とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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ラブコメディからラブストーリーへ




突然だが、ここに友達以上恋人未満(ただし限りなく恋人に近い位置にいる)な、
学生カップル予定の少年少女がいる。

少年の名は上条当麻。
鈍感な性格が災いし、今まで自分の気持ちにすら気付けなかった、不幸な少年である。
そんな性格なので、当然ながら相手の気持ちにも気付いていない。

少女の名は御坂美琴。
ツンデレな性格が災いし、中々素直に気持ちを伝えられない、もどかしい少女である。
それでも彼女なりに、今まで散々アプローチはしてきたつもりだ。
しかし相手の鈍感力はレベル6並みだった為、何度もスルーされてしまっていた。
故に彼女は、今現在の彼が自分に好意を寄せているなどとは夢にも思っていない。

つまり二人は、実は両想いでありながらそこに気付いていないという、両片想いな状態なのである。
そんな状態である為に、いつも通りの帰り道、いつも通り一緒に歩くだけなのだが、

「きょ、今日はその……い、いい天気だな~!」
「そ、そそそそうね! 洗濯物とかよく乾きそうな天気よね!」

会話がギクシャクしてしまっていた。
上条にとっては初恋な訳で、おかげで相手を変に意識してしまっているようだ。
確かに美琴と接している時は、何と言うか心が穏やかになったり心地良かったり、
かと思えばふいにドキドキしたり、でも一緒にいると楽しく思ったりしていたのだが、
それが恋なのだと自覚した瞬間から、美琴への接し方が分からなくなってしまったのだ。
それまで普通に会話できていたはずなのに、今ではその「普通」が思い出せない。
そのせいで上条は、美琴に妙に余所余所しい態度になってしまい、
美琴は美琴で、元から上条への気持ちを自分でもどうしていいか分からなかったのに、
ここへ来ての上条のこの態度だ。普段より緊張してしまうのも、無理からぬ話である。
おかげで会話も続かず、無駄に天気の話などしてしまう始末だ。
そのうち「し、しりとりでもしよっか!?」とか提案してきそうで怖い。

二人がお互いに顔も見ずに、真っ直ぐ前を向いたまま、無言で歩き続けて2~3分。
おそらく本人達的には、一時間くらいの体感時間だった事だろう。
突然、上条が口を開いた。

「な、何か喉渇いたな! ジュースでも飲むか!?」
「あ、う、うん! ちょうど自販機あるし!」

上条がジュースを飲もうと提案してきたのは、何も沈黙に耐え兼ねたからだけではない。
本当に喉が渇いていたのだ。どんだけ緊張していたというのか。
しかしここで上条の不幸体質が発動する。


「…あっ。そういや今日、財布を家に置きっぱなしだったんだ」
「…し、仕方ないわね。私が奢ってあげるわよ」
「それは悪いから! だから俺はいいよ。美琴だけ飲んでくれ」
「アンタも喉渇いてんでしょ!?
 そんな人の横で私だけジュースをゴクゴク飲んでたら、そっちの方が悪いじゃない!」
「いや、でも…」
「…はぁ。分かったわよ。じゃあ一本だけ買うから、半分ずつ飲みましょ。
 それならアンタの不要な罪悪感も、多少は晴れるでしょ?」
「じゃ、じゃあお言葉に甘え―――」

上条が「お言葉に甘えて」と言いかけた瞬間、彼はとんでもない事に気がついた。
何度も申し出を断ると逆に相手に失礼になる為、美琴の「半分ずつ」を承諾したのだが、
さて、ではどうやって「半分ずつ」にするのだろうか。
当然ながら、コップなど持ち合わせていない。となると一つの缶ジュースを回し飲みするしかない。
つまり間接的にキスする方法でしか、ジュースを「半分ずつ」飲むすべが無いのだ。

「ちょちょ、待て美琴っ!」

その事に気付いた上条は、慌てて美琴を止めようとする。
美琴との間接キスなど、今まで何度か経験してきただろうに。
だが時すでに遅し。美琴はもうジュースを買っており、しかも二口ほど飲んだ所で、

「ほら、アンタも飲みなさいよ」

と缶ジュースを上条に差し出している。どうやら美琴はまだ気付いていないらしい。

「い、いい、い、いいのかよっ!?」
「…? いいに決まってるじゃない。喉カラカラなんでしょ?」
「そ、そう…だけど……その、こ、これ…間接………」

上条が言いかけた事で、やっと美琴も気付いたようだ。
美琴は顔を「ボンッ!」と爆発させながら、精一杯の強がりを言う。

「べべべ、別に大した事でもないじゃらいっ!!!
 い、い、い、いみゃ時、そんにゃ事を気にする人がどこにいるってにょよっ!!!」

そんにゃ事を気にする人が、とりあえずここに二人いるのだが。

「そ、そそそそうだよな! き、気にするような事じゃないよな! あはははははー!」
「ああああ当たり前じゃない! ぜぜ、全然普通よこんなの! あはははははー!」

そんなコントをしつつ、上条は美琴から缶ジュースを受け取る。
そして一瞬のためらいの後、意を決してその缶の飲み口に口を付けた。
つい先ほど、美琴の唇が触れていたその飲み口に。

「ゴクッ! ゴクッ!」と上条も二口飲み、缶から口を離す。
そしてそのまま缶を美琴に渡し、

「……ん。次、美琴な…」

と顔を真っ赤にしながら言ってきた。美琴も顔を真っ赤にしながら、その缶を受け取った。
共に二口ずつ。缶の中には、まだまだジュースがなみなみと残っている。
もはや喉を潤すという当初の目的はどこへやら、何か変なゲーム【プレイ】が始まった。
ちなみに、何故わざわざ交互にやるのか、とか、無粋な質問はナシである。


 ◇


あれから更に数分。何度も何度も間接キスを繰り返し、
やっとの事で一本の缶ジュースを飲み干した二人が今どうなっているかと聞かれれば、

「……………」
「……………」

悪化していた。お互いに顔から煙を噴出させ、
上条は美琴と間逆の方向を、美琴は自分の足元を見ながら歩いている。
ジュースを飲み終わって冷静に考えてみたら、
その場のテンションでとんでもない事をやっていた事実に気付いてしまったのである。
ただの友人同士なら回し飲みでも、それが好きな相手だと唾液交換の儀式になってしまう。
二人はもはや、「会話をしなきゃ!」という使命感も忘れる程に、地に足が着かなくなっていた。
だがそこへ救世主が現れる。…いや、正確に言うならば救世『店』か。
歩きながら、二人はあるペットショップの前を通りかかる。
その時、美琴は思わず「…あっ」と声を出したのだ。会話の切っ掛けとしてはまずまずだ。

「ど、どうした?」
「…え? あ、うん。いや、ここのお店、前に婚后さん…って言ってもアンタは知らないか。
 常盤台の友達なんだけど、その人と一緒に来た事があるのよ」
「え…? でも美琴って電磁波が出てるから、犬とか猫とか怖がらせちゃうんじゃあ?」
「うん。だからその時は触れなかったの。
 ……ああぁ~、あの時のわんちゃん、可愛かったな~!」

言いながら、その時の事を思い出し、「にへら~」と笑みをこぼす美琴。
上条はしばらく何かを考え込み、かと思えば自分の携帯電話を取り出した。
どこかに電話をかけるのか…と思いきや、今現在の時刻を調べただけだった。

「……まだタイムセールまで、ちょっと時間があるな。
 よし! じゃあ今度こそ触らせてもらおうぜ? その『わんちゃん』をさ」
「……へっ!? 触らせてって…今アンタが言ったじゃない! 私には電磁波が―――」

美琴が言い終わるその前に、上条は右手を美琴の頭にポンと乗せた。
そのままニカッと笑い、一言。

「ほら、こうすりゃ電磁波も消えるだろ?」

あらやだイケメン。
上条のさり気ない優しさやら、やらしくないカッコ良さやら色々と直撃で食らった美琴は、

「…あ……はい…」

と顔を「ぽー…っ」とさせて完全に落ちてしまった。いや、最初から落ちてはいるのだが。
と、ここで上条は、何だかいつもの感じに戻れている事に気がついた。
美琴に恋をしている事自体に変わりはないが、先ほどまでのギクシャクした会話とは違い、
以前のように自然と会話できている。そのおかげか、心にも少々余裕ができていた。
美琴の頭に触れながら、こんな事を思える程に。

(しっかし、やっぱり可愛いよな美琴って。髪もすげーサラサラで…ってアレ?
 いつもと匂いが違うけど、シャンプーとか変えたのかな?
 つーか昔だったら髪の匂いが違うとか、絶対気付いてないだろうな、俺。
 ここ最近…って言うか、美琴の事が好きだって気付いてから、
 ずっと美琴の事、見てたもんなぁ……ヤバイな…ストーカー一歩手前じゃねーか…
 はぁ…美琴も、俺が『好きだ』とか言ったら、困るんだろうな~……
 好きな人とかいるのかな? いるとしたら、その相手が俺だったら…なんて都合良くは…
 ………ん?」

ふと見ると、目の前の美琴が口をパクパクさせたまま硬直している。
では何故か。それはついさっきの上条の独白にヒントが隠されている。
よ~く見てみよう。最初上条は、『 (しっかし、やっぱり 』と『 ( 』を使っている。
つまり心の声なのだ。少なくとも出だしの時点では。
それでは今度は、最後の部分を見てみよう。『 ……ん?」 』となっている。
そう『 」 』で終わっているのだ。だから何なのか、と言われれば、つまり分かりやすく言うと、

「……あ…あの………もしかして途中から、声に出してましたですか…?」

という事である。対して美琴からの返事はない。ただひたすらに固まっている。
だがだからこそ、上条の悪い予感が的中している事も意味している。

こうして上条の『告白』は、本人の全く意図していなかった所で伝えられてしまった。
ペットショップの中の店員さんや、その場を通り過ぎる街の人たちが、
全員心の中で盛大に舌打ちした、その瞬間にである。










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