とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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7月も半ばを迎えた今日この頃。上条は一足先に、夏休みの宿題に取り掛かっていた。
いや、正確には『春休みの宿題』が未だに終わっていないと言った方が正しいだろうか。
成績がよろしくない上に出席日数も絶望的だった上条さんが、高校二年生に進級する為には、
担任の小萌先生が何百・何千と各所に頭を下げ、防犯オリエンテーション等でポイントを稼ぎ、
その上で大量の宿題・課題・レポートを提出しなくてはならなかった。
結果的にどうにかこうにか進級は許されたものの、
勉強机の上に積み上げられた問題集やプリントの山は、目にするだけでゲンナリする程に残っている。
幾度となく世界を救った上条【ヒーロー】に対し、世間【がっこうがわ】は非常な仕打ちである。
だが泣き言を言ったところで宿題が減ってくれる訳でもないし、
これらを二学期が始まるまでに提出しなければ、二年生をもう一度やるどころか、
下手をしたら一年生をやり直さなければならない可能性すらある。
故に上条も本腰を入れて宿題をやっているのだがしかし、
もはや上条一人で終わらせられる量ではないのは明らかだ。
そこで上条は自らのプライドやら何やらを捨てて、ある人物に助けを求めた。

「ったく、もう! コツコツやんないから土壇場になって焦るんじゃない!」
「お説教なら後で聞きますからっ!」

ご存知、美琴である。
たとえ相手が大学レベルの勉強をしていたとしても、中学生である事には変わりなく、
上条も頭を下げて教えを請うのは微妙だったが、贅沢など言っていられない。
ここは学園都市第三位の演算能力に頼るしかないのだ。
ちなみに科学の知識がまるで無いインデックスは戦力外【べんきょうのじゃま】なので、
オティヌスやスフィンクスと共に部屋から出て行ってもらった。
かな~り渋々だったが、上条から(なけなしの)五千円を貰い、風斬と遊びに出かけたのだ。
仕方が無い。五千円は大金だが、留年するよりは遥かにマシだ。
と言うか、上琴的にその方が都合が良いのである。

「いやホント悪いな美琴。こんな事で呼び出してさ」
「ま、まぁ私も丁度ヒマだったから別にいいんだけど…」

手を動かしながらも軽口をたたく美琴だが、内心では小躍りしたい気分である。
上条が自分を頼ってくれたという事も嬉しいのだが、それより何より、
普段上条が暮らしている部屋で、その上条と二人っきりなのだという、
この何ともワッショイワッショイなシチュエーションが、美琴のテンションを爆上げしているのだ。
表面上は平静を装ってはいるが、見る人(と言うよりも上条以外の人間)が見たら、
それはもうバレバレであろう。
何しろ美琴は、先程からチラチラと上条を見つめては赤くなり、
落ちた消しゴムを拾おうとしては上条の手とぶつかり赤くなり、
上条の飲んだ麦茶を間違って飲んでは赤くなったりしているのだから。
怒涛のラブコメお約束イベントコンボに、体温は上昇するばかりである。
ただでさえ、今日は真夏日だというのに。

「ちょ、ちょろっとエアコン入れていい?」

部屋の暑さと自分の熱さでにっちもさっちも行かなくなった美琴は、
扇風機だけでは我慢できなくなったらしく、エアコンのリモコンに手をかける。
しかしここで、上条から思いも寄らない一言が。


「ああ、悪い。エアコン壊れてんだわ」
「えっ…」

実は去年、まだ上条が記憶喪失になる以前の話だが、
夏休み初日の前日に、上条の学生寮近くで『謎の落雷』があったのだ。
その際に上条は部屋の電化製品の八割をやられた訳なのだが、
生活に必要不可欠な冷蔵庫や洗濯機などの家電は修理したものの、
無くても生きていける家電の修理は後回しにしたのだ。
ましてや何だかんだで月日は過ぎて、エアコンを使う時期でも無くなった為か、
結果エアコンの修理は翌年…つまり今年に先送りされたのである。
で、結局まだ修理も買い替えもしていないという訳だ。
ちなみに、『謎の落雷』が誰のせいだとか、記憶の無い上条には知る由も無い。
もっとも、その誰かを煽った以前の上条にも、原因があると言えなくも無いのだが。
まぁ、とにかくだ。とりあえずエアコンは使えないという事なのだ。

「じゃあ…しょうがないわね」

そう言いながら、美琴はこの部屋で唯一の冷却装置【せんぷうき】の首を、美琴側に向ける。
しかしそうなると、家主【かみじょう】も黙ってはいられない。

「いやいや、こっちにも向けろって」

上条は美琴側に向いている扇風機の首を、グリンと上条側に向けた。
だがそうなるとやはり、美琴が黙ってはいられない。

「ちょ、ちょっと! 暑いじゃないのよ!
 私はアンタのせいでドキド…じゃ、じゃじゃじゃなくてっ!!!
 えと、その…と、とにかく! 私の方が暑いんだからこっちに風よこしなさいよっ!」

美琴は上条側に向いている扇風機の首を、グリンと美琴側に向けた。
けれどもやっぱりそうなると、上条が黙ってはいられない。

「んな事言ったって、上条さんだって暑いんだぞ!?」

上条は美琴側に向いている扇風機の首を、グリンと上条側に向けた。
もはや、白ヤギさんと黒ヤギさん状態である。
扇風機なんだから首振り機能を使えば済むだけの話なのだが、
何かもういつの間にか、両者共に一歩も引けないくらいヒートアップしてしまったようだ。
扇風機の首がグリングリンとあっちこっちに向き、関節部分がゴキボキと嫌な音を立てる。

「ぜぃ…ぜぃ……こうなったら!」

終わりの見えない小競り合いで息も絶え絶えになった上条は、
この平行線の諍いを打破するべく、ある強攻策に打って出る。

「こうしてやる!」
「あっ! ちょ、ズルい!」

上条は扇風機の首を回すのではなく、扇風機本体を抱きかかえたのだ。

「うははははー! これで風は独り占めしてやるぜー! あー、涼しー!」
「んにゃっろっ!」

するとすぐさま、美琴は扇風機(とそれを抱えた上条)目掛けて飛び掛った。
二人とも小学生じゃねんだからとか、つか宿題はどうしたとか、野暮なツッコミはナシである。

「アンタなんかこうしてやる!」
「んだとー!? ならミコっちゃんのここを…うりゃー!」
「にゃー! どど、どこ触ってんのよスケベ!」
「へっ! 手段なんざ選んでられっかい!」
「え、あ…待っ、そんな事まで!?」
「っ! み、美琴!? それは、流石に、マズいって!」
「ぁんっ♡ ば、馬鹿ぁ! それ以上やったら、変な気持ちに、なっちゃうじゃない!」
「美琴って…その……い、意外とこういうのウマいんだな…」
「ひゃっ!? あ、らめ…♡ ん、はぁ! もう、ホントに……んんんっ!♡」
「美琴、何でこんな…! ああ、くそっ! そんな顔されたら我慢なんてできるかよ!」


もはや扇風機など何処吹く風(扇風機だけに)と言わんばかりに、
二人は直接取っ組み合いを始めた。
美琴が上条の頬を引っ張ったかと思えば、上条は美琴の脇腹をくすぐり、
上条が美琴の耳をフニフニ触ったかと思えば、美琴は上条の胸に自分の顔を押し付ける。
美琴が上条の二の腕に甘噛みし、上条が美琴のおへそに息を吹いて、
上条が美琴の頭をクシャクシャに撫で、美琴が上条の膝の上に乗り、
美琴が上条の太ももを指でなぞり、上条が美琴のおでこに口付けをし、
上条が美琴の首筋をチロチロと舐め、美琴が上条の指をチュパチュパとしゃぶり、
美琴が上条の顔をうっとりと見つめ、上条が美琴の背中をギュッと抱き締めて、
上条が美琴の体を押し倒し、美琴が上条の首に腕を回す。

…途中から明らかに様子がおかしくなっている。
どうやらこの暑さで、二人とも頭をやられてしまったようだ。
空気がこもった部屋の中で、扇風機と宿題そっちのけで痴話喧嘩をした結果、
暑さにより逆に変なスイッチが入り、最高に「ハイ!」ってやつになってしまったのである。

上条と美琴は、お互いに床に押し倒し倒されの状態で相手を見つめ合う。
蒸し蒸しとした暑さに加え、先程まで暴れていた事による相乗効果で、
美琴の鎖骨はじっとりと汗ばんでおり、顔は上気し、瞳は潤み、
その艶のある唇からは「はぁ…はぁ…」と荒い呼吸が聞こえてきた。
中学三年生とは思えない程の妖艶さに、上条は思わず息を呑む。

「……美琴…」

と上条が真剣な顔で一言漏らすと、美琴も何かを覚悟したようにキュッと目を瞑る。
そしてそのまま、上条はゆ『プルルルル!』っくりと美琴との距『プルルルル!』離を近づけて

…電話である。
もう少しでいい所だったのに、上条の不幸が呼び寄せたのだろう。
上条の携帯電話が、突然鳴り響いたのだ。
瞬間ハッとした二人は、ものっそい速さで飛び起き、一気に距離を離した。

「も、もももし、もししもし!? どどど、どちら様でせうか!?」
『どちら様とはご挨拶なのです!
 先生は上条ちゃんがきちんとお勉強をしているのか、確認する義務があるのですよ!?』

小萌先生からだったようだ。
上条は先程の妙な桃色空間の影響が抜けずに、顔を真っ赤にしたまま、
ヘコヘコと頭を下げながら受け答えしている。
だが相手と会話できるだけ、気が紛れて良いのかも知れない。
何しろもう一人の桃色空間の犠牲者は、気を紛らわせる手段がなく、

(ささささっきの私達何だったのっ!!? な、なな、何かその場の空気に呑まれて、
 とんでもないような事をしようとしてた気がするんですけど!!!?
 てかもしあのままだったらもしきゃしひゃらきしゅしちゃりゃはみゃひろぴゃむふぉあえ!!!)

と悶々とするしかないのだから。
あまりの事態に、後半は何を言っているのかサッパリである。まぁ、大体分かるけど。



この後、二人は真面目に黙々と宿題をしたのだが、
あの記憶を消去できる訳もなく、お互いに思いっきり意識しまくっていたのは、
まぁ、言うまでもない事だろう。










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