とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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行列のできるたこ焼き屋




一端覧祭。
学園都市で毎年11月に行われる、学園都市内の全ての学校が参加する世界最大級の文化祭である。
『学園都市の科学や超能力を当たり前に受け入れている学生達さえ驚くような』何かを提供する、
という原則【ムチャぶり】が掲げらており、
しかも体験入学やオープンキャンパスの意味合いも兼ね備えている為、
文化祭と言えども学校側としては必死である。

が、それは長点上機学園や常盤台中学などのエリート校から、
中堅クラスの学校までに限った事であって、
上条の通う学校のような所謂底辺校は、あまり真面目に取り組んでいない。
校風は平々凡々、生徒の能力レベルも平均して並以下の学校など、
わざわざ体験入学感覚で訪れる者はいないからである。
実際、上条のクラスの出し物は、何の変哲も無い「たこ焼き屋」であった。
小さい学校の一クラスの出し物なので、屋台も小さく、従業員【クラスメイト】も二人しかいない。
なので一日にお客が20~30人も来れば御の字だろう…と上条は思っていた。

のはずだったのだが。

「な、何でこんなに忙しいんだよっ!?」
「うるさい! 口を動かす暇があるなら手を動かしなさいよ上条当麻!」

屋台の前には行列ができ、上条と吹寄の二人は慌ただしくタコが入った小麦粉を丸く焼いていた。

「つか繁盛しすぎだろ! しかも何で女性客ばっかなんだ!?」
「何度も言わせるな! 口を閉じろ! そして焼け!」

吹寄は、若干イライラしながら上条の問いに返事をする。
確かに、たこ焼きと言うのはどちらかと言えば男性客のイメージがあるが、
目の前の行列は、九割九分九厘が女性客であった。
その理由が分かるからこそ、吹寄は益々イラつくのである。

恐らく…と言うよりも確実に、お目当ては上条なのだろう。
要するに、ここに並んでいる人のほとんどは、上条にフラグを立てられた人物達なのであった。
上条の手作りのたこ焼きが食べられると、評判になっているらしい。
だがそのせいで吹寄【じぶん】が作った物はハズレ扱いされてしまい、
口には出されないが、受け取ったお客の顔は明らかに不満そうであった。
しかし売り上げが伸びるのは上条のおかげなのも事実であり、文句を言えないのが現状だ。
それでも、一端覧祭が大覇星祭と違って内部向けのイベントなのが、不幸中の幸いとなったようだ。
吹寄は知る由も無いが、そうでなければ外部から一万人弱の美琴そっくりの客が押し寄せてきたり、
二重まぶたが印象的な隠れ巨乳の女性が「全部ください!」とか無茶な大量発注をした事だろう。

吹寄はチラリと時計を見る。そろそろ11時を回る頃だ。と、同時に、

「おーっす、交代に来たぜい。吹寄、休憩入れよ」

と土御門が屋台の外から声をかけてきた。

「丁度いいタイミングね。見ての通り混雑してるから、気をつけなさいよ」
「あ~…こりゃ青ピが見たら狂喜乱舞だにゃー」

狭い空間で入れ替わる吹寄と土御門。
隣で千枚通しを使ってたこ焼きをクルクルと回している上条は、
二人の様子を横目で見ながら自信なさそうに抗議する。

「…あ、あの~……上条さんの休憩はないのでせうか…?」

すると吹寄がギロリと上条を睨みつける。

「準備期間中バックレ続けたのは貴様じゃなかったかしらっ!?
 そんな奴に休憩時間が用意されてると思っているの!?」
「…ですよねー……」

思っていた通りの反応に、上条は縮こまる。
ハワイやバゲージシティで魔術組織・グレムリンとドンパチしたり、
昨日もフロイライン=クロイトゥーネを巡る争いに巻き込まれていたりと、
一応は正当な理由【サボったわけ】が無きにしも非ずなのだが、それを口にする事は出来ず、
泣き寝入りするしかない上条。不幸である。


 ◇


吹寄と土御門が交代してすぐの事だ。ある客が訪れてきた。
その者は名門・常盤台中学の制服を着て、興味なさそうな『フリ』をしながらも、
ゲコ太型のサイフを握り締めて行列の先頭に立っている。

「あれ? 御坂じゃん。お前も来たのか」

上条が鉄板に油を引きながら話しかける。美琴を目を逸らしながら答えた。

「ま、まぁね! ちょ、ちょろ~っとヒマだったし、冷やかしに来てあげようかな~って」

冷やかしに来る為だけに、長い行列で順番待ちなどするだろうか。
しかも美琴は常盤台が誇る二人のレベル5の内の一人だ。
一端覧祭という大イベントの中で、ちょろっとでもヒマが出来るとは思えない。
しかしそこまで考えが及ばない上条は、

「へいへい。そりゃ、ありがとうごぜぇますですよ」

と嘆息する。そんな上条に土御門も嘆息する。

と、その直後だ。土御門はある事を閃いた。
売り上げは見ての通り繁盛しているが、ここで更に売り上げを伸ばす方法を。

土御門と美琴はほぼ初対面に近いが、土御門が暗部に身を置いていた事や義妹・舞夏からの情報で、
御坂美琴という人物がどんな性格をしているかを知っている。
美琴が注文しようとしたその瞬間に、土御門は口を挟んできた。

「じゃ、じゃあたこ焼―――」
「っと、そうだったぜい! 今から特別メニューのお知らせがある事を忘れていたにゃー」
「「……へ? 特別メニュー?」」

聞き返したのは美琴…だけでなく、上条も同時だった。
上条サイドからしても寝耳に水な状態である。

「お、おい土御門。俺、そんなん聞いてねーぞ」
「カミやんはほら、準備期間中にいなかったからにゃー。
 実はこの前、ホームルームで決まったんだぜい」

土御門お得意の「嘘」だ。この『特別メニュー』は、たった今、土御門が思いついたモノである。
土御門はコホンと咳払いすると、後ろの客にも聞こえるように大声で宣伝した。

「えー、今からプラス100円追加でカミやんが『あーん』で食べさせてくれるぜーい!!!
 しかも『フーフー』して冷ましてくれるオマケ付きだにゃー!!!」

一瞬の静寂。
上条が呆れて「あのな、そんなもん誰が喜ぶんだよ」と苦言を呈そうとしたその時、
「「「「「きゃーっ!!!!!」」」」」という黄色い歓声が巻き起こった。

「え? え? 何これ!?」
「さぁ? 何かにゃー♪」

何がなんだか分からない上条は目を丸くし、土御門は想像通りの客の反応にニヤリとする。

「つか勝手にそんな事していいのかよ!?」
「カミやん、いい言葉を教えてやるぜい。…『バレなきゃ犯罪じゃないんですよ』」
「いやバレるだろ! 売り上げと利益が違ったら!」
「あ、そこはピンハネするから平気だにゃー」
「全っ然平気じゃないんですけどっ!!?」

土御門の思いつきなので、当然ながら正規の手続きを踏んだサービスではない。
どうやら土御門は、プラス100円分を自分の懐に入れるつもりらしい。
大方、義妹とデートする際の軍資金の足しにでもする気なのだろう。

と、そんな店員同士【かみじょうとつちみかど】の言い争いを聞きながら、
行列の先頭に立つ客【みこと】は固まっていた。

(え、えええぇぇぇっ!!? コ、コココ、コイツに『あーん』とか『フーフー』とか!
 してもらっちゃうとか! そそそそんな事、人前で出来な……って、いやいやいや!
 そそ、そもそも人前だろうとなかろうと、この馬鹿とそんな事したくないし!
 ひゃ、百円ドブに捨てるようなもんだし!)

と心の中では思いつつも、百円玉を探す美琴。
そんな美琴の心理を読み取ったのか、土御門が小声で話しかけた。

「あー、お客さん?
 ここだけの話オレが交代したらこのサービスも終了するから、チャンスは今だけだぜい。
 今から最後尾に並んで、もう一度店先に来ても、その頃には交代してるからにゃー」
「ふぇあっ!!?」

自分の本心を見透かされているかのような台詞に、思わず飛び上がりそうになる美琴。
だがその手にはしっかりと、350円(たこ焼き代250円+『謎』の100円)が握られている。


「さ~、お客さん。早く決めてもらわないと、後ろのお客さんにも迷惑だぜい」
「~~~っ! し、ししし仕方ないわねっ!!! う、うう、売り上げに貢献する為に、
 そ、そ、そのサービスとやらを追加してあげるわよっ!!!
 わわ、私としては別にいらないんだけどねっ!!?」
「毎度ありだにゃー♪」
「えっ!!? マジで!?」

上条としては、こんなサービス誰も頼まないだろうと思っていただけにビックリである。
ましてや、その第一号が他ならぬ美琴なので尚更だ。

色々とツッコミたい所であるが、しかしここで下手に断ると逆に面倒になりそうだ。
なるべく早くこの客【みこと】をさばかなければならない。まだまだ後ろは長蛇の列なのだから。
上条は「御坂ってそんなに猫舌なのか」と自分を納得させ、出来立てのたこ焼きに楊枝を刺す。
そしてそのまま自分の口元に持っていき、

「ふ~! ふ~!」

と息を吹きかけた。

「っ!!!」

自分で注文したとはいえ、その光景は顔を真っ赤に染め上げるには充分であった。
美琴は顔から煙を出して、正に焼きだこのように赤面していた。
そしてそのまま。

「ほら御坂。口を大きく開けて。…フーフーしたけど、また熱いから気をつけろよ?」

上条は楊枝に刺したたこ焼きを、美琴の口元まで持っていく。

「ちょ、ちょちょ、待って! こ…心の準備がまだ…だから……」
「お客さ~ん…後がつかえてるんだけどにゃー」
「っ! わ、分かったわよ!」

美琴は土御門に急かされ、後ろを振り向く。
先程よりも更に行列が延びているので、慌てて意を決さざるを得ず、
心の準備とやらが出来ていないにも関わらず、上条に言われた通りに口を大きく開ける。
心臓とかもうバックバクである。

上条も上条で「何でこんな事になってんだ…?」という疑問が頭を過ぎるが、
ツッコんだら負けかな、の精神で流れに身を任せる。

「はい、あーんして?」
「…あ………あー…ん……………あむっ…」

美琴の口の中に、熱々のたこ焼きが入ってくる。
素人の手作りながら、外はカリッと中はふわっと出来上がっており、
噛むほどに旨味がジュワっと溢れ出してくる。
ソースとマヨネーズが口の中で絡み合い、後から青ノリとカツオ節と紅生姜の風味が―――
なんてグルメ漫画的表現が出来る程の心の余裕は無い。
と言うか今の美琴には、味わって食べるなんて高等な技術は、できはしないのだ。

「美味いか?」
「……………」

上条の問いに、美琴は返事をする代わりにコクンと頷く。
先程説明した通り味なんて分かりゃしないが、それを言う訳にはいかない。
言ったら『味がしない理由』も伝えなければならないからである。

「はーい、サービス終了だぜい。次のお客さんどうぞー」

行列が続く以上、一舟八個入りのたこ焼きを全部を食べさせる訳にはいかないので、
一個だけ食べさせてもらった美琴は、残りの七個のたこ焼きが入った舟皿を手渡されて、
そのまま横にずらさせる。

が、次の瞬間。

「あっ! 御坂、口の横にソースついてんぞ」
「………にゃ?」

上条が何気なく美琴の顔についていたソースを指で掬い取り、そのまま自分でペロッと舐めた。
そして何事も無かったかのように、作業と続ける【たこやきをやく】。その結果、

「なななななアアアアンタなな何してくれちゃってくれてんのよっ!!!!?」

美琴の脳内処理能力が限界を超えた為、とうとう顔を爆発させてしまったのだった。


 ◇


その後、上条と土御門がどうなったかと言うと、

「全くもう! 上条ちゃんも土御門ちゃんも後で反省文を書いてもらいますからねっ!」

小萌先生に怒られていた。
小萌先生は二人の様子を見にやって来たのだが、タイミングが良いのか悪いのか、
美琴が顔面爆発をした直後であった。
そこで不自然なまでにザワザワとしたお客さん達に話を聞いた所、
土御門の不正が発覚したのだ。上条はその巻き添えである。

結局、上条からのサービスを受けられたのは、幸か不幸か美琴一人だけとなったのだった。










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