とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part2

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インデックスの泣き声が周囲に響く。
周囲から、泣き声しか聞こえなくなったところで、それ以外の音が生まれた。

「どきなさい!! どけって言ってんのよ!!」

周囲の人垣を掻き分け、当麻に覆いかぶさるようにして泣き出したインデックスを突き飛ばし、鬼のような形相を浮かべた御坂美琴が、当麻のよこへと膝をつく。

皆は何事かと、美琴を見る中で、彼女は当麻の服…いつもの制服であったため、カッターシャツのボタンを力任せに引きちぎると、泣いているインデックスへ質問を投げかける。

「こいつが受けたのはなんなのかわかる!?」

鬼気迫る様子で言われたことに対し、インデックスは思わず泣いているのも忘れて答える。

「えっと、術式をチラッと見ただけだから「簡潔に言いなさい!!」」

言いよどむインデックスに対し、美琴の一喝が入る。
その様は、1秒が惜しいと言っているように見え、インデックスは短くそれに答える。
「致死性の呪い。 生命の息吹を否定する効果だと思う。 きっと生きる力を否定することで、外傷なく相手を死なせることが出来るものだよ」

「わかった。危ないから、あんたは離れてなさい」

それだけ言うと、美琴はもう何も言わず、はだけさせた当麻の胸へと手を当てる。

「アンタ、私があんなことされて喜ぶと思ってんの? だとしたらゆるさない。 絶対に許さないんだから!」

そう言って目を瞑る美琴。
と、同時に当麻の体がビクンと、まるでなにかに叩かれたかのように跳ねた。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

全てがようやく終わったと思っていた。
最終的に、魔術だのとかいう、訳のわかんない連中とも手を組んで戦うことになってはいたが、この終わりかたは悪くない、そう思える結末に満足しながら、美琴は当麻を探がす。
―まったく、敵の親玉を倒すことが出来たそばから騒ぎ出すんだから、何がどうなってるか訳わかんないじゃない―
そんなことを考えていると、美琴の視界に目的の人物が映る。
あいつはいつものことながら、ボロボロになったっていうのに、苦笑しながら周りを見渡していた。
その顔には、傷が2,3ついてはいたが、穏やかで、それを見た美琴の表情も自然と穏やかなものになる。
そうこうしていると、当麻が美琴のことに気がつく。
―まったく、気づくのが遅いのよ。 
  …でもまあ、アンタから気がついたんだし、許してあげますか―
そんなことを思いながら、当麻へと走り出す。
別に、走っていこうとは考えてなかったのだが、体が勝手に動いてしまった。
―あ~、私も重症ね、これは―
そんなことを考えはするものの、体のほうは正直で、一直線に向かっていく。
―アンタはどうせ気づいてないだろうから、私から気づかせてやる。覚悟しなさいよ―
美琴は、ずっといえなかった思いを、今なら言えそうな気がしていた。
いや、伝えてやらなければいけない。
これからもあのバカは、危ないことに首を突っ込むに決まっている。
そんな危険な中で、アイツは他人を守ることしか考えていない。
ならば、アイツの身は誰が守ってやるのか。誰がアイツが帰る場所として、共に歩む仲間としていられるのか。
私しかいないじゃない、それは。
自惚れかもしれない。 ほかにもっとふさわしい人がいるのかもしれない。
しかし、例えそんな人がいたとしても
―勝負する前から諦めて、何もしないなんて私らしくないじゃない!―
そう思い、決心をした少女はとても美しかった。
周りはさっきまで戦場だった荒地で、肌などは土や泥で汚れているし、服だってボロボロだ。
なのに、彼女はその瞬間、どの宝石より輝いて見えた。

そんな美琴に向かって当麻が走り出す。
それは、満身創痍の身からは考えられないような速度の疾走だった。
―えっ?―
そんな当麻の行動の意図がわからずに、美琴は一瞬立ち止まる。

もし、さきほどまでの戦闘が続いていたならば、美琴も咄嗟の行動が取れたかもしれない。
しかし、どんなに強力であろうとも、彼女は一人の学生であり、女の子である。
一度気が抜けた思考を、瞬時に切り替えることなどできようはずがあろうか。

そして、とまった美琴の体を、当麻が右腕で突き飛ばす。

そのときの当麻の顔は、笑っていたように美琴には見えた。

次の瞬間、まばゆい光が当麻の胸部を直撃し、当麻はまるで糸の切れた人形のように力なく地面へと崩れ落ちる。

何が起こったのか理解できず、地面に座ったまま美琴は動けない。

周りで悲鳴が上がるも、それは彼女の耳には届かず、他の人が駆け寄るのも、美琴は黙って見ているだけ。

思考が状況に追いつかない…否。

結論はすでに出来ているのだろう。なぜだかはわからないが、美琴は当麻が最後に浮かべていた笑顔が、すべてを物語っている気がした。

しかし、理性がその結論を受け入れたくなくて、思考することを拒否している。

思考してしまえば、状況を把握してしまう。

状況を把握すれば、認めたくない結論が出てしまう。

自分を守った…庇って身代わりになったせいで当麻は―――

それが嫌で、受け入れるのが嫌で、美琴は現実を拒絶しようとする。

しかし、それも許されない。

「心臓が止まってる。 残念ながら、もう手遅れなのよ」

それを聞いて、美琴の止めようとしていた時が動かされる。

―許さない!―

思い出されるのは、最後にアイツが浮かべた顔。
御坂美琴は、そんな守られるだけの存在では満足しない。
彼女はなにより、ただ救いを待つだけの女では、自分自身を許せない。
レベルなど関係ない。
ただひとりの人間として、上条当麻が好きな一人の女の子として、出来ることをやらずに状況に流されることだけはできるはずもない。

―アンタは、私を守って満足してるのかもしれない。 
  でもそんな勘違いを持たれてもこまるのよ!
  アンタは死なせない。
  不幸だなんて、もう言わせてたまるか!―

限界まで電気を放出した体から、さらに放てる電気はほとんどない。
しかし、そんなことは、彼女を止める理由にはならない。
身に貼り付けるのは、ほとんど最後の強がりにも見える虚勢。
しかし、それでもこの身を動かしてくれるのならば、十分だ。

「どきなさい!!」 

当麻の周囲を囲んでいる人垣を、半ば投げ捨てるように掻き分ける。

「どけっていってんのよ!!!」

それでもなかなか開かない人垣にたいし、叫ぶ。
感情が高ぶり、美琴の周囲にはスパークが起こる。

近くで電気がはじける音に驚き、わずかに人垣が割れる。
その隙を見逃さず、美琴はそこへ突っ込む。
当麻の体に覆いかぶさっていたインデックスを、吹き飛ばすようにどかし、美琴は準備を整える。

「こいつが受けたのはなんなのかわかる!?」

成功の可能性を上げるため、確認するのも忘れない。
帰ってきた返事に満足し、美琴は当麻の胸に手をあて…電気ショックをおこなった。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

1回では蘇生しなかったのを、少し時間を置いて確認する。
次の電気ショックを与えるまでの間に、少しでも当麻へと語りかける。
聞こえているのかは、わからない。
しかし、少しでも…僅かでもいいから、可能性が高まることを彼女は選択する。

「アンタは死なせない。 
 私を守って死ぬことなんて許さないわよ。
 私はまだ、アンタに受けた借りを少しも返してないのよ。
 そんな状態でどっかに行くことなんて、私が止めてやる。
 アンタが不幸だって言うなら、私がアンタを幸福に変えてやる。」

そして、電撃が放たれ2回目の電気ショックが当麻へと与えられる。
すでに限界をこえ電気を放っているために、美琴の体から力が抜けていく。
すでに体には、放電する余裕など残っていない。
経験したことのない脱力感に、美琴の意識が飛びそうになり、体は崩れ落ちようとする。
しかし、彼女は崩れ落ちることを選ばない。
歯を食いしばって耐え、語りかけ続ける。
いや、すでにその“語りかける”という行為自体を続けていないと、美琴の心は折れてしまいそうだった。

「アンタは言ったわね。
 私は笑って良いって。
 私が笑うのは……私が笑っていられる世界には、もう―――アンタがいなければ意味ないの!」

そう言った美琴の目には、すでに溢れんばかりの涙がたまっていた。
体内の電気は、次電気ショックで枯渇する。
美琴は直感的に、自分の状態を悟る。
どんなに無理をしようが、4回目は無い。
そのことに多大な不安が美琴に襲い掛かる。
その不安に負けそうになりながら、途中で諦めそうになりながら、彼女は続ける。

「私はアンタに助けられたことを忘れて…あんた一人が全部背負って、それで助かったことを喜べ   
 るような、そんなちっぽけな人間に見える?
 私は、そんなのは嫌よ。
 ――だから……だから!」

そこで当麻の体が跳ねる。3回目の電気ショックが行われたのだ。
これでもう後は無い。

「―――かえって…かえってきてよぉ」

最後まで我慢していた涙が、その言葉と共に流れ落ちる。
彼女には、もう貼り付けた虚勢はない。
それでも当麻は動かない。
体の中の電気が一時的に枯渇している虚空感と、そのことがあわさり、ついに美琴に絶望が覆いかぶさる。
美琴は…当麻を好きでいた女の子は、泣き崩れた。

当麻は、心臓は確かに止まったのに不思議と周りの状況は“聞こえていた”
それが死に至るもの全てが同じような状況になるのか、魔術によって葬られようとしたためにそうなったのかはわからないが、そんなことはどうでも良かった。
美琴が泣いている。
それだけが気に掛かることだった。

あいつに絶望に染まったような顔はさせない。
そう誓ったはずなのに、ほかならぬ自分が、その表情を作り出してしまっている。
そんなことは嫌だった。
自分が望んでした行動だったが、その結果に当麻は怒りを覚える。

―うごけ!―
停止した自分の体に向かって、心で叫ぶ。
―俺は、こんなとこで何してる?―
こんなことをしたかったわけじゃない。
ただ、美琴に笑っていてほしかっただけ。
―好きな女の子一人、笑顔に出来ないようで何が幸せだ!―
自分の右手は、幻想に対し最強だ。
ならば、その最強でこの最悪な現実(げんそう)を打ち砕いて見せろ。
―うごけーーー!!―

「かってに  ころすな よ」

「ーーーっ!!」

美琴はいきなり聞こえた声に驚きをあらわにする。
しかし、直にその驚きをうれしさが上回った。

「ばかっ…じゃないの」

流れる涙は、悲しいさから、喜びの涙へと変わり、泣き笑いの表情を浮かべる。
こんなときに…いや、こんなときだからこそ、当麻は、美琴のそんな表情をきれいだ、と思う。

体はまだほとんど動かない。
それでもなんとか腕をあげ、彼女を抱き寄せる。
あがらう力は、もう残っていなかったのか、美琴は簡単に当麻の腕の中へと収まる。

「なにをっ」
驚きの声を上げる美琴の言葉を遮り、当麻は口を開く。
「ありがとうな。
 もう死んだと思ったときに、おまえの声が聞こえたんだ。」

そこで一旦当麻は口を紡ぎ、息を吸い込む。
美琴も、当麻の顔を見るために顔を上げる。

「俺は、お前が好きだ」 

その言葉で、美琴の目から、よりいっそうの涙が溢れる。

「ーっ! こんなときに―――ばか…じゃないの。」

当麻は笑って答える。

「それはおまえが一番良く知ってるだろ」

「後悔…しても知らないわよ?」

「ああ」

「他の女のとこに行ったら、電撃どころじゃすまないわよ?」

「わかってる」

「アンタが離れようとしても、私ははなさないんだからね」

「上条さんは、どこにも行きませんよ」

「私も、あんたのことが…当麻が好き」

そう言うと、お互いがお互いの顔を見て笑い、当麻が再び美琴を抱きしめる。
今度は美琴も、自分から当麻の胸へ抱きつく。

「もう当麻には、不幸だなんて言わせない。
 アンタの側に私がいて、幸せだってこと以外考えられなくしてあげるから、覚悟しなさい」

「楽しみだな」

そう言って二人はお互いを、よりいっそう強く抱きしめる。

「美琴の…いい匂いがする」

「………ばか」


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