とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある第二の巨乳御手




「幻想御手」、「不在金属」、「軍用クローン」、「虚数学区・五行機関」…
外界から半隔離された学園都市という特異な空間において、
このような超能力に関する都市伝説は数多く存在する。
その中の一つに『巨乳御手【バストアッパー】』なる物が存在する事を、皆さんはご存知だろうか。
簡単に言えばそれは、多くの人間(女性・男性どちらも)の夢と希望である、
『女の子のおっぱいを簡単に大きくしてくれる』を実現させてくれるという、ありがたい代物だ。
しかしこの手の都市伝説は基本的にマユツバで、そこには「ウソかホントかわからない」や、
「信じるか信じないかはあなた次第」というワードが纏わり付く。
現に、都市伝説マイスターを自称で自性…ある意味で自傷する佐天を以ってしても、
その詳細は分からなかった。

吹寄や固法などの「高校生にしては規格外」なバストの持ち主が愛飲しているという、
『ムサシノ牛乳』に何らかの効果があるのではないか、との声も上がってはきているが、
同牛乳と巨乳御手の因果関係は、未だ不明のままである。
しかしだ。ここに来て「ムサシノ牛乳」以外の方法でも胸が大きくなるのではないかという、
新たなる説が浮上してきたのだ。その方法とは―――


 ◇


美琴はその裸体にバスタオル一枚だけ覆い、緊張の面持ちで『ソレ』と対峙していた。
額から冷や汗がポタリと滴り、カラカラに乾いた喉に無理やり生唾を流し込んだ。
汗をかいているのも喉が渇いているのも、風呂上りだから…という理由だけではなさそうだ。

しばらくその状態で固まっていた美琴だが、やがて意を決したようにカッと目を見開く。
そしてそのまま、ゆっくりと『ソレ』に片足を乗せる。
「ピピピ…」と『ソレ』が鳴き出した。
思わず顔を背けたくなる美琴だが、ここで逃げ出す訳にはいかない。彼女にも意地があるのだ。
己の中の恐怖心を振り払うように「よしっ!」と気合を入れ、美琴はもう片方の足も『ソレ』に乗せた。
『ソレ』…つまりは『体重計』に、である。

「ピピピ………ピー」と体重計は鳴き止んだ。
美琴はそーっと下を向き、そこに表示されている自分の体重を薄目で見つめる。

「や…やっぱり……『増えて』るうううううぅぅぅぅ!!!」

直後、美琴はへたり込んで絶叫した。

「どどどどどうなさいましたのお姉様っ!?」

美琴の絶叫を聞いた白井は、空間移動を使って瞬時に脱衣所へと駆けつけたが、
美琴が浴室に入る前に脱衣カゴに置いて(明日クリーニングに出そうと思っていた)おいた、
脱ぎたてホヤホヤの下着を頭から被っていたので、
とりあえずその白井【へんたい】は電撃で撃退した。


「ギャババババババッ!!? …ひ、酷いですの……わたくしはただ、お姉様の事が心配で……」
「ううう、うっさい! 心配してる人間が人のパンツなんか被るかっ!」
「これはただ、お姉様の汗やらナニやらの香りを愛でながら【クンカクンカしながら】、健康かどうかチェックをしてい
 いやあのすみませんお姉様ですからそれを床に置いてくださいまし」

美琴の手にはヘアピンが握られており、そのまま超電磁砲を撃つ準備をしていた。
白井は慌てて被っていた下着を脱ぎ捨てる。
ちなみに美琴がいつものゲームセンターのメダルコインではなく、
ヘアピンを弾丸代わりに構えていたのは、脱衣所【ここ】にコインを置いていないからである。
加えていつもは制服のポケットにコインを忍ばせているのだが、
今はバスタオル一枚しか身に纏っていないからだ。

「それで…どうなさいましたの? お姉様があんなに大声を出されるだなんて……
 ハッ! まま、まさか…まさか『G』が出ましたのっ!?」

ここで言う『G』とは、雲川鞠亜が姉の芹亜に言う「Gめ!」の意味ではなく、
カサカサ動いたり飛んだりする、あの『G』である。
奴が現れただけでも一大事なのに、美琴が叫んだように『増えて』いたりしたら、
常盤台中学女子寮始まって以来の大事件になる事だろう。

だが勿論、『増えて』いたのは「G」ではない。「g」ではあるが。
美琴は慌てて体重計から飛び降り、ぎこちない笑顔を作る。

「あ、ああ、な、な、何でもないのよ!? きき、きに、気にしないで!」
「……………」

美琴の様子から瞬時に『何でもなくない』事を見抜いた白井だったが、
目の前の体重計を見て全てを察した。

「そうですの。ではわたくしは部屋に戻りますので」
「う、うん。そ、そうね。私はまだ、髪とか乾かしてないから」

察したからこそ、何もツッコまずに知らないフリをする白井。
同じ女性として、その悩みは痛いほど分かる。
と言うか、全ての女性(特に日本人女性)の共通の悩みなのである。

そう。美琴はふt…もとい、体重が増えていたのだ。
中学二年生である彼女は成長期真っ只中。身長が伸びれば体重も増えるのは自明の理だ。
しかしながら美琴の身長は161㎝をキープしており、縦は変わっていない。
縦が変わっていないのならば、その質量はどこへと行ったのか―――
…なんて、そんな残酷な事が言える訳がないだろう。

美琴は白井がいなくなった脱衣所で、一人膝を抱えていた。

(ううぅ…確かに最近、服とかキツくなってきてたのよね……
 でも初春さんとか佐天さんが、美味しいクレープ屋さんとかいっぱい知ってるからつい…)

己の自己管理の甘さを、親友達【ういはるとさてん】のせいにする美琴。
甘い者は別腹とはよく聞くが、無情にも人間の胃袋は一つだけなのだ。
もっとも二つあろうが三つあろうが、消化吸収してしまえばどの道脂肪に変わってしまうのだが。

美琴は深い溜息を吐き、ある決意を固める。

(………明日からダイエットしよう…)


 ◇


翌日。朝6時という早朝にもかかわらず、
美琴は校則違反のジャージ姿(常盤台中学では、外出時は制服着用が義務付けられている)で、
第七学区の街をひたすら走っていた。
冬の朝は激しく寒いが、走っている内に温まり、
何より自分の能力で体の周りを発電させ、その放電熱で暖を取りながら走っていたので、
体はポカポカ…どころか少し熱いくらいになっていた。
熱いあまり、上のジャージのファスナーを引き下げて、中のTシャツが丸見えになる程に。
少々お嬢様らしからぬ、けしからん状態である事は美琴も自覚しているが、
早朝で誰もいない時間帯なので、開き直って堂々としている。
これが中途半端な深夜だったら、夜遊び中のスキルアウトに話しかけられて、
面倒な事になっていたかも知れないが。

と、急に美琴の足がピタッと止まった。
どうやら少し休憩する…という訳でもなさそうだ。何故なら美琴の目の前には…

(…しまった……『いつものクセ』でアイツの学校まで来ちゃったわ……)

そこには上条の高校の校門があった。
美琴は普段から、学校の帰りに上条と『偶然』出会う事が多い。
誰が何と言おうと、美琴本人が『偶然』だと言い張っているのだから、そういう事にしておいてほしい。
そしてその『偶然』のクセが抜けておらず、美琴は歩き慣れたこの道を、
無意識にジョギングコースにしてしまっていたようだ。

少し迷ったが、流石の上条でもこんな時間に学校にいる訳もないので、
そのまま美琴は回れ右を

「…あのー、美琴センセー?
 あなたは俺の学校の校門前【こんなところ】で、一体何をなさっているのでせう?」
「にゃあああああああああああっっっ!!!!!」

しようとした瞬間、背後から上条に声を掛けられて絶叫する。

「なななな何でアンタこんな早くから登校してんのよっ!!?」

それを言うなら美琴こそ…ではあるが、
とりあえず上条はその疑問を置いといて、自分の事を話す。

「いやさぁ…実はいよいよ放課後の補習だけじゃあ追いつかなくなっちゃいまして…
 今から補習を受けなきゃならんのですわ……
 朝練ならぬ朝補ですよ………ははは…不幸だー……」

なるほど、一発で納得する理由である。納得できてしまう事が悲しいくらいに。

「で、美琴の方は?」
「えっ!!? わ…私…は、その………」

言えない。
『ダイエットする為にジョギングしていたら、無意識にアンタの学校に向かってた』などと。
とっさに言い訳が出てこなかった美琴が選択した行動は、

「ぐ……『偶然』だからっ!」

伝家の宝刀、『偶然』なのだった。
だが自分でもこれはあまりにも苦しいと自覚しているようで、上条から色々とツッコまれる前に、
美琴はその場から脱出しよう【にげだそう】とする。
上条が何か言い出す前に、美琴は再び走り出したのだ。
しかしそれがマズかった。慌てて走り出したせいで足がもつれ、
更に足元に落ちていた小石にも躓き、美琴は転びそうになったのだ。

「うわっ!?」
「危ねっ!」

だがそんな時こそフラグメイ化する上条さん。
すぐさま美琴を抱きかかえて、美琴が転倒するのを防いだのである。
『いつもの事』ながら、美琴は顔を真っ赤にさせる。

「あ……あああ、あり…ありが―――」

赤面しながらも「ありがとう」と言おうとする美琴。
しかしそんな時こそフラグブレイ化するバ上条。
せっかくの美琴からの「ありがとう」をキャンセルして、凍りつくような一言を残す。

「……あれ? 美琴、ちょっと重くなった?」

「ビキッ!」と音を立てて、美琴の中の何かにヒビが入る。
例え美琴がダイエット中でなくても、
その言葉は女性に言ってはいけないワードのワースト5内にランクインするだろう。


美琴は頭から大量の電撃を撒き散らして叫んだ。

「ああ、そうよ! 太ったのよ! 悪い!?
 だからダイエットしてんじゃないのよ! こんな朝っぱらから走ってんじゃないのよ!
 笑えばいいじゃない! そんな私を笑って馬鹿にすればいいじゃないのよ!
 うわぁぁぁぁあああああん!!!!!」
「えええええっ!!? ちょ、み、美琴さん!? おち、落ち着いて!!!」

泣き出すわ電撃ぶっ放してくるわで、収拾がつかなくなる美琴。
上条は右手で電撃を打ち消しながら、慌てて弁解する。

「ち、違ぇーって! 太ったなんて言ってねーよ! つか、まずは落ち着こう!? な!?」
「言い訳なんか聞きたくないもん! うわああああぁぁぁぁん!!!!!」
「だから違うって! ああ、もう胸だよ胸! 太ったんじゃなくて、胸がデカくなってんだよ!」
「わああぁぁ……あ? ………………………ムネ?」

上条の口から飛び出した意外すぎる言葉に、美琴はキョトンとして泣き止んだ。
ついでに放電の方も止まった。

「はぁ…自分じゃ気付いてなかったのかよ。その…なんだ。
 だから体重が増えたのは脂肪が増えたからじゃなくて……いや、脂肪には変わりないんだけど、
 とにかく美琴の『ソレ』が大きくなったからではないですかね?」

『ソレ』と言いながら、上条は美琴の胸元を指差す。
上のジャージのファスナーを引き下げて、中のTシャツが丸見えになっていたおかげで、
そこには汗で濡れてブラがうっすらと見えている、二つの小山がそびえていた。
確かに言われてみれば、服がキツくなってきた割には、ウエストは特に変化がない。
となれば上条の言ったように、胸が大きくなってきたと考える方が自然である。

今まで自分の慎ましい胸がコンプレックスだった美琴なだけに、
例え見た目では分からないくらいだったとしても、それは本人としてはとても喜ばしい事だ。
これは周りの人間にとっては小さな一歩【へんか】だが、美琴にとっては偉大な飛躍である。
しかしながら、今はそれを手放しで喜んでいる余裕は無い。何故なら、

「アアアアンタねぇっ! なに変なとこジロジロ見てんのよ!
 し…ししし、しかも! 何で私のバストサイズ知っとんじゃゴルァァァ!!!」
「えー!? 親切に教えてあげたのに、何で上条さんが怒られんの!?」

という訳だから。今日は朝から大騒ぎしてしまった二人である。
ちなみに、この騒ぎのせいで上条は朝の補習に遅れてしまい、
教室では一人で待ち続けていた小萌先生が涙ぐんでいたのだった。


 ◇


食蜂という少女がいる。
彼女もまた中学生とは思えない程のバストサイズを持っているが、
実は彼女、一年前は今の美琴とどっこいどっこいであった。
ならば何故、彼女の胸が大きくなれたのだろうか。

食蜂は一年前、『ある少年』と出会った。
たわいのない会話をして、たわいのない事で言い争って、たわいのない事で笑い合った。
その、『ツンツン頭の少年』と共に。

さて、話を冒頭に戻すが、「ムサシノ牛乳」以外の方法でも胸が大きくなるという、
新たなる説の事を覚えているだろうか。
ムサシノ牛乳説を、飛ぶ鳥を落とす勢いで急浮上してきた新たなる説。
それは、『 ツ ン ツ ン 頭 の 少 年 と 仲 良 く な る 説 』である。
そう、今まさに美琴が行っている事その物なのだ。
ムサシノ牛乳説同様、科学的な根拠は何も無い。
何も無いが、「ツンツン頭の人と仲良くなると胸が大きくなる」という新たな都市伝説は、
胸の事でお悩みの女性を中心に、ジワジワと広まっていく事になるのだった。

とは言っても、結果的にその恩恵にあずかったのは美琴だけだったようだが。



それはそれとして、いつもお姉様の事を見ている白井や、
美琴本人ですら気付けなかった胸の変化に、何故上条一人だけが気付いたのかは、
まぁ…お察しである。











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