とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とあるホワイトデー前の日常の後の日常




美琴は大量のクッキーが詰め込まれた紙袋を二つ、それぞれを両肩にかけながら歩いている。
いや、歩いているという表現は正しくないかも知れない。どちらかと言えばスキップだ。
足取りは軽く、口元は緩み、鼻歌も交え、頬には赤みが差している。
どこから誰がどう見ても分かるくらいに分かりやすく、彼女は上機嫌なのである。

本日はホワイトデー・イブ。
バレンタインデーで食べきれない程のチョコを貰った美琴は、
明日のホワイトデーでお返しする為に食べきれない程のクッキーを買っていたのだ。
常盤台中学は女子校ではあるが、美琴に贈られたチョコには本命もチラホラ(主に黒子)あった。
そんな彼女達に美琴は、クッキー【おともだちでいましょう】で返すつもりなのだ。
キマシタワーは建てられなかったのである。
そう。ホワイトデーのお返しには、選んだお菓子によって異なる意味があるのだ。
初春によれば、クッキーはお友達。マシュマロは嫌い。そしてキャンディは「好きです」。
と、そんな訳で先程まで買い物をしてたのだが、その帰り道に上条とバッタリ会ってしまったのだ。
最初は上条も自分と同じでホワイトデーのお返しを買いに来たのかと危惧した美琴だったが、
どうやら上条はバレンタインでチョコを貰えなかったらしく、ホッとした。
上条にチョコを贈ろうとしている女性など、本来は数え切れないくらいいただろうに、
恐らくは何かしらの不幸が働いたのだろう。可哀想なのは上条か、それとも女性達か。
事実、美琴もバレンタイン前からチョコの好みやらをいろいろと聞かれ、
しかも当日もそのチョコを受け取ったりで、自分の分を用意できなかったのだ。
だがここで上条と出会えたのはチャンスだ。
チョコが渡せなかったのならば、キャンディを渡そうと画策した。
しかしそこでも上条の不幸…と言うよりも、鈍感スキルが発動する。
上条がそのアメに食いつかなかったのである。美琴も妙に不自然だったし。
その上、アメの代わりに特売の卵パックを一緒に買ってほしいと頼まれる始末。
ロマンスもへったくれもあったもんじゃねぇ。
ところが、まぁ相手がコイツならば仕方ないかと諦めて帰ろうとしたその時、
上条からのまさかのサプライズ。
卵のお礼だと上条から手渡されたのは、棒付きキャンディだった。
やたらと美琴がキャンディを推していたので、美琴がアメ好きなのだと勘違いしたようだ。
なので上条はアメに込められた意味【すきです】など知らない。
知らないのであろうが、それでも美琴は嬉しかった。来年のバレンタインにリベンジを誓う程に。

そんな事があったほんの数分後である。
美琴の全身からウキウキオーラが放出されているのも無理はない。
美琴は二つの紙袋を両肩にかかえ、手に持った棒付きキャンディの眺めながら、
ニヤニヤしつつ歩いて【スキップして】いるのだ。
これから自分の身に惨劇に起こるなど、知る由もなく。


 ◇


ふんふふ~ん♪ と口ずさみながら歩いていると、ふいに背後から話しかけられた。

「みさかみさかー。何だかあからさまにご機嫌だなー。何かいい事でもあったのかー?」
「ひゃえっ!!? つ、土御門!?」

鼻歌を歌っている所と知人に見られるのは、レベル5でも恥ずかしい物である。
突然声を掛けられた事も手伝い、美琴は「ひゃえ!!?」と変な返事をしてしまった。

「い、いや別に、た…大した事はないけど!? って言うか普通だし!」

やましい事は無いのだが、咄嗟に手に持っていた棒付きキャンディを後ろに隠してしまう。
その様子と明らかに挙動不審な美琴の言動に、舞夏は目をキラリと光らせた。

「んー? 大した事はないなら、今後ろに隠した物も見せられるよなー」
「バレてるっ!!?」

バレバレである。美琴は観念して、舞夏にそのキャンディを見せた。
だが、これが上条から貰った物なのだと言うつもりはない。やましい事は無い筈なのに。

「…? 何だ、ただのアメかー。そう言えば明日はホワイトデーだもんなー」
「そ、そうなのよ! ほら、紙袋にいっぱいお菓子が入ってるでしょ!?
 これ全部お返し用なのよねー! いやー、バレンタインでいっぱいチョコ貰っちゃってさー!
 だからこれもその一つなのよ! うんうん! 全然変な意味とかじゃないんだから!」

人はウソをつく時、妙に饒舌になったりするものだ。
舞夏が聞いてもいない事まで、ペラペラと説明する。しかし舞夏には、どうしても腑に落ちない事が。

「んー…確かにお菓子はたくさんあるがー……でもこれ、全部クッキーだぞー?
 何で一個だけアメなんだー?」

ギクリとした。そして固まった。しかも舞夏の追及は、これで終わりではない。

「それに、そうだとしても隠す必要は無いよなー?
 そのアメには、何か他に特別な意味があるんじゃないのかー?」

土御門舞夏は意外と鋭い子である。
美琴が「それは…あの、その……」と顔を真っ赤にしながらアワアワしているのを、
舞夏は含み笑いを我慢しつつ見つめていた。
この娘、すでに大まかな事情を察しているようだ。ホワイトデーのキャンディがどんな意味なのかも、
そしてそのキャンディが本当は買った物ではなく貰った物なのだという事も。
更に言えば、その貰った相手が誰なのかという事も。

「だ、だから…これは……その…へ、変な意味はなくて…」
「んー、まぁ言いたくないのなら別にいいぞー。私は私で、勝手に推測するだけだからなー。
 じゃあ、上条当麻からのプレゼントをじっくりと味わうがいいー」
「なななななな何の話っ!!!?」

バレバレである。


 ◇


舞夏と別れて数分後。美琴は未だに先程のダメージ()が抜けていなかった。
顔を赤くしたままトボトボと歩き、

「このアメは…ただの卵のお礼ってだけで…別にそういうんじゃ…ないんだから…」

こんな風にブツブツと呟いていた。言い訳ならば、独り言ではなく舞夏に言えば良かったものを。
そんな時だ。美琴は今一番…と言うよりも、普段から話しかけて欲しくない人物に声を掛けられた。

「あらぁ? 御坂さぁん、そんな浮かない表情力でどうしたのぁ?
 もしかしてバストが磨り減って、貧乳力に磨きがかかっちゃったのかしらぁ?」
「うげ……食蜂…」

ロングな金色の髪をファサーっとかきあげ、
その豊満な胸を強調するかのように、わざとバインバインと揺らせるように歩いてくる。
実にけしからんのである。……………ふぅ。

「『うげ』だなんて酷ぉ~い! それに下品力も満載だゾ☆」
「ただでさえ疲れてるのに、これからアンタの相手しなきゃなんないとか考えたらそうなるわよ。
 今日だけは貧乳とか言ったのもツッコミ【ビリビリ】しないであげるから、
 とっとと私の目の前から消えなさいよ」

美琴は犬猫でも追い払うかのように、シッシッと手首を動かす。
しかしそれがマズかった。美琴の右手には、例のキャンディが握られたままだったからだ。

「…? そのアメ、もしかして明日の分かしらぁ?」
「ぴゃっ!!?」

食蜂も美琴と同様、常盤台を代表するレベル5であり、そして美琴同様にチョコを貰う側である。
面倒くさいとは思いつつも礼くらいは必要かと、これまた美琴同様にクッキーを買った所だった。
もっとも美琴と違う所は、能力を使って知らない誰かに買いに行かせてる
(流石にクッキー代は自分持ちだが)という所だ。
そして食蜂もお返しを買う前にお菓子の意味を調べており、勿論キャンディの意味も知っている。

「あらあらあらぁ? ひょっとして御坂さん、そのアメは白井さんの分なのかしらぁ?」
「………へ?」

黒い笑みを浮かべながら、トンデモ推理をぶつけてくる食蜂。
美琴も「何言ってんのこの人?」と、顔をキョトンとさせる。

「だぁ~ってぇ、他のはクッキーでそれだけキャンディっておかしいじゃなぁい。
 それって一つだけ本命力があるって事でしょぉ?
 そうなると一番可能性が高いのは、やっぱり白井さんだしぃ。
 いやぁ~ん。百合力全開で、いいですわゾ~これぇ」

食蜂としては、美琴が誰とくっ付こうが知ったこっちゃないが、
とりあえず上条とだけは困るのだ。
なので無理矢理でも白井と百合展開になってくれれば、ありがたいのである。
しかし美琴も、勝手に白井を「相棒」から「恋人」にジョブチェンジされては堪らない。

「はあ!? んな訳ないでしょ! これはアイツから貰ったものなのよ! お礼としてね!」

思わず声を荒げてしまった。
瞬間、美琴は「…あっ」と我に返り、食蜂は一気に顔を青ざめさせた。

「……え…? アイツって、か、上条さん…よねぇ…?
 し、しし、しかもお礼って……ま、ままま、まさかチョコのって事ぉぉぉ!!?」
「ふにゃ!!? いや、あの、食蜂さん!!? ち、違―――」

お礼と言ったのは、お一人様一パック98円の特売卵の事だったのだが、
そんな事情など知らない食蜂は、バレンタインのお礼だと勘違いしたらしい。
しかも食蜂ですら出来なかった上条へのチョコの手渡し(実際は美琴も出来ていないのだが)を、
美琴がしてしまった(実際は美琴もしてしまっていないのだが)事にもショックである。
更に言えば、上条からの贈り物がキャンディである事にもショックだ。その意味はつまり。

「何よ何よ何よぉ!!! 御坂さんの馬ぁ~鹿!
 そんなんで勝利力だと思わないでよね! うわぁ~ん!!!」

「ち、違うから! 誤解だから!」と弁解する余地も与えてもらえず、
食蜂は泣きながら走って逃げた。
運痴の為に美琴のジョギングよりも遅いスピードで、運痴の為に途中で転んだりしながら。


 ◇


舞夏には煽られ、食蜂には誤解されて、美琴は心身共にボロボロとなっていた。
美琴はニヤけそうになる顔を必死に我慢して、キャンディを睨めつける。

「ああん、もう! それもこれも、全部アイツのせいなんだから!」
「どれとどれが誰のせいなのですか、とミサカは背後から声を掛けます」
「にぎゃっ!!?」

本人の言うとおり突然背後から声を掛けられて、舞夏の時と同様に変な声で返事をしてしまう。
後ろに居たのは妹達の一人。
上条【アイツ】から買って貰ったというネックレスを身に着けている所を見ると、
どうやら10032号…上条曰く、御坂妹と呼ばれている個体のようだ。

「い、いや何でもないわよ!? 大した事じゃないから!」

そして舞夏の時と同じような言い訳をする。

「そうですか。お姉様の様子がいつもと違って見えたのですがミサカの見間違いでしたか、
 とミサカは疑心を拭いきれてはいませんがここは敢えてお姉様を泳がせてみます」
「……思いっきり口に出てるわよ」

自分の計画がアッサリと漏洩した所で、御坂妹は話を切り替える。

「ところでお姉様。そのキャンディは何か特別なのですか?
 とても大事そうに持っているようですが、とミサカはキャンディに視線を移します」
「んっ!? えっ!? あ、い、いや!? ぜ、ぜぜ全然特別じゃないけど!?」

どう見てもウソである。美琴のそれは、完全に何かを隠している態度だ。
なので御坂妹は、鎌をかけてみる事にした。

「そうですか。ではそのキャンディをミサカにください。
 丁度甘い物を口にしたかった所ですので、とミサカはキャンディに手を伸ばします」
「ダ、ダダダメよっ! これだけはダメ!
 甘い物なら、そこのコンビニで私がいくらでも買ってあげるからっ!」
「おや? そのキャンディは特別な物ではないのではなかったのですか、
 とミサカは尋問します。それにミサカは我慢の限界です。
 今すぐにでも甘い物が欲しいのです、とミサカは再び鎌をかけます」
「今、鎌をかけるって自分で認めたじゃないっ!!!
 とにかくダメなの! これはアイツに貰った物なんだから~~~!!!」

鎌をかけられているを理解しつつも、そのアメが特別なのだと自白してしまう美琴。
姉妹そろって詰めが甘いのである。
瞬間、御坂妹はミサカネットワークを通じて脳内会議を開始する。


『なるほど。あの人からのプレゼントですか、とミサカ15508号は納得します』
『確かにそれは特別ですね、とミサカ16549号は頷きます』
『ですがあの貧乏暮らしの彼が意味もなくプレゼントをするでしょうか?
 とミサカ12002号は疑問を提示します』
『12002号の言い方は気になりますがその疑問自体にはミサカも賛同します、
 とミサカ10055号は意見を述べます』
『ちょっと待ってください。明日はホワイトデーなのでは?
 とミサカ10993号はとんでもない事に気がつきます』
『それだ! とミサカ16380号は10993号の言葉に目からウロコを落とします』
『ではあの人はバレンタインのお返しにキャンディを贈ったと言うのですか、
 とミサカ11836号は膝をガクガクを震えさせます』
『しかもそうなるとお姉様もバレンタインにチョコを渡したという結論になりますね、
 とミサカ13000号はお姉様を侮っていた事に後悔してもしきれません』
『正直お姉様はチキン野郎だと思っていましたからね、とミサカ14443号は毒づきます』
『お姉様は女性なので野郎とは言わないのでは?
 とミサカ17221号は話の腰を折るのは承知で14443号にツッコミを入れます』
『で、でもミサカ達もあの人にチョコ渡せなかったのに、やっぱりお姉様って凄いね、
 ってミサカ19090号は改めてお姉様を尊敬します』
『まぁそれはそうですが、とミサカ18221号は素直に認めます』
『そんな和やかな事も言っていられないみたいですよ。
 ミサカは更にとんでもない情報を仕入れてしまいました、とミサカ10033号は驚愕します』
『どういう事ですか、とミサカ19925号は聞き返します』
『どうやらホワイトデーのお返しには意味があるようです、とミサカ10033号は説明します。
 例えばクッキーならお友達。マシュマロならごめんなさい。そしてキャンディは……』
『もったいぶらずに言えよ、とミサカ16208号は10033号を急かします』
『では心して聞いてください。キャンディは…「好きです」という意味らしいです、
 とミサカ10033号は衝撃の事実を伝えます』
『な、なんだってー? とミサカ18959号は驚きを隠せません』
『ではあの人はお姉様からの告白を受け入れたという事ですか、とミサカ14572号は絶望します』
『ちょ、ちょっと待って!? あの人の事だから、
 お一人一パックの卵を一緒に買ってくれたお礼とか、そんな感じなんじゃないの!?
 ってミサカはミサカは思ってみたり!』
『このタイミングでそれはねーだろ、とミサカ10032号は空気の読めない上位個体にガッカリです』

そして会議の終わった御坂妹は、

「つまりお姉様はあの人に告白して、このキャンディはその成功報酬という訳ですか、
 とミサカは立ち直れない程に打ち拉がれます」
「何がどうしてそんな結論になったのよっ!!?」

御坂妹は訳の分からない誤解をして、その場に崩れ去った。


 ◇


「お姉ええええ様あああぁぁぁぁ!!!」

御坂妹が崩れ去ってから数分。
舞夏 → 食蜂 → 御坂妹の3連コンボでヘトヘトになっている所に、
更に美琴を疲れさせる人物が突撃してきた。

「く、黒子!?」
「うふふふふふふ! お姉様からのお返しが待ち遠しくて、つい追ってきてしまいましたの!」

どうやら美琴をストーキングしていたらしい白井。
幸いな事に御坂妹と会話している姿は見られなかったようだが、危ない所だったようだ。
よほどお返しが楽しみだったのだろう、白井はすぐさま美琴の持っている紙袋に目をつける。

「あらあら。あらあらあらあら! これがお返し用のクッキーですのね?
 それでわたくしのは…黒子用の物は何処【いずこ】ですの!?」
「あ、ああ、それならここに―――」

紙袋から白井の分のクッキーを手に取ろうとした瞬間だった。
白井は目ざとく見つけてしまったのだ。美琴が手にしているキャンディに。

「っ!!? お、おおお、お、おね、おね、お姉様っ!!?
 そ、そそそ、そのキャンディは一体!?」
「……え? あっ!!! い、いや、これは、その!」

もう今日で何度目だろうか、この手のテンパり具合は。
しかし白井の反応は、美琴の想像していた物と違っていた。

「これはまさか! まさかこのわたくしにご用意された物ですの!?
 わたくしが『キャンディがいい』と言ったから…そうですのね、そうなんですのね!!?
 という事はお姉様…ついに…ついにわたくしの愛を受け取ってくだひゃらひへひゃっはー!!!」
「えええええええ!!!?」

奇しくも食蜂と同じ事を言ってきやがった。
しかも食蜂よりもタチの悪い事に、白井の場合は本気でそう思っている。

「んな訳ないでしょうがあああ!!!」
「ぎゃばばばばばば!!! う、うふふ…痺れる程の愛……やはりそうですのね!?
 照れなくてもよろしいんですのよお姉様! この黒子、全て分かっておりますの!!!」
「何一つとして分かってくれてないわよ!?」

今にもルパンダイブして襲ってきそうな白井の頭を冷まさせる為に、美琴は電撃をお見舞いした。
しかしあまり効果はないようだ。普段から美琴の電撃を浴びているせいで、慣れているのである。
このままでは駄目だ。白井の暴走を止めるには、真実を言うしかない。
美琴が再び顔を赤く染め上げて、言い放った。

「こ、ここ、こ、これは! アアアイツが私にくれた物なのっ!!!
 だ、だ、だから黒子にもあげられないのっ!!!」
「……………何ですって…?」

恥ずかしさに耐えて言った甲斐があったようで、白井の動きがピタッと止まる。

「ほ…ほほほほほほ……あ、あのお猿さんったら、お姉様の気を引こうと必死ですのね…」
「さ、最初は私からアイツにアメをあげようとしたんだけど、アイツは―――」
「あ゛ーあ゛ーあ゛ーっ!!! 聞きたくありませんのー!!!
 そんな甘酸っぱくも切ないけどどこか胸の奥がキュンとするような失敗談なんて、
 聞きたくありませんのー!!! 黒子は…黒子は決して諦めませんですの~~~っ!!!」

美琴の話を最後まで聞かず、白井は耳を塞ぎながら空間移動で美琴の目の前から消えていった。
ほんの少し、目に涙も溜めていた気がする。


 ◇


度重なる知人の襲撃で、美琴はもはや限界【ふにゃー】寸前である。
もう一刻も早く寮へと帰って、自分のベッドの上で横になってクールダウンさせたい所だが、
そもそも部屋にはルームメイトの白井がいる為、にっちもさっちも行かない状態だ。
なのでとりあえずノープランのまま、近くにあったベンチに何気なく座っていると、

「あっ、御坂さん。もうお買い物は済んだんですか?」

今度は初春が話しかけてきた。
だが美琴もバカではない。今回は変な詮索をされないように、自分から牽制する。

「う、初春さん! そうなのよ、ほらコレ! 全部クッキーなの!
 さっきはアドバイスありがとね! ちゃんと初春さんの分も買ってあるから!
 あ、ちなみにこのキャンディは私が買った物ね!
 変な意味とかじゃなくて、私が食べたかっただけだから!」
「は、はぁ。そうですか…」

矢継ぎ早に不自然な程の説明をしてくる美琴。
しかも勘ぐられないように、キャンディについても自分用に買った物だとウソをつく。
もう同じ轍は踏まないのである。

「じゃあ、明日どんなクッキーを頂けるのか楽しみにしていますね。
 それとそろそろ完全下校時刻なので、御坂さんもお気をつけて帰ってください」
「う、うん。ありがと。それじゃね」

どうやら初春の事は、何とか誤魔化せたようだ。二人はそのまま別れて―――

「っと、そう言えば上条さんには何か渡さないんですか?」

―――別れてはいなかった。別れ際に初春が、何かを思い出したかのように一言追加してきたのだ。

「…へ? あ、い、いやいや。ホワイトデーってお返しをする日じゃない。
 私、バレンタインにアイツから逆チョコとか貰ってないし」
「そうですけど、普段のお礼って事で渡せばいいんじゃないですか?」
「ううん、無理無理。て言うか、丁度さっきアメ買って渡そうとしたのよ。
 それこそ初春さんが言った通りにね。
 でもアイツってば、あんまりアメ好きじゃなかったみたいで―――」

言いかけて、美琴はハッとする。
初春は別に、美琴を罠に嵌めようとした訳ではないだろう。
しかし美琴が勝手に嵌って自爆して、先程の出来事を自白してしまった。
結果、同じ轍を踏みまくってしまったのである。


「あ、ち、ちち、違うわよっ!!?
 別にチョコを渡せなかったから代わりにキャンディを買……じゃなくてっ!!!
 全部ウソ! さっきの話は全部ただの冗談だからっ!
 わ、わわ、私はアイツにキャンディ買う訳ないじゃない!
 だ、だだだ第一、キャンディに込められた意味って……その…す……キ…とかでしょ!?
 私はアイツにそんな感情とか持ち合わせてない訳でしてねっ!!?」
「わわわ分かりました! 分かりましたから、落ち着いてください御坂さん!
 何かもう、お腹いっぱいですから! ごちそうさまでしたから!
 これ以上聞くと、私もどうしていいのか分かりませんからっ!」

説明をする方も、それを聞く方も、どちらも赤面してしまうのだった。


 ◇


今度こそ本当に初春と別れ、美琴はホッと一息…できる訳がない。
何故なら美琴は分かっているからだ。この流れで、『彼女』が現れないなど有り得ないと。
そう、つまり

「あれ~? 御坂さん、こんな所で偶然ですね♪」
「やっぱり出たああああぁぁ!!! 佐天さんっ!!!」

佐天【ラスボス】である。

「もう、『出た』って何ですか。人をオバケみたいに」

ある意味、オバケよりタチが悪い。
佐天は全てを見透かしているかのように、イヤらしくニヤニヤと笑っている。

「あ、ああ…ごめんなさいね。急に話しかけられたから、ついね」
「……ま、ホントは気にしてないからいいんですけどね。
 だ・け・ど! そのアメちゃんの事は気になりますね~…どうしたんですか? それ」

やはり、である。佐天はピンポイントでキャンディにロックオンしてきやがった。
美琴は心の中で深呼吸をして、悟られないように言い訳を開始する。

「こ、これは私が食べたくなって買った物でね?」

初春の時と同じパターンで逃げ切るつもりのようだ。失敗したクセに。
だが美琴の目論見は、今度は自白するまでもなく失敗する事となった。次の佐天の言葉によって。

「ああ、はいはい。分かってますって。自分で買ったんですよね?
 バレンタインでチョコを渡せなかった代わりに御坂さんが『アイツさん』にキャンディを買って、
 そのお礼として『アイツさん』から貰った物とかじゃないんですもんね?
 そしてその『アイツ』さんは、御坂さんの気を引こうとしてるとか、
 全然そんな事はないんですよね?」
「えええええええええええ!!!?」

おかしい。いくら何でも詳しすぎる。所々真実と違う箇所はあるが、概ね事実だ。
だがあの場に佐天はいなかったし、まさか読心能力でも身に付けたとでも言うのだろうか。

「え、あの、佐天…さん? そ、その『妄想』は一体どこから…?」
「そうですね~…強いて言うなら、
 『それでわたくしのは…黒子用の物は何処ですの!?』って所からでしょうか♪」
「おうふ…」

美琴としては、その妄想はどこから捻り出したのか、という事が聞きたかったのだが、
佐天はそのままの意味で、どこから聞いていたのかを暴露した。
つまりはこういう事だ。佐天は、美琴と白井が会話している所を目撃して、そのまま盗み聞き。
更に初春との会話まで、たっぷりと聞き耳を立てていたのだ。
佐天の語る妄想【しんじつ】に、ちょいちょい白井の勘違い情報や、
初春との会話の内容が混じっているのはその為だ。あの時美琴は
「別にチョコを渡せなかったから代わりにキャンディを買……じゃなくてっ!!!」
と途中で言葉を止めた為、本当は「キャンディを買おうとしたけど失敗しちゃって」
の所を、佐天は「キャンディを買ってあげちゃった♪」に脳内補完したようだ。
だから彼女は、「御坂さんが『アイツさん』にキャンディを買って」と間違って言ったのである。
だが今はそんな考察など、どうでもいい。問題は、

「それでそれで!? その後はどうなったんですか御坂さんっ!!?」
「た…助けてえええぇぇぇぇぇ………」

目を輝かせながら問い詰めてくる佐天を、どのようにして対処すればいいのか、という事である。


 ◇


ちなみにその頃、上条家では。

「見ろ! インデックスにオティヌス! 今日は卵が二パック買えたんだぞ!?」
「おおおお!? どうしたのかな、とうま! 今日は何かのお祝いなのかな!?」
「……何故だ。悲しい事が起きた訳でもないのに、泣けてきたぞ」

上条の経済状況に慣れている二人【かみじょうとインデックス】は素直に喜び、
上条家に引っ越してきてまだ間もなく、状況に慣れていないオティヌスはそっと涙を流した。

「だが人間よ。その特売卵とやらは、確か一人一パックが原則ではなかったのか?」
「ん? ああ、そうなんだけどさ。でも買い出しに行く途中で、御坂とバッタリ会っちまって。
 そんで一緒にレジに並んでもらったんだ。いや~、いい買い物できましたですよ♪」
「…へぇ~…短髪とねぇ……」
「それで浮かれている訳か、お前は……」

美琴の話をした瞬間、急に不機嫌になる二人である。
上条もその空気を察したのか、慌ててフォローした。

「あ、で、でもちゃんとお礼もしたぜ!? 御坂ってアメが好きみたいだからさ!
 近くにあった安い棒付きキャンディを買って渡してだな!」

慌ててフォローしたが、逆効果であった。
皆さんならご存知だろう。彼が誰かのフォローをしようとすると、大抵裏目に出てしまうという事が。
インデックスとオティヌスは、先程までテレビを観ていた。
インデックスが食べ物関係の番組に異様に食いつきやすいという事と、
明日がホワイトデーという事から、番組の内容はお菓子特集であった。
そこで二人は知ったのだ。ホワイトデーのお菓子、その意味を。
クッキーはお友達。マシュマロは嫌い。そしてキャンディは……

「とーーーーーまーーー………」
「に~ん~げ~ん~~~!!!」

その直後、上条の身に何が起こったのか…それはご想像の通りである。











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