とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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妄想バレンタインデート




~現実はチョコのように甘くない~



自分だけの現実【パーソナルリアリティ】とは、
現実の常識とはズレた世界を観測し、ミクロな世界を操る能力の事である。
超能力の土台となる力だが、詳しい説明をすると長くなるので原作を読むかググってほしい。
とにかく、その力は能力者の妄想や信じる力に左右する所が大きく、
乱暴な言い方をすれば、高レベルな能力者ほど思い込みや妄想が激しい、という事だ。

そんな訳でレベル5の第三位たる御坂美琴は、目の前のチョコレートを湯煎で煮詰めながら、
完成したチョコを渡した時の状況を妄想【シミュレーション】しているのだった。
そう。本日2月14日はバレンタインデー。現在時刻は0時を回った所だ。
今から十数時間後、美琴はこのチョコレートを渡す予定がある。
そこで失敗しないように、念入りにイメージトレーニングをして。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

[注意] 以下、美琴の妄想内での出来事の為、
     多少本人に都合のいい展開となっているので、ご了承いただきたい。


美琴は固まったチョコレートを綺麗にラッピングして、そのまま学校を飛び出した。
一刻も早く相手に渡したい為、一日中カバンの中にチョコの箱をしまっておいて、
寮へと帰らずにそのまま『あの馬鹿』の下へと走り出したのだ。
ちなみに学校でも、「頑張ってくださいね御坂さん! 応援しておりますわ!」と婚后から。
「わたくし…諦めましたの。お姉様とあの殿方は、誰がどう見てもお似合いですから…」と白井から。
「仕方力がないわよねぇ…あの人には御坂さんが相応しいと思うしぃ。
 私なんて、乳袋力が高いだけの金髪雌豚運痴野郎ですものねぇ」と食蜂から、
それぞれエールが送られた。ここで逃げては女がすたるというものだ。

美琴が走った先には、毎度の事ながら偶然にも『あの馬鹿』がそこに立っていた。
いつもこうやって出会ってしまうのは、きっと『あの馬鹿』と結ばれる運命だからに違いない。

「よっ、美琴! 前髪ちょっと切ったんだな。うん、可愛い可愛い」

いつものように『あの馬鹿』は自分をスルーせず、
しかも今日の日の為にちょっとだけしたオシャレにも気付いてくれる。
美琴はほんのりと照れながら、『あの馬鹿』に笑顔で返した。
すると『あの馬鹿』は、顔をボッと赤くしてこう言うのだ。

「お、お前の笑顔は反則だぞ……ったく…」

恥ずかしそうに目を逸らす『あの馬鹿』に、美琴はくすくすと笑い、
そのままカバンから箱を取り出す。
それは勿論、『あの馬鹿』の為に自分が手作りしたチョコレートと、
たっぷりの愛情が込めらている箱だ。
『あの馬鹿』は一瞬だけ驚いたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「ありがとな! もう、美琴から貰えなかったらどうしようとか考えてたよ。
 おかげで今日一日、気持ちがフワフワしっぱなしでしたよ」

だが美琴は、他の女の子からたくさんチョコを貰ったのではないか、
と『あの馬鹿』に問いかける。すると。


「はぁ…あのなぁ。俺が美琴以外の子からチョコを受け取ると思うか?
 美琴からの本命だけで充分なのっ!」

その答えに、美琴は心臓が飛び上がりそうになるくらいドキリとする。
何故このチョコが本命なのだと分かったのか、
『あの馬鹿』は、いつから自分の気持ちに気付いていたのかと。

「……俺だってそこまで鈍感じゃありませんですことよ?
 好きな女の子の気持ちくらい察せますよ、そりゃ」

再び『あの馬鹿』からのサプライズである。
その言葉の意味はすなわち、『あの馬鹿』も自分の事を……

「ああ、そうですよ! 俺だってその…み…美琴の事が大好きですよ!
 だから美琴が俺の事を好きなのかもって気付いた時は、もの凄く嬉しかったよ。
 でも確信がなかったから怖くて言えなかった。今日このチョコを貰うまではな」

つまり、今しがた自分が本命チョコを渡した事によって、両想いなのだと確信し、
『あの馬鹿』は告白に踏み切れたのだ。
どうしていいか分からずにアワアワしている美琴に対し、
『あの馬鹿』はさっそく箱を開けて、中のチョコを一欠けら口に含み、そして―――

「んっ…」

そしてそのまま口付けしたのだ。
口の中のチョコレートが、とろとろに溶けるほどの熱い口付けを。
気持ちがどこかへと飛んでいきそうになる自分に、『あの馬鹿』はこう唇を離しながらこう言った。

「…ハッピーバレンタイン。今日は世界一甘い日にしてあげるからな」

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



と、ここまでが美琴の妄想なのであるが、とりあえず一つ。
『あの馬鹿』さん、誰だお前!?
モデルはご存知、『あの馬鹿』こと上条当麻なのだが、キャラ崩壊が激しくてもはや別人である。
いくら妄想の中とはいえ、流石にやりすぎではないだろうか。
しかし美琴は自分の夢だか何だか分からない世界にどっぷりと浸かっており、
今も湯煎しているチョコレートをゴムベラでかき混ぜながら、

「やぁん、もう♡ そんな、私達まだ学生なんだから~!」

と謎の相槌を打ってクネクネしている。
寮の厨房で作っている為、美琴同様にチョコ作りをしている白井や寮監、その他大勢の寮生など、
多くの人に見られている事も忘れて。


 ◇


ちなみにだが、その数十時間後に実際はどうなったかと言えば。

「とととと友達にあげようと思ってた奴だけどその子が学校休んじゃったから特別にアンタにあげるわよでも勘違いしないでよね別に本命とか全然そんなんじゃないしただの義理だしむしろあげなくてもいいかって思ってたくらいだしでも捨てるのも勿体無いし自分で食べるのもアレだしどうしようか悩んでたらたまたまアンタが通りかかったからじゃあアンタにあげちゃえばいいかって―――(以下、長いので割愛)」

人間、何でもかんでもシミュレート通りにはいかないものである。
現実はチョコのように甘くはないのだから。


~チョコのように甘い現実~



上条は困惑していた。

本日がバレンタインデーである事は知っていたが、自分がモテないと自覚している彼は、
どうせ誰からもチョコを貰えないと思っていた。
事実、学校ではチョコを貰えなかったし、貰える気配すらなかった。
もっともそこには上条自身の不幸体質が発動したり、
上条に渡そうとしている女子同士で牽制し合っていたり、
青髪達【モテないやろうども】の妨害や暗躍など、裏で色々あったのだが、
そこに気付ける程に上条は敏感ではない。

なので帰り道も深ぁ~い溜息を吐きながら寮へと歩いていたのだが、
その途中、美琴が信じられない速さでこちらにダッシュしてきたのだ。
あまりの勢いに、右手を構えてしまう程だった。
そして上条の目の前で急停止した美琴は、
カバンから何か箱のような物を出して矢継ぎ早にこう言ったのだ。

「とととと友達にあげようと思ってた奴だけどその子が学校休んじゃったから特別にアンタにあげるわよでも勘違いしないでよね別に本命とか全然そんなんじゃないしただの義理だしむしろあげなくてもいいかって思ってたくらいだしでも捨てるのも勿体無いし自分で食べるのもアレだしどうしようか悩んでたらたまたまアンタが通りかかったからじゃあアンタにあげちゃえばいいかって―――(以下、長いので割愛)」

簡単に言えば、「チョコが一つ余ったから、義理として自分にくれる」という事らしい。
それが分かった時、上条の顔色は困惑から歓喜へと変わった。
義理だろうと何だろうと、女の子からのチョコは女の子からのチョコだ。
それを貰った数が、0と1では大きく違う。
上条は美琴の持っているチョコの箱…ではなく、
それを持っている美琴の手を握りながら、感謝の意を表した。握った手をブンブンと振りながら。

「うおおおおおお!!!? ありがとおぉぉぉ!
 いやー、マジで一つも貰えないと思ってたよ! ……ううぅ…何かもう、上条さん感動で涙が…」

一方で、思いっきり手を握られている美琴は。

「にゃあああああ!!!? て、ててて、手ぇ握……手ぇ握いいいぃぃぃぃ!!!」

と顔を真っ赤にして目も回して、テンパりまくっている。妄想の中ではもっと凄い事をしていたクセに。
しかし、美琴のそんな事に気付く様子もないくらいテンションが高くなっている上条は、

「あ、そうだ! ついでに食べさせてくれないか!?」

と調子に乗ってそんな提案をしてきたのだ。

「ふぇあっ!!? たたた食べ、食べさせ…って、
 ままままさかく、くく、くくく口移しでええええええ!!!?」

「食べさせる」という言葉に、十数時間前の妄想を思い出してしまう美琴である。
しかし上条は勿論そこまでしようとしていない。美琴の幻想はぶち殺されたのだ

「いやいやいや。いくら何でも上条さんはそこまで鬼畜ではありませんことよ?
 ミコっちゃんが指でつまんで、『あ~ん』してくれたらいいな~、って思いましてですね…」

予想の斜め上すぎる美琴の口移し発言【はんのう】に、若干冷静さを取り戻してしまう上条。
しかしテンパり度が最高潮である美琴は、もはや妄想の暴走が止まらない。

「つつつつつまんだチョコを私の指ごと食べてしかもそのまま私の指をペロペロちゅぱちゅぱして私が『それ以上はらめ変になっちゃうから』って言ってんのにアンタは執拗に舐り回して指から口を離してくれずにしかも『指だけじゃなくてこのまま美琴の全身をペロペロしてあげようか』とか言ってきちゃうフラグじゃないのよそんなのまだ心の準備が―――(以下、長いので割愛)」
「落ち着け美琴おおおお!!! 俺が悪かったから!
 俺が柄にもなく変な事言っちゃったのは悪かったから、とりあえず戻ってこい!
 あと、そんなフラグはないからね!?」

いつも以上にバグっている美琴に、上条も反省した。
やはり慣れない事はするもんじゃないと。例えテンションが上がっていてもだ。


 ◇


「ぜぃ、ぜぃ……まぁ、さっきまでの事はひとまず忘れようぜ…」
「はぁ、はぁ……そ、そうね。そうしましょう」

数分後、なんやかんやで落ち着きを取り戻した二人。
お互いキャラが崩壊する程に様子がおかしかったのは、
やはりバレンタインデーという特殊な環境がそうさせたのだろう。

しかしチョコをくれたのが美琴だけだった(少なくとも現時刻では)のは事実なので、
やはり何かお礼はしておきたい上条。
だが妙なテンションで「食べさせて」とか言ってしまったが、それはお礼ではないだろう。
正確に言えば美琴にとってはご褒美なのだが、上条がその事に気付ける訳もないし。なので。

「あ、ちょっとこの後、時間あるか? お礼に何か奢るよ。…あまり高い物は無理だけど」
「えっ!!? い、いやまぁ…行け、なくもないけど……その、私にも予定があるし…」
「そっか。まぁ、無理なら仕方がな―――」
「無理とか言ってないでしょっ!!?」

どっちなのか。
結局はOKだったらしく、この後二人はちょっとしたプチデートを楽しんだのだった。
そのデート中も、美琴はいつもの美琴らしく、上条に対して素直な態度は取れなかったのだが。

余談だが、最後に雑学を一つ。

みなさんは「ツンデレ」の語源を知っているだろうか。
「今まで『ツン』ツンした態度を取っていたが、ある時を境に『デレ』デレになってしまう」
もしくは、「本当は『デレ』デレしたいのに、つい『ツン』ツンした態度になってしまう」
そのどちらかだと思っている人が大半だと思われるが、実は本当の語源は別にある。
それは、「『ツン』ツン頭の少年と『デ』ートした時の『レ』ールガン」
その様子から「ツンデレ」という言葉が生まれたのだ。
つまり超電磁砲【レールガン】こと御坂美琴が、ツンデレの起源にして元祖なのだと言える。

民明書房刊『知って得する? あの言葉のウソホント』より。










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