とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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DKの悲劇




「マズい事になっちまった…」

美琴をファミレスに呼び出した上条は、開口一番そんな事を言ってきた。
どうやら何か相談事があるようなのだが、しかし相談する側の上条よりも、

「ななな何よ急に電話で『今すぐ会いたいんだけど』って!!!
 ま、まま、まるでこっ! こ、こ…恋人みたいじゃないのよ馬鹿っ!
 おかげで何着てくか迷……ってなんかないんだけどねっ!!?」

何故か美琴の方が余裕ゼロであった。しかも色々と勝手に自白している。
まぁ、美琴のこの反応は『いつもの事』なので、そこは敢えてツッコまずにスルーする上条。
それよりも相談の続きだ。

「とりあえず落ち着け美琴。ほら、俺のアイスコーヒー飲んでいいから」

美琴が注文したドリンクはホットの紅茶であり、
喉を潤して落ち着かせるにはアイスの方がいいだろうと、自分のアイスコーヒーを勧めた上条だが、
そのグラスに突き刺さっているのは上条が二口ほど飲んだストローであるという事実が、
美琴を余計にテンパらせている。…という事には、当然ながら上条は気付いていない。

「で、話を戻すけどさ。マズい事になっちまったんだよ」
「ふぇ、ふぇえ~……ど、ど、どんにゃ…事が…?」

上条から受け取ったアイスコーヒー…のストローを、
口を付けるべきか否かチラチラ見ながら、上条の言葉にも相槌を打つ。飲めばいいのに。

「いや…ここ最近、美琴を何度も助けただろ?」

美琴を助けた、というのは、美琴がスキルアウト達からやや強引にナンパされている所を、
例の「知り合いのフリして自然にこの場から連れ出す作戦」で上条が救った、という話だ。
しかも「何度も助けた」、という口ぶりからすると、一度や二度ではないらしい。

美琴の能力とレベルならばスキルアウトを簡単に蹴散らせられるという事は、
上条も重々承知しているのだが、かと言って幸か不幸か、
困っている女の子を見す見すスルーできる性格を上条は持ち合わせていない。
美琴の為にも、そしてスキルアウト達の為にも。
しかし自分達の身の危険を案じてくれているなど知る由もないスキルアウト達は、
上条が割って入る【じゃまする】度に、「ザッケンナコラー!」とか「スッゾコラー!」など、
罵声を浴びながら追いかけられた。不幸である。

この作戦は実は二人が始めて出会った時や、夏休み初日の前夜にも実行されているのだが、
記憶を失った上条は当然ながら覚えていない。
しかし「連れがお世話になりましたー」では効果が薄いと体が覚えているのか、
『今』の上条は美琴を連れ出す時に、こんな口説き文句で乗り切ろうとしていたのだ。

『いやー、俺の彼女がお世話になりましたー』

と。その度に美琴は顔を爆発させていたのだから、
スキルアウト達から顰蹙を買う【ザッケンナコラーされる】のは当たり前だと思うのだが。

つまり要約すると、だ。上条は美琴がナンパされる度に、
「俺の彼女がお世話になりました」と言いながら、美琴をその場から連れ出していたのだ。
それも一度や二度ではなく、何度も何度も。結果、上条の相談事に繋がるのだが。

「どうやらそれで、俺と美琴が付き合ってるっていう噂が広まっちまったみたいなんだ」

自業自得、インガオホーである。
美琴は常盤台の超電磁砲、レベル5の第三位だ。
学園都市内でそれだけ有名な人物ならば、噂が広まるのも当然と言える。
しかも相手は一部で有名な『あの』上条なのだ。
聞きしに勝る、夜の街を駆け巡り、握った拳で並み居る猛者どもを薙ぎ払い、
気に入った女は老いも若きも丸ごとかっさらって草の根一本残さない…
で、お馴染みの『その』上条なのだ。
いい意味でも悪い意味でも、二人は学園都市で最も注目を浴びる事と相成ったのだ。


「でさぁ、今日も寮の同居人やらクラスの奴らやらに尋問(物理)されてさ…
 どう誤解を解けばいいのか分かんなくて……美琴の方はどうだ?」
「へっ!!? わ、私っ!? そ…そう、ねぇ……べ…別に何とも!?」

ウソである。今現在、常盤台中学を中心に学舎の園内の5つの学校と、
更に柵川中学や繚乱家政女学校では、大変な大騒ぎとなっている。
だが美琴の言葉をそのままの意味で受け取った上条は、

「ふ~ん…? お嬢様達は俗世間の卑しい噂話なんて歯牙にも掛けないって事なのかね?」

と素直に勘違いする。
とりあえず美琴サイドにまで迷惑がかかっていない事にホッとする上条だが、
かと言って自分サイドの問題が解決した訳ではない。
「どーやって誤解を解けばいいかなー…」と呟き、腕を組んで天井を見上げた。
しかしここで、美琴から目からウロコな鶴の一声。

「べ……べ、別…に…ご、誤解を解く必要はないんじゃないの…?
 実際に付き合ってるって事にしちゃえば…いい…じゃない……」
「……え…?」

まさかの一言に、上条は顔をキョトンとさせた。

「あっ!!! いいい、いや、あの、わっ、私がそうしたいって言ってる訳じゃなくてね!?
 いっその事そうしちゃった方がトラブルも少なくなるんじゃないかっていうアレな訳で!」

アレな訳とは一体ドレな訳なのか。

「えっと……お、俺はいい…けど…」
「いいのおおおおおおおお!!!?」

美琴【じぶん】から提案しといて、OKされたらされたで大声を出す。面倒な子である。

「いいけど……でもそれって美琴に迷惑かけちまうんじゃ?」
「き、気にしなくていいわよ! さっきも言ったでしょ!?
 わ…私の周りでは、そんなくだらない噂する人はいないんだからっ!」

ウソである。
今現在、常盤台中学を中心に学舎の園内の5つの学校と、
更に柵川中学や繚乱家政女学校では、大層なお祭り騒ぎと化している。

「そ…それとも……ア…アンタは迷惑な訳…?
 その……私…との関係が……う、噂になっ…たら…」
「えっ!? あ、いや…その……」

今度は上条がテンパる番だった。美琴と本当に恋人になった時の事を想像してみる。
すると自然と顔が「かあぁ…っ!」と熱くなってきた。
これは恐らく、つまるところ『そういう事』なのだろう。

「お…俺は嬉しい…かな。ブラフでも美琴と付き合ってるって事になったら。
 ……あ、でも贅沢を言えば、ブラフじゃなくて本当に付き合えたらいいな~、
 なんて思っちゃったり何かしちゃったりして……」

冗談っぽく言ってはみたが、それは誰がどう聞いても告白だった。
瞬間、つい言ってしまった事に上条は後悔した。
美琴の今までの態度を見ていれば、美琴が上条【じぶん】に気がない事など明白だ。
まぁ、実際にそう思っているのは上条ただ一人だけではあるのだが。
しかし、美琴からの反応は(上条にとって)意外にして、良い意味で予想外であった。

「ほ…ほ、んと……に…わ、たし、で……い、いの…?」

それが、二人が付き合い始める切っ掛けとなったのだった。


 ◇


上条はその時、缶コーヒーのプルタブを開けながら軽く溜息を吐いた。
公園のベンチ。自分の隣には、最近できたばかりの彼女。
そんな甘くて酸っぱくて青くて春なシチュエーションだと言うのに、上条は浮かない顔をしている。
原因はその彼女、御坂美琴にある。

「なぁ、美琴」
「わきゃっ!!?」

上条は美琴の耳元で彼女の名前を囁いた…ただそれだけで、
美琴は耳まで赤くなり、飛び上がって上条との距離を50㎝も空けてしまう。
体温も大分上昇しているらしく、美琴が握り締めているヤシの実サイダーも、
手の熱でかなりぬる~くなっている。
そう、上条が浮かない顔をしていたのはコレなのだ。

1レス前の出来事があって、付き合う事となった上条と美琴。
しかし美琴は元々ツンデレ畑の出身者であり、それは今も変わってはいない。
鈍感畑出身の上条も、付き合い始めてからはそれを理解しており、
それも美琴の魅力なのだと(やっと)気付いたのだが、
しかしそれでは色々と不都合もあるのだ。つまり、

(ああ、くそ! これじゃあイチャイチャできないじゃねーかっ!)

という事だ。
上条とて高校一年生。せっかくの初彼女と、もっとバカップルになりたいのである。
本当は手を握りたい。本当は頭を撫でてあげたい。本当は抱き締め合いたい。
つまり美琴に甘えたいし、甘えられたいのだ。
だが先に説明した通り彼女【みこと】が意地っ張りなので、進展したくてもできないのである。
耳元で名前を囁いただけでテンパってしまうような純情【ウブ】な子を、どう攻略すれば良いのか。
今まで女性からモテた事のない上条(!?)には、難易度が高すぎるのだ。

(ん~…これはこれで可愛いんだけどなぁ…)

上条は、隣からチラチラと上条【こちら】を見ながら、
ぬるくなったジュースをくぴくぴと飲む美琴の仕草にほっこりしたが、
これでは付き合う前と同じではないかと思い直し、思い切って行動に出る。
このままではキスするのに10年とか、冗談じゃなく長い計画【スパン】になってしまいそうである。
彼女が甘えづらい性格ならば、彼氏の方から甘えるしかないのだ。

上条は、美琴が空けた距離をベンチに座りながらグッと詰め寄り、
コーヒーを置いて、そのまま右手で美琴の肩を抱き寄せた。

「わっ!!! にゃにゃにゃ、にゃにっ!? きゅ、きゅ、急にそんな!!!」
「……か、上条さんだって、こんな事したくなる日もありますよ」

上条に強引に抱き寄せられた事で肩と肩がピッタリとくっ付き、
美琴は目をグルグルさせながら「あわわあわわ」言っている。
だが上条は、ここで手を緩めるつもりはない。


「今日はとことん恋人っぽくするからな!
 手だって握るし、美琴の頭も撫でるし……だ…抱き締め合ったりもするしっ!」
「だっ! だだだだ抱きいいいいいいいい!!!?」

顔色が赤一色に染まったまま、美琴は絶叫した。それはあまりにもハードルが高すぎると。
というか今更だが、そもそも付き合う以前にも、
手ぐらい握ったし、頭ぐらい撫でたし、抱き合ったりぐらいもしたのだが。

「い、いいいい、いいわよ! そ、そん…にゃの……し、してほしくなんか……ない、し…」

上条の提案を、もじもじモゴモゴしながら拒否する美琴だが、今の上条はもう知っている。
この反応は本当は嫌がっていないという事に。
もしも本気で嫌ならば、普段の美琴は強く振り払いハッキリとした口調で断るだろう。
それでも相手が食い下がるような事があれば、自慢の電撃でもお見舞いする筈だ。
だがそれをせずに、未だにその身を上条に委ねている。つまりは『そういう事』なのだ。
故に上条は、美琴からの口先だけの苦情など気にもせずに、
その小さく震えている手を握ろうとした。
だが忘れてはならない。上条は不幸体質なのだ。
「握ろうとした」という事はつまり、結果的には握れなかったという意味だ。

「させてたまるかあああああああでぇぇぇぇすのおおおおおおお!!!!!」
「ぶがっ!!?」
「んぶっ!!?」

上条が手を握ろうとした正にその瞬間、上条の脳天目掛けて空間移どロップキックが炸裂した。
犯人は言わずもがな、白井だ。
彼女は自慢のお姉様危険センサーを働かせ、こうしてお姉様の貞操を守る為に馳せ参じたのだ。

「ふぃ~…危ない所でしたの。
 例のくだらない噂を信じた訳ではありませんが万が一という事もありますし、
 悪い芽は早めに摘み取らなけれ…ば…?」

しかし人の恋路を邪魔する奴は…を地で行くかのように、白井には天罰が下った。
ふと二人を見ると、先程自分が蹴り飛ばした上条の顔が勢いよく美琴の顔をごっつんこしていた。
より正確に言うならば、上条の唇と美琴の唇が思いっきりぶち当たっていたのだ。
いや…『ぶち当たる』と言うよりも、『ぶちゅっと当たる』と言った方が正しいか。

このままではキスするのに10年などと思っていた上条だったが、
まさか十数分で、しかもこんな形で叶ってしまうとは、これはこれで不幸…なのだろうか。
そして美琴は美琴で、ごく当たり前のように「ふにゃー」した。もはや伝統芸能である。

白井は今日のこの事件を『DK【ドロップキック】の悲劇』として、自らの心に傷と共に深く刻み込み、
それからは二度とドロップキックをしなくなったのだった。










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