とある王様の未来日記
「悪い、美琴。待たせたか」
「なははっ! おごりけってー」
上条の不幸体質は美琴もよく知るところであり、彼が遅刻してきた事に対しても慣れた反応である。
とは言っても、時計の針は待ち合わせの時間ピッタリを指しており、
美琴が約束の時刻よりもかなり早く来ていた事が窺える。上条は軽く溜息をつき一言。
「たくっ、待ち合わせの時間には間に合ってるのにな」
だが美琴が予定よりも早く来ていた事は、ある意味では仕方ないのだ。
何故なら今日は―――
「いいじゃない。デートなんだし」
「わかってるよ」
そんなほんのりと甘い空気が流れる中、二人はそっと手を握った。
「ぴゃああああああああああああああいっっっ!!!!!」
「おうわっ!!? ビックリした!」
が、手を握った瞬間、美琴は顔を瞬間沸騰させて手を離してしまった。
デート開始から数十秒、すでに美琴は「ふにゃー」寸前である。
そんな様子を背後から観察する、3人の影が。
「ありゃりゃ…歩いて数歩で限界が来ちゃったか」
「お二人の…特に御坂さんの性格からすれば、よく頑張った方ですよ」
「ぐぎぎぎぎぃぃぃぃいいい!!!
お姉様の柔肌に触れるその役目、本来はわたくしのモノでしたのにいいいいい!!!
あんの類人猿、今すぐ海に沈めてさしあげたいですのおおおおおおぉぉぉ!!!」
「白井さん。まずは血の涙を拭いて、そしてもう諦めてください」
「そうだよ白井さん! ちゃんと誓約書に、
『王様の言う事には逆らわない』って書いたんですから! サインまでして!」
「……わたくしは未だに、貴方達二人が共謀して、
わたくしとお姉様を罠に嵌めたのではないかと疑っておりますのよ…?」
「ギクリンコ」
「あっはは~、そんな事ないですって♪」
「その佐天さんの笑顔が既に怪しいんですの!
今、思えば全てあのファミレスでの出来事が原因ですの…」
「分かりやすいあらすじの導入、ありがとうございます」
◇
それは二日前の事だった。いつものようにファミレスに集まった4人組は、
いつものようにダラダラと女子会のようなそうでもないような雰囲気でテーブルを囲んでいた。
そんな中、話題提供に定評のある佐天が、こんな話を振ってきた。
「そうだ! 王様ゲームでもやりませんか!?」
あまりに唐突である。最近では、合コンでもあまり見かけなくなった王様ゲーム。
それをやろうと言っているのだ、このJCは。まぁ、暇つぶしにはなるだろうが。
この場でも色々とツッコミは出たのだが、なんだかんだで結局やる事にはなった。
しかし佐天の提案した王様ゲームは、普通の物と少しルールが違っていた。
「えっ!? 王様になれるのは一人だけ!?」
「そうなりますね。泣いても笑っても一回勝負です。
ただし王様は何度でも命令する事ができて、しかも当然ですが命令は絶対です」
本来の王様ゲームは、くじを引いて王様になった者が、何か簡単な命令をする。
だが一度命令をしたら王様の権利は剥奪され、また全員でくじを引く…を繰り返す物だ。
しかし佐天の提案した王様ゲームは、王様は正に王様で、
一日のウチに何度も命令をできるというローカルルール【おれルール】である。
なんとな~く嫌な予感がした白井は、佐天に対して釘を刺す。
「…何を企んでおりますの? 佐天さん」
「やだなぁ、何も企んでなんかいませんよ~」
ヘラヘラと笑う佐天に、嫌な予感は益々広がっていく。だがここで、初春からの援護射撃【あくまのささやき】が。
「……って事は、王様になれれば御坂さんも一日自由に出来る訳ですね…?」
その呟きにビクッとしたのは、白井と美琴。前者は良い意味で、後者は悪い意味で。
「えっ…え!!? いや、な、何をさせる気なの初春さ」
「やりますのおおおおおおおお!!!
わたくしが王様になって、お姉様にアレやコレやな事をゲッヘッヘッヘッヘッヘ!!!」
「何させる気なの黒子ぉぉぉおおおおおお!!!?」
とまぁ、そんな経緯で全員参加(美琴は強制的に)する事になった訳だ。
しかもご丁寧にも、『王様の言う事には逆らわない』という誓約書まで用意しており、
そこにサインまで書かされた。もう逃げ道はない。
だが白井がくじを作る為の割り箸を手を取った時、初春がストップをかけた。
「白井さん! お店の備品を勝手に使っちゃダメですよ!
それはお客さんがご飯を食べる為に置いてある物なんですから!」
「あ、ああ、そうですわね。わたくし、少々興奮して判断力が鈍っておりましたの。
深く反省いたしますわ」
「判断力が鈍るくらいに興奮してたって、だから私に何を命令するつもりなの!」
もはや、誰も美琴のまともなツッコミに反応しない。
ここにいる3人は、それぞれ違った意味で美琴を『どうにかしよう』と企んでいるのだから。
「ですが、ならばくじはどのようにして用意しますの?」
「あっ! じゃあ白井さんの金属矢を使えばいいんじゃないですかね?」
佐天の提案は、白井がいつも常備している金属矢を4本取り出し、
1本だけ先端部分を赤く塗る。それを割り箸の代わりにしたらどうか、という事だった。
白井からすれば、それは言ってみれば仕事道具に他ならない筈なのだが、
お姉様をアレやコレやしたいという妄想に駆り立てられ、
妄想が暴走してしまい冷静な判断の出来なくなっている彼女は、アッサリと了承した。
「いいの!!? ねぇ、いいの!!? 何かトントン拍子に話が進んでるけどっ!!!」
もはや、誰も美琴のまともなツッコミに反応しない。
ここにいる3人は、それぞれ違った意味で美琴を『どうにかしよう』と企んでいるのだから。
白井から金属矢を受け取った佐天は、その内の1本の先端を赤いマジックで塗る。
しかし塗装が終わった瞬間、
「うおっと!?」
手を滑らせ、自分が注文していたアイスコーヒーの中にぽちゃんと落としてしまった。
「そそっかしいですわね、佐天さん」
「えへへへ…すみません。じゃあまた落とさない内に、矢は初春に渡しときます」
アイスコーヒーの海に落ちた矢を拾いながら、平謝りする佐天。
本人の言う通り、金属矢が全て初春に預けられる。
確かに、くじを持つのが初春ならば安心だ。佐天は極めて怪しいが、
初春は比較的中立な立場なので、不正を行う事もないだろう。
…ここまで全て佐天のシナリオ通りなのだと、知る由もなく。
「じゃあ、あたしから引いていいですか!?」
くじ引きの準備(美琴のみ、心の準備が間に合ってはいないが)が出来たので、
さっそく王様ゲームが開始された。くじを引く一番手に名乗りを上げたのは、
面白い事好きな佐天である。つまり、このゲームの言い出しっぺだ。
佐天は初春の持つ4本の矢から1本を選び、それを抜き取る。すると…
「うおっしゃ~! 当ったり~♪」
「「なんですとぉぉおおおお!!?」」
美琴と白井が、同時に立ち上がった。
佐天が引いたのは紛れもなく、先端が赤く塗られた金属矢だったのである。
お気付きの方も多いと思われるが、これは佐天による自作自演の酷いやらせである。
そもそも前提として、初春が不正を行わないというのが間違いなのだ。
何故なら彼女も、佐天と共犯なのだから。
実は佐天が王様の矢をアイスコーヒーまみれにしたのも、その作戦の一つだった。
金属の当たりくじは急激な速度で冷やされ、4本の中で1本だけ、他よりも温度が低くなったのだ。
白井が割り箸を取るのを止めたもこの為だ。割り箸に使う木材は熱伝導率が低く、
少しアイスコーヒーに浸しただけでは冷たくならない。だが逆に金属はすぐに冷えてくれる。
そして4本の矢を手渡された初春の能力は『定温保存』。
持っているものの温度を一定に保つという、使い所のよく分からない微妙な能力である。
しかし今回はそれを活躍させ、手に持った4本のくじの温度を、
佐天から手渡されたままの状態で維持していたのだ。後は佐天が一番最初にくじを引くだけでいい。
他の3本よりも冷たいくじを引けば、確実に王様になれるのだから。
まんまと騙された美琴(白井も騙されたが)に、佐天は堂々と命令する。
「じゃあ今から、上条さんとデートしてもらいます!」
◇
で、現在に至る。
ちなみに王様ゲームと全く関係のない上条をどう呼び出して、
しかもどうやって美琴と強制デートへと引きずり込んだのかであるが、
佐天が普通に上条へと電話をしたのだ。その内容は大体こんな感じだった。
「そう言えば大覇星祭の時あたしがお守りを貸したお礼、まだ貰ってませんでしたよね?
えっ? いやいや、フォークダンスは御坂さんと踊ってたじゃないですか。
あたしとじゃないですもん。で、今からその借りを返してもらおうかと思いまして。
そうですね…今からあたしの言う通りに、デートしてもらいます。
はい? ……あははっ! いえ、デートの相手はあたしじゃないですよ! 御坂さんです!
…え? それじゃあフォークダンスの時と同じじゃないかって?
……………こ、細かい事は置いときましょう。それで待ち合わせの場所は―――」
上条が断れる立場にないのをいい事、言いたい放題やりたい放題である。
こうして上条は半ば強引に美琴とデートする羽目となり、冒頭での会話に戻る訳なのだ。
「まぁ、今さら何を言ってもこの誓約書がある限りは無駄なんですから、
諦めてくださいよ白井さん」
「ぐっ…! 絶対に怪しいですの……絶対に初春に何か仕込んでましたの……」
「そ、そそ、そんな事ないですよ!」
「そうですよ! そんなに言うなら、ショーコ見せてくださいよショーコ!
王様【あたし】の命令により、初春と白井さん…ついでにあたしは、デートを見守るだけ!
そして御坂さん達は、そんなあたしが監修したデートプランに沿って、
会話や行動まであたしの指定した通りにしてもらうんですから!
名づけて『とある王様の未来日記』です!」
タイトル回収。
◇
~プランA 買い物~
第7学区にあるショップ・セブンスミスト。
美琴は店の中でいい感じに可愛い服を手に取り、いい感じの笑顔で上条に話しかける。
尚、店のチョイスも美琴の行動も、当然ながら佐天の筋書き通りである。
「あっ、ねぇ当麻! これなんかどうかしら?」
「いいんじゃないか? 気に入ったんなら試着してみろよ」
「うん、そうしてみようかな。似合わなくても笑わないでよ?」
「あはは! 何いってんだよ。オマエは何着たって似合ってるよ」
「ヴェあああああああ!!!?」
佐天の考えた台詞の通りなのだと頭では分かっているはずなのに、
それでも顔をボンと爆発させてしまう美琴。こんな爽やかで鈍感じゃない上条とか反則である。
そんな二人を生暖かい目で見守る二人と、嫉妬の炎で焼かれ狂いそうになる一人。
「おおう!? 御坂さん煙出てるね! ダメージ50%って所かな!?」
「上条さんの決め台詞にクリティカル補正が入ったみたいですね」
「グルルルルゥ…! 類人猿の分際でぇえええ…!」
「……白井さんがまた血の涙を流してます」
「こっちはダメージ95%くらいだね」
「それ瀕死じゃないですか!」
3人のこそこそ話が聞こえてきたのか、美琴は軽く3人(と言うよりも佐天)を睨みながら、
手に取った服を持って試着室に入る。
「じゃ、じゃじゃじゃあ、ちょ、ちょっと着てみるわね」
「ああ」
女性服売り場で一人取り残される上条【だんせい】の図。
しかしその後ろ姿すらも、佐天と初春のオモチャとなっている。
何故ならシナリオ的に、試着室から出てきて服を見せる展開は外せないから。
ちなみに白井は悔しさのあまり、本日5枚目のハンカチを噛み千切った所である。
「ど、ど…どう……かな…?」
試着室のカーテンが開き、先程選んだ服を着た美琴が姿を現す。
恐る恐る感想を聞く彼女に対し上条は、佐天の書いた台本通りに褒めようとした。
『へー、いいんじゃないか? 似合ってるな美琴っ』と。
しかし上条が思わず口をついて出てきた言葉は。
「おお! 美琴の私服姿ってあまり見ないけど…うん、可愛いと思うよ。
ギャップ萌えってヤツかな? 上条さん、不覚にも少しドキッとしてしまいましたもん」
ほんのり顔を赤らめながら、まさかの上条の本音【アドリブ】。
素直にサラッとこんな事を言ってきてしまうフラグ男・上条に、
美琴は本日何度目かも分からない赤面をする。
「ばっ、ばばば、馬鹿ぁ!!! 急、に…だ台本と違うこ、事言うの……ズル…い…」
「えっ? あ、や…す、すまん……つい…」
美琴は言わずもがなだが、思わず自分の感想を言ってしまい、しかもその事を指摘された事により、
上条も「カァ…!」と顔を赤みを広げていく。何とも甘酸っぱい空気になってしまった。
そしてその様子を見る3人は。
「ラブコメの波動を感じますのっ!!! 何ですのこの、くっさーな雰囲気は!?」
「おっ! ついに白井さんが白目になったね」
「まぁ、アレを見たらそうなりますよね…見てるこちらも恥ずかしいくらいですし…」
「初春ずっと『ぬふぇ~ぬふぇ~』って言ってたもんね。
でもやってる本人【みさかさん】が一番『ぬふぇ~』だと思うよ。
御坂さんって基本万能な人なのに、上条さんが関わると一転してダメダメになっちゃうからね。
しかも不意打ち的に台本にない褒め方をされたもんだから尚更だよ」
佐天はニマニマしながら美琴の性格について分析し、そして最後に小声で、
しかしギリギリ初春と白井に聞こえるくらいの声量で、独り言を呟いた。
「これは…面白くなってきた」
◇
~プランB 喫茶店~
休憩を取る為に喫茶店に入った二人だが、心が休まる事はなかった。
当然だ。これも全て、佐天の指示なのだから。
そして今も、店内のほかの客から、ジロジロ見られながらザワザワされている。
こんな状況で落ち着ける訳がないのである。
「こちらラブラブドリンクになります」
店員が運んできたのは、お馴染みヤシの実サイダーの上に生クリームとウエハース、
その中にハート型のペアストローが刺さった、見るからにイタタタなジュースだった。
注文したのは上条達【さてん】なのだから店員さんが持ってくるのは当然だが、
恥ずかしすぎて中々注文されず、滅多にお目にかかれないメニューな上に、
これまたトドメとばかりに恥ずかしいメニュー名に、店内はザワついていたのだ。
「まさか本当にアレを頼む猛者カップルがこの世にいたとは…」と言わんばかりに。
完全に見世物の化した二人は、真っ赤な顔で引きつった笑顔を浮かべながら、
ラブラブドリンクをラブラブにドリンクする事となった。
「お、おほほほほ! ととっ、と、当麻! ど、ど、どう!? 美味しい!?」
「あ、ああ、勿論さ! みみ美琴を抱き締めてる時みたいに、と、とても甘いよ!」
「ぶばあぁっ!!?」
何度も言うが、これは佐天が用意した台詞である。
しかしセブンスミストの一件で色々と余裕がなくなり、今もこうして羞恥プレイをさせられ、
いつ「ふにゃー」してもおかしくない状態の美琴は、上条の言葉に過敏に反応してしまう。
結果、口に含んでいたラブラブドリンクは盛大に噴射され、上条の顔にぶっかけてしまった。
「うわわわわっ!!? ごごごごめんなさい!!!」
「あ、い、いいよ。大丈夫」
慌てておしぼりで上条の顔を拭く美琴。
だがジュースは顔だけでなく、服まであちこち濡らしていた。
テンパりながらもおしぼりで上条の全身を拭いていく美琴だが、
余裕がなさすぎて、いつの間にか『そこ』まで拭いている事に気が付かなかった。
「ちょっ!!? 待て待て美琴っ!!! そ、そこは自分でやるから!!!」
「えっ? ……………みゃあああああああああ!!!!!」
『そこ』…つまり、上条の股間部分である。
店内の客達と初春と佐天は、どんだけ高度なプレイだよ、と心の中でツッコミを入れた。
そして白井は……言わずもがな。
◇
~プランC 映画~
『もう俺たち…終わりにしよう。これ以上世間を欺き続けるのは辛いんだ…ッ』
『ただの兄妹に戻ろうっていうの? そんなの辛いわ…ッ』
『俺だって辛いさ…だけどお前には許婚がいるじゃないかッ! 彼と幸せになるんだッ!』
『いやいやッ! 兄さんと別れるなんて辛くて死んじゃうッ!』
『このバカッ! 辛くても簡単に死ぬ…なんて…ガフッ!!!』
『にッ兄さんッ! 辛いなら早く病院にッ!』
佐天からの次なる試練【プラン】により映画館にやってきた上条と美琴。
ここでも二人は、佐天に台本に合わせて恋人っぽく振る舞わされている。
振る舞わされ、そして振り回されている。
映画の内容はビバリー=シースルー監督の「鉄橋は恋の合図」。
どうやらこの映画館で、リバイバル上映されているらしい。
美琴も好きな映画だが、タイトルからも分かるようにバリバリの恋愛映画だ。
巨大スクリーンに映し出される男女の恋愛を観ながら、上条達は手を繋いでいる。
しかも上条が右側、美琴が左側で並んで座ってしまった為、
上条は左手で美琴の右手を握らなければならない。つまり幻想殺しは使えないのだ。
おかげで左手が妙にピリピリしている。美琴が漏電しそうなのを我慢している時の症状である。
そんな二人の危機を煽るかのように、映画は着々と進んでいく。
『余命いくばくも無いけど愛しているぞ!』
『私もよ兄さん!』
『余命いくばくもないのに! 俺でいいんだな!』
『結婚しましょう!』
何だか義兄妹がハッピーエンドに向かってキスをする。
そしてそれを手を繋ぎながら観る、気まずい男女ペア。
(ううぅ…早く終わりなさいよぉ……もう限界なんだから…)
(ど、どう反応すりゃいいんだよコレ…?)
文字通り手に汗を握りながら、ジッと映画が終わるのを待つ二人。
だがこの後、海外映画特有の『あのシーン』が流れ、二人はついに石化する事となる。
美琴は一度観たはずなのだが、そんな事すら忘れてしまう程にテンパっていたのだ。
『Oh yes! 兄さんッ! Oh、もっと…もっと……Yeeeeeeeees!!!』
あのシーン…つまり、内容とは脈絡のないベッドシーンである。
上条と美琴にとって、これ以上の地獄は中々なかったであろう。
◇
~プランD 移動販売のクレープ屋~
ここは美琴達がよく来るクレープ屋。
何を隠そう美琴が佐天と初めて出会った時も、ここのクレープを一緒に食べて仲良くなったのだ。
しかしやはり、ここでも佐天からの罠が待ち構えていた。
上条と美琴はお互いに違う種類のクレープを注文すると、
「は…はい、あ、ああ、あ~~~ん!」
「あ…あ~~~ん! もぐもぐ! お、美味しいなぁ!
やや、やっぱり美琴が食べさせてくれるからかなぁ~!?」
「も…もも、もうやっだ~! そん、恥ずかしい事、い、言わないでよ~!」
「あはははは~!」
「うふふふふ~!」
お約束の食べさせ合いをしている。若干、ヤケクソ気味にも見て取れる。
そして『予定通り』にお互いのほっぺに生クリームを付け合うと。
「うふふ、当麻ったら、ク、クリーム、つつ、つけちゃっテー」
「あはは、そういうみ、美琴もつ、ついてるゾー☆」
二人は願った。もういっその事、ひと思いに殺してくれと。
そして相変わらず、3人はこの様子を見ていた訳だが。
「佐天さん! 白井さんが真っ白になったまま、ピクリとも動きません!」
「ええぇ!!? ど、どうしよう! ってか、何か口から魂出てきてない!?」
こっちはこっちで大変だったりしたようだが、それは置いておこう。
そんな中、街中にあるスピーカーから、チャイムと完全下校時刻を告げる放送が流れてきた。
広場にある時計の針は、すでに18時を回った事を指している。
「おっと、もうこんな時間か。残念だけど、ここまでだね。
御坂さーん! 上条さーん! お二人とも、お疲れ様でしたー!
王様【あたし】からの命令はここまでですー!」
手を振りながら、大声で二人に駆け寄る佐天。
暴君な独裁者による恐怖政治が終わりを告げた事で、上条と美琴はホッと胸を撫で下ろす。
ちなみに初春は今現在、白井の応急救命処置にテンテコ舞い中である。
「にゃ、にゃんら…もうおわりにゃの…?
お、お、おもったより、たいしたことはにゃかったみたいれ……」
「そ、そそ、そう、だな。ま、まぁ、恋人のフリした、だ、だけだもんな」
強がりを言いながらも、しっかりと噛み噛みな二人。
特に美琴などは、明らかに言語中枢に異常が発生している。
だが佐天は、まだ終わりにするつもりなど微塵も無かった。
最後の最後に、とんでもないサプライズ。
「じゃあ最後はキスで〆てください。
あっ、大丈夫ですよ。せめてもの情けで、ほっぺにチューくらいで許してあげますから」
そして美琴は爆発した。