とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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ブレックファースト・ブレイクファイト




とある高校の学生寮、その上条の部屋。そこは朝から騒ぎの絶えない部屋である。

「とうま! 朝ごはんがシリアルだけってどういう事なのかな!?
 ちょっと手抜きすぎると思うんだよガツガツバリバリガツガツボリボリ!」
「うっせぇうっせぇ! 上条さんだって朝食作るのがめんどい日とかあるんです~!
 ってか何だかんだ言いながらも既に5皿は食ってんじゃねーか!」
「おい、ちょ…人間……そんな事より私を助けブクブク……」
「うぉわっ!!? オティヌスが皿の上に落ちて牛乳のプールで溺れてらっしゃるっ!!?」
「ちょ、ちょっとだけ羨ましいんだよ…!」


 ◇


「―――という事がありました まる」
「あ…あぁ、そう……」

上条は歩きながら、朝の出来事を愚痴でも言うかのように美琴に吐露した。
しかし美琴も、それを聞かされた所でどうしようもなく、
「あぁ、そう」と素っ気無い相槌を打たざるを得ない。

現在二人は、それぞれの学校から寮へと帰る途中であり、所謂「下校デート」の最中だ。
上条は高校生、美琴は中学生で、当然ながら通う学校は違うのだが、
何故か毎日『偶然』にも美琴が上条の学校付近を通る事があり、
『たまたま』一緒に帰るタイミングが合う事も多いので、『仕方なく』二人で並んで歩いている。
ツッコミたい事は山程あるだろうが、ここは諦めて呑み込んでほしい。キリがないから。

「はぁ…インデックスの奴、ちったぁ毎日朝飯を作る俺の身にもなってほしいよ…」
「………ふ~ん…」

溜息を吐きながら泣き言を漏らす上条に、美琴は少し不機嫌になる。
上条とインデックス(とオティヌス)が同棲状態になっている事は、
美琴も納得は出来ていないが諦めはついている。
しかしその熟年主婦の愚痴みたいな上条の言葉は否が応でも、
『彼らが一緒に暮らしている』という事を意識させられてしまい、ついジェラジェラしてしまうのだ。
だが美琴は、その事を口に出せないツンデレさんなので、こうして不機嫌になるしかないのである。
美琴は口を尖らせながら、直接言えない分、心の中で文句を言う。

(何よ…デレデレしちゃって…)

上条としてはデレデレしてるつもりもないし、そもそもデレデレしているようにも見えないが、
美琴からするとデレデレしているように見えるらしい。
一方で、美琴からそんな風に思われているとは全く気付く様子もない上条は、
トボトボ歩きながら愚痴を続ける。

「誰かが俺の代わりに作ってくれりゃあいいんだけど…
 インデックスは家事できないし、オティヌスはあの体だしなぁ…
 まさかいくら何でもスフィンクスには無理だろうし…」


猫の手も借りたい…そんなことわざがあるものの、実際に手を借りる人などいる訳はない。
ましてや料理をさせるなど正気の沙汰ではないが、
それを分かった上で口に出してしまう程、上条は疲れているのだ。
だが上条の「誰かが俺の代わりに」というその言葉が、美琴の心に火をつけたとかつけないとか。

「う゛、うん゛ッ! ゴホンゴホン! あー、ウォッホンッ!」

わざとらしく急に咳払いをする美琴。
これが普通の人なら、その咳払いの理由も察せる所だが、
鈍感な上条は「風邪かな?」とか明後日の方向から答えを導き出す。

「あー…そ、そそ、その……も、もももし良かったら、わた…私がー、あの、
 ごぁんつくるぃーにいてーもいっかりゃーなんてごにょごにょ……」

目を泳がしながら噛みまくってしまって、何を言っているのか分からないので通訳させてもらうと、
美琴は「私がご飯作りに行ってもいいかなーなんて」と言ったのだ。
すると上条が予想外の反応を見せる。

「……えっ、いいの? マジで?」
「えっ!!!?」

あまりにもアッサリと真意が伝わった為に、逆に美琴がビックリする。

「ホントにいいのか!? スゲー助かる!」
「えっ!? あ、い、いいけど、アンタこそいいのっ!!?
 わ、わわわ私が朝からアンタん家に行く事になるんだけどっ!!?」
「おう、全然いいですよ! うわ~、ありがとうミコっちゃん!」
「~~~~~っ!!!」

上条が美琴の両手を握り、そのままブンブンと上下させて激しい握手をしてきた。
美琴は上条からのお誘い(と言っても元々は自分発信だが)と、手を握られたという事で、
毎度の如く顔を真っ赤にさせてしまっている。上条は当然ながら無自覚ではあるが。

「あっ! じゃあコレ渡しとくわ! …えっと、ちょっと待ってろよ? どこやったかな…」

ひとしきり握手をした上条は、学生鞄の中をガサゴソと探りだす。
しばらくすると、「おっ! あったあった!」と一つの鍵と取り出した。

「コレ、俺の寮部屋の合鍵。美琴にやるから、いつでも来てくれよ。
 勿論、美琴が来たい時でいいからさ」
「…っ!!! え、あ、あい、合鍵っ!!?」

まさかの展開である。
美琴の能力があれば電子ロックは勿論の事、科学技術が使われていないアナログな錠前ですら、
磁力を操作して解除出来る為、彼女に鍵など必要ない。
しかしながら美琴にとっては、上条本人から部屋の鍵を受け取るという行為自体に意味がある。
それは「いついかなる時でも、美琴の訪問を受け入れる」という証なのだから。
美琴は受け取った鍵を手の中でギュッと握り、赤くなったままの顔を俯かせて一言。

「あ…あり、がと……大切に…するから…」

これは気合を入れて朝食を作らねばならない。


 ◇


カチャリ…
極力音を立てないように、ゆっくりと鍵を回し、そ~っとドアを開ける。
その鍵は勿論、昨日上条から受け取った鍵だ。

「おじゃましま~す…」

美琴は両手のビニール袋に大量の食材を入れて、
まだ周りが暗く、陽が昇りきらない内から上条の部屋へと足を踏み入れる。
その理由は、昨日の上条との約束である「朝食を作る為」なのだが、
こんな早朝から来たのは、料理の仕込みもする為だ。
常盤台中学の学生寮にも当然厨房はあるのだが、そんな場所で仕込みしている所を、
誰か(主に白井とか寮監)にでも見られたら、言い訳のしようがない。
まさか「知り合いの男に朝食を作る為に、他校の男子寮に行ってくる」なんて言える訳もなく。

「よっし! せっかくだから美味しいの作ってやんなきゃね♪」

美琴はウキウキしながらエプロンを身につける。
やはりと言うか何と言うか、そのエプロンはゲコ太柄だ。
ちなみに残念ながら裸エプロンではない。本当に残念である。

「ふんふふ~ん♪」

エプロン姿に着替えた美琴は鼻歌を歌いながら、
持参したビニール袋から取り出した食材をキッチンに並べていく。
上条の冷蔵庫に何が入っているか分からないので、念を入れて多めに食材を用意したのだが、
そんな苦労すらも楽しみの一つだとでも言うかのように、分かりやすく美琴は浮かれている。
それもその筈だ。美琴は今、通い妻にでもなったかのような気分でいるのだから。

「あん、もうダメよアナタ! 今はご飯作ってるんだから…もう、しょうがないわね♡
 なんちゃってなんちゃってっ!!?」

この部屋の住人である上条もインデックスもオティヌスもスフィンクスも、
寝静まっているのをいい事に、美琴は勝手に面白い妄想をしては勝手にクネクネしている。
なんちゃってとか言っちゃってる辺り、相当テンションが高ぶっている事がうかがえる。
これを上条本人の目の前でやれば、鈍感な上条でも気持ちに気付いてくれるかも知れないのに。

「さて、と。まずは…」

まず美琴は調理を開始する前に、冷蔵庫を開けて中からマヨネーズを取り出す。
そしてキャップを取ると、容器に口をつけたままマヨネーズをチューと吸い出した。
ネットで調べた知識だが、これは他人の家に上がり込んで朝ごはんを作る際に、
必ず行わなければならないという儀式、通称『マヨチュッチュ』なのだそうだ。
もっとも世代ではない美琴は、そこにどのような意味があるのかは分かっていないが。
ちなみに昨日の夜、上条が夕食を作る際に容器からマヨネーズがちょろっと垂れた為、
今の美琴と同じようにペロッと舐めてしまっている。
つまり美琴は、知らない内に上条と関節キスをしていた事になるのである。

「…じゃ、始めますか」

儀式も無事(?)済んだので、改めて朝食作りを開始した。


 ◇


「ん~…うん! 我ながら上出来!」

美琴は完成したばかりのミネストローネを小皿に移し、味見をする。
どうやら美味しく出来たらしいが、普段の上条の部屋ならば、
まず間違いなく食卓に上がらないメニューである。
美琴は何気なく時計を見て、「そろそろ起こさなきゃよね」と呟く。

「アイツって浴槽に布団敷いて寝てんのよね? じゃあお風呂場か」

インデックスとオティヌスは早く起きても遅く起きても大した差は無いが、
学生である上条は仕度やら何やらが色々とあるので、二人よりも先に起こさなければならない。
それでも今日は朝食を作る時間が丸々カット出来るので、いつもよりもたっぷりと寝られたが。

「お…おはよーございまーす……」

寝起きドッキリでもするかのように小声で挨拶しながら、ゆっくりと浴室のドアを開ける。
ちょうつがいが錆びているのか、キキィ~と嫌な軋み音がしてきて、美琴は思わずビクッとする。
だがそんな苦労も、上条の貴重な寝顔を見てしまえば。

(うわうわうわっ! か、可愛い~! どどど、どうしよう! えっと、まずは写真写真!)

美琴は慌てて自分の携帯電話を取り出した。そしてそのまま盗撮した。
だが罪の意識など皆無のようで、ケータイの画面内の上条の寝顔と、
本物の上条の寝顔を見比べては、ご満悦な表情でニマニマしている。
本心ではこのまま上条と一緒に寝たり、逆にお目覚めのチューとかしたりしたい所だが、
倫理的にも美琴の性格的にも、そしてそんな大胆な事が出来る時間的余裕もなく、
色々と惜しいが上条を起こす決意をする。

「ほら、もう時間よ。起きなさいよア…アナタ……」

美琴は上条の体をユサユサと揺らしながら、起きるように促す。
せめてもの爪痕として、「起きなさいよアンタ」と言う所を、
「起きなさいよアナタ」とアレンジを加えつつ、しかし小声で言いながら。

「んっ…ん~…? あれ、美…琴…?」

寝惚け眼を擦りながらモソモソと起き上がる上条。
寝起き直後で頭が回っていなかったが、やがて思考回路が働き出すと、
目の前に美琴がいる事への違和感がハッキリと浮かび上がってくる。

「っ!!? えっ、ええぇ!? な、何で美琴がこんな所に!?」
「あのねぇ…アンタが朝ごはん作ってくれって言ったんでしょ?」

上条の様子がいつも通りに戻ったので、
それに合わせて美琴も先程までのデレデレモードから、いつものツンデレモードに切り替える。
上条は「ああ、そう言えば…」と昨日の出来事を思い返しながら呟くと、

「マジで来てくれたのか…!」

と感動で胸がいっぱいになる。美琴はすぐに顔をボッと赤くしながら返事をした。

「あ…合鍵まで借りといて、そのまま何もしない訳にはいかないじゃない!」
「そっか~! サンキューな美琴!」
「べ、べべべ別にいいわよ! た、ただのついでだし!」

わざわざ大量の食材を持ち込み、早朝にやって来て、合鍵を使って部屋のドアを開けて、
住人が起きないよう音を立てずに調理し、味見をして、頃合になったら上条を起こしておいて、
何がどう『ついで』なのかサッパリ分からないが、とにかくこれは何かの『ついで』らしい。

「そんな事はいいから、とっとと起きなさいよ馬鹿!
 …あ…朝ごはんなら、もう用意してあるんだか……ら…?」
「わっ!!? ちょっと待て美琴―――」

照れを隠すかのように、強引に上条の掛け布団と剥ぎ取った美琴だったが、
その瞬間、男なら誰しも経験した事のある生理現象『朝テント』を目の当たりにしてしまう。
浴室に電撃が走ったのは言うまでもない。


 ◇


「お…おおおおぉぉぉ~………」
「とうま…もしかしてここは天国なのかな…?」
「馬鹿な! これが朝食だと言うのか!?
 どうやら我々が今まで食べていた物は、ブタのエサに過ぎなかったようだな…!」

上条とインデックスとオティヌスの三名は、
目の前に広がっている信じられない光景に、ただただ感嘆の声を漏らしていた。
食卓を彩っているのは既に紹介したミネストローネを始め、エッグベネディクト、
モンティクリストのベシャメルソースがけ、トマトとアボカドのミルフィーユサラダ、
キュービックフルーツのギリシャヨーグルトがけの5品だ。
もうどこの国のテーブルかも分からないが、とにかくカラフルで美味そうな事態になっている。
上条など、この中の一品たりとも料理名を言えない事だろう。

「ごめんね。時間が無くて、5品ずつしか作れなかったわ。
 もっと朝食バイキングみたいにしたかったんだけど…」

謙遜でも誇張でもなく、本気でそんな事を言っている美琴に、
上条は手をブンブンと左右に振って感謝を伝える。

「いやいやいや充分だって! つーかそんなに作られても食いきれ…なくはないけど、
 いつもの千倍は豪華だよ! 本当、ありがとな!」

食いきれなくはないのは上条ではなく、その隣の腹ペコシスターの事を指しているのは言うまでもない。
その腹ペコシスターはと言えば、天敵である短髪が部屋にいる事に対するイライラが吹っ飛ぶ程に、
目の前の料理に目をキラキラ、そして涎をダラダラさせている。
オティヌスはインデックスほど食に執着はしていないが、それでも圧倒されている様子だ。
しかしこの直後、インデックスとオティヌスが急転直下で不機嫌になり、
それに反比例して、美琴がふにゃる程に心臓をバクバクさせてしまう言葉を、
上条が言い放つのである。

「もういっその事ミコっちゃんには、お嫁に来て欲しいくらいですよ!
 毎朝こんな朝食が食べられるなら、一生上条さんのお側に………って、あれ?」

しかし周りの様子がおかしい事に気付いた上条。
この後どうなったかは、まぁ大体ご想像通りだ。
結局は今朝も、昨日の朝と同様に騒がしくなってしまうのだった。










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