とある美琴の突撃訪問
「よしっ!!」
「お姉様、なにが”よし!!”なんですの?」
「わ!、く、黒子!?。な、なんでもないわよ!」
「明らかに動揺してますわね。また、”ゲコ太”グッツを大量に寮に持ち込むのは止めてほしいんですの。
いきなり子供っぽい趣味を止めろとはいいませんが、限度はわきまえてくださいまし」
「わ、悪かったわねっ!」
ここは常盤台中学学生寮のとある1室。この部屋には今、御坂美琴と白井黒子がいる。
時刻は大体、夜11時くらい。この学生寮ではその時間だともう消灯の時間なのだが、美琴の方はあることがあって寝付けなかったからまだ起きている。
ジャッチメントの仕事で仕方なく起きている白井に、早く寝た方が良いですわよといわれてしまった。
でも、そう言われても寝付けないものは寝付けない。美琴は未だに頭が冴えてしまっている。もちろん、あることによって。
美琴に敏感な白井はそれを怪しむ。
「・・・もしかしてお姉様、何かあるんではないですの?」
「・・・・・・・・・な、何にもないわよっ・・・」
美琴はそういいながら内心ドキドキであるが、白井には絶対あんなことがあって寝付けないなどとは、ばれたくなかった。
ただ自分以外に知られたくないこと、というのもあるが、特に白井の方はかなり”特殊”な人間であるからだ。
どの辺りが特殊と言われると、美琴のことをお姉様と慕いその延長線上でシャワールームに飛び込んでくるくらいである。
寝付けない理由が、あること、つまり”アイツとの約束”のことあってはなおさらに。
もしあの”アイツとの約束”のことを話してしまったら、白井はどのような行動を取るだろうか。美琴ですら予測がつかない。
だから、絶対にバレてはいけない。これは美琴にとって死守すべき事柄なのだ。
美琴はなにがなんでも邪魔されたくなかった。
顔を枕に心の声が誰にも聞こえないよう、埋める。息苦しかったが、口が勝手に喋るとなれば我慢しなくてはならない。
寝付けないので、埋まりながら美琴は今日のことを思い出す。
(危なかったわ、思わず本音がでちゃう癖は治さないとなー。・・・でも、本当にアイツと約束しちゃったのよね!)
と、一人で何度も思い出す。実は寝付けない理由はこれにあるのだが、美琴はたとえわかっていても止められなかっただろう。
今は夜であるが、美琴の頭の中、その約束をした時間は数時間前に遡っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
美琴とアイツ、上条当麻はゲームセンターにいた。
とある罰ゲームで二人はゲーセン巡りをしていて、上条は美琴の鞄をもっている。
そろそろ帰宅時間がせまってきたので、最後に一つだけやって帰ろうということになっていた。
「あ!あれなんかどうかしら」
「ん?あれってパンチングマシーン?」
美琴が指したパンチングマシーンは以前、友達の佐天涙子に点数を越されっぱなしのもの。
美琴も悔しくて後で何回かやってみたのだが”パンチ”では彼女の記録を越すことはできなかった。いろいろと美琴にとって因縁深いものである。
美琴と上条はそのパンチングマシーンの前に行くと、スコアボートにいくつか点数が表示されていた。最高得点は100点だった。
実は、キックだと、どうかなーとやってみたら100点が出てしまったので、こういう結果になっている。
美琴は得点を確認した後、上条の顔を覗き込みながら、挑発してみる。
「ねえ、ねえ。アンタはこれで最高記録の100点出せる?」
「うーん、パンチングゲームか。やったことないけど100点ってものすごくないか?」
上条は基本食いつきが悪いようだ。でも、このままでは終わらせない。美琴は追い討ちをかける。
「あーら、怖気づいちゃったのかなー。アンタはこの点数が越せないって言うのかなー?」
「む!いつも上条さんは目の前の敵はなるべく避けて通りますが、いいだろう。その挑戦のったー!」
とても子供っぽい挑発だったのだが、上条はまんまと美琴の挑発にのる。
準備運動なのか、右腕を回しながら「ああした方がいいかな?いや、こうかな?」などと言い始めた。
美琴はうまく上条を乗せられたので、小さく「よし!」といってみる。
が、ここで不思議に思うことが一つ浮かんだ。
美琴はあの点数はかなりのものなので、誰も越せないと思っていた。実際未だに最高得点は100点のままだったし。
じゃあ、なぜ自分は上条にやらせようと思ったのだろう。
美琴は上条の顔を見る。なんだか心が安心するような気がした。
(・・・もしかして私、期待してる!?)
いつの日だったか、上条は自分を助けてくれた。もちろん、その時はかっこよかったが、今はただの上条である。
美琴が上条のことが好きなのを気づかない鈍感男である。
だから、ない、ないと美琴は頭をブンブンと振る。しかし、頭を振るたびに心の中の期待は高まってしまうのだった。
それで、美琴は無意識の内にポーっと上条を見てしまう。
「なあ御坂、俺の顔になんか付いてるか?」
「いい、いや、なな、なんでもないわよ!」
傍から見れば、美琴が上条に見とれていたのがわかるのだが、鈍感な上条は気づかない。
美琴としては、ばれなくて良かったと思う反面、なぜ気づいてくれないのかと不満にも思う。
「・・・御坂、もしこのゲームで俺が最高得点を出したら罰ゲームは帳消しってことでいいか?」
「な、なに言ってんの!?アンタの寮に連れてっていう約束そんな嫌だったの?」
「いや、いや!なにをそんなに怒っているのかわかりかねますがそんなわけではないです!!」
自分がなぜ上条の寮に行きたいのかも、わかっていない。もう慣れたが、これは美琴も一方的な片思いだと思う。
(ま、アイツなら当たり前か・・・)
なんだか美琴は期待している自分が馬鹿らしくなってきた。こんなことさっさと終わらせるために上条を催促する。
「とにかく!なんでもないから、早くやんなさい!。時間も少なくなってきてんだから」
「わ、わかったから、ビリビリするのはやめて!」
「さ、さっさとやんなさい!」
少し強引な催促されて、上条は美琴を警戒しながら、パンチングマシーンに一撃を入れる体制を取る。
そして、
「よし、じゃあ御坂、力を借りるぞ」
「え?・・・私が何て?」
と、美琴に意味が分からないことを言ってきた。
実は上条は美琴ならわかるかもしれないと思って言った言葉なのだが、上条の隣に居るだけで頭が一杯の美琴がわかるわけはなかった。
美琴は頭の中の整理を始めるが、それが終わる前に、上条は助走をつけパンチングマシーンに突っ込んでいく。
美琴が忘れられないあの言葉を叫びながら。
「―っ、俺の拳はちっとばっか響くぞ!!」
ズドーン!と大きな音が、ゲームセンターに響く。ゲームセンターにいた誰も彼もがその音に反応する。
一方の美琴はそんなことよりも、上条の言ったセリフが頭の中を駆け巡って、オーバーヒートしていた。
上条としては気合のつもりで発した言葉なのだろうが、美琴には大いに意味がある言葉である。
(な、なにを言ってんのよアイツ!そ、そんなセリフ言われたら・・・・・・意識しちゃう・・・・・・じゃない!)
心のどこかで期待していたせいもあって、美琴はどんどん感情が高ぶっていく。
もう、自分でも顔が真っ赤になって、どんどん俯いていくのがわかる。点数とか帰宅時間とかどうでもよくなってきた。
とりあえず、この状況から回復しなくてはいけないと思うが、そんなことできない。そうやって美琴が慌ててたら、上条が震える声で話しかけてきた。
「み、御坂。この場合どうすればいいんだ?」
上条を見てみると、顔が青い。美琴はなんだろうと思って、上条の目線を追ってみると、
そこには壊れたパンチングマシーンが、静かにたたずんでいた。
「逃げるぞ!!御坂!」
「ちょっ!?待ちなさいよアンタ!」
「―っ!ほら手ぇ貸せ!」
「わ、待って!まだ、心の準備が・・・」
その美琴の声を上条は聞こえなかったのか、強引に美琴の手を引っ張ってゲームセンターを離れていった。
「はあ、はあ、不幸だ」
「ああ、アンタ、ど、どうやったらああ、あんな力だせるのよ」
美琴は上条に手を繋がれていたことで頭の大半が使用不能状態だったので、言葉の機能がおかしくなっていた。
もちろん、上条はそんなことには気づいていない。美琴にとっては幸いというべきか、不幸というべきか。
「そんなこと聞かれても・・・。で、お前まさか今日俺の寮に来るつもりか?」
上条に言われて気づいたがそういえば何にも考えていない。
「ふえ?」
「いや、だから時間だっていってるの」
いつの間にか時刻はもうそろそろ帰宅時間を過ぎてしまう頃だった。さすがに何の準備も無しに門限破りをするのは危険だ。
それに、美琴としては上条の家に行くのにある思いを秘めているので、まだいける状態ではなかった。
「え?いや、まだ準備ができてないというか・・・。そう確認しとくけどアンタ、カレーが好きなのよね」
「なんの確認かわかりかねますが、確かにそういいましたが・・・御坂さん!?」
「(い、い、いきなりアイツの寮ってのは、我ながらと、とんでも無い発想だったわ。で、で、で、で、でも!!アイツの寮に行けるのよね!
アイツやっぱり、家庭的な子が好きなのかな?だ、だったら、カレーを作る練習をしなくちゃ!)」
「御坂さーん。なにをブツブツ言ってるんですかー?」
「え!?わ、わ、!!なんでもないわよ!じ、じゃあ準備ができたら連絡するから!そのときはよろしくね!!」
「御坂さん!?なにをよろしくなのですかー!?」
美琴はそんな上条の声を後に、一瞬にして駆け抜けていった。だって、上条にこんなこと考えているなんて死んでも知られたくなかったから。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(ぎゃー!?なに思い出してんのよ私!!別にアイツのことかっこいいとか、早くアイツの寮に行きたいとか考えてないわ!うん!!)
美琴はあの時のことを思い出して、ベットの上でバタバタする。そして、それはとても純情乙女的な仕草であるのだが、絶賛舞い上がり中の美琴は気づいていない。
そんな美琴を見て、白井は目を細くする。しかし、仕事の方を優先しなくてはいけないので、前に向きなおして自分の仕事に戻った。
もちろん美琴はその白井のことなど気にしておらず、頭の中は約束のことで一杯だった。
(うーん、練習した方がいいわよね。で、美味しく作れたら喜んでくれるかなアイツ。・・・な、なんかはは、恥ずかしい!!)
そんなこんなで美琴は一人で悶々として、白井は変な美琴に何かを感じながら、夜は更けていった。
1週間後。美琴はある修行をして準備万端で、上条をいつもの公園に呼び出した。しかし
「だー!!なんでいつもの道なのに道間違えんのよ私ぃ!!」
美琴は緊張しすぎて、いつも使っている道を間違えてしまい、あっち行ったり、こっち行ったりしてかなりの遅刻をしてしまっていた。
携帯の地図機能を使ってみたのだか、余計に道を間違える始末。もう、美琴がいる場所は知っているところではなかった。
上条からは『まだー?』と電話が来ていていたが、道を間違ってしまってなんて恥ずかしいことはいえなかった。もうちょっと待ってといったが、
その電話をした時間も、もう遠く彼方である。
「えーっと!こっち行って、あれ?いや、こうだ!だめだ!違う!!」
と、美琴はオロオロとするが、一向に目的地にたどり着ける気配は無かった。
なんだかわからないが、泣きたくなってきた。おもわず涙目になる。
しかし、
「なにをしてるんですか、御坂さん?」
一体どうやってここに自分が居ると分かったのだろうか、何故か公園で待っているはずの上条が美琴の後ろにいた。
ある意味、目的は達成したのだが、美琴としてはオロオロしていたり涙目になっていた自分を見られたのが恥ずかしい。
美琴は顔を真っ赤にしながら、ただただ慌てる。
「わ!いい、いつからそこに!?」
「いやー、あまりに来ないもんだから探しましたよ。で今やっと御坂さんを見つけましてね」
「な、なんでここにいるってわかったのよ!」
「勘?」
「・・・・・勘・・・」
どういう意味だろうと考える。すると美琴の頭の中には赤い色をした糸が現れた。
(勘ってもしかして赤い糸が、ってなな、なに考えてるの私!!・・・でも、いやいや!!)
止まらない妄想に美琴自身歯止めが利かない。これが恋の病というものだろうか。
なんだか顔が熱くなってきているのが美琴でもわかったが、どうやっても抑えることは出来なかった。
「おい、なんか顔が赤いぞ」
「あ、赤くなってなんかないってば!だ!だから!!」
その原因の上条は美琴を無視して顔を覗き込んでくる。熱があるかどうか心配してくれているらしいが、むしろ逆効果である。
どんどん美琴の顔は真っ赤になっていく。それにつれて上条はさらに顔の距離を縮めてくる。
距離にしてわずか数センチ。
(ち、ちち近いぃーー!!)
「なんか赤い気がするが、大丈夫みたいだな」
しかし、そんな気持ちを知らない上条は美琴が熱をだしてないか確認したのか、さっさと美琴から離れてしまった。
なんだか美琴は上条に振り回されて、悔しかった。それと、もうちょっとさっきの状態でいたかった。
「―っ!バカ!!」
「なにが!?」
美琴は上条のすねを蹴ってそっぽを向く。なんだか理不尽な気がするが、上条が悪いのだ。
「で、アンタの寮に行く前にスーパーに寄りたいんだけど?」
「急に蹴られたと思ったら、今度はスーパーですか。・・・なぜ?」
「う、うるさい!アンタはそんなこと疑問に思わなくてもいいの!」
知ってのとおり、どうして美琴がスーパーに、行きたいのかは、上条の寮でカレーを作るつもりであるからだ。
もちろんそれは上条がカレーが好きと言ったからであり、美琴自身家庭的なところを見せ付けるためである。
練習などは知り合いの舞夏に手伝ってもらった、というより叩き込まれている。なので、それなりの腕はあると美琴は思っていた。
「ならいくぞ、って御坂?」
「・・・・・・・・・」
しかし、まだちょっと不安が残っていたりもする。それというのも最後に舞夏が「料理の本当の極意は自分で学べ」と意味のわからないことを言ってきたからだ。
美琴は隣に上条がいるのを忘れて考え込んでしまう。
(あれはどういうことなんだろう・・・食材のことかな、いやそんなんではない気が・・・)
「・・・さーん・・・・御坂・・・・・・御坂さーん、聞こえてますか!」
「え!?いや、なんだっけ?」
「いや、ブツブツ喋ってこっちには反応してくれないから。大丈夫か御坂」
「だだ、だいじょーぶ!!」
美琴自身大丈夫でない気がするが、もう帰れなんて言われたら元もこもない。とりあえず見栄をはる。
「そう?ならいいが。じゃあ行くか、スーパー」
「そ、そうねさっさと行きましょう!」
なんだか、上条の隣にいるだけでテンパッテいる気がする。
美琴は落ち着こうと頑張ってみるものの、心臓の鼓動は早くなるばっかりで、収まってくれることはなかった。