とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part3

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上条当麻は困っていた。
それはもう、どこかのブラウニーと呼ばれるお人よしが現れてくれと、本気で思うくらいに困っていた。
なぜか?それは―――
「両手がギブスで固定されてて……生活できるかーーーー!!!
 …あぁ、不幸だ」


時間は少し前に遡る。

上条当麻は、いつものカエル顔の医者に診察を受けていた。
というのも、皆でがんばってラスボスっぽいやつは倒したが、各々怪我が酷かったので、そのまま病院に運ばれるという流れになったのだ。
……そこにいたるまでの経緯は、各自ご想像願いたい。なぜならば――

―あぁ、なんであいつらは、あんなとこで空気を読んだんでしょう。
  おかげで、上条さんは恥ずかしすぎます―

こうなるからである。
恥ずかしいことを思い出し、悶える当麻にカエル顔の医者が注意をいれる。

「女の子とのラブシーンを、皆に一歩引いて眺められていたのが恥ずかしいからって、動かないでね。 治療できないから」

「ぐはっ!」

…注意じゃなく、トドメだった。
そうなのである。
あの後、蘇生した当麻が、美琴とくっついていたとき、他の人々は、それまでのシリアスな雰囲気は一体どこへ行ったのやら、完全なチームワークを発揮し、当麻たちの邪魔にならず、且つ、会話も完璧に聞こえる距離へと退避し、眺め…もとい、観察していたのである。
ちなみに、二人がくっついているのが我慢ならない連中もいたことにはいたのだが、そこは民主主義万歳。
完全に、大多数の者たちによって無力化されていた。
二人が状況に気づいたときには、もう手遅れであった。

そこからいろいろあり、現在の病院へと直行してきたのだが、すでに治療が終わった者たちは帰ってしまっている。
残っているのは、入院するような傷を負ったもの立ちばかりだ。
そしてもちろん、当麻も入院すると思っていたのだが

「はい、終わり。
 君は帰っても良いよ」

「あれ?入院じゃないんですか?」

いつもと違う対応に、拍子抜けする。
それに対し、カエル顔の医者は、すでに治療の後片付けを始めながら言った。

「ああ、今回は入院すべきものが多くてね。
 病院のベットが足りないんだ。
 だから、傷は多いけど、どれも軽傷の君は今回入院は無し」

それだけ言うと、あれよあれよという間に、当麻は病院の外に放り出されたのだが、そこで気づく。
彼の両腕は、しっかりとギブスで固定されていたのである。
それも肘の間接までしっかりと。
というか、ギブスが必要なだけの怪我をしていた気がしないのだが。
ギブスをつけたことを悟らせないほどの手際の良さ…ヘブンキャンセラー恐るべし。
とはいえ、つけられた本人はたまったものではない。
そして、冒頭の叫びがあがるのである。

「両手がギブスで固定されてて……生活できるかーーーー!!!
 …あぁ、不幸だ」

しかしこのとき、当麻は一つ忘れていた。
先に治療を終え、当麻を待っていた美琴のことを。

背後から当麻の後頭部へと打撃が打ち込まれる。

「あだっ」

さほど強くは無かったが、完全に不意打ちであったため、当麻の口から声が漏れる。

「アンタは!約束したのに、まーた不幸だ~、とか言って」

そこには、ご立腹で少し頬を膨らませた美琴が立っていた。
ところどころに巻かれた包帯が痛々しいが、それ以外はいたって元気なようだ。
治療に入る前に、先に終わった方が待っていると約束し、お互い分かれたため、彼女の姿を改めて確認した当麻は、ホッと肩の荷が下りる感じがした。

「悪かったな。
 上条さんは、今までの癖で条件反射ですよ」

なんだかんだで、大丈夫とはわかっていたが、当麻も美琴のことが心配で仕方なかったのだ。

「というか、あれは約束だったのか?
 お前の宣誓っぽかったんですが」

「あ、当たり前でしょ!
 私が約束だって言ったら、約束なのよ!
 男でしょ!そんなこと気にするの、小さいわよ」

当麻が思ったことを質問するが、その質問により美琴は、あの場面を思い出したのか顔が赤くなっている。
しかし当麻の方は、先ほどの医者相手の会話で、それ以上のことを鮮明に思いだすことになったため、動じない。

「…アンタに向かって言った、“私の中の”約束なの」

「なにか言ったか?」

「な、なんでもない! なんでもないわよ」

小声で呟いた言葉は、当麻には聞こえない。
そしてこの男は思うのだ。
相手の様子に気づくことも無く――理不尽だ――と。

そして少しして、回復した美琴が話を切り出す。

「ねぇ、いつまでもこんなとこにいるのもなんだし、帰りましょうよ」

「ああ、そうだな。 はええとこ着替えたいし」

「…あんた、そんなんでどうやって着替えなんかするわけ?」

当麻の言葉に、美琴が眉をひそめながら聞く。
それに対し、当麻は軽く苦笑いを浮かべ答える。

「まあ、なんとかがんばってみますよ」

その答えを聞いた美琴は、何故か赤くなって下を向く。
そんな彼女の態度に、当麻は疑問を覚える。
いつもならここで、何かすぐ反応があるはずなのだが、当の美琴は下を向いたまま、
―大丈夫よね、うん、大丈夫―などと呟いている。
不審に思った当麻が問いかけようとしたところで、美琴が勢いよく顔を上げる。

「あのさ…もし良かったらなんだけど……その、私が手伝ってあげよっかなって思ってるんだけど」

赤い顔で、最後のほうにいくにしたがい、声が小さくなっていく。

「へっ? いや、だってお前「これっ!!」」

当麻の言葉を、美琴が遮り、ポケットからすごい勢いで何かが書かれた紙を取り出す。

「アンタを待ってる間に、こんなの貰ったんだけど…」

顔を赤くしたまま、当麻と視線を合わせようとしない美琴の手から紙を受け取り、内容に目を通す。


常盤台中学に在籍する御坂美琴の無断外泊を、第三者の生活補助を行うという理由においてのみ許可する。
この書類が効力をやどしている間、御坂美琴が使用していた部屋は、人員の増加により不足した場所を確保するため、他の人間に使用させる。
なお、この書類の期限は、生活補助を受ける第三者本人が、自身の判断で、肉体的、精神的に必要ないと断言できるときまでとする。
                                      学園都市統括理事 親船最中


「……上条さんは、ついに幻覚が見えるようになったみたいです」

そう言って、当麻は眉間を揉もうとして、手が届かないことに気づいた。
つまりは、美琴に当麻の部屋行ってこい!と書いてあるのである。
なぜこんな書類が出たのかというと、二人のあのシーンを見ていた者達が面白がって、無駄な権力を使いまくった、ということである。
…もちろん職権乱用もいいところである。
ちなみに、当麻の両腕にギブスをしたカエル顔にも、すでに息が掛かっていたりする。
…大丈夫か、学園都市。

「私も帰るとこがないの、だから…その…えっと…」

美琴は、なかなか次の言葉が告げれないのか、体の前で、自分の手をいじりながら、視線がいろいろなところへ動いている。
やっと顔を上げたと思ったら、今までも十分赤かった顔が、耳まで赤くなっていた。
当麻を見るのだが、恥ずかしいのか、いつものように堂々とは顔を合わせずに、見上げる形となる。
となれば、二人の身長差から上目使いになった状態になる。
そんな状態で、彼女は言葉を紡いだ。

「と…当麻の部屋に、行っていい?」

―やばい。 とてつもなくかわいいんですが―

「お、おう。 それならしゃーねーしな。」

結論から言うと、そんな美琴の態度が、当麻にどストライクで入った。
動揺を隠すために、当麻は視線をそらす。

「ーーっ!アンタがそんなんだから、手伝いに行ってあげるのよ。
 感謝してよ…ね」

そのいつも通り…でもないが、若干普段に近い態度を見て、当麻に少し余裕が生まれる。
…いや、確実に美琴の照れ隠しだとは、わかっていないだろうが。
そして、当麻は笑みを浮かべながら言う。

「ああ、上条さんは、優しい御坂センセーに感謝でいっぱいですよ…ありがとな」

「ーっ! ほら行くわよ」

「はいはい」

そして二人は、当麻のアパートへと歩き出した。


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