴の頭に触れていた少年の手が離れた。
「右手」という言葉に、何故か一瞬だけ顔をしかめた少年だったが、
美琴は気付いていながったらしく、話を続ける。

「うん! だって、胸の中をポカポカさせてくれるんだもん!」
「…俺は…自分の右手ってあんまり好きじゃないけど……でも何かに役立ってくれるなら俺も嬉しいよ」

そう言って笑う少年の顔には影があった。
そこでようやく何かを悟った美琴は、心配そうに少年の顔を覗き込む。

「お兄ちゃんだいじょぶ? お腹いたい?」
「ううん、何でもない。
 それよりさ、DNAマップを提供したって言ってたけど、お前どんな能力使いなんだ?」

再び話を逸らす。どうやら、右手については話したくない過去があるようだ。

「えっ!? えっと…電撃使いだよ」
「おー! じゃあビリビリってできる!?」
「そんなにすごいのはできないよ~。いっぱい『ん~~~っ!』ってやって、やっと火花が出るくらい」
「それでも羨ましいよ」

少年は訳あって無能力者だった。
レベル0でもある程度の能力は使えるが、少年は全く能力が発現しないという、
『完全』な無能力者だったのだ。
なので美琴の能力のように微々たる物でも、少々憧れがあったりするのだ。
まだ諦めの境地に至れる程、彼は大人ではない。

「もっといっぱい電気が出せるようになりたいな~…」
「じゃあ将来はレベル5になるのが夢なのか?」

少年の問いに、美琴は「んむー…」と考え込む。

「レベルは上げたいけど、『夢』っていうのとはちょっと違うかも…」
「じゃあ夢は?」

美琴は、少年の目を真っ直ぐに見つめてこう言った。

「…うん! 私、お嫁さんになりたい!」

女の子らしい、純粋で可愛い夢だった。その答えに、少年は何の気なしに返事をした。

「お嫁さんかー…じゃあ―――」

しかしその返事は、

「―――じゃあ、将来俺が独身【ひとり】だったら、お嫁さんになってくれるか?」

小さな小さなプロポーズだった。
少年にとってはきっと、おままごと感覚だったのだろう。
しかしそれを受けた美琴は、突然胸の奥が「ドクンッ!」と跳ね、キュンキュンと苦しくなる。
だがその苦しさは、何故か心地の良いものだった。
自分の身に起きた謎の異変に戸惑いつつも、美琴は少年に笑顔を向ける。
ほんのりと、頬に火照りを感じながら。

「うん、いいよ! じゃあ、お兄ちゃんのお嫁さんになってあげる!」


(今にして思えば、あれは初恋だったのかもしれないわね)

その後、少年の友達が遅れてやって来たので、美琴と少年は、お互いに名前も聞かずに別れのだが、
「名前くらい聞いておけば良かったかな~」と、『現在の』美琴は当時の事を思い出す。

(ま、よくある甘酸っぱい思い出の1ページみたいな物よね。
 もう、あの男の子の顔もよく思い出せないし)

あの時と同じ公園で、ベンチに座りながら淡い思い出にふける美琴。
そんな彼女の頬に、突然冷たい何かが当たる。

「ちべた(冷た)っ!?」

バッ!と振り返ると、冷えっ冷えのヤシの実サイダーの缶を2本持ってニヤニヤしている、
上条の姿がそこにあった。

「ビックリした~……
 アンタねぇ! それ冬にやる事じゃないでしょ!? めっちゃ冷たかったわよ!?」
「そんな怒んなって。ほら、一本奢ってやるから」

そう言いながら、手に持っている缶ジュースを1本差し出してくる。
美琴はぶつぶつ言いながらも、上条の差し入れを受け取った。

「そう言や、何かボケ~っとしてたけど、どうかしたのか?」
「ちょろ~っと昔の事を思い出してただけよ」
「思い出?」
「ま、ちょっとね。昔ここで、ある男の子にプロポーズされたの」

上条は一口飲んだヤシの実サイダーを、盛大に噴き出した。

「ぶっふううううううっ!!! ププ、プロ、プロポーズ!!?」
「だから子供の時の話だってば。何、焦ってんのよアンタは?」
「い、いや焦ってねーけど!」

上条のこの反応に、もしかしてヤキモチでも焼いて、更には妬いてくれてるのかなと、
ちょっぴり嬉しくなる美琴。

「ゴホンッ! で、その…美琴は何て答えたんだ? そのプロポーズ」
「なに? 気になるの?」
「べ、べっつに~? そういう訳じゃないけど…ただ、どうなのかな~って思っただけです」

美琴はクスッと笑いながら言う。

「その『お兄ちゃんのお嫁さんになってあげる』って…ね。おままごとみたいなものよ」
「おままごとねぇ…じゃあ、たまたまその子がプロポーズみたいな事をしたから受けただけなんだな?」
「まぁ…そう、なのかな…? 誰でも良かったみたいで、何か嫌だけど…」
「あっ、じゃあさぁ―――」

上条は何の気なしに呟いた。

「俺がもしその男の子だったとしても、同じように答えたのかな?
 俺のお嫁さんになってくれるって」
「ぶっふううううううっ!!!」

今度は、美琴が盛大に噴き出した。

「ばばばば馬鹿な事言わないでよっ!!! アア、ア、アンタとなんて有り得ないからっ!!!
 あ、あ、あの男の子はアンタと違ってず~~~っとカッコ良かったしっ!!!」
「にゃ、にゃにおうっ!? まるで上条さんがカッコよくないみたいじゃないですかヤダー!」

ぎゃあぎゃあと、いつものように騒ぎ出す二人。
いつもの日常、いつもの風景。いつもの二人の姿。



美琴は気付いていないけれど、あの時の初恋は今もまだ―――










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