とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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わがままママのワナ




御坂美鈴は学園都市の大学に通う生徒ではない。
しかし小論文を書く為の資料集め…という理由を建前に、
実の娘・美琴の顔を見にちょくちょく学園都市の門を潜っている。
故に美琴は、たまにこうやって母親と会えているのだ。最も、その母親は大体酔っ払っているが。

そんな訳で美鈴から電話があった美琴は、呼び出し先のファミレスへと出かけたのだ。
どうせ今日もビールジョッキ片手に近況報告【どうでもいいはなし】を聞かさせるのだろうと鬱々していたのだが、

「…あっ! 美琴ちゃん、こっちこっち!」

珍しい事に、美鈴はアルコールを嗜んではいなかった。
だがそんな事よりも何よりも、この場にはそれ以上の違和感が、美鈴と面と向かって座っていた。

「よう、美琴」

上条である。
美琴はすぐさま進行方向を180度回転させ、先程まで入口だった出口に直進する。
美鈴は慌てて、美琴の足にしがみついた。

「ちょちょちょ美琴ちゃん! 来たばっかで何帰ろうとしてんのよ!」
「だだだだって! アイツがいるなんて聞いてないし!」

そうなのだ。美鈴は電話で、上条の事には一切触れていなかった。
美鈴的にはサプライズのつもりなのかも知れないが、
美琴的にはありがた迷惑…ではなく、めいわく迷惑である。ありがたくないから。
しかも美鈴は、この手の件に関してはアノサテンサンに匹敵する程の厄介な人物だ。
わざわざ上条も呼び出したという事は、間違いなく面倒な事を企んでいるはずである。

「まぁまぁ! 上条くんだって、美琴ちゃんが来るまで待っててくれたんだし!」
「そ、そんな事言ったって! ……って、ん?」

ドギマギしながら上条の方をチラリと見た美琴だったが、上条の表情が気になり、疑問を持つ。
真面目な時や緊迫した状況ではイケメンモードな上条だが、
普段は基本的に気だるげだったり、ひゃらんぽらんな顔をしている。
しかし今の上条は、先に述べたようなキリッとした真剣な顔【イケメンモード】なのだ。
一瞬、「やだ…カッコいい…///」とかウッカリ落ちそうになったが、
これを何とか思いとどまった美琴である。

「ど…どうしたのよ。そんな顔しちゃって…」

上条の表情が気になった美琴は帰るのを取りやめて、
先程まで美鈴が座っていた席の隣に腰を下ろした。
どうせなら上条くんの隣に座っちゃえばいいのに…なんて事を心の中でツッコむ美鈴である。

「ん…いや、何でもねーよ。それよりも、とりあえず美鈴さんの話を聞こうぜ?
 もしかしたら、ただの俺の杞憂かも知れないし」

明らかに何でもない事はなさそうだが、
まずは美鈴が二人を呼び出した理由を聞かない事には話が進まないらしい。
嫌な予感はプンプンするが、美琴も覚悟を決めたようだ。仕方ない、黙って聞く事にしよう。
上条と美琴がこちらに視線を向けたので、美鈴はニヒッ!と口角を上げながら話し始める。
二人を呼んだ理由、そのとんでもない真相を伝える為に。

「今から10年くらい前の話なんだけどね?
 私と詩菜さん…勿論、上条くんのお母さまなんだけど、その詩菜さんと出会ってたのよ」

美琴は、「ん? いきなり何の話?」と頭上にいくつもの疑問符を浮かび上がらせる。
対して上条は、やはり真剣な表情のままで耳を傾けている。


「私も詩菜さんも、その時とは大分印象が違ってたから、
 大覇星祭で再会した時は気付かなかったのよね。
 でもこの前、一緒に通ってるスポーツジムで、私がその10年前の話をしたら、
 詩菜さんも同じような事があったって言われてね。
 そこからお互いの記憶を話してる内に、
 『あれ? じゃあもしかして、あの時の奥さまって詩菜さんだったの!?』ってなって、
 そしたら詩菜さん【むこう】もビックリしてたわね」
「え、えっと…ママ? それで、ママとコイツのお母さんが実は昔に面識があったって話と、
 私とコイツがここに呼ばれた事って、何か関係があるの?
 確かに、ちょっとした偶然ではあるけど…」
「話は最後まで聞きなさい美琴ちゃん。ここからが伝えたかった事なんだから。
 それでね、その時に出会っていたのは私と詩菜さんだけじゃないのよ。
 そもそも、私と詩菜さんはお互いに『保護者』っていう立場で軽い会話をしただけなの。
 まっ、だから忘れてても仕方なかったんだけどね」

何となく話が見えてきた。美琴の額に、じっとりと汗が滲む。
そして相も変わらず上条は、黙って美鈴の話を聞いていた。

「実はね! その時に親しくしていたのは、小さい頃の美琴ちゃんと上条くんだったのよ!」
「やっぱりそういうオチかコンチクショウ!!!」

思わず叫ぶ美琴。
美琴が上条と出会ったのは、6月の中旬頃。それは間違いない。
つまり10年前云々も、詩菜と面識があった云々も、勿論美琴と上条が親しくしてた云々も、
全ては美鈴の作り話なのである。わざわざこんな与太話を、
美琴だけでなく上条【よそさまのこ】にまで話すとか、美鈴は一体何を考えているのか。
だが恐ろしい事に、美鈴の話はこれで終わりではなかった。

「しかもね! 実は美琴ちゃんと上条くんは、その頃に将来の約束も誓い合っていたのよ!
 なんたって美琴ちゃんのその頃の夢は『とうまくんのおよめさんになる』だったもんね!
 小っちゃい頃の話だから、二人共もう覚えてないかも知れないけど」
「うおおおおおおい母親あああああ!!! どこまで適当な事言えば気が済むのよ!!!
 わわわ、わた、私がコイツのおよ! お、およ……め…さん……とか! ありえる訳ないでしょ!?
 ほらっ! アンタも何か反論しなさいよ!!!」

上条に同意を求めるべく話を振ったのだが、ここで上条が思わぬリアクション。

「やっぱり…そうだったのか!!!」
「えええええええええええっっっ!!!?」

まさかの肯定である。

「そうだったのかって…どどどどういう事よ!!?」
「いやな。実は俺の所にも、昨日の夜に母さんから電話があったんだよ。
 内容は、今さっき美鈴さんが話してくれた事とほぼ同じ。
 子供の頃、俺が美琴にプロポーズしたって話だったよ。
 俺もさっきまでは母さんの悪い冗談なんじゃねーかって半信半疑だったんだが…
 今の美鈴さんの話で確信した。やっぱり…本当だったんだなって」
(騙されてるっ!!! コイツ完全に騙されてるううううぅぅ!!!)

念の入った事に、上条の所には事前に詩菜が伏線を張っていたようだ。
お分かりだとは思われるが、つまりは詩菜も美鈴とグルなのである。
その上、詩菜も美鈴も知らない事だが、上条には子供の頃の記憶がない。
なので過去に美琴へプロポーズしたと言われても、本当かどうか分からない為に否定できないのだ。
更に言えば、仮に詩菜の電話が冗談だとしても、美鈴まで同じ冗談を言うとは考えにくい。
しかもわざわざファミレスに呼び出されて、美琴も一緒に聞かされるなんて、
そんな事をする理由も必要もある訳がない…と上条は思っているのだ。
故に上条はこの状況、話を信じるという選択肢しか残されていないのである。


「それで…ぷっ! 詩菜さんは…他に……くくっ…何て?」

美鈴は、体を小刻みに震わせながら質問する。笑いを堪えているのがバレバレである。

「えっと確か…美琴と俺は、お医者さんごっこをしたり…」
「お医者さんごっこっ!!?」
「後は…一緒にお風呂に入ったり…」
「一緒にお風呂っ!!!?」
「ちゅ、ちゅーとかも…よくしてた、と…」
「ちゅーとかもよくっ!!!!?」

詩菜から聞いた情報を上条が言う度に、イチイチ大きくリアクションしてしまう美琴。
ウソだと分かっているはずなのに、つい想像してしまうのである。

「ぷっくく! あー、そ、そんな事も…ぶふっ! してた…わね…ばふーっ!」

ついには吹き出してしまう美鈴。
しかしそれどころではない上条は、そんな美鈴に気付かずに頭を抱える。

「クソッ! 前の上条さん【むかしのおれ】ってば大胆すぎるだろ!
 10年前って事は、まだ5歳とか6歳じゃねーか!」
(ななな何で普通に信じてんのよ!!! そんな訳ないじゃないのよ!!!
 アホなの!!? ねぇアンタ、アホなの!!?)

確認するまでもなく、アホである。
しかしそんなアホな上条でも、もう一人だけ真実を知る者がいる事くらいは分かる。
それは当然、目の前で真っ赤な顔でテンパっている、美琴本人である。

「なぁ、美琴。その…本当なのか? 俺と美琴が…そ、そういう関係だったって事…」
「ぇあっ!!? え、えっと…それは、その…」

美琴は上条が記憶喪失なのだという事を知っている。
だからこそ、アッサリと美鈴と詩菜の言葉を信じ、
そして最終確認をする為に、今、自分の言葉を信じようとしているのだ。
だが、それはつまり、ここが上条が騙されていた事に気付ける最後のチャンスでもある。
美琴が肯定すれば、上条は二人の母親の話を完全に信じ込み、美琴の婚約者となり、
逆に否定すれば、今までの茶番は、ただのドッキリだったで終了する。
ならば美琴の選択は一つしかないだろう。

(い、言わなきゃ…コイツにちゃんと言わなきゃ!
 『バ~カ! 何、本気で信じてんのよ。そんなの冗談に決まってんじゃない』って!)

そう決心した美琴が、次の瞬間に口をついて出てきた言葉は―――

「そ…そそ、そんな事も…あああ、あったような、
 で、でも、ななかったような気がしないでもないような!?」

日本人特有の、肯定も否定もしない、お茶を濁したような言い方。
先程の一瞬で、もの凄い数の葛藤と演算を繰り返した結果、
普段の竹を割ったような性格を捻じ曲げてまで、そんな言い方をしてしまったのである。
つまるところ、否定しなければならないのに、それはそれでちょっと勿体無いような…
などと欲が出た、というか魔が差してしまったのだろう。
しかしその言葉を肯定と勘違いした上条は、「そっか…」と一言呟き、天井を見つめる。
そしてその数秒後、何かを決心したように深呼吸して、再び美琴の顔を正面から見据える。

「……美琴…」
「はっ! はひゃ、ひゃいっ!!?」
「俺は、その時の事は思い出せないけど…
 でもそれがマジだったんなら、やっぱ責任は取るべきだと思う」
「せせせせき、せきき責任ってっ!!!?」
「だから…改めて、もう一回……プ、プロポーズをですね………」
「にゃああああああああああ!!!?」

完熟トマトのように真っ赤になりながら、
二度目(?)のプロポーズをしようとする少年と、それを受ける少女。
そしてこの席にいるもう一人の女性【みすず】はといえば、
お腹を抱えてソファーをバシバシと叩きながら、呼吸困難に陥る程に大爆笑していたのだった。










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