とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある妄想の家族計画




美琴は上条が通っている高校の校門前で、彼が来るのを待っていた。
と言っても今日はいつものように非公式【ぐうぜんとおりかかった】ではなく、公式【かみじょうからのよびだし】だ。
もっとも理由は『お一人様一パックの卵を二つゲットする』という、
言ってみれば上条さんのお約束のオチだったのだが、美琴はそれでも嬉しいのである。
上条の役に立てる+ちょっとしたデート気分。美琴にとって、これ以上の幸せはないのだ。
流石にもう少しくらい高望みしてもいいと思うが、本人が満足そうなので良しとしよう。

上条を待っている間、美琴は暇つぶしに携帯電話を弄りながらネットニュースを読んでいる。
そんな中、『人気急上昇中のアイドルが10代で結婚した』という記事に釘付けになった。

(結婚かぁ……)

読みながら、美琴はポワポワポワンとある妄想をする。
脳内の自分がウエディングドレスを着て、海の見えるチャペルでたたずんでいると、
真っ白なタキシードを着た新郎が優しく抱き締めてくるのだ。
お相手は勿論、いま美琴が現実空間【こうもんのまえ】で待っているツンツン頭である。
彼は美琴の顔にかかっていたベールを摘み上げ、そのままそっと口付けすると、
『これからも、ずっと美琴の事を愛し続けていいかな…?』、と囁く。
そんな小っ恥ずかしい妄想をしながら、「えへへ~…」とだらしない笑顔を晒していると突然。

「悪い! こっちから呼び出したのに遅れちまって!」

遅れてきた上条が、校門を通りながら美琴に話しかけてきた。
どうやら補習授業が思っていたよりも長引いたらしい。
対して、急に声を掛けられた美琴は思いっきり妄想を引きずってしまい、

「ここここちらこそ不束者ですがっ!!!?」

と訳の分からない返事をしてしまった。
だが美琴の挙動不審【テンパリ】は毎度の事なので、上条はあまり気にせずスルーする。
だが次の瞬間、今度は上条が訳の分からない事を言ってきた。

「じゃあ、行こうか。母さん」
「……………へ?」

突然の『母さん』呼びである。
実は上条、補習が終わって帰り支度をしている間、母・詩菜から電話があったのだ。
内容は大した物ではなく、最近学校ではどうだとか、ちゃんとご飯は食べているかとか、
美琴さんとは仲良くやっているのかとか、美琴さんの事はどう思っているのかとか。
若干話題に偏りはあったものの、一般的な親子の会話をしたのである。
さて、ここからが問題なのだが、皆さんにも一度は経験があるだろう。
先生の事を「お母さん」と呼んでしまう、小学校あるあるな失敗談が。
つまり上条がやってしまったのはそれなのだ。詩菜と会話したばっかりだった為に、
美琴の事を「母さん」と呼んでしまったのである。しかもその事に、上条本人は気付いていない。
しかし「母さん」と呼ばれた美琴はどう思うだろうか。美琴は学園都市第三位の演算能力を使い、
彼が何故自分の事を「母さん」と呼んだのか、その答えを導き出す。

(えっ、えっ!!? な、きゅ、急に何言ってんの!!?
 ま、まままままさかプロポーズ的なそういうヤツっ!!!?
 し、しし、しか、しかも『母さん』って、も、もう子供がいる設定じゃないのよっ!!!
 いいい、いくら何でも、気が早すぎるわよ馬鹿あああああ!!!!!)

やはり先程の妄想を引きずっているらしい。美琴は顔を真っ赤にして叫んだ。

「い、いいい、言っとくけどっ!!! 男の子と女の子、どっちも欲しいんだからねっ!!!!!」
「えっ!? 何が!!?」

お互いに、微妙にかみ合わない二人である。美琴が急に子供の話をしたので何事かと理由を聞くと、
美琴は上条が「母さん」呼びした事を指摘した。

「あ、あー。そういう事か。全っ然気付かなかった…実はさっき母さんと電話してて、
 それで多分美琴の事を『母さん』って言っちまったんだと思う」
「あ、な、なるほどね! 私はてっきり……ごにょごにょ…」

後半は小声でごにょごにょだったので、美琴が何を言ったのか聞き取れなかった上条。
が、やはり上条は気にせず(気にしろよ)、スーパーに向かって歩き出す。
しかし歩きながらも世間話は続行する訳で。

「にしても子供かー…美琴って美鈴さんにソックリだし、
 将来子供が出来たら、やっぱり美琴【ははおや】に似るのかね?」


すると美琴は、上条と、その父・刀夜の顔を思い浮かべる。

「いや~、アンタもパ…お、お父さんの血を色濃く継いでるみたいだし、
 アンタ似って可能性もあるんじゃない?」

一瞬だけ「パパ」と呼びそうになったが、何とか誤魔化した美琴である。
心の中で「女性に対するフラグ能力も受け継いだら困りモンだけど」と付け足すが、
それどころではない事に美琴自身も理解してはいなかった。
彼女の失言に対し、上条は当然ながらツッコミを入れる。

「……え? 何で俺の子供の話になってんだ?
 美琴の子供がどうなるかって話をしてんじゃなかったっけ?」

あまりにも当たり前の疑問。美琴は再び顔を赤面させて、必死に弁解する。

「びゃあああああああああ!!!!! ちちちち違う違う違う違う!!!
 べ、べべ、別にアンタ以外の男と結婚するつもりはないとか、
 そんな事は全然言ってないんだから勘違いするんじゃないわよっっっ!!!!!」

誰もそんな事まで聞いていないのだが、勝手に墓穴を掘る【じぶんからパニクる】美琴。
何をやっているのか、このお嬢様は。流石の上条でも、ここまで様子がおかしければ疑念を抱く。

「…? どうかしたのか? 体調が悪いなら無理して俺に付き合う事も―――」
「何でもないわよっ! アンタと付き合うくらいいくらでも……
 あっ! つつ、付き合うって言っても買い物の事よ!? 買い物の!」

他にどの『付き合う』があるというのか。ともあれ、誤魔化せた事は誤魔化せたようだ。
上条の方も、腑に落ちないが一応は納得したらしく、「そ、そうか。ならいいけど…」と一言。
しかし先程のように厳しいツッコミを入れられると面倒なので、美琴は強引に話を変える。

「そ、そう言えば今日買う卵っていつもよりも安いの?」
「ん? ああ…ちょっと待てよ?」

すると上条は、学生鞄から一枚のチラシを取り出した。
これから行くスーパーの物なのだが、学校にまで持って行くなよと思わなくもない。

「そうだな。普段の特売よりも20円前後も安いよ。だから二人で買って………あ」
「…『あ』って何よ」

嫌な予感がしたので尋ねてみると、上条から予想だにしない言葉が返ってきた。

「いやー…お一人一パックだと思ってたんだけど、
 今よく見たら一家族一パックだった…道理で20円も安い訳だわ……」

一家族いくつまで…たまにスーパーにあるトラップである。
個人ではなくグループで精算される為、何人で買い物に行ってもお得にならないのだ。
何度もレジを通るのなら話は別だが、それが出来ればそもそも助っ人【みこと】を呼び出していない。

「ごめん美琴! せっかく来てくれたのに無駄になっちまった!」

両手を合わせながら頭を下げ、必死に謝罪する上条。
だがそんな上条を怒るでもなく、美琴は何故かチラシを見ながらニマニマしていた。

「一家族…家族、ね。ふ~ん、私とアンタがね。へぇ、か・ぞ・く…ねぇ~♪」
「……あの、美琴さん?」
「なぁに? ア・ナ・タ♡ なんちゃってなんちゃ…って…? ………ハッ!!!」

ここで、妄想と現実がごっちゃになっていた【トリップしていた】事に気付く美琴である。

「にゃあああああああああああぁぁぁぁ!!!!!
 いや、あの、その、これは、えっと、と、とにかく違うわよっ!!!?
 わ、わ、私とアンタが……ふ…夫婦っ! としてスーパーに行くとか、
 そ、そそ、そんな訳ないじゃない!!! せいぜい兄妹とかでしょそんなもん!!!」
「上条さんは何も言ってないのですが…」

まぁ確かに、中学生の制服を着て夫婦もないだろう。上条も冷静にツッコミを入れる。

「うううううっさいわねっ!!! ほ、ほら、もうお店に着いたわよ『お兄ちゃん』!」

結局、終始様子がおかしかった美琴だった。しかも卵は一家族一パックなので、
美琴が付いてくる必要はないのだが、何故か一緒に買い物をしたのだ。
ご丁寧にもスーパーを出るまでの間、妹キャラを維持しながらである。
別に徹底して妹を演じる必要など皆無なのだがしかし、それはそれとして、
店内で美琴から「お兄ちゃん」呼びをされ続けた上条は思ったのだった。

(ツンデレ妹…か。上条さん、そういうの嫌いじゃない)

寮の管理人のお姉さんを好きな女性のタイプだと豪語する上条に、新たな性癖が加わったのである。










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