とあるにゃんにゃのにゃーにゃにゃー
第七学区にある、とある高校の学生寮。
男子寮でありながら上条の部屋には2人の女性(+ペット一匹)が一緒に暮らしている訳だが、
本日は更にもう一人。常盤台のお嬢様、美琴が来客中だ。
美琴は上条の目の前で、ネコミミ&ネコしっぽを生やして恥ずかしそうに正座している。
「いや何でだよっ!!! 展開が唐突すぎるわ!」
思わずツッコむ上条である。
「わ、私だって分かんニャいわよ! 今朝起きたらこうニャってたんだもん!」
「何気に『な』を『ニャ』とか言ってるし!」
朝、目を覚ましたら突然こんな姿にニャっていたらしい。
そしてパニクった美琴は、なんやかんやで上条の寮まで駆け込んできてしまったのだ。
フードを被ってネコミミを隠し、下着の中にしっぽをしまい込んで。
その間つやつやもふもふのしっぽが美琴の敏感な部分をサワサワしてしまった為、
色々とビクンビクンしてしまったが、それは敢えて言う必要はないだろう。
ちなみにルームメイトである白井がネコミミモードな美琴の第一発見者なのだが、
そのあまりの可愛さに鼻血をリットル単位で垂れ流して、現在は失神中である。
大変危険な状態だが、ギャグ補正で死ぬ事はないだろう。
上条は軽く嘆息し、右腕の袖をまくる。
原因はサッパリだが、こんな物が物理現象である訳がない。
ならば幻想殺しの出番だ。それが異能の力なら、その右手は問答無用で打ち消すのだから。
「はーい、そげぶー」
上条は半ば投げやり気味に美琴の頭を触る。
すると読み通り、「パキィン」と音を立ててネコミミが消滅した…のだが。
「…あれ!? また生えてきた!」
消滅した直後、新たなネコミミがにょきっと再生する。
美琴がレベル6へと進化した(正確には未遂だったが)時と同じだ。
外から何かを注入され続けているようで、その場で打ち消しても解決にはならない。
力の元凶や核の部分をどうにかするしかないようだ。
「これは…学園都市の技術じゃないんだよ。ここは私の出番かも」
それまで静かだったインデックスが、突如口を開く。
「…? どういう事だよ」
「これは魔術による作用だね。今短髪は、ある種の呪いにかけられてるんだよ」
魔術関連の専門家の解説役 【インデックス】は、美琴にかけられた魔術について説明した。
「ペ~ラペラペラ、ペラペラペ~ラ、ペラペラペペラペ、ペラッペペラペラ、
ペラララペララ、ペペペペラ~ラ、ペランペペラペラ、ペラリンチョ
(お好きな宗教用語や猫に関する神話などを、ご自由にお入れください)…という訳なんだよ!」
「なるほど! サッパリ分からん!」
魔術に関しては素人に毛が生えた程度の上条には、
インデックスの丁寧な説明でも理解できなかった。
おかげで耳から脳を通るまでに、言語が全て「ペラペラ」に自動変換されてしまう程だ。
決して魔術とか術式とか考えるのが面倒だから適当な表現をしたとか、そんなのではない。
「おい、ちょっと待て! その前にコイツらを何とかしろ! と言うか私を助けろ!」
そんな中オティヌスからの、ひっ迫したような声が。
インデックスが説明している間も妙に黙っていると思ったら、
またスフィンクスからちょっかいを出されているらしい。
いつもの事なので上条も放っておこうとしたのだが、
「……ん? コイツ『ら』…?」
オティヌスが助けを呼んだ時、確かに「コイツらを何とかしろ」と言った。
何故複数形なのか。まさかスフィンクスが増殖した訳でもあるまいに。
原因は何とな~く察しが付くが、あまり考えないようにしながらオティヌスの方へと振り向いてみる。
「う゛う゛う゛う゛ぅ゛……ふみゃーっ!!!」
「ああっ!? ダ、ダメ…こんな事しちゃダメ、ニャのに……
あぁでも、やめられニャいとまらニャいいいいいいぃぃぃ!!!」
やはりと言うか何と言うか、美琴も一緒になってオティヌスに手を出していた。
しかもオティヌスにとっては厄介事が倍になっただけではない。
猫【スフィンクス】の体躯ですら扱いに困るのに、ましてや人間【みこと】の体躯だ。
正直シャレにならんし、下手したら命に関わる。
力は失っても魔神の端くれなので、その程度で死にはしないが、何か精神的に死ぬ気がする。
その上スフィンクスも美琴の事を「一つのオモチャを巡るライバル」だと認めたようで、
対抗心を燃やして、いつもより余計に力が入っている。
上条はその一部始終を見た上で、
「…で、インデックス。どうすれば治るんだ?」
改めてインデックスの方へと振り向く。見なかった事にしたいようだ。
「おい人間っ!!!」
オティヌスは目に涙を溜めながら上条に怒号する。
そして自力でスフィンクスも入れない場所【すきま】に体を滑り込ませた。
そのまま小さく舌打ちをして、インデックスに話しかける。
「おい、禁書目録。この人間がこんな様子では、元を断つのは無理だ。
我々だけで何とかするぞ」
「む…確かにとうまじゃ無理かもだけど、今の短髪と二人っきりにさせるのは無謀じゃないかな?」
「時間が惜しい。グズグズしていると、この娘の猫化が激しくなるが…それでもいいのか?」
「…っ! そ、それはマズイかも!」
何だか緊迫したご様子の二人。
二人の会話から、時間の経過と共に猫化とやらが進んでしまう魔術だという事は理解できた。
「……で、その猫化とやらが進むと一体どうなるので?」
と上条が素朴な疑問を投げかけると、インデックスとオティヌスは「ギロッ!」と上条を睨みつけた。
とりあえず、ろくな事にならないというのは伝わってきた。
睨み付けられて萎縮する上条を尻目に、インデックスとオティヌスの二人は急いで部屋を出る。
ネコ状態の美琴にちょっかいを出す可能性があるので、スフィンクスも連れて。
つまり残された上条は、ネコミミコトと二人でお留守番する事と相成ったのだった。
◇
上条はスフィンクス用に買ってあったオモチャ
(当のスフィンクスは、普段オモチャそっちのけにしてオティヌスで遊んでいるが)
を使い、美琴と遊んでいた。
「ほ~れほれミコっちゃん。ネコじゃらしですよ~」
「ア、アンタ私を馬鹿にしてんでしょ!? そんニャのに食いつく、訳、ニャいで、しょっ!」
と言いながらも、美琴はネコじゃらしを目で追いつつ手も動いているので、
猫化なる物が着々と進行しているのかも知れない。早めに何とかしなければ危ない―――
「ミコっちゃ~ん。ほらほら、ボール」
「ニャニャっ!!? だ、だからそんニャのに、興味とか……フニャー!」
―――危ないとは思えない程、ほのぼのとした空気である。
このままでも、誰かに見られたら社会的には危ないが。
「おー、よく取って来れたな~。偉いぞー美琴ー」
「うにゃ~ん、ゴロゴロ……って! く、くく首の周りを撫でる【ニャでる】ニャ~っ!」
本物の猫をあやすように、美琴の首を触ってゴロゴロ鳴らせる上条。
もはや楽しんでいるのか馬鹿にしているのか。美琴も猫の本能には抗えず、
普段の美琴ならば『やりたくてもできない』ような事を、体が勝手にやってしまう。
自分の意思とは関係なく体が動くのだから仕方が無い。
「ニャッ!!? こここ、こんニャ…格好……み、見ニャいで~~~っ!!!」
だから上条に対してお腹を見せる形で仰向けになったりするのも、
「ちちち、違うニャッ! これは…その……わ、私の体が…その……」
スリスリと顔を擦り付けてきたりするのも、
「ニャ~~~!!! ちちち近い近い近い近いっ!!!
何【ニャに】これドキドキするのに落ち着く何【ニャに】これっ!!?」
上条の膝の上に乗ってきたりするのも全部、仕方が無いからなのだ。
ちなみにいずれも、猫が飼い主に甘えたい時に取る行動である。
つまり美琴は何だかんだと文句を言いつつも、
本能の部分では上条に甘えたいと思っている…という訳なのだ。
知 っ て た け ど ね 。
(わー…ミコっちゃんおもしろ~い)
一方で上条は、普段ならば絶対にしないであろう美琴の姿と行動に、
ニヤニヤするやら、ほっこりするやら。ネコじゃらし片手に完全に遊んでいた。
しかしこの直後、上条には調子付いたツケが回ってくる事となる。
「ほ~れほれ。ちゃんと届くかな~?」
上条はネコじゃらしを持ったまま手を上げる。
対して美琴にも人としてのプライドがあるので、
「みにゃー! わ、私を…ネコ扱い…すんじゃニャいわよ!」
と抗議するが、しかし体は正直だ。高く掲げられたネコじゃらしに手を伸ばしてしまう。
そしてその時、事件が起きた。
………チュ…
「………へ?」
「………ニャ?」
美琴が手と一緒に上半身も伸ばした瞬間、微かにだがしかし確実に、唇が上条の頬を掠めたのである。
両者共に、顔が「かぁぁ…」と熱くなる。
「おおおおっ!!? いいい、今、今美琴、なな、何をしやがりましたですか!?」
珍しく上条がテンパりながら、美琴の唇が掠った箇所を手で押さえた。
上条ですらこの慌てようならば、この後の美琴の反応は大体こんな感じだろう。
「ちちちち違うわよっ!!? い、いい、今のはその……じ、事故! そう事故なのよ!
だ、だ、だから別に特別な意味とか全然そんなのはないのっ!!!
私がアンタに……キ…キキキキス! とかしちゃったとしても! ただのノーカンだからっ!」
…みたいな。
だが今日の美琴は普段とは違った。
猫化が進んでいるせいか、赤面したまま顔をポケ~ッとさせている。そしてそのまま、
「……みゃぅう~ん…♡」
何か妙に色っぽくて艶っぽくて官能的で肉感的な…簡単に言えば、エロい声で鳴き始めた。
先程の「ほっぺにチュウ」が、美琴の中の変なスイッチを入れてしまったらしい。
美琴は突然上条に覆い被さり、上条が逃げないようにガッチリと抱きついた【ロックした】。
「え、えええっ!!? み、美琴さんっ!?」
ほっぺちゅー → 発情期(?) → だいしゅきホールド
という3連コンボだけでも混乱してる【おなかいっぱいな】のに、上条には更なる試練が待ち受ける。
「ペロ…♡」
お察しの通り、そしてご期待の通りペロペロである。おそらく8割近くの方が望んだ展開だ。
毛繕いでもしてあげてる気なのか、『それ以上の意味』なのかはこの際置いておくとして、
その行為自体は完全にアウトである。
「うおおおおおおぉぉぉい美琴おおおおおっ!!!?」
「ちゅぴちゅぴ、レロォ…♡ ………みゃぉ~ん♡」
上条も大声を出して抵抗するが、抱き締められているので抜け出せない。
しかし辛うじて右手は動くので、
「お願いだから、正気に戻ってくださいっ!!!」
と半ば呪文を唱えるように、美琴の頭を触る。
「……はっ!!? あ、アレ? 私ニャにをして……?」
そう言いながら、美琴は目をパチパチさせる。幻想をぶち殺す事には成功したらしい。
例によってネコミミは消えた瞬間に再生したが、どうやら洗脳のような物は解けたようだ。
上条もホッとした……のは束の間だった。
「ちゅる…♡ えっ!!? ちゅぱちゅぱ♡ ニャ、ニャにこれっ!?
じゅるじゅる…♡ こん、ニャの…くちゅ♡ は、恥ずかしいニャ~~~っ!!!」
「みみみみこみこ美琴さんっ!!!? あっちょ、待!
そ、それ以上、上条さんの体をペロペロしちゃらめぇえええええええ!!!」
「だだ、だってっ! んっ、チロ…♡ 体が、言う事! ちゅぴちゅぴ♡
聞い、て、くれ……ぺちゃぺちゃ♡ ニャいん、ちゅるっ♡ だもんっ!」
再び美琴の舌が這い回りだしたのだ。
言葉を話す以上美琴としての意識はあるようだが、体が勝手に動いてしまうらしい。
双方、顔が熟れたトマトのように真っ赤になりながらも、「理性」と「本能」でせめぎ合う。
本能に身を任せてしまえば気が楽になり、『とても気持ちのいい事』にもなるのだが、
そこは倫理的にも社会的にも法的にもどうなのかと思うし、
大人の都合【エロスレじゃないというの】もあるので、二人は何とかして離れ―――
「「んむちゅうぅ……」」
―――離れようとはしたのだが、抵抗空しくそれは起こった。
美琴の舌は上条の口まで侵攻し、唇と唇を重ね合わせた状態でペロペロしてきた。
それが何を意味するのかはお分かりだろう。
◇
数十分後。
「とうま! 戻ったんだ…よ……?」
「人間! 無事…か……?」
猫化の魔術を発動させる術式を破壊して、事件を解決してきたインデックスとオティヌス。
二人が駆けつけるように部屋に入ると、
そこは毎度お馴染みの「ふにゃー」によって大災害となっていた。
そして黒焦げになった部屋の中央には、抱き合ったまま気絶している上条と美琴がそこにいた。
美琴のネコミミとネコしっぽは消滅していたが、それより何よりとんでもない事になりながら。
「……ねぇオティヌス…何だかとうまの体中に、よだれの跡みたいな物があるんだよ…」
「……あぁ…しかも唇の周りは、他の場所よりも一際多く跡が残っているな…」
上条さんの本当の不幸は、ここからだった。