超能力者フィギュア化計画
超能力者【レベル5】は学園都市の広告塔だ。
230万人の能力者の頂点に立つ7人は、学園都市の内部にも外部にもアピールするには打って付け…
という訳ではない。何故なら彼らは、人格破綻者の集まりだからである。
しかしやはり本音を言えば、学園都市としては彼らをメディアに推していきたい。
そこで考えられたのが、
『超能力者フィギュア化計画』である。
彼らは性格に難はあれど、少なくとも見てくれは美男美女ばかりだ。
なので学園都市の広告代理店【おえらいひとたち】は知恵を絞り、このフィギュア化という無謀な企画を発足したのだ。
まずはフィギュアとして売り出し、レベル5達のイメージアップを図ろうとしているのである。
しかし大覇星祭のデモンストレーションの時の事を思い出して欲しい。
そもそも彼らが、そんなお花畑みたいな企画を、すんなりと承諾してくれるだろうか。
答えは否である。だって彼らは人格破綻者なのだから。
では広告代理店の方達には申し訳ないが、彼らの断りっぷりを拝見させて頂こう。
Case ♯ 1
「例の企画、アンタは受けないじゃん?」
「当たり前だろ、くっだらねェ。あンなもン誰が―――」
「でもでもミサカは一方通行のフィギュア欲しかったかも、ってミサカはミサカはしょんぼりしてみる…」
「………チッ…」
第一位、承諾。
Case ♯ 2
「貴方は、フィギュアと、やらに、ならないのですか?」
「にゃあにゃあ! 私も大体欲しい!」
「……仕方ありませんね。お二人がそこまで仰るのならば、やってみましょう。
『本体の』私ならば絶対に引き受けない仕事でしょうが…まぁ、私は私ですし」
第二位、承諾。
Case ♯ 4
「麦野はあの依頼、超やる気ないみたいですね」
「だって自分のフィギュアとかキショク悪いでしょ」
「それは超残念ですね。浜面も超欲しがると思ったんですが」
「……そ、そう言えば最近お金に困ってたのよね。この際、背に腹は代えられないかしら?」
第四位、承諾
「……はまづら。ちょっと話があるんだけど」
「俺、何も言ってなくね!?」
Case ♯ 5
「女王は件のお話、どう思われますか?」
「興味力が無いわねぇ。キモオタ達のオモチャにされるのは、我慢力ができないしぃ」
「そうですか…わたくしとしては少々残念ではありますが、女王がそう仰るのなら―――」
「なぁなぁ。例のフィギュア、つっちーも買うんやろ?」
「当然だにゃー。特に第五位の体付きとか堪らんぜい。
興味なさげにしてたけど、多分カミやんも楽しみにしてるんじゃないかにゃー?」
「……やるわよぉ」
「―――女王がそう仰るのなら…って、ええぇっ!?」
第五位、承諾。
Case ♯ 6
「あ? いいんじゃねぇの? 勝手に作れやボケがっ!」
第六位…の仲介役の横須賀さん、承諾。
Case ♯ 7
「何だか全く分からんが、別に構わんぞ」
第七位、依頼内容を理解しないまま承諾。
Case ♯ 3
「はぁっ!? な、く、黒子っ!!! アンタ、勝手に何してくれちゃってる訳!?」
「ううぅ…申し訳ありませんですの、お姉様……
確かにお姉様の姿形を象ったご神体【フィギュア】を、
どこの馬の骨とも知らない者共がお買いになるというのは、わたくしも大変心苦しいのですが……
それでも…それでもこの黒子! お姉様のフィギュアが欲しいんですの~~~!!!」
「泣くなっ! てか、泣きたいのはこっちなんですけど!?」
「そしてお姉様のフィギュアとご一緒にお風呂に入ったり就寝したり、
舐めるように見つめたり時には本当にprprしたり……」
「止めれっ!!!」
第三位、ルームメイトが勝手に承諾。
意外すぎる事に、レベル5の全員が承諾してしまった。
この数週間後、『超能力者フィギュアシリーズ』は無事に発売され、
学園都市内部を中心に爆発的ヒットとなったのである。
ちなみに男性には第三位と第五位が、女性には第一位と第二位が特に売れているらしい。
◇
「で、これが噂のフィギュアですか…」
「はい♪」
上条は佐天に呼び出され、ファミレスに来ていた。
そして目の前には、テーブルの上に乗った小さい美琴がそこにいる。
オティヌスと同サイズ程度のその美琴は、当たり前だが本人ではない。フィギュアである。
どうやら例のフィギュア化計画によって作られた物らしいのだが、
しかし何と言うかこのフィギュア、美琴本人をそのまま縮小したかのように、
正に精巧に出来ている。しかし一つだけ大きな問題があるのだ。
「……ちょっとエロくね?」
テーブルの上の美琴は、膝を突いて上半身だけ立った格好となっているのだが、
着替え途中に覗き見されたように厳しい表情をしながらも、恥ずかしさで頬に赤みが差している。
しかも下半身を隠すように上着を前に引っ張っており、
そのせいでお尻のラインがハッキリと出てしまっているのだ。
もっとも『残念ながら』短パンを穿いていて、
『更に残念ながら』キャストオフ機能は搭載されていないのだが。
そんなエロフィギュアを、堂々とファミレスのテーブルに置く佐天さん。
やはり彼女は恐ろしい子である。
「それで、俺に『コレ』をどうしろと?」
呼び出された理由はまだ聞いてはいないが、どうせこのフィギュア絡みだろうと確信する上条。
というか流石の佐天と言えども、意味もなく美少女フィギュアを置いたりはしないだろう。
「はい! 実は『コレ』を、上条さんにプレゼントしようと思いまして♪」
「ああ、なるほ………って、はいいいいぃっ!!?」
上条は、思わずノリツッコミもどきをしてしまった。
「いや、あの…何故に!?」
「元々、上条さんに渡すつもりで購入した物ですから。
どうせ上条さん、本当は買いたいのに買ってないんでしょ?」
『本当は買いたいのに』という決め付けは、一体どこから出てきたのだろうか。
「じゃ! あたしはもう帰りますから、上条さんは御坂さんを『お好きにして』ください!」
「…えっ? あっ、おい! ホントに置いてくのか!? ちょ待……行っちまったよ…」
そのまま佐天は、嵐の様に去って行った。本当に『コレ』を渡す為だけに上条を呼び出したようだ。
残された上条は、ファミレスで美少女フィギュアと睨めっこする、
イタい上にアブない男となってしまったのである。
◇
美琴はどんよりとした空気を身に纏い、とぼとぼと歩いていた。
白井の勝手な行動で自分のフィギュアが出回ってしまっただけでなく、
その完成したフィギュアが、妙にエロかったのだ。
おそらく買った人は白井のように、一緒にお風呂に入ったり就寝したり、
舐めるように見つめたり時には本当にprprしたりしているのだろう。
おかげで周りがみんな、こちらを見ながら笑っている…ような気がする。
「はあああぁぁぁぁ……何かもう、どうでもいいや…」
しかし出回ってしまった物は美琴もどうしようもなく、
深い溜息を吐きながらも諦めの境地に到っている。
そんな中、ふと視界に見知った顔と「ツンツン頭」が目に入ってくる。
ファミレスのガラス越しに難しそうな顔をしているツンツン頭は、
『何か』と対峙しながら腕を組んでいた。
その瞬間、美琴は頭で考えるよりも早く体が動き、そのファミレスに駆け込んでいた。
このモヤモヤした感情を払拭する為には、『あの馬鹿』と話でもした方が良いと、
本能的に悟ったのだろう。
しかし美琴は、あまりにも慌てていた為に上条が『何』と対峙していたのかまでは見えなかった。
まさかそれが、今自分を苦しめている元凶なのだと、知る由も無く。
◇
「ちょろっと~?」
美琴はファミレスに入り、軽く上条に挨拶しながら近づいた。
美琴としては、上条が「よう美琴、お前も来てたのか。…あっ、何か頼むか?」とでも言いながら、
メニュー表をこちらに渡してくるものとばかり思っていた。
「のわあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
だが上条の反応は、予想していた物と大分違っていた。
上条は相当ビックリしながら大声で叫び、テーブルの上にあった『何か』を隠すように、
上半身ごと覆い被さったのである。あからさまに怪しい素振りに、美琴は追求し始めた。
「え、ちょ、な、何!? アンタ何してるの!?」
「ななななな何もしてやいませんが!!?」
「いやいやいや、明らかに今、何かを隠したじゃない!」
「かかかか隠してなどおりませぬぞ!!?
上条さんはやましい事など何一つしていませんですとも!!!」
「ウソ言いなさいよ! じゃあ何なのよ! その不自然な体勢は!」
「ちょ、ちょっとお腹が痛いだけだい!!! そこまで言うなら、証拠出せ証拠!」
「だから! 目の前に証拠が転がってんじゃないのよ! いいから体を起こしなさいよ!」
「いや! だめ! そんなに激しくしないでぇ~~~!!!」
美琴は強引に、上条をテーブルから引っ剥がす。すると、
「んなっっっっっ!!!?」
そこには、悩みの種である自分のフィギュアがあったのだ。
どう考えても上条の物だろう。真相は別【さてん】にあるのだが、美琴からはそうとしか思えない。
美琴は顔を真っ赤にしながら、店内に響き渡る大音量で叫び倒した。
「アアアアアアアンタァァァァァ!!!!!
こここ、これ、これまさかっ!!! 一緒にお風呂に入ったり就寝したり、
舐めるように見つめたり時には本当にprprしたりするつもりなのおおおおおお!!!!?」
「うおおおおおい!!! 何言ってんの!!? 美琴さん何言ってくれちゃってんの!!?
違うから!!! 色々と誤解だから、ちょっとだけ俺の話を聞いて!!?」
大声で叫び合う二人を横目に、ファミレスの店員は心の底からこう思った。
『帰れっ!!!』、と。