とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある二人の異種悪夢 美琴サイド ~覚めない悪夢~




『ど、どうしたのよ…そんな真剣な顔して、し、しししかも…
 たっ、たたた大切な話がある…とかっ!』
『……実はな、美琴…俺、好きな人が出来たんだ…』
『っ!!! そそっそそれってももももしかかしててっ!!?』
『ああ。それは勿論―――』
『わわわわた―――』
『あたしですよ! 御坂さん!』
『―――し……………はぇ? ……えっ!!? ちょ、さ、佐天さんんんんんんん!!!?』
『そうなんだよ! 俺、今日から佐天と付き合う事になったから!』
『あたし達、幸せになりますね御坂さん! …それじゃあ、行きましょうか上条さん♡』
『え、待っ、ちょ、えええっ!!? いいい、行くってどこへ!?』
『何言ってんだ。付き合うっつったらデートしに行くに決まってんだろ?』
『いや、あの、ちょ、待って―――』


 ◇


「っば!!!」

そこで美琴は悪夢から覚めた。
目の前にあるのは上条でも佐天でもなく、いつも毎朝見ている部屋の天井である。
ベッドの上に横たわったまま、じっとりと汗をかいていた美琴は、
「はー…」と溜息とも深呼吸とも取れる息を吐き、全く爽やかではない朝を迎えた。
同時に妙な違和感があった為、何気なく隣を見てみると。

「むにゃむにゃ……お姉様~」

何故かそこには自分のパジャマを掴みながら幸せそうな寝顔を浮かべるルームメイトがいたので、
美琴は目覚まし代わりの電撃をぶちかました。

「お…おおぉ、おはようございますですの……」
「はい、おはよう。もう今更『何で黒子が私のベッドにいるの』とか聞く気力は無いけど、
 一応とりあえずは正当防衛【ほうでん】しとくわ」

聞く気力が無いのは、白井が美琴のベッドに忍び込む事など日常茶飯事だからだ。
しかも厄介な事に、例え掛け布団で包んで簀巻き状態にして紐で縛り、
夜中に襲われないように対策しても、白井は空間移動を使ってすり抜けてしまう。
白井にも倫理とか良心、もしくは風紀委員としてのプライドでも残っているのか、
ベッドに潜り込む以上の事はしてこないが、それでも充分迷惑である。
しかし上記の理由により、白井のセクハラに対して泣き寝入りするしかないのだ。
だが今日に限っては、どうしても苦言を呈さざるを得ない。八つ当たりだと分かっていても。

「全くもう…黒子のせいで変な夢見たわよ!」
「夢…ですの? 一体どのような?」
「それ! …は、その………な、何でもないけど…」

しょっちゅう美琴の電撃を食らっているおかげか、すっかり雷属性への耐性がついた白井は、
ギャグ漫画の次のコマのように完全回復し、美琴の夢について聞き返す。
しかし美琴から返ってきたのは、妙にしどろもどろな答えである。
しかも目は泳ぎ、冷や汗を流し、トドメに頬はほんのりと赤く染まっている。
この瞬間、白井はその夢が類人猿【かみじょう】関連なのだと確信した。
普段、竹を割ったような性格のお姉様【みこと】が、こんなにも乙女な表情を見せるのは、
認めたくはないが上条の事を考えている時だけなのだ。

「ぐぎぎぎぎぃぃぃいいいいいいい!!!
 お姉様の夢の中にまで現れるとは、どこまでも憎々しいお猿さんですわね!!!」
「あっ!!? ちちち違うわよっ!!? 今回は佐天さんも一緒だったし!!!
 あの馬鹿と佐天さんが付き合う事になる夢を見て落ち込んでたとか、
 全然そんなんじゃないからホント心配しなくてもいいのよ!!?
 『アイツと付き合うのは私なのに』とか全く思ってないから、大丈夫大丈夫!!!」

白井が聞いてもいない事、そして聞きたくない事までペラペラと白状してしまう美琴。
次の瞬間、美琴の本音を聞かされた白井は真っ白になり、
ウッカリと本音を言ってしまった美琴は真っ赤になったのだった。


 ◇


「…? どうしたんですか御坂さん? もしかして、あたしの顔に何か付いてます…?」
「……えっ!? ああ、いえ何でもないわ!」

その日の放課後、美琴は佐天と二人っきりで小さな喫茶店に入り、お茶をしていた。
白井と初春は例の如く風紀委員で忙しい為この場にいない。
ちなみに白井は本日『何故か』無気力気味で、仕事に身が入っていないらしいが。

「ご、ごめんなさいね、何かジーッと見つめちゃって!」
「いえ、あたしは別に構わないですけど…」

しかし美琴は今も朝に見た夢を引きずっており、
もしかして本当に上条と佐天が付き合ってしまうのではないか、とか考えてしまっていた。
思わず佐天を凝視してしまう程に。

(ううぅ…確かに佐天さんって可愛いし、家庭的だし、人から好かれるし、
 私と違って素直だし、胸…も……去年まで小学生だったとは思えないくらいボリュームあるし…
 ってか、もしかしなくても私が勝てる要素が見当たらないっ!!?)

強いて言うなら美琴は常盤台のお嬢様であり、レベル5の超電磁砲という強力な武器【ネームバリュー】があるのだが、
上条がそんな上辺だけの評価をする人物ではない事は美琴もよく知っており、
しかしながら上条のその性格が今は逆に災いし、美琴は佐天への劣等感に苛まれてしまう。
もしも佐天が本当に上条の事を好きになってしまったら、
自分に勝ち目は無くなってしまうのではないか、と。
急に焦りが溢れ出してきた美琴は、遠回りな質問で探りを入れてみる事にした。

「ね、ねぇ…さ、さささ佐天さんってさ……ああ、あの、馬鹿…の事とかどう思う…?」
「へ?」

一部訂正しよう。『遠回りな質問』ではなく、『遠回りな質問(笑)』だったようだ。
しかも佐天も、唐突な質問で一瞬キョトンとしてしまった。

「それって上条さんの事ですよね? どうって…ん~、いい人だと思いますよ」
「いい人っ!!!?」

佐天が言ったのは『良い人【いいひと】』という意味だったのだが、
美琴には『好い人【いいひと】』という意味で聞こえてしまった。恋は盲目ならぬ、恋は難聴である。

「へ、へぇ~…そそ、そうなんだ~……
 でででも佐天さんにはもっと好い人がいるんじゃないかしら~…?
 ア、アア、アイツじゃ勿体無いって言うか~…」

美琴は冷静を装う為に紅茶の入ったティーカップを持ちながら話しかけるが、
カップの取っ手に触れるその手はガタガタと震え、
カップの中のスプーンはカチャカチャと鳴り、中の紅茶もビッチャビチャに零れている。

「うわわわわっ! ちょ、テーブル拭いてくださいよ御坂さん!
 っていうか、何でそんな事を聞……」

何故急に上条の事を聞いてきたのか疑問に思った佐天だったが、
この美琴らしからぬ行動に、すぐさまピンときた。そしてその直感が正しければ、
先程美琴が佐天【じぶん】にはもっといい人がいるとか、アイツ【かみじょう】には勿体無いなどと、
妙に上条と距離を置いて欲しそうな事を言った理由も納得できる。
佐天は全てを理解した上で表面上は素の表情を保ち(ただし心の中ではほくそ笑み)、
あえて何も気付いていない体で会話を続けた。

「……こほん。何でそんな事を聞くんですか? 御坂さんには関係ないじゃないですか」
「えっ!!? あ、い、いや…関係なくもなくないって言うか……
 あっ、ほ、ほら! アイツって私の…と、友達だし!」

流石に『好きな人』とは言う勇気は無いらしく、『友達』で逃げる美琴。
だが佐天はそれを逆手にとって反撃する。


「そうですね。でもそれなら、あたしだって上条さんの友達ですよ?」
「そう…だ、けど…」
「どうしてそこまで気になるんですか? もしかして御坂さんって、上条さんの事を男性として意識しt」
「ちちちち違うわよっ!!?」

まだ佐天が話し終わっていないのに、美琴は食い気味に否定してきた。

「べべべ別に私がアイツの事を好きとかそんな気は全然無いから勘違いしないでね大体今朝夢に出てきたのも私が意識しちゃうような事をアイツが普段からするのが悪いんだし昨日だって無意味に頭ポンポンとかしてきたのよアイツそんなのドキドキしちゃうに決まってんじゃない夢にだって見るわよそりゃしかも私が何でそんな事したのかって聞いたらアイツ何て言ったと思う撫でやすかったからですって何なのよその答えは無自覚にも程があるわよ乙女心弄ぶんじゃないわよそんな事言われたら余計に心臓バクバクすんじゃないのよそんで何よあの笑顔はあんな顔されたら何も言えないじゃない胸がキュンキュンしちゃうじゃないいつもはチャランポランなクセにたまに見せる優しさとかギャップヤバいじゃないだから私がアイツの事を意識しちゃってもそれは私のせいじゃなくてアイツが悪いの分かったっ!!?」

ぜーぜーと息を切らしながら、上条を意識しているという点を完全否定(?)する美琴。
だがどうも余りにも焦って言ってしまった為に、思いっきりツンデレをこじらせてしまっている。
というか、辛うじてツンデレ口調を保っているものの、その内容はただのデレデレである。
佐天は気付かないフリを続行しているので笑いを堪えてはいるが、
鼻の穴は開き、頬の中を空気でパンパンにし、プルプルと小刻みに震えている。
今にも「ブッフー!」と吹き出してしまいそうだ。

「そ、そうで…ププ! …すか……わ…分かりま…プッ、クク…した…
 上条さんの事は…ブフッ! 何と、も…おも、おも、思ってないん、ですね…?」

決壊寸前である。

「そ、そうよ! 分かってくれて嬉しいわ!」

しかし佐天が自分の言い訳【ウソ】を信じてくれたと思った美琴はホッとする。
だがそうなると問題は最初に戻ってしまう。
つまり、佐天が上条の事を好きなのか否かという問題に。

「で…でさ、もう一度聞くけど…さ、佐天は本当に……その…」
「でも上条さんって結構カッコイイですよね」
「……………へ?」

美琴が再び佐天へ質問しようとしたその時、
佐天は美琴の問いを聞く間【きくつもり】もなく、間髪入れずに急に上条の事を褒めだした。

「それに優しいですし…けど上条さんって彼女とかいないんですよね?
 あたし、御坂さんが上条さんの事が好きなんだって誤解してたから言わなかったんですが、
 御坂さんが何とも思ってないなら我慢する必要もないですよね!
 あたし今度、上条さんに告白してみようかな~!」
「えっ………エエエええええええええええぇぇぇぇぇぇえええ!!!!?」

思わず絶叫してしまう美琴。


「ダダダダダダメよそんなのっ!!!!!」
「おやおや~? どうしてですか~?
 あたしが上条さんに告ると、何か御坂さんに不都合な事でもあるんですか~?」
「ひゃえっ!!? あっ、いや、そ、そんな物は無いけどっ!!!
 無いけども、とにかくそれだけはダメなのっ!!!」
「御坂さ~ん…それじゃあ流石に納得できませんよ~! ちゃんと理由を言ってくれなきゃ!」
「っ!!! そ、それは……その…」

追い詰められた美琴。
この場を切り抜けるには真実を言うかウソで誤魔化すしかないだろう。
はぐらかそうとした所で、今の佐天からの追求を逃れる事は出来なさそうだ。
だがしかし、真実を言うという事はつまり『自分が上条の事を好き』なのだと、
佐天にバラす事と同義(とは言っても既に佐天には大分前からバレているが)なので、
美琴は口から出任せを言って誤魔化す事に決めた。

「アイツには……そ、そう! 他に好きな人がいるのよ!」
「へぇ~、そうなんですか。それは残念です」

どうやら無事に切り抜けられた―――

「で、上条さんの好きな人って誰なんですか? もしかして御坂さんとか?」

―――切り抜けられたと思ったら大間違いである。

「ななな何でそこで私の名前が出てくるのよっ!!? 私、関係ないじゃないっ!!!」
「じゃあ御坂さんの好きな人が上条さんって事ですか?」
「じゃあって何!!? てかそれはさっき違うって言ったばかりよね!!?」

佐天の猛攻にノックアウト寸前の美琴。
おかげで喉がカラカラになるまで叫んでしまった。当然、お店の人には睨まれている。
美琴は喉を潤す為、そして落ち着きを取り戻す為に、
もうとっくにぬるくなってしまった紅茶を、一気にグビグビと飲み干した。
そして「はぁーっ!」と大きく息を吐くと、一度咳払いをして説明する。

「いい? 佐天さん。私はアイツの事なんて本当に何とも思ってないの。
 第一、アイツに他に好きな人がいるように、私にも他に好きな人がいるのよね。
 って言うかもう付き合ってる。勿論その人は、アイツとは全く関係ない人よ」

先程の誤魔化しの応用である。美琴は再び出任せをぶつけた。
しかしそれで佐天が納得してくれる筈もなく、次なる質問は当然ながら。

「それは初耳ですね~。御坂さんと付き合ってる人って誰ですか?」
「え…えっと、そ、それは……」

そこまでは考えていなかった美琴は、架空の彼氏の名前を言いあぐねてしまう。
だが天は美琴を見捨てなかった。次の瞬間、美琴は背後から誰かに声を掛けられた。
その者は馴れ馴れしくも美琴の肩に手をポンと置き、こう言ってきたのだ。

「あ…あの~、よろしければ、わたくしとお茶などをしては頂けませんでせうか…?」

男の声だった。どうやらナンパ目的で声を掛けてきたらしい。
背後にいるので顔は見えないが、その声は妙に聞き慣れたというか、美琴が落ち着く声質だった。
誰だか知らないが、今はこの男を使うしかない。
ナンパなどいつもは威嚇用の電撃で蹴散らし、
それでも引かないしつこい野郎は、手加減はするが直接電撃をお見舞いするところだ。
しかし今は背に腹は代えられない状況だ。美琴は見知らぬその男【じぶんのはいご】を指差し、言い放った。

「こっ! この人よ佐天さん! この人が私の付き合ってる人!」

一瞬呆気に取られていた佐天だったが、徐々にその顔にイヤらしいニヤニヤが戻っていく。

「へぇ~、そうなんですか~。その人が御坂さんの…ふ~ん?」

何だろう、このリアクションは。
この顔は、まるで上条の事で自分を弄ってくる時の佐天さんのようである。
美琴は「まさか!?」と思いつつ、ゆっくりと背後の男に顔を向ける。するとそこには―――











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