とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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クリスマスの奇跡




12月19日 (月)

12月上旬に、木原唯一と無数のエレメントにより壊滅させられた常盤台は
昨日18日に無事復旧を終えることができた。

学校法人常盤台学園理事会には食蜂が根回しを行い、設計、施工は私御坂美琴の
分担で、大手ゼネコンの見積もりでは最低3月はかかるはずの復旧工事を実質
1週間で、終える事ができた。

私と食蜂は、この襲撃が、あのいまいましい、木原唯一の犯行である動かぬ証拠を集め、アンチスキルに告訴し、最終的に統括理事会が使用人である木原唯一への使用者責任を認め
常盤台学園の損害数千億円を100%負担することとなった。

私がAAAの技術を応用し、建設工事用に組み上げた土木用駆動鎧は通常の10倍以上の速さで工事を進め、常盤台中の生徒ほぼ総出で再建に取り組んだ成果が私の目の前に
現れる。

(本当・・夢みたいね)

あの惨状が嘘のように、荘厳な校舎が朝日に輝く。

疲労は蓄積しているが、一仕事を終えた爽快感に包まれ、校門へ向かう。

そこへ同じく昨日再建が完了した、内部寮から同級生達が吐き出され、私に挨拶
をかわしてくる。前は一匹オオカミとか言われた私だが、エレメント騒動以来
常に先頭に立って陣頭指揮をしたこともあるのだろう、ぐっと距離が近くなった。

(仲間、かな。やっと私もここの輪の中に交わった気がするわ)

その中に食蜂を見つけた時も、不思議と心が安らいだ。
その脂肪の塊も、能力も、ぞろぞろ大名行列のように、派閥メンバーを引き連れて
歩く姿も、全部が嫌だった。だが、非常事態はすべてを変えた。

学校崩壊の非常事態、お互い手を組みなんとか、今日を迎える事が出来たその事実が、今まで感じたこともない、女の友情を感じるほどの関係を構築したかもしれない。

それに、お互いが、お互いの力を認識したのも事実

短期間の再建と、木原唯一の犯罪の摘発は2人の協力なくしてあり得なかった。
電子情報と機械に対して無双な私と、人間に無双な2人の天才(レベル5)の協力
が不可能を可能にさせ、きわめて早期での復興を可能にした。

その事実が、・・・2人が友達と言えるほどの距離感へ近づけた。

「食蜂 おはよう」
「御坂さん、おはよう」
「なんか、こんな普通に挨拶できる関係になるなんてね」
「そうね・・まさか・・私と御坂さんがねえ」
食蜂が少し表情を変える。
「御坂さん、あれどうするの?」
「?」
「いやだあ、呆け力はいいわよ・・AAAの事よ」

「ああ、・・まだ使うわよ」
「正気?御坂さん・・、副作用力は分かっているわよね」
「分かっているわよ。でも・・これを手放すことはできないわ」
「え?」
「きっとAAAがアイツの役に立つ日が来る」

食蜂が呆れはてた顔で私を見つめる、

「でも・御坂さんは1回死にかけたわよね」

私は、「魔術」に触れ、当麻におぶられ意識を失ったあの日を思い出す。
当麻と学園都市を救うために命を投げ出したことを。

「そうね、リスクは否定できない、だけどこれが、絶対アイツの役に立つ」
食蜂は、顔に笑みを浮かべ、上条当麻に惚れ切った私を眩しい目で見つめる。

「御坂さんは頑固ね、でも・・私にはその強さが羨ましいわ」

私は、自分の非力さと、足らざるを自覚させた恩人の顔を思い浮かべる。

食蜂の手を握り、決然と答える。
「私は、常盤台のあの子達も、上条当麻も何があっても守るわ」
「どんな犠牲を払ってもね」

 ・・・・・・・・・・

午前中、講堂で校舎再建記念集会が行われ、私と食蜂が
全校生徒と教職員の満場一致で
表彰された。以前の私なら辞退するような話だが、自分
とともにAAA運用に協力し、常盤台防衛に立ち上り、あの
絶望的な状況でなんとかエレメントを追っ払い、傷ついた仲間を
病院へ搬送し、さらに再建工事に尽力した仲間のために、表彰を受ける。

以前は、自分ひとりで強敵に立ち向かえばいい。そう思っていた。

学園都市の中では、間違いなく、成功した自分。学校教育の
中では、明らかな優等生。
それは、常盤台でも同じ、この学園都市で最上層である
この学校でも「御坂様」である
事には変わらない。

だけど・・それだけじゃ レベル5なんかじゃ全然足りない

上条当麻の対峙する敵のステージは突出して、自分の
超電磁砲では通用しない。
それが、現実。見たくもない不都合な真実。

そんな荒み切った心理状態でつかみ取ったAAA・
それだろう。自分は変わった。AAAを運営する部活を立ち
上げ、学校の協力で整備場
を立ち上げた。

代償は小さくはなかった。木原唯一に敵対し、常盤台は壊滅した。だけど・・

AAAのおかげで救えた命もあったことも事実。
何より、2度もあの上条当麻を救出し、なおかつ、木原唯一にある
程度対抗しえる力を
手にした。それは事実なのだから。

だから・・副作用はあっても私はAAAを使い続ける。上条当麻を
追いかけるために

 ・・・・・・・・・

授業は午前で終わり、久々に上条当麻の学校へ行く。

ここしばらく常盤台再建に全精力を傾けたせいもあり、もう10日も
会っていない。
前の携帯番号へ電話したが、一度もつながらない。

私は、事前に、崩壊したとある高校の生徒たちの避難先を確認し、初春
さんに調べてもらった、当麻の避難先の総合学校へ向かう。

私は、微笑みを浮かべながら、脳裏にアイツの姿を思い浮かべる。

「はあ、何を言えばいいかな」
(そんなことはもうわかりきっている)

「当麻の前で冷静でいられるかな」
(なにをかまととぶっている)

「ツンツンしないなんてできるかな」
(もうそんな無駄なことは言わない)

以前は聞こえなかった、冷静なもう一人の自分が、さっさと行動しろという。

自分の限界を知り、学園都市の異常さ知り、生死をさまよった
自分が、今一つ素直になれない自分に突っ込みをやめない。

単純な話、上条当麻を慕う人間は数えきれない。その一人が告白を
成功させれば、もう
自分には上条当麻を愛することはできない。

「ALL IS FAIR IN LOVE AND WARよね」
「恋愛は勝者は一人、あとはすべて敗者」
「もういつ死ぬかさえ、定かではない身、もう先延ばしはしない」
「それが、彼の慕うすべての女の子を不幸にしようとも、私は先へ進む」

私は、決意を固め上条当麻の元へ向かう。
(それが、どんな結果になろうとも、私は後悔しない)

 ・・・・・・・・・

「ここかあ・・随分大規模校ね・・」

私は、あらかじめ、ネットで申請した、来訪届を携帯情報端末の
画面で見せ、面会室で
待機する。

いまひとつ素直にならない自分は、あのバカと言いかける。
(まったくすぐにため口とツンがでる)
「なんなのよ・・この性格は」
私は溜息をつき、自分のツンな性格を呪う。
( あれだけ昨晩、予行練習したのに・・)

運命の人だと思っても、経験が邪魔して素直になれないなんて・・なんか
の歌詞か。

(ああ・・)
私は、何度も繰り返した、自分の性格分析を再試行する。

(結局・・臆病なだけよね、多分)

私と、アイツ・・上条当麻との関係は喧嘩友達から始まった。
気兼ねなく全力が出せるアイツに私は依存し、絶対能力者進化計画の
悪夢から右手一本で救われたあの日から、・・
はっきり意識はしないけど、愛していたんだ。

それをはっきり意識したのは10月以降だけど、・・・でも8月21日
のあの日から
私ははっきりアイツを運命の人だと意識し始めた。

それを、恋と認識できない幼い私は、偽デートとか、罰ゲームと称して
ラブコメのような三文芝居を、だらだらと続けていた。

私は、甘えていたかもしれない。この三文芝居をきっとアイツが
理解してくれる日がくる。

だけど・・、目の前の・・困っているだれかを助けることを
生きがいとするアイツに
とって私は、助けた一人にすぎない。その現実を私は受け入れることが
できていなかった。

最後に分かれた、あの日だって、アイツを救い、救われたあの日
だって、アイツは結局謎の女を同時に助けていた。
それも・・あの熱波を作り出した・・上里の取り巻きの一人
を。だから・・この膠着状態を打破するには私が一歩動くしかないのだ。

それにしても・・なぜかわからない、口で伝えれば、わずか2文字が伝えられない。
臆病な、見栄っ張りな、不器用な私は、自分のパーソナルリアリティを変容させる
ほどの溢れ出す、莫大な感情を伝えることができなかった。
(でもそんな臆病な自分も今日で卒業)
「だから、今日こそは、・・思いを伝える」

///////////////////////
(それにしても遅いわね)

待合室で待たされること、20分アイツはこない。

(それにしても変ね・・面会自体は今朝事務局へ通しているはず)
(やっぱり変だわ・・絶対変・・)

私は、事務室へ電話をかける。
「すいません、今朝面会を予約した常盤台中学の御坂美琴ですが、とある高校
1年7組の上条当麻さんが面会にこないのですが」

私の、必死さが通じたのか事務局の女性が気を回してくれる

本人の携帯で確認してくれるそうだ

「は。そうですか、では、上条の携帯に電話してみますので
少々お待ちください」

回線ごしに、発信音が聞こえる、どうやらアイツはでないようだ。
私は、アイツがまた何かに巻き込まれたことを悟る。

「すいません、上条は出ないですね・・」
「そうですか、」
「担任の先生には伝えておきますので、少々お待ちください」
「ありがとうございます」

(しょうがない、監視カメラのサーバーをハッキングするか)
私が待合室の監視カメラからサーバーへのハッキングを考え出
したころ、私の携帯へ別の電話がかかってくる。恐らくは、アイツの
担任だろう。私は当たりをつける

「常盤台の超電磁砲の御坂美琴さんですか?上条の担任の月詠です」
「はい御坂美琴ですが」
「実は上条ちゃんが行方不明になりました」
「え?」
(やはりそうか)

「驚かないでください、昼休みに忽然と消えました」
「そうですか・・ご連絡ありがとうございます」
「アンチスキルには通報しましたので、すぐに居場所は判明します」
(絶対にすぐにはみつからないわ)

「本当にありがとうございます」

私は電話を切り、頭を搔き揚げる。
(もう、悲しみに打ちひしがれる無力な少女は卒業よ)

「何があっても、どんな手段を使っても、たとえアイツが拒否しても
私がアイツを地獄の底から引っ張り出す」

 ・・・・・・・・・・・
私は、心を完全武装状態に切り替え、食蜂へ電話を入れる。

食蜂操折が、私と同様にアイツになみなみならない関心を持っていることは
知っていた。

だから、アイツのために食蜂にも動いてもらう・・
(恋愛と戦争は手段を選ばないのだからさ)

「食蜂、上条当麻がXX総合高校から拉致された」
「え?」
「時間がない、今は手を組みましょう」
「え?御坂さん、今なんて?」
「無駄口は後、手分けして、上条当麻を探しましょう」

「随分切羽つまっているのね?」
私は、すっと息を吐く
「なんとなく・・嫌な予感がする」
(まちがいないわ)
「御坂さんらしくないわね、そんな根拠のない話をするなんて」
(アンタもわかっているでしょ、変だってさ)

食蜂が電話ごしに苦笑いを伝える。
「まあいいわ、御坂さんの直観力を信じるわ」

「で、発見したら連絡すればいい?」
「ええ、それでいいわ」

私は、食蜂との通話を切り、意識を脳で感知した無線LANへ切り替える。
(さあ作戦開始よ)

(ちょっと前なら、見境なく、監視カメラを確認したんだろうな )
(でもそんなことは・・もうしない)

思った通り、市販品に毛の生えた程度のセキュリティで、洗いざらい調べることが
できた。この学校のサーバをハッキングして監視カメラのデータを、丸ごと入手して、
前にアクセス経路を確保したアンチスキルのサーバーの顔認証システムで上条当麻の
顔を検索する。

(まあ、発想の転換よね、どうせデジタルデータ、全部一遍に調べたほうがいい)
(あ・・こいつらね・・当麻が拘束したのは)
(あとは、解析ソフトにかけて、人工衛星のデータと照合すれば1時間くらいでわかる
でしょう)

「さあ御坂美琴行動開始よ、アイツを助けるわよ」

続く









クリスマスの奇跡




第02話


12月19日 14時

当面できうるすべての準備を終え、少し時間の空いた私は、上条当麻の学寮へ急ぐ
常盤台のハンガーから土木工事管理用に制作した、飛行用の駆動鎧を遠隔操作で到着
させ、それを見に纏い、一気に到着する。

前に自分用に作成したAAAをさらに、着脱を容易になおかつ、遠隔操作が可能に
なる改良を加え、パーツごとに軽量化を図り、女性である自分が操作しやすいように
最適化を図る。飛行装置も容易に携帯可能なサイズへ圧縮している。

その飛行装置を駆り、1分ほどでアイツの学寮へ到達する。
背中の飛行装置を畳み
アイツの部屋に到着する。

(ここにはインチキシスターがいたはず)

本来なら、恐らくアイツが庇護し、なおかつアイツを慕う爆食シスターは、私
にとって告白をするうえで一番邪魔な存在だ。
(だけど、・・アイツはあのシスターの庇護をやめることはないだろう)

結局もしも本気で告白を成功させようとするなら、あの妖怪爆食シスターごと、上条
当麻を愛するほかに道がない。

心の中の臆病な自分が、ささやく
(このまま、曖昧な関係を続けて、自己満足を充足させるほうがいいんじゃないの?)
(どうせアイツは、鈍感で誰も選びはしない。私が戦力(主に胸)を充足させるまで
明確にしないほうがいいんじゃない?)

だけど、障害を乗り越えなければ、気が済まない、私のもう一つの声が、声を荒げる。
(時間がアンタの味方なんて、そんな幻想にあなたはすがるの?時は万人に平等なの
よ・・あのインチキシスターだって、戦力が整う日が来るわよ)
(それに・・私は一度死にかけた)

私は腹をくくる。この事件が終わった暁には、アイツの心の本音を聴く。
あのインチキシスターとこの場で決着をつける。

ドアは・・
(鍵かかっていないわね・・)
(嫌な予感がする、まさか・・)
外の世界の三文サスペンスドラマでは死体が転がっている場面だ。

私は最悪の結果も、想定しながら恐る恐るドアを開ける。
「お邪魔します」
(やっぱりね・・いないか)

ひととおり部屋を見渡すが、猫一匹いない。
(ちぇ。空振りか・・)荒らされた形跡もなく、どうやら杞憂だったかもしれない。
(まあ・・あのシスターに捜査情報は期待していなかったけど)

分が悪いな・・。誰もいないアイツの部屋を眺めながら私はつぶやく。

食い散らかされた鍋、机の上に乱雑に重ねられた食器、菓子の袋、そして、乳児のような甘い香りのいかにもあのシスターが寝ているようなベット
ここには、幼い子供が日常起居している佇まいに満ち溢れている。

あの銀ギラシスターは、私の知らないアイツを毎日眺め、まるで小鳥が親鳥から餌をもらう
ように自然に啄み、一緒に寝る。明らかに私は2歩も3歩も親密度の点で周回遅れである
事を自覚する以外にない。

幸い・・アイツが無自覚なのが救いだが、いつの日かあのシスターを女として意識する日が来るだろう。

(そうなれば終わりだわ)
私は、乳臭い幼女の匂いを感じながら、自分の立場の薄さを改めて自覚する。
(もう一刻も猶予はないわね)

私が、決意を新たにしたころ、携帯の着信を感じる。
微弱な電圧の変化を感知できる私は、着信音なしに携帯の着信と誰からの発信かを能力で
検知できる。
(食蜂か・・)

「食蜂?何か分かった?監視カメラの検証はもう少し時間頂戴・・で?なんか
分かった?」
「今回の事件を引き起こした奴がわかったわ」
私は、食蜂の情報収集網に舌を巻く。8月に絶対能力者進化実験で、素早い対処で私の
サイバーテロを阻止し、私を自殺同然の特攻へ追い込んだ男。それを手駒に持つ食蜂の
情報収集力は、一学生の枠を遥かに超える。

だが、食蜂を素直に賞賛する気のない私は、蓋然性のあるカマ掛けで対抗する。
「食蜂早いわね、で木原一族の誰?」
「あらあ、だいたい予期していたの? ポルタガイスト事件て覚えているわよね」
私は、8月に超電磁砲でぶっ飛ばしたある女を脳裏に浮かべる。
私は、苦笑いを浮かべる。結局殺すべき時に殺さないとだめなのか?

「あの時、殺すべきだったわね。木原 ライフライン テレスティーナ」
食蜂がクスクス笑う、表の世界の顔の御坂美琴に殺しなどできないと告げるように。
「御坂さんに殺しは無理でしょ、で因縁の女をどうするつもり?」

「ねえ食蜂、アンチスキルに情報提供して解決できると思う?」
「御坂さんもう答えは分かっているじゃない?多くの事件を結局解決した
御坂さんならね・・、
どうせアンチスキルなんて役に立たないとね」

「そこまで馬鹿にはしていないわよ。相手が悪いだけよ。木原一族は一筋縄には行かない」
「で御坂さんに勝算はあるの?」

「愚問ね。この日の為に土木駆動鎧に偽装して戦力を蓄えてきたのよ」
「私の劣化コピーごときに負けないわ」
毒気を抜かれたように食蜂が私の顔を見つめる。
「御坂さんて結構したたかなのね」
「食蜂ほどじゃないわ」

食蜂が、電話の前で笑い始める。
「そろそろ居場所なんてわかったんじゃないの?」
(こいつさすがに勘はいいわね・・それとも合理的な推論?)

「ええ、今データを送るわ。それと・・これは私の喧嘩、助太刀無用、アンタの
とこの子も含めてね、手だしはいらないわ」
食蜂が乾いた笑いで私に言葉を返す。
「私達食蜂派閥が戦闘できないなんて幻想はぶっ壊すわ」

「アイツの真似・・似てないわね・・」
「でも、頑張りましょう、アイツの為に」
/
/////////////////

15時:とある研究施設

(もしも小賢い人ならこんなリスクは負わないだろうな・・)

私は、自分で突き止めた、アイツの監禁場所を見渡せる超高層ビルの屋上で
センサーを操作しながら、独り言を言う。

自分が普通の女性なら、アイツが行方不明になってことをアンチスキルへ伝えて
終わり、そこで一般人としての義務は終わりだろう?

でも・・人任せにした結果が、アイツの死亡・・という結果に終わるなら
私は生きていけるだろうか?

事件は解決しました。でもアイツは死にました、では私は悔やんでも悔やみきれない。

すでに自分だけの現実を覆いつくすほどアイツへの思いが、浸食している現実。
人任せにはできない。
(そのために、力を蓄えてきたんだから)

美琴から見て科学者という人種は、あのバカ・・もとい上条当麻に比べて、種が
自分の知識で対応できるだけ、対処しやすい相手だ。

その打つ手が、電子とか、既存の工学系なら、自分の生の能力で基本どうでもなる。
木原唯一は、美琴が10日前まで種がわからない、謎の力を駆使していたので敗北
を喫したが、
(わかってしまえば・・どうってこともないのよね)

木原唯一の悪行を調べ上げた時に、奴の手口や研究成果を徹底的調査させてもらった。

駆動鎧、AAA、そんなのならどうでもなる。
だけど、
(一番の問題はアイツが人質に取られていること・・よね)
だから・・建設工事用AAAを活用する。

「さあ始めるわよ」

「手始めにまずは目つぶし」

建設工事用に、開発したリモートセンシング装置で走査した、施設のMAP情報をもとに
あらゆる電子制御機器の制御を奪い、稼働を無理やり停止させる。
駆動鎧、ファイバーオーバー、あらゆる精密機器が火を噴き、回線から火花が飛び散る
相手が、兵器の類で武装する限りは私の脅威になりはしない。

発電能力をベースに、マイクロ波・磁場をベースとしたEMP電磁バルス)で機器
を破壊しつくす。さらに、送電線を砂鉄の嵐で断線し、外部電源を奪い、同時に
無停電装置や自家発電装置、
分電盤の制御をネット経由で奪い、施設を無力化させる。
軍隊なら、猟犬部隊なら準備だけに半日かかる作業を完了まで秒単位で終える。

装置に据え付けの警備装置や、AIMジャマ―、キャパシティーダウン木原が小細工に
使いそうな道具の数々、そんなものは種さえ割れれば・・大したことはない。
( それが有ることを前提に叩きつぶす )

ひととおりセンサーで小細工に用いる機材の破壊を確認し、躯体の解体に焦点を移す。
爆破物で自爆テロをされないようにするためだ。

「さあ時間もないし、一気に行くわよ」
( 原子崩しだっけ?)
恐らくは、第4位の能力をベースとしたと思われる、電子が波動と粒子の性格
を持つことを活用した兵器を壁の解体撤去用にアレンジした遠隔操作の装置
で、監禁された部屋の周囲をはぎとり丸裸にする。

メカと一体化した能力をベースとした電子制御は効率的に同時多数の駆動鎧
の遠隔操作を可能とし、瞬間的な躯体解体工事を能率的に実施する。
能力だけでもない、メカだけでもない、AAAの解析で上積みされた力が
ただの破壊ではない作戦を遂行する。

学び舎の園の多くの建築物を解体撤去した、遠隔操作の駆動鎧がテレスティーナの
立てこもるビル効率的に破壊する。廃材を、磁力で周囲に整頓し、研究所は丸裸
になる。

(もともと全部能力でできたことだけど、組み合わせが大事よね)
多くの駆動鎧を能力で遠隔操作し、効率的に同時作動させることで、1国の軍事力に匹敵
するというレベル5本来の力が具現化する。

10秒ほどで、広大な施設は、上半分が消え、見通しがよくなる。

その圧倒的な力で8月に小技で、追い詰められた女を、追い詰める。
キャパシティーダウンや耐電磁装甲を持つ駆動鎧に私は追い詰められた。
私は心の中で、つぶやく
(考えてみれば、そのおかげで、EMP攻撃や砂鉄の嵐を覚えたのよね・・超電磁砲
を砂鉄コーティングして射程を伸ばすとか工夫したのも・・そのおかげかもね)

(さて・・この糞女を殺せればどれだけ楽か・・砂鉄の剣で頭をミンチにしたいくらいよ)
(だけど それをすれば木原唯一の二の舞になる)

私は、当麻の傍で、動きを停止させられた、犯人と対峙する。
「さっさと上条当麻を解放しなさい。もうアンタの手品はネタバレなのよ」
「おとなしく刑務所で刑期を過ごしていればいいものを無駄な努力ね」

電磁パルスとマイクロ波の照射で、動きを止められた駆動鎧を身に着けた、
テレスティーナが、当麻を腕で抱きながら薄ら笑いを浮かべて悪態をつく。

「テメエは、木原唯一に嵌められて、常盤台をぶっ壊されたそうじゃねえか・・」
「いい気味だな・え?」
(馬鹿・・アンタの奥の手なんて全部分かっているのよ)
「私が、いつまでも木原の手の平の存在なんて幻想はぶち壊すわ・・」
「はあ?」

「マグネティク・デブリ・キャノンだっけ・?アンタ自殺はいいけど、他人を巻き込みの
はよくないわよ」
余裕をかましていた、テレスティーナの顔色が変わる。

「え・・テメエ・・なんでそれを・・」
「アンタのやりそうなことはお見通しなのよ」
「アンタの脳波認証をハッキングで無効にしているわ・・」
テレスティーナは最後の切り札を無効にされ悪態をつく
「糞・・テメエ・・実験動物の分際で邪魔しやがって・・」
「その実験動物に2回も完封されたのは誰かしら?」
「後ろ盾がいない今・・アンタにお似合いは電気椅子よ」

テレスティーナが、精神のバランスを崩したような馬鹿笑いを始める。
「悪党をさっさと殺さねえテメエなんぞ怖くねえんだよ」
テレスティーナは突然、抱きしめていた当麻へ顔を寄せる。
「テメエの大事な物を全部奪ってやる・・」
「さらば・・かみ

だが、テレスティーナがその一言を言う時間を与えられることもなく、
蒼天から巨大な電流の奔走が貫く。駆動鎧から顔を出していた彼女にはそれを
防ぐすべもなく、もろくも崩れ去る。

2週間前同じ状況で私は、木原唯一の魔神偽装に取り乱し、AAAに染まることになったが、
その経験が余裕を持った対処を可能にした。
(馬鹿なやつ、駆動鎧を耐電磁装備にして顔を露出させるなんてさ、電流が全部・・自分の
体表を通過するのにさ・・)

「死なない程度には加減しているわ、しばらく寝なさい」
救急車とアンチスキルを手配し、食蜂に電話を入れる。

食蜂はすでに熱波襲来時にテレスティーナの脱獄を手配した、腐ったアンチスキルとその
後ろ盾を摘発していた。学園都市に幅広い人脈を有する食蜂は、容赦なく犯罪を
暴く。その力量に再度私は衝撃を受ける。
(まあ適材適所よね・・敵に回したら恐ろしいわ)

(とりあえず、これで終わりね・・)
後はアイツさえ回復したら、すべて終わる。

私は背伸びをしてその場を立ち去った。

・・・・・・・・・・・・・
19時 病室

アイツはこの前の木原唯一の常盤台襲撃のさいに、私を除くすべての常盤台生がお世話にになった
あの病院に収容された。
本来なら完全下校時間を過ぎ、帰宅しなければならない時間だが、風紀委員経由で外泊届を
申請し、事なきを得る。

医師の話では睡眠薬の効果が19時くらいで切れるという事なので、リンゴの皮を
むきながら待つ。
決死の覚悟で告白をしようとしたのにぶち壊しにされイライラする。
しばらくして意識を取り戻したのか当麻がもぞもぞしだす。

私は、リンゴの皮むきをやめ、当麻の手を握る。
しばらく当麻は蕭然としていたが、やがて意識が回復したのか
しゃべり始める。

「起きた・・?」
「ああ、美琴か・・助けてくれたのか?」
「ええ」
「心配かけてすまないな」
「いや・・でも本当なんともなくてよかった」
「アイツは、テレスティーナは何者なんだ?」

「私に危険な実験を妨害され、収監された学者よ。刑務所を脱走して私と
学園都市へ復讐するためにアンタを監禁した」
「そうか・・でも・・あの熱波の時も、AAAの起動の時も、そして今日も美琴には助けて
もらっている。ありがとな」

顔色を見る限り、恋愛感情とか、関心のある女の子を見る感情ではないだろう。
結局は、喧嘩友達から始まった、信頼できる友人の一人・・それくらいの
感情だろう。このまま話を続けても結局はいつも繰り返し、何も変わりはしない。

(私にはわかる。 これでは何も変わらない)

上条当麻の平常運転は変わらない。
目の前の乙女の身を焦がす熱い思いなど感じとることなどないだろう。

誰が、恩だけで死線をさまようのだ・・

誰が、友情だけで、命を投げ出すのだ・・

(乙女は愛があるから何があっても身を投げ出すのだ)
だから・・私は行動を変える。
(コイツの感情にもう振り回されない。自分がしたいようにする。)
(今しかないわね・・何かが起こる前に)

私は、自分の思い伝えるべく意識を変える。
「私は、アンタに伝えないといけないことがある」
「これは、素直になれない一人の少女の話よ」

私のただならぬ雰囲気に、上条当麻はうつむきながら目をつぶり
話を聞き始める。

「8月21日にアンタに私と1万人の妹達は救われた・・私はアンタ
・・いや上条さんにかえしきれない恩がある」

私が呼び方を変えたことに気が付いたのか当麻が顔色を変える。
いつもなら、何かとちゃちを入れるのだが雰囲気を察したのか何もいわない。

私は、話を続ける。
「上条さんは目の前の不幸な女の子の一人を助けただけと言うでしょう?」
「でも、・・」

私はあふれ出す莫大な思いに胸を焦がし始める。臆病な自分はその思いを上条
さんへ伝えることができなかった。

「最初は、助けられた恩を返すとか、とても自分では太刀打ちできない
一方通行を叩きのめした上条さんへのあこがれだったかもしれない」

「私は、その感情を理解できなかった。私は理解できないまま、上条さん
へ罰ゲームと称して、デートを強制した。ペア携帯電話を契約させた。」
溢れる思いが、涙腺を満たし、目から涙が滴り落ちる。

「これほど、上条さんを思っているのに、素直になれない自分は
・・一言が言えなかった」
「だから・・もう私は自分を偽らない」
「どんな結果になろうとも自分の気持ちに素直になる」
決然と拳を握り臆病な自分と決別し最後の一言を腹の底からいう。

「わた・・私、御坂美琴は・・8月21日にあなたに助けられたその日から
上条当麻を愛しています」

正直怖かった。告白することで、今の儘のあいまいな関係が、
心地の良い、友人以上恋人の居心地の良い空間が壊れることを恐れていた。
(だけど、・・仮に告白したことで壊れるくらいならそんな関係なんかあきらめたほう
がいい)

上条はうつむいたまま言葉を返さない。

いつものお茶らけた雰囲気は一切見せず、沈思黙考を続ける。
客観的な時間なら10秒くらいだろう。だが、その10秒がとてつもなく長く感じる。
緊張が辺りを包み、ピリピリした感覚が全身を覆う。

やがて・・上条はおもむろに口を開く。
「俺は、御坂程、語彙もないし、うまく伝えることはできないと思う。
だけど、今から言うことは・・俺の気持ちだから聞いてほしい」

「正直・・俺は、御坂は凄いいい奴だと思っているし、頼りになる存在だと思っている」
「それだけでなく、何度も助けてもらった、命の恩人でもある」
「だから・・だからこそ簡単に告白を受けてハイと言えない」
当麻が、感情をうまく伝えられないのか、言い淀む。

「それって、・・どうゆうこと?」
「いや・・どうもうまく言えない。御坂という存在は俺にとってそんなに軽い
存在じゃねえ」

「だから・・、悪い・・御坂少し俺の気持ちを整理させてくれないか?」
否定はされてはいないが、今の返答ですぐには納得できるほど人間はできては
いない。だけど・・まあいい・・気持ちは伝えた。

私は若干顔ひきつらせつつ笑顔で答えを返す。

「ハハハ・・アンタらしいわ・・わかったわ、じゃ・・あとで・・・・」

「後、リンゴ切ったから食べてね」
私は自己嫌悪に陥る。確かにいきなり告白したのは軽率だったかもしれない。
(だけど・・まあいい)
少し様子を見よう。私は気持ちを切り替える。

だが、異変はすでに始まっていた。
(ツ・・鼻血・・・)
「御坂・・鼻血がでているぞ・・ま・・まさか又AAAを使ったのか・・?」
別に逃げる必要もなかったかもしれない、だけど、なぜか見られたくなく気持ち
が私を襲う。

「ごめん・・今は一人にさせて・・・」
自分でもわかっている。AAAの副作用を
でも・・力のない私がアイツに寄り添うには、これを否定されたら
アイツの傍にいられない。
私は、いいようもない負の感情に包まれて逃げ去るように走り出す。

続く










クリスマスの奇跡




第03話


12月19日 午後9時 8月21日のあの橋の上

なんでここに来たんだろうな・・?
街をさまよいなぜか来てしまったここ。

なぜ逃げ出したんだろう?
(そうね、多分アイツにAAAを使っていることをやましいとおもっているからかな)

妙に鋭いアイツは、あの鼻血がAAAの、アイツが「魔術」という異形のテクノロジー
の副作用を感知している。それは間違いない。

多分アイツの言うとおりなのだ。学園都市でも殊に電子制御系でトップの自分、御坂
美琴はこんなものに頼らなくも十分すぎる戦力を持っていると・・

10日前の私の状況とは違う。木原唯一を訴追する過程で膨大な情報を入手した私は
迷えるか弱い乙女は卒業した。食蜂に教わり、食蜂と手を携え、木原唯一とその後ろ盾に
完全な報復を果たした。

学校は再建され、その事業の中で私と常盤台生は格段に強くなった。
だけど、そんなものではアイツに全然足りない。
魔神を知った私は、魔神が別世界に隔離されたことを知っても安心できない。

だから・・アイツになんと言われようとAAAを手放すつもりなどない。
だが・・アイツの正論に私は立ち向かえるだろうか?
私はその件については今一つ自分を信用できない。
だから・・弱い自分は、アイツに立ち向かうことができない私は逃げてしまった・・

・・・・・・・・
どこをどう走ったかわからない。気がつけばここへきてしまった。
私の心の闇の中を示すかのように多摩川の川面から欄干を北風が吹き抜ける。
あの晩夏の夜、私は一方通行と言う怪物へ、ささやかな・・でも自分にとっては
最後の特攻をしようとしていた。

今となっては、あの時の心境はどこか悪夢のように漠然としつつあるものの
雷としかいいのようのない飾り物ではない、本気のそれをぶつけた事実だけが
この腕に感覚として残っている。

あの時に膝上の死にかけたでもとても暖かい上条当麻の、一旦止まった鼓動が、滴り落ちる
涙とともに、復活し、命を懸けて化け物へ立ち向かった、魂のやり取りが、心の中でよみがえる。私のクローン 9969人と、そして私を悪意に満ち溢れた学園都市から救いあげた。その大恩に比べたら、何をしても小さく感じてしまうのだ。

私は、いつも彼の為に何かをしようと焦っていた。受けた大恩を1日でも早く返そう
と気がせいていた。だけど、世界の最深部で、そして世界の頂点で戦う彼の姿はいつも
遠く、追いかけては置き去りにされた。

やっとデンマークの雪原でファイブオーバーの大群から彼を守ることで追いつけたと思ったのもつかの間、あの僧正に、そして彼の右手に私の自分だけの現実は木っ端みじんに打ち砕かれた。

あの晩、私はベッドへふさぎ込んだ。
アイツが遠く感じた。所詮自分は、安定戦力の自分は尖った個性がないゆえに彼の力になりえない、周回遅れの存在。もう私は、上条当麻の傍で戦うこともできないのか?
大恩を返すこともできないのか?

本来なら、好きな男に打ち勝ちたいとか、一緒に戦いたいとか、そんなことは
普通の女の子は考えないだろうな・・

(まあ、守られる女なんて、私には似合わないわね)

小学校のころから、男にだけは負けたくなかった負けず嫌いの自分
その負けん気が、私のパーソナルリアリティの根本を形成する。

今もそれは基本変わらない。上条当麻に守られるだけの女になんかなりたくもない。
彼と共に、支え合う関係になりたい。
だから泣いた、あまりに遠いアイツの距離に打ちひしがれた。

だから・・AAAを知り、閉塞が打ち破られた時は本当に嬉しかった。
ためらいはあった。だけど私は一歩を踏み出した。
(そうだから、これを掴んだことは後悔はしない。)

全部は守れなかったかもしれない。失敗もあった、だけど私は一番大事なものを守ることはできた。

(私には全部を守る力はない、だから自分の一番大事なものだけを必死に守る)

私は拳を握り、欄干を軽くたたく。気合を入れなおす。

(そうね、アイツはまだ私を振っていない、だから自分の気持ちだけは確定させない)

諦めない気持ちが今の私を作ってきたのだから。
私はすべてをアイツにぶつける。今度こそ逃げないと・・

気持ちが固まり、ホテルへ向かおうとする。
(今日はもう遅いし・・寮はやめましょう、もともと外泊予定だし)

だが、私が困ったときにいつも駆け付けるアイツは、・・
こんな時も私にとっても都合のいいヒーローをやめなかった。

私が踵を返したその時、息を切らしたアイツが病院を脱走してアイツが
私の視界へ現れる。

そして、・・・アイツは、上条当麻は言い放つ、私の一番聞きたかった言葉を

「御坂美琴・・俺は魂をぶつけに来た、だから逃げるな」
「ええ上条当麻、私も全力をぶつける、アンタをこの場で叩きのめす」

すべてが似通った、本質的にヒーロー体質の2人があの日のように、ぶつかり合う。

・・・・・・・・・・・
その1時間前、病室

御坂美琴が病室を去った後、俺は呆然としてすぐに後を追うことができなかった。
美琴に告白されたという事実が、俺にはすぐに自分のものとして理解できなかった。

ましてやAAAの副作用をちょっと言っただけで美琴が逃げ去るように退出
した事はなおさら理解できない。

(それにしても、告白か・・)

俺が御坂美琴をどう考えているか?
恋愛というものを、不幸という幻想に包まれていた俺には、自分のモノとしてどうに
も実感を持って理解できない。

美琴は、普段は、俺の前では、不器用な情緒も不安定な年相応の女の子だ。
だが、訳もわからず、ただ目の前の女の子を助けた、最初はそんないつもの
俺の日常の一コマにすぎなかった。

だが、・・8月31日にアステカの魔術師に「御坂美琴とその周りの世界を守る」
と約束したその瞬間から運命の糸に導かれるように何かが変わり始めた。

そして・・あの僧正襲来の中、フィアンマという俺が知る限り最強の男が
まったく歯が立たない、危機的な状況で、自分の能力が全く役に立たない状況
で、臆することなく、最善手を模索し続けていた美琴。

美琴は、自分の役割が不満でしょうがないようだが、客観的に見て、あの僧正を
いらいらさせるほど、美琴の頭脳は冴えていた。

何より、あの絶望的な状況で、美琴がいるだけでどれだけ心が落ち着いたか。
魔術の事なら、確かにインデックスやオティヌスはいる。だけど・・あの
状態で、美琴なしにどれだけ落ち着いたか俺にはわからない。

何より、美琴は命を懸け、俺の為にAAAを起動させ、死にかけても、俺の
手を振り払った。
守っているつもりだった。だけど、俺はそれが俺の思い上がりであることを
いやでも認識せざろう得ない。

客観的に、俺は御坂美琴がいなければ、ここにいない。
「何が都合のいいヒーローだ」
俺は手を握りしめる。
「はっきり言って、俺は美琴にとって本当にヒーローなのか?」

俺は、「御坂美琴」という存在に何を感じているのか?
いろいろ考えるが、はっきり思考がまとまらない。
はっきりしているのは、アイツは凄いいい奴だ。どんな状況でも折れず、自分を
投げ出して周りを守ろうとする。善性の塊、いるだけで、心地の良さと安心感と
爽快感を周りにもたらす。

そして俺にとって御坂美琴の存在がとてつもなく、大きな存在であること。
その事実は、はっきりわかる。

だけど、・・それが恋愛対象かどうか・・

美琴を大事な存在に思うがゆえ、俺は簡単に告白を受けいることができない。

とても、身近で頼りになる存在だから、それだからこそ、俺は考え込む。

この学園都市、いや日本という、さらに言うなら世界的に見ても
屈指のお嬢様学校、その頂点に君臨する御坂美琴。

その本物のお嬢様の御坂美琴は、何に恋しているのか?

俺にも、答えは分かっている。要するに、この右手が一方通行を叩きのめしたからだろう。
美琴の目には、俺は地獄の底から引き揚げた、とてつもない能力者・・そう映っているだろう。
だが、美琴の目には、俺の学校の悲惨な日常は見えているだろうか?

御坂美琴の目には、竜王の首を持つ、とんでも能力しか見えてないかもしれない。
それが、俺自身にも制御不能で、簡単には使いこなせない、能力である事さえ、多分
知らない。

だけど・・俺は頬を叩く

結局は御坂美琴に本気の告白にどう考えるかそれだけじゃねえか・

御坂美琴という本気の告白が俺の鈍感な心を揺り動かす。

そして、彼女と積み上げた激動の特に12月以降の日々が脳裏を駆け巡る

そうだな、
俺は気が付いてはいなかった、でも俺も心のどこかで、美琴を求め続けて
いたのかもしれない。
それがどうゆう感情か、俺は知らないだけだったのかもしれない。

だが、今なら言える、俺にとって御坂美琴はかけがえのないそして
俺が命をかけるべき唯一の存在であることを、
だから、・・俺はそれを告げる。

・・・・・・・・・・・・・・・

再び橋の上

私は、上条当麻とあの因縁の橋の上で対峙している。
ある意味くだらない素直になれない男女の意地と意地のぶつかり合い。
だが、その関係も終わりが近づいている。2人ははっきりと、似た者同士
の性根にひかれあい、その惹かれ合う心に気が付こうとしている。

「なあ美琴」
「何?」
私は、当麻が初めて、私を美琴と呼んだことに心音が高くなる。

「俺は、この前までお前のことを異性と思っていなかった」
「ふ・・アンタらしいわね、どうせ喧嘩友達くらいにしか思っていないでしょ」

「はは、確かに、な・・」
「だけど、お前は、いつも俺を体を張って助けてくれた。ロシアでもハワイでも
東京でも、そしてデンマーク、でも」
「何より、熱波でもな・・俺とその仲間をエレメントから救ってくれた」
「本当にありがとうな」

私は胸が熱くなる、手段はともあれ、上条当麻にはっきりと頼っていると
言われた。まだまだその背中は遠く、簡単には届きそうもない。
、だけどしっかりと、一歩づつ、彼の力になれている。
顔を綻ばせ、しっかりと彼に答える。
「ありがとう、少しは頼ってもらえるようになったかな」
「正直、12月以降は美琴がいなければ俺は詰んでいた、それが事実だよ」

私は、当麻のいつもの鈍感さに警戒心をいただきつつ、答えを期待してしまう。
それに、もう曖昧にしたくない。

だが、現実は甘くなく、当麻は私の触れられたくない不都合な真実に触れてくる。

「俺は、美琴を信頼できる友人だと思っているし、とても頼りになる存在と思っている」

「だから、お前にとって不都合な事実でも言わなくていけないと思っている」

私は大凡当麻が言いたいことは理解し、身構える。どちらにせよ、この問題は
避けては通れない。だから私はこの目の前の男を論破しなければならない。
場合によっては殴り飛ばしても

「はっきり言う。もうAAAは捨てろ」
「電子制御系で圧倒的な能力者、あらゆる駆動鎧を制作・運用できる御坂美琴には
無用なはずだ」

私はおかしくなる。そう・・レベル5で済む事態ならAAAなんていらない。
木原唯一の研究成果を調べ上げ、あらゆる小細工の仕組みと制御方法を脳
コピーした今では、大概の敵はどうにでもなる。
だけど・・そんなものは上条当麻の八竜には遠く及ばない。

「心配してくれてありがとう。だけど、まだAAAを手放すわけにはいかないわ」
「確かに副作用はある、死にかけたこともある。だけど、私はこの奥底にある
アレイスタークロウリーも、魔術も全然理解できていないわ」
「そんなんじゃ、魔神達には全然足りない」

・・・・・・・・・

俺は、美琴の心に僧正が残した傷跡の深さに愕然とする。表面上に毅然と、常盤台
中学のエースを貫いている美琴が心の奥底で、魔神に踏みにじられた、自分だけの
現実の喪失感にさいなまされている現実に、身を焦がされる。

「美琴はまだ僧正の事を気にしているのか?」
「気にしていないと言えば嘘になる」
「正直、こんなAAAに頼りたくなるほどね、自分のポリシーをまげてまで、
副作用があるとわかりつつ、でも・・やっぱり捨てられない」

(俺は、美琴が自分だけの現実が崩壊するほどのショックに耐え、必死に周り
の世界を守り続けるようもがき苦しんでいた現実に、その心が痛む)

「私は、AAAに手を出したことは決して後悔しない」
「失敗したこともある。でも、守れた命もある、それに・・」
「常盤台中学の件、覚えている?」

美琴の目が真剣なものに変わるのを俺は見逃さない

「ああ確か校舎が全壊した・・」

俺は、胸が締め付けられる、俺の力不足で、早々にリタイヤし、結局美琴一人に押し付け
てしまった常盤台防衛戦、美琴は絶望的な状況の元、一人で惨劇に立ち向かった。

「私はあの崩壊した常盤台を仲間とともに再建した」
「え?・・」
「私は、自分の力不足で、木原唯一に敗北し、学校のみんなに迷惑を掛けた」
「それを、みんなの支えによって、どうにか取り戻すことができた」
美琴の顔に決意がみなぎり始める。責任感、自責の念、そして悪意や、闇に立ち向かう
「お姉様」の凛とした顔に変わる。

「今の私のパーソナル・リアリティ(自分だけの現実)は、AAAの使用を前提に
最適化している、今更それを捨てることはできないわ」

「それでも・・」

俺は悟る。御坂美琴は、常盤台・学舎の園を守れなかったことを、自分自身の自責の
念として心に深く刻み込んでいる。

(だけど、このままではロシアンルーレットのようにいつか美琴は致命的な重傷を追う)
俺は、美琴にどうにか説得しようと試みる、美琴は本質的には理性的で話せば分かる
タイプの人種だから

だが、俺が言う前に美琴が先に口を開く
「私はね、正直僧正くらいでこんなに取り乱したりしないのよ」
俺は美琴に意外な話に耳を傾ける
「上条当麻の右腕に潜む、八竜の力に絶望させられたのよ」
「私は、アンタの傍にいた、アンタの力に少しでもなれると思っていた、だけど上条当麻
の右腕は、日常の世界に住む私の理解では想像すらできない性質のものだった」
「だから・・こんなものに手を染めたのよ」

俺は、あの誇り高い強靭な精神を持つ御坂美琴を苦しめていたのが俺の右手だった
現実にぶちのめされる。

「だけど、今の私はある意味AAAに救われたわ、これで失敗をなんとか取り戻した
木原唯一の一味を打倒し、壊れた学舎の園の日常を短期間に再建した」
「だから・・これを手放すわけにはいかないわ、何より」
「私は、決めたのよ。上条当麻が、私とその周りの世界を守るなんて幻想は私が
ぶち壊してやるとね」
「神は自らを助けるものにしか手を伸ばさない」
「私が、自分の手で周りの世界を守り、アンタを、上条当麻をその周りの世界ごと守るとね
そのためには手段は選ばないわ」
「もちろん、あのシスターも、元魔神の妖精も猫もね」

俺は、覚悟を決めた美琴のただならない雰囲気に圧倒される。
あの8月21日の橋の上なんて比べようもないほどの圧力を感じる腹をくくった
本気の御坂美琴

学園都市の闇の木原一族の狂気を知り、それでも折れることなく立ち向かうとても
強い少女。あのデンマークの頃よりもさらに科学を極めた女。

だけど・・その少女が本当は性根の優しいただの少女であることを俺は知っている
そしてその少女を何があっても守ると決めた以上は・・

俺は・・・俺がなすべきことは・・ひとつしかない
俺に取って御坂美琴はただ一つの守るべき存在である事実を今告げる。

「美琴、・・俺は・・御坂美琴のすべてを受け入れる」
「お前一人で戦わせない、俺も一緒に立ち向かう、だから」

俺は美琴の前に進み、華奢な腰に手を回す。美琴を引き寄せ、顔をみつめる
こわばった美琴の顔色が驚愕につつまれ、ほのかに紅く染まる

俺は、美琴の端正な顔に頬を寄せる。
「だから・・もう一人で悩むな、命を捨てるなんて言うな」

美琴が万感の思いに、包まれたのか、目から透明な液体がこぼれ落ちる。
よほど耐えていたのだろうか、常盤台のお嬢様たちの前で決して見せることのない
表情を俺に向ける。
やがて少し落ち着いたのだろうか、涙を拭い、端正な顔を作り直す。

そして美琴は形のよい唇を俺の頬に寄せ、意思の籠った声で語り始める。

「当麻はずるいわ・・私の心のなんて、すべて当麻のものよ。8月21日からね」
「だから・・」
「これは、私からのファースト・キスよ」

美琴の、端正な顔、意思の強そうな瞼、その今まで気がついていなかった異性
としての美琴に俺の鼓動が高まる。

(よく見れば、美琴て本当綺麗な女の子だな・・今更だけどな)

俺は、美琴軽く抱擁し、接吻を促す。
美琴が、俺の口に、軽く口を合わせる。

そして・・・

その瞬間、二人の距離が0になる。
2人の口がひとつになる。熱い何かが通い合い、魂が交わり合う
とても似通った、自分の命よりも周りの世界を大事にする2人がお互いを認め合い
一つになった瞬間、感極まった美琴が、その意思の示す凛とした瞼をつぶり枯れたはず
の液体を滴り落とす。

漆黒の闇の中、数々の試練を乗り越えた2人はしばし、お互いの思いを知った喜びに
身を任せ、時の流れに身を任せていた。

だが、・・歩み寄った2人が本当にひとつになるまでまだ、大きな課題が残っている
事を2人はまだ知らない。

だけど、共に手を取り合った2人なら、どんな艱難辛苦も乗り越えるだろう。
2人はそう信じていた。

続く











クリスマスの奇跡




第04話


12月19日 (月)22時 とある高校 学寮前

あの橋での決死の告白から1時間、冷静になった別の自分は、自分の
状況の困難さに頭を抱えていた。

いや・・・本当はとても幸せなのだ。当麻と手を握りながら当麻の学寮へ向かう。

自分の空回りしがちだった労苦は、意地悪な神様の心すら打ち破ったのか
あの・・驚異的な鈍感男の心を打ち破り、ついに私の思いは届いた。

少なくとも、彼も自分の心を受け止めてくれた。
その事実の重みに、私の心は歓喜のワルツに奏でる。

だが・・正直問題は解決したのだろうか?

私が、ただの恋愛脳に侵された夢見がちな乙女なら、問題は解決した・・そう言ってよいだ
ろう。愛しの彼に想いを伝え、彼はそれを受け入れた。
めでたしめでたし・・だが・・

食蜂に言われたが、私はそんなもので満足するにはあまりに、難儀な性格だ。
はっきり言って守られる女なんてそんな関係なら、私はいらない。

どちらかと言えば、私は守られるより、守りたい性格。頼るより頼られたい性格。
いつもの、黒子、初春さん、佐天さんの4人組でもそう、常盤台でも、学び舎の園でも
はっきり言えば学園都市全体さえも守りたいタイプの性格。

それはたとえ対象が上条当麻でも変わらない。

そんな私にとって、AAAを手放すのは、はっきり言って理屈ではわかっても、感情では
納得できないことだ。

前の何も知らない、私ならそんな疑問すら抱くことはなかっただろう・・

だが、12月以降魔神、上里勢力、アレイスター、木原唯一、天使、etc..が跳梁跋扈
する現実を知り、もはや素のか弱い自分には戻りたくとも戻れない。

誰かを守るには力が必要だ。だが・・それはレベル5では到底足りない。
その現実に打ちひしがれたからこそリスクを承知でAAAに手を出した。

(だけど・・当麻に約束した以上AAAなしで私は上条当麻を守らなければならない)

(それに・・)
もっと大きな問題はイギリス清教、必要悪の教会のシスター魔術の最終兵器 
禁書目録との関係を解決すること・・

故人曰く、言うは易く行うは難しと言う。
そう・・今の私がその状況だ。

2つ解決困難な問題を抱えている。
私は、その2つを、解決しなければ先に進めない。

食蜂なら、洗脳して終わりかもしれない。雲川なら曖昧にして、問題をうやむやにするかも
しれない。だけど・・私は逃げない。不器用かもしれない。だけど、これが私の現実なのだから。

覚悟を決め、当麻とともに学寮へ向かう。

卵かかみつきか、それとも泣き落としか・・私はあのインチキシスターと対峙に
戦場へ向かう。

 ・・・・・・・・

対して広くもない学寮の上条当麻の居室
そこへ3人入るとさすがに狭苦しい。

インデックスが、緊張した趣で当麻の顔を見つめている。
いつもなら冗談めかしたことを言って、その場をごまかす当麻もさすがに今日は
言わない。元々デリカシーに欠けきらいはあるがさすがに、この場がどうゆう場面か
理解しているのだろう。神妙な顔つきをしている。

私は、口が重い当麻に変わり、開口一番直球を投げる。

「ねえ、当麻・・ちゃんと話そう、彼女には知る権利があるわ」
「私から全部話してもいいけど・・結局これは当麻の問題でしょ」
「ああ・・そうだな」
「インデックス・・俺は美琴と恋人として付き合うことにした」

静寂が一帯を支配する。インデックスは何やら考え込んでいるようだ。
嚙みつきも、怒りもせず、ただ佇んでいる。まるで来るべき日が来てしまったかの
ように。

インデックスは、鈍感なはずの上条当麻が御坂美琴をしきりに気にかけることに
はっきり気が付いていた。あの熱波の中でも・・そして、その後のごたごたの
中でも。さらにインデックスは、短髪とよぶ御坂美琴が上条当麻へはっきりと
好意を向けていることに気が付いていた。

そんなインデックスにとって御坂美琴がはっきりと告白し、なおかつ当麻がそれに
応えること自体に意外感はなかった。

だが・・

元々インデックスは、誰とでもすぐに親しくなり、すぐにファースト・ネームを呼ぶ
ほどの人物・・だが例外はある。御坂美琴だけは「短髪」と呼び敵意を隠そうとしない。

いや・・おそらく本能的にわかっていたのだろう。御坂美琴の存在が自分にとって
大事な上条当麻を自分から奪いさる可能性のある存在であることを・・

そんなインデックスにとって・・想定はしていたが、来てほしくない瞬間だった。

少し間をおいてインデックスが口を開く。弱弱しくまるで許しでも請うかのように。
「当麻・・私はここに居ていいの?」

当麻が、言葉を選びつつ口を開く。
「インデックスは・・俺にとっては肉親も同じ・・」
インデックスが当麻の顔を凝視している。インデックスは下手すれば私以上に、この
上条当麻に心身ともに依存していたはずだ。そんな彼女にとって、居場所を失うことは
耐えがたいはず、私は同性として彼女の立場に同情を禁じ得ない。
「俺は、お前が居たい限り、ここに居て欲しい」

インデックスが不安そうに声を発する。
「本当にいいの?」

上条当麻が力強く、語り始める。
「インデックスも美琴もどちらも俺にとっては大事な存在だ」
「美琴と付き合うからお前を放り出すようなことは絶対しない」
「だからお前は安心して暮らしてほしい」

私は、少しの落胆と大きな安堵を心の中でつく
(恋する乙女としては、・・敵に塩を送りたくはないけど・・この子が当麻にとって
切り捨てできない存在であることは事実)
(私は・・当麻を不幸にする選択を選ぶことはできない)
私は、目に意思を籠め当麻を見つめる。
(ふふ・・当麻らしいわね。本当・・そうあってほしいと思う私も大概なお人よしだけど)
「美琴・・これでいいよな」
私ははっきりと意思を当麻へ伝える。
「ええ・・。インデックスも私の家族・・それでいいわ、当麻」

「美琴ありがとう。だからインデックスも家族として一緒にいよう」
戦争と恋愛は手段を選ばないとは言う。
本来なら、私はインデックスを追い落とすべきかもしれない。
だけど、私には、インデックスの当麻への思いを知ってそんな選択を選ぶことはできない。
(私はそんなつまらない女にはなりたくない)

それまで、緊張の糸で重くしずんでいたインデックスが目から涙をこぼしつつ、鼻を赤くしながら笑うという器用なことをしながら、私の顔を眺めつつ、抱き着いてくる。
「とうま・・それからたん・・いやみこと・・これから一緒に生きていくんだよ」

私は、インデックスを抱きかかえる。
「ええ・・インデックス、一緒に家族になりましょう」

当麻が私とインデックスを抱きかかえる。まるで・・最初から家族だったように・・
(収まるところに収まったのかしら・・でも・・まだ問題のすべては解消していない。)

能力者にとって一大事のパーソナルリアリティの再構築が残っているのだから。

 ・・・・・・・・・・・・・・
12月24日(土) 16時:とある高校 再建工事現場

「出来たわね・・」
高尾山系に早すぎる太陽が沈みかけその残照が学園都市を照らす。

私は、あの僧正により全壊した、とある高校の解体・再建工事現場で、自分が設計・施工
した作品の出来栄えを確認していた。

もっとも、元がスタンダートを極めたごく普通の校舎のため再建自体に手間はかからない。
費用もたかだか50億円ほど、常盤台の100分の一にすぎない。

費用は、常盤台の建設工事の剰余金が500億円ほどあったのでそれを流用しても
十分賄えたが、食蜂が親船理事と交渉し、統括理事会の予備費で建設することとなった。

ちょっと前までは、とてもお互いに協力するなんて、それが如何に利益があろうとも
やれなかった。だが、強敵にぶつかり学校存立の緊急事態に、2人で立ち向かう道
を選択し今に至る。

その経験が、ごく自然に私の脳裏に食蜂に依頼するという
選択肢を提示する。はっきり言って統括理事会の根回し関しては食蜂の手腕は見事
としか言いようがない。あっさりと必要な物を分捕ってくる。

(まあ私も少しは成長できたかな・・)
(それに・・)
正直な話、いまだAAAなしで、上条当麻のステージに存在する化け物達に匹敵する
自信はないが、学園都市に散在するAIM拡散力場のリソースを使い自分の演算力
をかさ上げする方法はある程度、効力を発揮し、通常より短時間でこの工事を終える
事が出来た。

(通常なら工期1年、どんなにゼネコンをせかしても3月、それを3日でできたのだから)
(そしてそれをAAAなしで達成できた。小さいけど一歩でも成し遂げる事ができた)

常盤台の私の設置した、機械工学部のメンバーが駆け寄ってくる。
先日の熱波以来私とともに、数々の困難を共にした仲間達。
時に、常盤台再建工事に時は、工期が厳しい中、私とともに数々の難問に立ち向かって
くれた。私の同志達に思いっきり握手をする。
(この子達が献身的に尽くしてくれたか、全部予定どおり終わった)

私は声を一人一人へかける。
「ありがとう。みんなの協力で予定通り終わった」

部員達は私をほめたたえる。
「いえ、御坂様のご指導のおかげです」
私は、大げさな美辞麗句に恐縮する。熱波の時も、常盤台再建の時も私への過剰な過信は
結局収まることはない。
(私は、賞賛を受けるほどの人物じゃない。ほかの人よりほんの少し、電子制御や機械
工学に長けているだけが、それに全部を自分一人でやり遂げたわけでない)
(アイツは、神様のような奴に右手ひとつで立ち向かった・・それと比べれば自分なんて
まだまだだ・・でも・・やっぱり少しでもやり遂げたことがうれしい)

私は、簡単に賞賛の声に答える。
「そうね、でもみんなよく頑張ってくれたわ・・建設工事はこれでおしまいだけど、
機械工学部の部活は継続してもいいわよね」

部員全員が私を見つめる。
(でも・・弱い私は、こうやってみんなと力を合わせてこの街の闇に立ち向かなければ
ならない。そのために常に嗅覚を研ぎ澄まし、自分を研鑽して、みんなの模範になら
なければならない、間違っても傷ついても何度も立ち上がらなければならない)
(だがら・・そのためには)

私は、一歩前へ踏み出す。
「これからも、いろいろあるでしょ、だけど皆と一緒に力を合わせて立ち向かって行こう」
「微力な私に力を貸してほしい、私は何があっても先頭に立って戦う」

部員達が感極まったのか目に涙を浮かべつつ、歓声を上げる。
食蜂がみたら派閥の決起集会に見えるかもしれない。そう・・今になってわかる。

古来より、弱い人間は、群れて外敵に立ち向かった。
その群れは、かならずリーダーを必要とする。少しでも能力のあるものは、弱い者の
先頭に立って外敵に立ち向かう。それが世の中の習わし。そして真理。
だから・・私は皆の先頭にたって戦う。命がけで。

(そんなものではアイツの世界には立てないかもしれない・・だけど)
今の私には、一人で全部を解決する力はないだろう。だけど、駆動鎧や木原の
最先端技術、それを運用する、電子制御に特化した頭脳。

それでひとつひとつ問題に立ち向かっていく。自分のやれる範囲で、自分の手で
掴めるものを掴む。これが私の選択。学校教育では天才だが、世界の頂点にはあと
少し能力の足りない安定戦力の選択。

そして常盤台の、学び舎の園の、ひいてはアイツの住む学園都市を守る。
そして、・・本当に困ったときは、・・みっともなくともアイツに頼る。

私は、右手一つで、世界の頂点に立ち向かい、何度も世界を丸ごと救った男を見つめる。
その男は、私の周りに集まった常盤台生に会釈をしながら、私に向かってくる。
気配を察した部員が道をあけ、当麻は私の目の前に寄り添う。

「当麻・・来てくれたの・・」
「ああ・・だけど・・美琴は凄いな・・大人の会社でも半年はかかるものをわずか3日
で、完璧に完成させるなんて」
「ありがとう。でも私一人の力ではないわ、ここにいるみんなのおかげよ」

「みんな・・あ・・そうだな。美琴は現場監督なんだよな」
「ええ、私が図面や工程表、組み立てや打設用の駆動鎧は作成したけど、それの整備
や運用なここにいる皆の協力がなければできなかった」

「だから、・・当麻には常盤台生みんなも褒めてほしい」

「ああそうだな」
当麻が深々と礼をする。自分の学校を再建したお嬢様軍団に感謝の意を込めて。
部員たちは、あの熱波のさいに私が拾ってきた、謎の男が深々と最敬礼を
したことに好奇の目を向ける。

私は部員に声をかける。
「みんなに報告することがある」

「私はある事件で死を覚悟した。その時、巨大な敵に立ち向かい、私を闇の中から
引き上げてくれたのが、こちらの上条当麻さん」
「上条さんは、私の命の恩人で、私は上条さんに救われました」
お嬢様たちは、私の意外する告白に驚愕の表情を浮かべる。
当麻は当麻で私の突然のカミングアウトに、思考を停止したような唖然とした表情を
見せる。
「美琴・・?」
私は、一気加勢に話を続ける。

「それだけではなく、大覇星祭、9.30事件、第3次世界大戦、東京事変、12月の僧正事件以来の大熱波事件、そのすべてで彼はその身ひとつで、学園都市を守ってきました」
「私には、上条さんのように右手一つで、学園都市を救う能力などありません」

「ですが、こんな微力な私でも、クリスマスの前に何か一つでも恩を返すことが
できるのでないか、そう悩んでいました」
「そんな中で、先日以来皆さんと、一緒に取り組んできた常盤台再建工事」
「私にも、できることがあることに気が付きました」

「常盤台を再建した皆さんにわかるとおり、学校は、学生にとって心のよりどころ
です」
「彼の学校は僧正の無差別攻撃により、崩壊させられました」
「彼は心のよりどころの学校を失い、いまだに別の学校に間借りの身です」
「本来なら学園都市は、恩人である彼の学校を最優先で再建するべきなのに
彼の学校は高位能力者偏重という学園都市の偏った政策によりいまだに正当な扱いを
受けず放置されていました」

振り絞るように話を続ける。

「微力な私にとって、彼への大恩を返す機会はこんなことくらいしかありません」
「私が、今回この学校の再建工事を皆さんとともに始めたのも少しでも大恩ある、
上条さんへ感謝の気持ちを込めた、実施しました」

私は、みんなが話を咀嚼できるように敢えて間をあける。
そして思いをはっきりと告げる。
「本当に多忙な中、私の勝手な思いに、協力してくれてありがとう」

私は深々と部員の前で頭を下げる。

「最後に、私の今の思いをみなさんに伝えます」

「私は、命の恩人、そして学園都市とともに私達全員を救ってくれた上条さんへ
心より感謝します。そしてこの学校は私達から上条さんのへ感謝の気持ち
です。いまこそ上条さんへ感謝の気持ちを伝えましょう」
唖然としていた部員達は、上条当麻を賞賛し、たたえ始める。
ネットやSNSでほぼ完成を聞きつけたほぼすべての常盤台生や教師、そして
とある高校の面々が満場一致で拍手を送る。

(これこそが、私から上条当麻への感謝の気持ち、そして、AAAを手放した私の着地点)
(本当に小さな一歩だろう。だけど・・これこそが、私にとってのクリスマスの奇跡)
(臆病な私が、胸襟を開き、告白し、そして彼の日常を必死に自分の仲間とともに
取り戻した)

彼が、上条当麻が私の手をとりそして、深々と礼をする。
そして訥々と心境を語り始める。

「まず初めに、美琴は思い切り美化したけど・・俺はただのレベル0だ」

「成績もさえない三流学校の平凡な普通の高校生」
「美琴が言った数々の戦績は、決して俺一人の力で成し遂げたものではない」
「ここにいる学園都市の多くの人、とりわけ・・」
俺は美琴の目を見つめる。
「美琴には危ないところを何度も救ってもらった」

「それに、美琴は返しきれない大恩と言った。だが・・僧正以来、いつも美琴は
体を張って、俺の為にそして学園都市の為に戦っていた」
「正直、美琴がそして常盤台の皆さんがここまで必死に俺たちの学校再建に取り組んで
くれたことに言い尽くせないほど感謝している」

「俺は・・まず、常盤台中学の皆さんに心から御礼を申し上げる」

俺は美琴の手をとり、自分の思い人となった少女に感謝を心からはっきりわかるように
しぐさで示す。

「そして12月以来全身全霊学園都市の危機為に勇気を振り絞り、立ち上がった、御坂美琴
へ感謝の意を示しそう」

周囲の、聴衆が万来の拍手で同意を示す。
さらに当麻が話を続ける。

「俺から見て、美琴は紛れもなくヒーローだ」
「俺はそんな美琴を心から・・愛している」

俺は美琴の背中に手を回し、抱擁する。御坂美琴の不器用な、だが真摯な思いは、鈍感
大王の心を貫いて彼女の恋心を認識させた。そして、彼の口からはっきりと明確に思い
を聞けた。集まった、関係者の拍手は鳴りやむことはなく、この小さな奇跡を祝福するようだ。その昂揚した気持ちの中で私は当麻に抱擁されながら滲み出る女としての幸せを
心から満喫する。

私は当麻に精一杯の謝意を締めす。
「当麻・・本当にありがとう」
そして、一息ついて、深々とお辞儀をして感謝を示す。

関係者の拍手は、しばらく止むことはない。
今生まれたカップルの将来を祝福するかのように。そしてそのカップルが、混迷する学園都市を照らす新たな光の象徴であることを示すかのように。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
12月24日 (土)18時 展望レストラン 特別室

私は、1月の前にあらかじめこの日の為に予約していた特別室に当麻と入室する。
インデックスは、しっかり事情を説明し、納得の上月詠先生と焼肉パーティに
行ってもらった。正直2人には悪いことをしたが、今日だけは当麻と今後を語り
会いたいので、気持ちを伝え相応の費用を負担した上で了解してもらう。

50階の窓の外には、夜景が広がり、東には新宿新都心や東京駅周辺のビル群まで
見える。机の上にはクリスマスケーキと、贅を尽くした料理が運ばれる。

最先端兵器や、駆動鎧、そして生身で10億Vの最大規模の雷に相当する
電力を扱う超能力者であっても、本質は乙女な私、ロマンチックな場所で
告白にあこがれがあった。

「当麻、本当にありがとう」
「美琴・・びっくりしたぞいきなり公の場でカミングアウトして」
「ごめんなさい。でも・・当麻への気持ちを隠すことはできなかった」

「美琴は、まだ僧正の事がトラウマなのか?」

「気にしていないと言えばうそになる。だけど・・いやだからこそ」
私は腹に力を籠める。
「トラウマの元をもとに戻した。」
「そうか・・美琴らしいな。AAAを止めるために俺の学校を再建するとか
やっぱり美琴はスケールが違うよ。俺と違ってな」
一歩を超えて私は素直に、そして正直に答える。
「まずは褒めてくれてありがとう。」
「でも、当麻には全然かなわないわ、世界をまるごと救う当麻には」
私は、アップルサイダーを飲みながら当麻を褒める

「美琴は・・俺に夢見すぎだよ。」
「はっきり言えば俺の右手に」
私は当麻の顔を凝視する。いつにもない真剣なまなざしに心打たれる。
その熱い視線に心を震わせながら言葉を発する。

「当麻はいつも言う。不幸だ・・神の加護さえ打ち消す右手で幸福をも打ち消すと」
「でもね。当麻・・私はその右手に救われたのよ」
「妹も、学園都市も・・いや世界さえも」
私はさらに言葉を続ける
「もちろん・・当麻の右手の限界も知っているわ・・」
「それが無敵でないことも、当麻に多くの不幸をもたらしたことも」
「八竜を当麻の意のままに操ることができないことさえもね」

「私は、当麻と違って、一人で世界を救うことなんかできない」
「だけど、・・自分の周りの世界ぐらいは自分で守る、インデックスも当麻も
守る。いつかは学園都市そのものだって守れるようになる」
「当麻の不幸も私も背負う、一緒に不幸に立ち向かいましょう」

当麻が、嘆息したようにしゃべる
「美琴は・・本当に前向きで強いな・・」

「でも・・無理しなくていい。あ・・美琴に期待しないわけじゃない。もちろん
美琴の能力のすごさや、強さは分かっている。」
「だけど美琴は頑張りすぎる」
「美琴は意思が強すぎるから、どんな強敵でも立ち向かうとする」
「でも・・そんなに頑張りすぎなくてもいい」
「立ち止まって周りを見回して、頼ることも覚えてほしい」

「それに・・」
「御坂美琴とその周りの世界は俺も守る」
「だから・・、自分ひとりだけで立ち向かう必要なんてない。俺のことも頼ってほしい」
当麻は私の顔にそっと軽く唇を頬によせる

私の瞼から涙が零れ落ちる。常盤台の子達の前ではみせない私の涙。
その涙を拭い私は当麻へ声をかける。
「ありがとう、当麻、・・ええ・・私は今回の騒動で自分だけの能力でできないことも
力を対処することを学んだ・・だから当麻の力がいるときはもちろん当麻にも頼る」

「当麻・・」
「美琴・・」
私と当麻は立ち上がり、当麻は両手を腰に回し、しっかりと抱擁する。
耳元で当麻は私に囁く
「何があっても俺は美琴も守る」
私も囁く
「私も、当麻の周りの世界を守る」
「そして・・死ぬときは一緒よ」
そして・・2人の距離が0になり、・・熱い接吻の感覚が私の脳裏を駆け巡る。

紆余曲折の末、相思相愛となった2人。アレイスターの負の遺産の解消はそんな
簡単ではなく、多くの困難が2人を襲うだろう。だが・・どんな困難も・・
上条当麻の熱い心と、御坂美琴の技術で乗り越えるだろう。
これは後に統括理事として辣腕をふるい、学園都市を文字通り科学の世界の中心と
して名声を博す基礎を作った2人のなれそめの始まりにすぎなかった・・



FIN








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