とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part4

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だれでも歓迎! 編集


当麻の部屋に来ることになった二人の間には、非常に緊迫した空気が流れていた。

そもそも、歩き始めた当初は、お互い思いを伝え合った後ということもあって、しっかりと会話は弾んでいた。
しかし、それもだんだんと当麻の部屋が近づいてくるにしたがっておかしくなり始めた。
同居することについてなるべく考えないようにしていたのかもしれないが、部屋が近づくにしたがって、そういったことは嫌でも思考の片隅に浮かんでくる。
次第にお互いの口数が減り始め、それをお互いがわかっていながら、有効と思える解決策など何一つ浮かばない。
終いには話題が尽きてしまい、今の沈黙が出来てしまったわけだ。

…まあ、周囲から見れば肩を並べて、お互いに照れながら歩く学生などは微笑ましいの一言でしかないのだが、当人たちはそういうわけにもいかないだろう。

結局、その空気を保ったまま、二人は目的地である当麻のマンションの部屋前まで来た。

―おちつけ、私! これから一緒に住むだけじゃない。 
  こ、恋人なんだから当然よね。 
  …恋人!? 
  そ、そうよ。 恋人なんだからこれくらいのこと当然よ。 
  …当然なら、あれもこれもかな―

そこまで考え、美琴の脳内でその『あれやこれ』の想像が膨らみ、自分と当麻に自然に登場人物が置き換えられる。
途端、音がしそうな勢いで美琴の顔色が赤く染まる。

―できない! できるわけないじゃない!
  あいつとそんなこと……嫌じゃないけど―

頭の中に出てきた場面を振り払うように、顔を振る美琴だったが、そこで目的地に着いたので当麻から声が掛かる。

「ここが上条さんの部屋になるわけですが…何してんだ、おまえ」

「っ! なんでもない!なんでも…
 い、意外と綺麗なとこに住んでんじゃない」

美琴が、いきなり話しかけられたことで若干声が上ずるが、ぎこちないながらもなんとか返事をする。


「綺麗つっても学生の部屋なんだから、常盤台のお嬢様が住んでるとこと一緒にすんなよ?」

「ああ、それなら大丈夫よ。
 さすがにそこまでズレてないっつーの」

「ならいいわ。
 すこし中片付けてくるから、そこで待ってろ」

「いいわよ、…って、アンタもしかして私に見られたらマズイものでも転がってるの?」

うわ~、といった感じでジト目で見てくる美琴。
これに対し、当麻は、はぁ~と大きくため息をつく。

「上条さんは興味がないわけじゃないんですが、部屋にはそんなもの置いてないんですよ」

「っ!」

―興味がないわけじゃないってことは普通にあるのよね?
  じゃあ…やっぱりそういうことにもなるの、かな?―

先ほどまで考えていたことを思い出し、途端に真っ赤になりうつむいてしまう美琴だが、当麻はそんな彼女の様子に疑問を浮かべるだけで気づくことはない。
とりあえずは、中を片付けないと進まないので美琴を残し、部屋に入ろうとドアのノブを捻ったら、普段は少し開くのに抵抗を感じる金属製のドアが、今日は独りでに開いた。
いや、独りでに開くというような生易しいレベルではなく、それこそ内側から爆発的な力が加えられたドアが吹き飛ぶのではないか、と思えるほどの勢いで開き、ノブを握っていた当麻は不意に引っ張られ、少しよろけた形になる。
普段なら、いきなり開いたドアにぶち当たっているはずなのに、今日は当たらなかったので、幸せだ~、などと当麻が考えていたら、開いたドアの影から人影が声を上げて出てきた。

「待ってたぞー。 
 意外と遅かったんだなー。」

全く予想外の人物に二人の目が点になる。
二人ともが知っている人物ではあったが、この場面で、しかも、当麻の部屋から出てくるなど誰が予想できようか。
そのまま二人が間抜けな顔で固まっているのを、当麻の部屋から出てきた人物、土御門舞夏は二人の様子などまるでお構いなしに喋る。

「御坂の荷物で、生活に必要そうなものはあらかた持ってきておいたぞー。
 もし足りないものや、必要なものがあったら言ってくれていいからなー。
 メイドの本領発揮だな。」

そこまで一気に捲し立てると、一旦喋るのを止め二人を見る舞夏。
何事かと思い…未だに何事かわかっていない二人だが、それでもいきなり舞夏の雰囲気が変わったのはわかり疑問に思う。
すると、いままでとは打って変わってお淑やかに、それこそ非の打ち所がないようなお辞儀をしながら言った。

「それでは、ごゆっくりなさいませ」

完璧だ。
言葉にするまでもなく完璧だった。
まさに、想像の中での『メイド』というものがそこに立っていた。
伊達に普段からメイドとはなにか、について語っているわけではなかったらしい。

しかし、当麻は素直に凄い、とは思えなかった。
なぜなら、お辞儀を終えた舞夏の表情は未だお淑やかなままであった。
あったのだが、目が笑っていたのだ。
そりゃもうこれでもか、というくらいに。
どうみても、井戸端会議に勤しむおばちゃんの目をしていたのだ。

―このやろう、楽しんでやがる!―

そう思ったのも束の間、そのまま舞夏は有無を言わさぬ早業で、隣の舞夏の兄が住んでいる部屋に入ってしまったのだ。
二人の間に沈黙が流れる。
いや、正確には未だ茫然自失の状態から立ち直っていないだけであるが。
ともあれ、その沈黙を破ったのは美琴であった。

「なんていうか、楽しそうだったわね」

「ああ…」

人間、自分のことを他人が笑っていると知っているといい気でいられなくなるものだが、あそこまで大っぴらにやられると逆に腹も立たないものらしい。

「しかし、あれはあの兄貴にして、あの妹ありだな」

「あれ? 舞夏にお兄さんいるんだ?」

ポロリと当麻がもらしたことに、美琴が初耳といった感じで反応する。
それに少し意外そうに答える当麻。

「あれ? あいつ兄貴のことは話さねぇのか?」

「そりゃあね。 普通に話してても知らなきゃそんなこと聞かないわよ」

「それもそうだな」

「でしょ」

そう言って二人で笑いあう。
その笑顔には、今まであったようなぎこちなさが抜けているが、当の本人はそんなことは気づかない。
あくまで何気なく、普段通りだった。

「さて、それじゃあ舞夏が綺麗にしてくれたみたいだから入るか」

「あれ~。 私に見られてマズイ本は隠さなくていいの?」

そう言って今度は半眼になって笑い、下から覗くような姿勢になる美琴。

「さっき言っただろ?
 上条さんはそんなもの、部屋にはおいてません。 
 家捜ししてもでてこねえぞ」

「誰がするか~!」



「ぷっ、あははは」
「はははははっ」

そんなさっきまで出来なかった会話をしていると、自然に二人から笑いが漏れた。
そんな中当麻は未だ笑いが完全に収まらないまま、部屋の中へと入っていく。

「あっ、待ちなさいよ!」

置いてけぼりをくらいそうになった美琴が、慌てて後に続いて入っていく。

この後、舞夏による完璧すぎる家具や荷物の配置に二人して驚くことになるのだが、それはまた後のお話。


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