とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

849

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

とある爆弾の進路希望




進路。それは誰もが悩んだ事があるであろう、将来の自分への第一歩。
住民の8割が学生であるこの学園都市では、その手の悩みを抱える者は特に多く、
ここにいる御坂美琴も例外ではなかった。彼女は自分(と白井)の部屋で、
今日、学校で配られた進路希望調査票とにらめっこしている。
中学二年生の冬を迎えた美琴は、そろそろ本気で考えなくてはならない問題なので、
腕を組んで自分の未来について思い描いてみようとする。しかし。

(ん~…私って、特に夢とか無いのよね~。
 昔、雑誌の取材で『みんながみんならしく生きられる世界の手伝いができたら』
 なんて言ったけど、じゃあ具体的に何がしたいかって聞かれると答えられないし)

進路というのは将来の方向性を決める人生の分岐点ではあるが、
あくまでも過程であって目的ではない。
就職するにしろ進学するにしろ、達成されてハイ終わりという訳には行かないのだ。
就職するならば、そこから社会人としての第二の人生が始まり、
進学するならば、新たな環境で学ばなければならない。
そして学ぶのは、自分の夢へと近付く為の知識や技術だ。
だが美琴にはその夢がぼんやりとしか無い。故に進路希望に何を書くべきか、
さっぱりとした性格の彼女には似つかわしくない程に、悩んでいるのだ。

(どうしようかしら…とりあえず進学ってのも、何も考えてないみたいだし、
 かと言って就職するにしても今の所行きたい職場も無いし…)

一般的な中学二年生ならば、とりあえず進学して高校生活中に将来を考える者も少なくないだろうが、
彼女は常盤台中学の生徒だ。授業内容も大学レベルであり、そもそも学校側としても、
「義務教育終了までに世界に通じる人材を育成する」という教育方針を掲げている。
勿論、強制ではないので、そのまま普通に高校へと進学する者も多いが。

(…………で、でもアレよね。私の人生なんだから、私の自由にしていいのよね。
 好きな学校に進学しても、全然問題ない訳で…って、い、いいいいや、
 好きな学校って言ってもそこに好きな人がいるからとかそういうのじゃなくてねっ!!?)

しばらく考えた美琴は、進路の答えが出たらしく急にテンパる。
ご丁寧にも、心の中で自分自身に言い訳をする程に。
第一希望の欄を埋めたのは、とある高校の名前であった。つまりは進学だ。
実はこの高校、美琴が一端覧祭の準備期間中に見学しに行った場所である。
一端覧祭は世界最大規模の文化祭であると同時に、入学希望者の体験入学も兼ねている為、
美琴のその行動事態には問題はない。だが一つ、大きな疑問が残る。
美琴が訪れたその高校は、低レベル能力者向けの平凡校なのだ。
先程、常盤台でも高校へと進学する者も多いと説明したが、
それはあくまでも長点上機学園や霧ヶ丘女学院などの、所謂エリート校への進学だ。
少なくとも名前を言っても「どこそれ?」といったリアクションが返ってくる高校ではない。
ましてや彼女は常盤台の中でも二人しか、そして学園都市全体でも七人しかいないレベル5だ。
そんな底辺校に進学して何か役に立つ事など無いと思うのだが。
しかし彼女が悩みに悩んで出した答えだ。きっと彼女にしか分からない意味があるのだろう。
まさか本当に『その学校に好きな人がいるから』なんて浅い理由ではないだろうし。
ともあれ、とりあえず第一希望の欄は埋まった。次は第二希望と第三希望の欄だ。
東大レベルですら余裕な美琴の学力なら滑り止めなど必要ないが、
しかし空欄で提出するのはそれを自慢するみたいで感じが悪い。
美琴は再び「ん~~~……」と唸りを上げる。だが。

(……特に無いわね。第二希望が第一希望より偏差値高いってのもおかしな話だし、
 それに長点上機も霧ヶ丘も、あまり良いイメージって無いのよね。
 て言うかアイツがいる学校以外に行きたい所なんて無いし…って、い、いいいいや、
 別にアイツがいるからその学校に進学したいとかそういうのじゃなくてねっ!!?)

そして再び急にテンパる。またもや自分自身に言い訳しながら。


(だ、だだ大体、アイツと同じ高校に行った所で一年間しか一緒にいられないんだし、
 そんな事で進路を選ぶ訳ないじゃない何言ってんのよっ!)

正直、「何言ってんのよ」はこちらの台詞である。
美琴は頭を抱えながら、真っ赤な顔を振り回して言い訳を続ける。
心の中で、一体誰と戦っているのだろうか。
と、その時だ。何かを思いついたのか、不意に美琴の動きがピタリと止まった。
そしてそのまま暫く長考したかと思うと、突然「ボン!」と音を立てて顔が爆発した。
すると今度は勢い良くシャープペンを持ち、第二と第三希望の欄を埋めていく。

(た、たたた試しにねっ!? 試しに書いてみるだけだからっ!
 だ、だ、誰も本気で『こんな事』書く訳ないし、ただのお遊びよっ!
 それにほら、シャーペンで書けばすぐに消せるんだしそれに―――)

相変わらず心の中で言い訳をしながら、自分で書いた二つの欄を眺める美琴。
その顔は内心の言い訳とは裏腹に、隠しても隠し切れない程にニヤケきっている。
美琴自身は平静を装おうとしているらしいが、自然と頬が緩んでしまうようだ。
と、そんなタイミングで。

「お・姉・様~! 黒子、ただいま帰りましたの~!」

風紀委員の仕事から帰ってきた白井が、勢い良く部屋のドアを開けた。
瞬間、美琴は本能的に進路希望調査票を隠し「にゃっぽぁっしゃい!!!!!」と謎の奇声を上げる。

「にゃ、にゃっぽぁ? お姉様、今のは一体…?」
「にゃにゃにゃにゃんでもないわっ!!! ちょっとクシャミしただけ!!!
 い、いやーちょっと風邪引いちゃったかも知れないわねー!!! ゲホゲホゲホ!!!」

とっさに誤魔化す美琴。若干(?)不自然な態度ではあったが、
お姉様が第一の白井は特に疑う事もなく、これを信じた。
白井はワキワキとイヤらしい手付きをしながら、美琴の近くまでにじり寄ってくる。

「まあ! それは大変ですの!
 では、わたくしが人肌で温めて差し上げますので横になってくださいませ!
 ですがその前に汗を拭いてお着替えもしなくてはなりませんわね!
 今すぐ制服を脱いでくださいなゲヘヘヘヘヘ」
「……いや、大した事はないから大丈夫」

ゲヘヘヘヘヘ部分に身の危険を感じた美琴は、白井の申し出をやんわりと断る。
そもそも風邪を引いたというのはウソだし、それを一番分かっているのは美琴自身だ。
だが、にじり寄ってきたせいで、白井は美琴がとっさに隠した例の紙を見つけてしまう。

「…あら? 進路希望の紙ですの?」
「っ!!!?」

美琴は一気に血の気が引いた。白井が進路希望調査票に手を伸ばしてきたのだ。
お姉様の進路という事で、白井も興味があったのだろう。しかし見られる訳にはいかない。
第一希望を見られるだけでもアウトなのに、もしもあの第二希望や第三希望を白井に見られたら…
いや、白井だけじゃない。あの第二と第三の希望は誰にも見られてはならないのだ。
特に『不幸を自称するどこぞのツンツン頭』になど、『絶対に見せられない』のである。
美琴は白井が進路希望の内容に目を通す前に、その紙を奪う。

「わーわーっ、待って黒子!!! これは違うのナシナシナシ!!!
 えっと、そ、そう! まだ何も書いてないから!!! 白紙だから見てもつまんないわよ!!!」
「……いえ、確かに欄には何か書かれておりましたが…」

何が書かれていたのかまでは読めなかったが、何かしら書かれていたのは確かだ。
流石の白井も、ここまで様子がおかしければ愛しのお姉様と言えども疑惑の目を向ける。

「お姉様! 一体何を書かれましたの!? 風紀委員権限でお見せして頂きますわ!」
「お、横暴だわ! そんなの職権乱用よ! 絶対に見せないからね!」


一枚の紙切れを巡って、ルームメイト達の争いが始まってしまった。
二人の高レベル能力者が一つの部屋の中でドスンバタンと暴れ回る。
その結果、哀れ進路希望調査票は。

「ああっ!!?」

美琴の手から放れ、ヒラリと窓から落ちてしまった。マズイ。このままでは非常にマズイ。
先程説明した通り、あの紙を誰かに見られてはならない。
大事な事なので二度言うが、『不幸を自称するどこぞのツンツン頭』には、
『絶対に見せられない』のである。『絶対』にだ。
なので美琴は誰よりも早く、その紙を回収しなくてはならない。
そう考えた美琴は、気付けば窓から飛び降りていた。
寮の一階まで降りている時間など無かった。何故なら白井の能力は空間移動だから。
こちらが暢気に階段を降りていたら、白井はとっとと紙を拾ってしまうだろう。
そしてその中身を読んでしまう。それだけは避けなければならなかった。

「おっ、お姉様っ!!?」

白井の制止する声も振り切って、美琴は飛び出す。
そのまま空中で紙を掴み、「っしゃ!」と小さくガッツポーズを取った。
しかしその後がまずかった。突発的な出来事だった為に、美琴は着地の事を考えていなかったのだ。
美琴が住む学生寮は石造りなので、磁力で自分の体と引き合わせる事は出来ない。
しかも下はアスファルトで、運悪く周りにも鉄柱などは無かった。
「ヤバイ!」と背筋がゾッとした美琴。しかしそんな時こそ助けに来るのがヒーローである。

「あっぶねぇなー…何やってんだよ、お前」

ドスンと下に落ちた美琴だったが、その体に痛みはない。
何故ならぶつかったのはアスファルトではなく、そこに偶然通りかかった上条だったから。
上条は窓から飛び出した美琴を見つけるや否や、全力でその着地点まで駆けつけ、
こうして下から彼女を支えたのだ。しかも何気にお姫様抱っこである。
こんなシチュエーション、何とも思っていない相手でも胸がキュンキュンしてしまうのに、
もしも好きな相手にされてしまったら、もうまともに顔も見れなくなってしまうだろう。
それと関係あるのかは分からないが、美琴は顔を茹で上がらせて、
上条とまともに顔を合わせる事なくそっぽ向いてしまう。
一応は「ありがとう」と感謝の言葉は忘れなかったが、まるで蚊の鳴く様な声だったという。
上条は溜息を吐いて、そっと美琴を下ろす。すると、美琴の右手から何か白い紙が落ちた。
それは先程、美琴が決死の覚悟で掴んだ物だった。
白井に読まれるのを恐れ、窓から飛び出してでも真っ先に回収したかった紙だった。
しかし美琴は落ちた所を助けられたという吊り橋効果でドキドキ。
そしてお姫様抱っこで更にドキドキも二倍になっていて、頭がポワポワしていたのだ。
つい右手の力が抜けてしまい、あれだけ頑張って掴んだその紙を落としてしまったのである。
だがそんな事情など知らない上条は、その紙を何だろうと思って拾ってしまう訳だ。
ついでに何気なく、その内容を読んでしまう訳だ。
美琴が『不幸を自称するどこぞのツンツン頭』に『絶対に見せられない』と思っていたその紙を、
偶然にも『不幸を自称するどこぞのツンツン頭』な上条が、である。
すると何の気なしにその紙を見た上条の顔が、徐々に赤くなっていく。
上条は動揺しまくりなのが丸分かりな程に声を震わせながら、それでも美琴に問いかける。

「えっ…いや、あの……み、みみ、みこ、美琴さん…? これは一体…」
「………はぇ?」

美琴は未だに頭がポワポワしており、気付いていなかった。
その進路希望調査票が、上条に読まれているという重大な事実に。
だがそんな時間稼ぎも数十秒程度だ。数十秒後、美琴はそのとんでもない事実に気付き、
自分だけの現実は完全に崩壊する事となる。


第二希望:当麻のお嫁さん♡
第三希望:当麻との赤ちゃん♡


と書かれた箇所を読まれてしまった事によって。











ウィキ募集バナー