とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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だれでも歓迎! 編集

悪夢



「こっち来るな! あっち行け疫病神!!」

そう言って、誰かが石を投げつけてくる。
その石が体のあちこちに当たって痛い。
顔は、霧がかかったように見ることができない。
ただ、体格だけで見るなら大人の男性と子どもの様だった。
叫んでいたのは恐らく男性で、石を投げてきたのは子どもの方だろう。

「さっさとあっち行けよ!」

子どもが無邪気な笑みを浮かべてそう言いながら再び石を投げつけてきた。
その石から逃げるように背を向けて走り出したところで、突然場面が切り替わる。

「こっちに来ないで! 疫病神!! うちの子に不幸が移っちゃう!!」

今度は大人の女性と子どもだった。
大人の女性はヒステリックな叫び声を上げながら、子どもを連れて離れていく。
子どもは訳がわからないといった表情を浮かべたまま、連れられて行った。
再び場面は切り替わる。

「はあ、はあ、もう終わりだ……。こ、こうなったら誰かを道連れにしてやる……!」

血走った眼をした男が追い掛けてくる。
その手には包丁を持って。
走って逃げるも、その差はどんどん縮まっていき、ついには男の持つ包丁が振り降ろされる。
刺される!と思った時にまた場面は切り替わった。

「な、なんと! この子はいつも不幸にあっていて、さらにその不幸を周りに撒き散らしているようです! 恐ろしいですね~。もしかしたらこの子は人間ではないのかもしれません」

目の前にはカメラがあった。
そしてそれを持った男の人は恐る恐るといった感じでカメラを操作している。
近づくことも怖いようで、脚が震えているのが見える。
その横に立つマイクを持った女性も、僅かに脚が震えている。
その周りには興味本位でやってきたのかギャラリーが大勢いた。
だがそのギャラリーも一定の距離以上近づこうとはしない。

そんな時、突然近くの店の看板が落ちてきた。
それは自分のすぐ横に落ちてその破片を周りに撒き散らす。
そしてそれは近くにいた自分自身はもちろん比較的近くにいたカメラマン達にも当たっていた。
当たった箇所から血が出てくる。
だが駆け寄ってくるものはいない。

「い、今のを見ましたでしょうか!? と、突然看板が落ちてくるというアクシデントが発生しましたが、これは果たして本当にアクシデントなのでしょうか!? 私にはこの少年が作為的に起こしたもののように感じられます!!」

そんな言葉を吐いた張本人は目が合うとすぐに視線を逸らした。
まるで見ただけで不幸が移るとでもいうかのように。
周りにいたギャラリーも、さらに一歩下がって、化け物と対峙したかのように怯えた眼をしていた。
そんな周りの様子を目の当たりにしたところで、自分は意識が落ちた。


「はあっ! はあっ! な、なんだったんだ……」

正確には、目を覚ました。
脂汗が気持ち悪い。

「今のは………昔の、夢?」

最後が疑問形だったのは上条当麻が記憶喪失だからである。
夏休みの途中以前からの記憶はない。

「昔の夢、なんだろうな」

だけど、確信していた。
なぜなら、かつて父である上条刀夜から聞いた数少ない幼い頃の情報と今の夢は完全に一致していたから。
昔の自分はあんな酷い仕打ちを受けていたのか、とどこか他人事の気分だった。
だから、なんとなく再び夢の内容を思い出した。
出来る限り細かく。

「ッ!!!???」

それが、いけなかった。
すぐに動悸が激しくなり、目の焦点が定まらない。
記憶はなくても、体はしっかりと覚えていたらしい。
それは、思い出してはいけないトラウマという形で。

「っくそ……」

悪態をつけるほどまでには落ち着くことに成功する。
インデックスが起きていないことに心から安堵して、近くに置いてある時計を見る。
時間はまだ、午前3時半過ぎだった。
もう一度寝ようかどうか迷ったが、寝て再びあの夢を見てうなされている所でインデックスに起こされて心配される、などということは避けたかったので寝るのを諦める。
というよりも、最初から眠れる気がしなかった。
身体はまだ僅かに震えている。

「はは……俺、怖い。のか? あの夢を見るのが」

自身の状態に半ば信じられないが、それでも身体の震えは収まらないことがそれを証明していた。
だけど、上条はどこか違う、と思った。
あの夢を見ることが怖いのは事実。
それに恐怖して身体が震えているのも、収まらないのも事実。
だけど、それだけではない気がした。
上条が一番恐れていることはそこではない。
それは。

(ダメだダメだ! 考えるな! そんなことなんて有り得ない!! そんな、あいつらが―――ッ!!!!)

結局、考えてしまった。
その答えに辿り着いてしまった。
その答えは、有り得ないと思っていても、完全に否定することができない上条の精神を蝕んでいく。
その速度は、上条が朝を迎えるまでに上条の精神状態をおかしくさせるには十分な程だった。
◆         ◇         ◆         ◇         ◆

朝を迎える。
上条はインデックスを起こす事なく寮から出てきていた。

(今はとにかく誰にも会いたくない)

上条はその一心で寮から出てきていた。
外に出れば知り合いに会ってしまう確率は上がってしまうのだが、家にはインデックスがいる。
インデックスにも会うわけにはいかなかった上条は必然的に外に出るしかなかったのだ。
学校だとか補習だとかなどという問題は考えてなどいない。
そもそも、まだ早い時間だ。
上条は出来る限り人に会わないために裏路地を進んでいた。
しかし、上条当麻は不幸な人間だ。
そんな何も起きずに一日を終えるなんてことは滅多にない。

「おうおうにーちゃん。ちょっと金貸してくんねえ?」

そんな声とともに、3人程の不良が現れた。
その手には鉄パイプやバットが握られている。
恐らく脅しのためだろう。

「ぁ……あ……。うあああああああああ!!??」
「なっ……待てコラァ!!」

上条はそれを見るなり背を向けて全速力で走り出した。
思い出してしまった。
夢の内容を。
それと今の不良たちが重なってしまった。
そこまで思い出したら、上条は恐怖に塗り潰されてしまった。
もう、ペース配分だとか、情けない姿を晒しているだとか、そんなことなど関係なかった。
ただただ、その場から逃げ出したかった。

「ぁっ…!?」

だから、足元なんて見えていなかった。
恐怖で空回りした足が縺れて、さらに地面に足を引っ掛けてしまい、上条は盛大にその場に転ぶ。
なにもかも焦っていた上条に受け身だとかそういう類のものをとれるはずもなく、顔面から地面に激突してしまった。

「ハッ。馬鹿みたいに転んだなぁ!?」
「ぅ……ぁ」

顔面の痛みが、夢の痛みと重なったように思えてしまう。
それは、目の前にいる不良に罵られ、迫害を受けているような錯覚さえ覚えてしまう。
上条の顔が恐怖で歪む。
不良達はゆっくりと近づいてくる。
そのゆっくりさが、かえって上条は怖かった。
カウントダウンをされているような気分になる。
やるのならさっさとやってくれと思ってしまう。
こんな時間はさっさと過ぎてくれ、と願った時。

「何やってんのよアンタ達」

救世主は現れた。
前髪から電撃をバチバチといわせながら。
学園都市第3位、超電磁砲の異名を持つ御坂美琴は腰に手をあてて仁王立ちしていた。

「あぁ? んだテメエは!? ガキはすっこんでろ!!」
「ガキ……ね。アンタ達に言われたところでこれっぽっちも怒りが沸かないわね。……でも。すっこんでろはこっちのセリフだってのよっ!!」

美琴はそういうと前髪からの電撃で周りに焦げ跡を残す。
その電撃の威力をみた不良達はひいっ!と怯えた表情になって、すぐにすいませんでしたぁーっ!!と謝りながら走って去っていった。
美琴は不良達がどこかへ去っていくのを見送って、上条の方へと向き直る。

「で? なんでアンタはあんな奴らに―――」

美琴の表情が止まった。
何故なのか、なんて考えている余裕など今の上条にはない。

(かっ、考えるな! 考えるんじゃない!!)

上条は心の中でそんなことを思うが、考えるのを止めることができない。
そして、一つの答えに辿り着いてしまう。

「ぁ……うああああああああああ!!!!????」

上条は美琴に背を向けて走り出した。
背後から追ってくる気配や足音は、ない。
◆         ◇         ◆         ◇         ◆

「何やってんのよアンタ達」

御坂美琴がここに来たのは本当に偶然だった。
近くのコンビニでいつも読む週刊誌がなかったので、いつもと違う場所のコンビニに行こうと思い、面倒なのでショートカットをしようと裏路地に入った。
ただそれだけだった。
そうしたら、美琴のよく知る人物が不良達に襲われそうになっていた。
その人物はなんの能力を持っていない不良のような存在に対してはとことん相性が悪いことを知っていたので、助けてあげようと思ったのだ。
まあ、美琴の性格上ここで襲われているのが誰であっても見過ごすなどという選択肢は最初から存在しないのだが。

「あぁ? んだテメエは!? ガキはすっこんでろ!!」

不良達が身の程も知らずに吠えている。
今対峙している人物が誰なのかわかっているのだろうか?などと相手の心配をしてしまうぐらい不良達が憐れだと思った。
ただ、不思議とガキと言われたことに怒りは沸いてこなかった。
いや、既に怒っていたから、これ以上沸いてこなかっただけだった。

「ガキ……ね。アンタ達に言われたところでこれっぽっちも怒りが沸かないわね。……でも。すっこんでろはこっちのセリフだってのよっ!!」

電撃で威嚇をして、その威力を見せ付けることで警告をする。
もしこれでも歯向かってくる様ならスタンガン程度に弱めて当ててあげないといけない。
今回の不良達はちゃんと去ってくれたので安心する。
面倒なことにこれ以上能力を使わずに済んだのだから。
上条の方を向いて、理由を問う。
どうせまた厄介事でしょ?と思いながら。

「で? なんでアンタはあんな奴らに―――」

だが、そこで美琴は気づいてしまった。
上条の眼が怯えきった眼をしていることに。
そしてその眼は、不良達ではなく自分に向けられているということに。
よくよく考えてみればおかしかった。
上条は美琴と一晩中追いかけっこをしても大丈夫な程体力はあるのだ。
それなのになぜさっきは不良達に追いつかれていたのか。
最初はまた演技か何かで引き付けているのかと思っていたが、上条の眼を見てそれは違うと判断する。
その眼は本当に怯えきった眼をしていた。

「ぁ……うああああああああああ!!!!????」

上条は叫ぶと美琴に背を向けて走り去ってしまった。
美琴は追い掛けることも「待って」ということもできずにその場に立ち尽くすしかなかった。
仮に「待って」と言えていたとしても上条が待つかどうかはわからないが。

(一体何があったっていうの? アイツのあんなに怯えた眼なんて、初めて見た)

しかもそれが美琴自身に向けられたものだった。
美琴の胸にチクリとした痛みが走る。
自分の何かがいけなかったのだろうか?
わからない。
けれど、あの眼はそれだけじゃないような気がした。

(まるで、私以外の何かにも怯えているかのようだった)

それが何なのかはわからない。
けれど、美琴は力になりたかった。
何かあったのなら相談もしてほしかった。
だけどそれは、上条の性格を考えると有り得ない行動だった。
それは、あんなに怯えた眼を見せたことにもいえること。
そこでふと、美琴は少年についてのある事柄について思い出す。
…記憶喪失。
そうなった原因を美琴は知らない。
けれど、その事柄は真実だった。
もしかしたら、それに関係することかもしれない。
身体的にも精神的にも記憶喪失になってもおかしくないと思えるような怪我を、恐らく何度もしているあの少年の身に今何かが起こっていてもおかしくは、ない。

(とにかく、追い掛けよう。そして聞こう。……私が原因ならちゃんと謝ろう。それでどうにかなるかはわからないけど。それでも、私はアイツの力になりたい)

美琴は自分のとるべき行動を再確認すると少年の後を追うために走り出した。
少年の力になるために。
◆         ◇         ◆         ◇         ◆

(何を……何をやってんだ俺は!!)

ガンッ!と額を壁にぶつける音が周りに響く。
上条の額からは血が出ていた。
それは、逃げてしまったことに対する後悔と自己嫌悪。

(御坂は助けてくれただけなのに、何で俺は逃げた!? 何であんな眼を向けた!? このばっかヤロウが!!!!)

再びガンッ!という音が周りに響く。
額をぶつけていた壁に血がついた。
痛みなど全く気にならなかった。
上条はその動きを止めると、力が抜けていくようにその場に座り込み、うずくまる。
あの場所からそれなりに離れた裏路地。
人はいない。
上条は世界で自分は一人ぼっちのような、そんな錯覚を覚えた。

(御坂には………嫌われたかな。せっかく助けてくれたのに逃げ出したんだから、当然か)

そう考えると、越えてはいけない一線を越えてしまったような気分になって、全てがどうでもよくなった。
結局、全ては自分のせい。

(自分の行動が招いた結果なんだから、自業自得か)

本当に馬鹿だ、と自分は思う。
救いようのない馬鹿だと。
夢の内容に怯えて現実と混同するなんて、馬鹿以外の何者でもない。
だけど、本当に怖かった。
夢と同じ眼を向けられることが。
夢と同じ態度をとられることが。
身に覚えのないトラウマが。
もし、同じ眼を向けられたら。
もし、同じ態度をとられたら。
想像するだけで逃げ出したくなった。
自身の知らないトラウマに立ち向かうなんて出来なかった。
気づいたら、身体が震えている。

「くそっ! 止まれ! 止まれよ!!」

上条は半ば叫びながら身体を叩く。
少しでも震えを止めるために。

「やっと見つけた……」
「ッ!!??」

突然聞こえた声に身体がビクゥッ!と跳ね上がる。
自身のことに夢中で接近など全く気づいていなかった。
上条は恐る恐る顔を上げて声が聞こえた方を向く。
そこには、肩を上下させて呼吸を整えている御坂美琴が立っていた。
だが、それを見ただけで夢の内容を思い出してしまう。
美琴が化け物を見る眼をしているように錯覚してしまう。
身体の震えが一層激しくなる。

「な、んで………?」

思わず声は出てしまっていた。
美琴の行動が理解できない。
何故追ってきたのか。
助けたのに逃げられて、何故追いかけてきたのか。
もしかして、迫害をしにきたのか。
そんな考えしか思い浮かばない。

「なんでって、心配だからに決まってるじゃない」

美琴は当然のように応えると、上条の方へ一歩踏み出す。
それを見て身体がビクゥッ!!と跳ね上がる。
恐怖が倍増されたかのように溢れ出す。
思わず、言葉は出てしまっていた。

「ぅぁ……来るな……来るなぁ!!」

その言葉を聞いて美琴が動きを止める。
その間に、上条は少しでも離れようと、手と足を動かして距離をとる。
腰は抜けてしまったように、立ち上がることはできない。
美琴は何か意を決したのか、さらに一歩踏み出した。
それを見て上条の身体の震えはさらに激しくなる。
手に力が入らず、地面に肘をついてしまう。
足はただ滑るように動くだけで距離をとることができない。
その間にも美琴はゆっくりと近づいてくる。

「大丈夫……大丈夫だから……」

優しく声をかけながら。
上条はその言葉を聞いて、何故だか少し身体の震えが収まる。
恐らく、優しい声だったからだろう。
そんな声など、夢ではかけられなかったから。
なんとか少し落ち着いた頭でよくよく考えてみると、おかしいところがあることに気づいた。
夢では、上条は避けられていた。
迫害するにしても、夢では近づいてこようとはしてこなかった。
だけれど、美琴は近づいてきている。
つまり、美琴の行動は夢とは違うということ。
その事実を確認しただけで、身体の震えはかなり収まった。
だが、根源的な恐怖だけは途絶えることはない。
身体はその事実を認めようとはしていなかった。
再び、身体の震えが激しくなりはじめた。
夢の内容がフラッシュバックしてきたからだった。

「大丈夫」

いつの間にかすぐ横まで来ていた美琴は上条の傍で座る。
美琴は上条の眼と額を一度見ると、上条の頭を抱き寄せた。

「ッ!!??」

突然された行動に上条は混乱する。
何をされたのか理解しても、いつもの様に離れようと思うだとか、触れている胸の膨らみにドキドキするなどということはなかった。

(なんでだろ、すごい安心できる………)

身体の震えはいつの間にか完全に止まっていた。
こんなことをされた記憶がないからなのだろうか、上条は確かに癒されていた。

「アンタが何に怯えているのかはわからないけれど、私に出来ることなら何でもするから、そんな顔しないで」

美琴の声は震えていた。
それもそうだった。あんな態度をとっておいて、美琴が傷つかないはずがなかったのだ。
どれだけ傷ついても近づいて、優しく声をかけてくれた。
上条はその事実に気がついて、唇を噛む。
だけど、今は離れてほしくなかった。
今離れられると、上条はどうなってしまうかわからない。
人の温もりを出来る限り長く感じていたかった。

「御坂……もう少し、このままでいてくれないか」
「……うん」

美琴は小さく返事をすると、抱きしめる力が少しだけ強くなる。
美琴とその匂いに包まれながら、上条は全てを暴露したい気分になっていた。

「……夢を見たんだ」
「……え?」

驚いた声が聞こえる。
だけど、上条は気にせずに言うことにした。

「その夢では、俺は迫害を受けていたんだ。理由は不幸を撒き散らす疫病神だから。石を投げられ、拒絶され、不幸にも男に包丁で刺されて、テレビに放送されて化け物扱いを受けたんだ」

そこで一度言葉を切る。
自分がこれから語ろうとしていることを考えて、動悸が激しくなる。
だけど美琴の心臓の音が聞こえて、すぐに落ち着いた。

「もしかして……?」
「気づいた、か? そう。それがただの夢ならよかったんだ。けれど、父さんから聞いた数少ない幼い頃の情報と完全にそれは一致してたんだ」

このことは、美琴にしか言えないこと。
ここにいるのが美琴でよかったと思う。
もしインデックスだったら、本当のことなんて言えなかった。
言えば、それは記憶喪失のことを喋るのと同義になる。
バレているからいいやという考え方であることに気づいて、上条は自己嫌悪する。
それでも、美琴に悪いと思いつつも、上条は言うことにした。

「つまり、その夢は俺の昔のことだったんだ。それも、記憶はないのに、身体は覚えているっていうトラウマとして残ってた」

上条はそこまで言うと、また身体が震え出した。
少しでも思い出してしまったから。
気づいた美琴が強めに抱いてくれて、徐々に震えは収まっていく。
上条は美琴に感謝しつつ、続きを言った。

「それは確かに怖かった。けれど、それ以上に怖かったことがあるんだ」

美琴が唾を飲み込んだのがわかった。
予想外だったのだろう。
けれど、上条は意を決して全てを言う。

「俺は、それを現実でもされるんじゃないかと思ったんだ。そして、そう思う自分を止められなかった」

言い切ったら少しだけ気が楽になった。
本当はこんなこと言うべきではないのに。
こんなことは自分一人で解決するべき問題なのに。
記憶喪失のことも、このことも、全ては自分の問題。
他人に言うようなことではない。
言って、わざわざ心配をかけさせるようなことをすることは上条の望むことではない。
でも、誰かに言いたかった。聞いてほしかった。
自分一人で背負うのは耐えられなかった。

「私は、絶対にそんなことはしないわよ」
「……うん」

美琴の優しい言葉が身に刺さる。
例え、そんな言葉をかけられても、それでも信じきることができないのだ。
そんな自分に腹が立つ。自己嫌悪する。
信じきることができないのに、悩みを打ち明けたのだ。
自分勝手にも程がある。
だけど、美琴はそれでも優しく言ってきた。
まるで母が子を優しく包み込むように。

「例え、他の人達がそんな態度をとったとしても、私は絶対にしない。私はアンタの味方で在りつづける」

上条は思わず顔を上げた。
美琴と目線があう。
その瞳は少し涙目になっていた。
他人のことも背負いやすい美琴のことだから、自分の昔の扱いをまるで自分が受けているように感じてくれているのだろう。
酷い扱いだと、思ってくれている。
たったそれだけのことで救われるような気がした。

「全部、吐き出しなさい。私が、全て受け止めるから」

そう言われて、上条の中でせき止めていた何かが壊れた。
美琴の胸に顔を埋めて、

「っぅぁ、ぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!」

周りのことなど一切考えず。
まるで子どもの様に泣きじゃくった。
きっと、これだけ泣いたことは記憶喪失になる前の自分でもなかっただろう。
それぐらい長く、声も大にして泣いた。
その間、美琴は優しく包み込んでくれていた。
◆         ◇         ◆         ◇         ◆

(どこにいるのよ!)

美琴はずっと走りっぱなしだった。
行き先もわからない。
ただ、少年の身に何かあったらという懸念と焦りで体力はどんどん削られていった。
すでに何人かの不良達を倒していることもあるからだろう。

ガンッ!

少し遠い場所でそんな何かを打ち付ける音が聞こえた。
もしかしたらあの少年がまた不良に襲われているのかもしれない。
怪しいところは全て探すつもりで、美琴はその場所へと急いだ。

「くそっ! 止まれ! 止まれよ!!」

その場所にたどり着いた時、少年は一人でうずくまっていた。
足や身体を殴るように叩いている。
少年は、孤独感に満ち溢れた淋しい背中をしていた。
その背中を見て美琴は胸が痛くなる思いだった。
どうにかしてあげたい。力になりたい。

「やっと見つけた……」
「ッ!!??」

少年の身体が跳ね上がる。
その反応一つが美琴の心をえぐっていく。
少年が美琴の方を向いた時、美琴は詰まった。
額からは血が流れていたから。
近くの壁にある血痕を見て、美琴は大体の状況を把握する。
恐らく、少年は自分で額を壁に打ち付けたのだろう。
少年は優しすぎるから。
痛々しいその額をみて、美琴はさらに胸が詰まった。

「な、んで………?」

少年は、怯えきった眼をしていた。
理解ができない、というような表情で。
だから美琴は、当たり前のことを言った。
少年からそんな怯えきった眼を取り払いたくて。

「なんでって、心配だからに決まってるじゃない」

とにかく近づいて、話をきこうと、美琴は一歩を踏み出す。
だが、その行動は間違いだったかもしれない。
少年は再び身体を跳ね上がらせると、恐怖に染まった眼を向けた。

「ぅぁ……来るな……来るなぁ!!」

美琴は止まらざるを得なくなる。
それは、完全なる拒絶だった。
その拒絶が、美琴の心を最も大きくえぐった。
でも。それでも。
少年を救いたいと思った。
例え最後には嫌われてでも。
どれだけ拒絶をされてでも。
美琴の心がどれだけえぐられても。
少年の心を救いたいと。
なぜ少年がこうなったのか、原因なんてわからない。
けれど、美琴は決意した。
だからこそ、美琴はさらに一歩を踏み出す。
少年の身体がさらに震え出す。
少年の動きが空回りする。
だけど美琴はゆっくりと、警戒する猫に近づくように、一歩ずつ踏み出す。

「大丈夫……大丈夫だから……」

優しく声をかけて、警戒心を溶くように。
そうやって近づいてみると、少年の震えが少し収まったのがわかった。
効果はあるのかもしれない。
美琴はゆっくりと近づいていく。
だが、すぐ横まで近づいた時に、少年の震えは再び激しくなった。

「大丈夫」

美琴はそういうと少年の横に座る。
少年の怯えた眼と痛々しい額を見たら、美琴は思わず少年を抱いていた。

「ッ!!??」

少年は最初抵抗するかのように手を上げたが、すぐにそれは下ろされる。
少年の血が制服に付着することなど一切気にならなかった。
少年の震えが止まったのがわかったけれど、美琴は態勢を変えない。
今の態勢が上条のためになるのなら。
ただ、そろそろ頃合いかと思って、美琴は話し掛ける。

「アンタが何に怯えているのかはわからないけれど、私に出来ることなら何でもするから、そんな顔しないで」

自分の言葉が震えていることが普通にわかった。
ダメだな、自分。と美琴は自嘲する。
これでは上条は気づいてしまう。
少し自分を取り戻したであろう上条なら離れてくれ、だとか、心配をかけさせないような言葉を言うかもしれない。

「御坂……もう少し、このままでいてくれないか」

予想外の言葉が飛んできた。
上条が自分を頼ってくれた。その事実に美琴は嬉しくなる。

「……うん」

返事をした後美琴は思わず抱きしめる力を少し強くしていた。
それでも、上条から抵抗はない。
そのことに少し安堵する。
上条は突然、ポツリと呟いた。

「……夢を見たんだ」
「……え?」

突然呟かれたことに驚いた。
上条は全てを暴露しようとしてくれているらしい。
そのことに気づいた美琴は心の準備をして、どんなことであっても上条を守ろうと、味方であろうと決める。
夢という単語が気になったが、とにかく聞くことに徹することにした。

「その夢では、俺は迫害を受けていたんだ。理由は不幸を撒き散らす疫病神だから。石を投げられ、拒絶され、不幸にも男に包丁で刺されて、テレビに放送されて化け物扱いを受けたんだ」

酷い扱いだ、と思う。
上条は不幸な目には遭うけど、不幸を撒き散らすなんてことはないのに。
でも、どこか釈然としない。
それがただの夢なら、それだけで上条がここまで怯えるようなことにはならないはずだ。
上条ならそんな夢を見たんだぜといって笑い話にさえしそうな気がする。
だけど、現実には上条は怯えて、精神的に危険な状態にまで陥った。
まるで、トラウマみたいに。
そこまで考えて美琴は気づいた。

「もしかして……?」
「気づいた、か? そう。それがただの夢ならよかったんだ。けれど、父さんから聞いた数少ない幼い頃の情報と完全にそれは一致してたんだ」

それはつまり、その夢は上条の―――
考えが至る前に、上条は言った。

「つまり、その夢は俺の昔のことだったんだ。それも、記憶にはないのに、身体は覚えているっていうトラウマとして残ってた」

上条の身体がまた震え出したのに気づいて、美琴は強めに抱きしめる。
記憶にはない心の傷。
それはどれだけ怖いことだろう。
覚えていないのに、身体は勝手に反応してしまう。
心の傷をどうにかできればいいのだが、記憶がないのだから具体的な方法など思
い浮かばないだろう。
美琴は自分の無力さを嘆いた。
だが、上条の話はまだ終わってはいなかった。

「それは確かに怖かった。けれど、それ以上に怖かったことがあるんだ」

え?
予想外の言葉に美琴は驚いて唾を飲み込んだ。

「俺は、それを現実でもされるんじゃないかと思ったんだ。そして、そう思う自分を止められなかった」

つまりは、そういうこと。
上条は不良達や美琴に夢と同じように迫害されるかもしれない、と思ってしまったのだ。
それは、時間が経てば経つほど否定ができなくなって、最後には全ての出来事を夢と一緒なのではないかと思うようになってしまった。
でも、それならば、私にもできることはある。
美琴はそう思って、上条から一つでも不安を取り除くために言う。

「私は、絶対にそんなことはしないわよ」
「……うん」

力のない声が帰ってきた。
恐らく、上条自身そんなことはわかっている。
そんなことをする奴は彼の近くにはいないということくらい。
けれど、彼は信じられなかった。
彼の友人達が本当にそんなことは絶対にしない。と信じきれなかった。僅かな疑念が残ってしまった。
そして、信じきれない自分に自己嫌悪した。
でも、他人を信じきることなんてそう簡単にはできない。と思う。
ましてや、上条は記憶喪失なのだ。
だから。だったら。信じさせよう。
自分の行動で、信頼をさせよう。
少なくとも自分は、上条当麻を信じているから。

「例え、他の人達がそんな態度をとったとしても、私は絶対にしない。私はアンタの味方で在りつづける」

上条が顔を上げて見てきた。
驚いているようだった。
その瞳は悪夢に怯える子どものようだった。
今まで、上条はそんな自分の弱さを他人に見せたことなどなかっただろう。
周りに心配をかけさせないために。
出来る限り一人で抱え込んで。
だけど、そんなことをする必要なんてない。と思う。
そう教わったから。
他の誰でもない、上条当麻に、教わった。
きっと、これ以上溜め込んだら耐えられなくなる。
記憶喪失になって、周りを騙して、自分を偽って、それだけでも十分重荷になっているはずなのに、そこにトラウマなんてものが加わればどうなるか。
想像なんてつかない。
だから一度、そんな重荷は全部降ろした方がいい。

「全部、吐き出しなさい。私が、全て受け止めるから」
「っぅぁ、ぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!」

そう言ったのがきっかけになったのか、上条は美琴の胸のなかで泣きじゃくった。
美琴はそれを優しく包み込む。
◆         ◇         ◆         ◇         ◆

泣きじゃくって、美琴の制服を血とそれ以上の涙で濡らして、顔が自身の涙と濡れた制服で冷たいと思いつつ、

(強いな。ホント。本当に御坂は強い。俺じゃ全然敵わねえや)

素朴な感想を抱く。
どれだけ傷つけられても、怯えた眼を向けられても、拒絶されても、それでも優しく包み込んでくれた、何もかも受け入れてくれた。
こんなに心が強い奴なんてそうはいない。
だから、興味が沸いた。
だから、聞いてみることにした。
美琴の胸から顔を離す。
血は止まったようだった。
もう、恐怖は出てこない。
美琴が傍にいてくれるから。

「なあ。なんでそんなに強いんだ?」

少し沈黙する。
突然予想外の質問をされたからかもしれない。

「……別に、強くなんかないわよ。むしろ弱いわよ。アンタよりも、ずっと弱い」

返答は予想外だった。
俺よりも、弱い?
そんなわけがない、だって。

「…そんなわけないだろ。どれだけ傷つけられても、優しく包んでくれたお前が俺より弱いわけ、ない」
「弱いわよ。今でも、折れそうだもの。すぐにでもどこかに行ってしまいたいくらい。今すぐ泣きじゃくりたいくらいに」

その言葉を聞いて、上条は自分を責めた。
そうさせたのは、傷つけたのは、自分。
だけど、理解できなかった。
どうして折れそうな心であるにもかかわらず、自分に優しくしてくれたのか。
その疑問はすぐ口をついて出た。

「なら、なんで俺に優しくしてくれたんだ……?」
「………アンタのことが、好きだから」
「…………………………………え?」

予想なんて全く出来るはずもなかった答えが返ってきた。
御坂が、俺のことを好き?
友達として?
いや、さすがにこの状況でそれは違うだろう。
なら、つまり。

「そう、なのか?」
「そうよ。私は、アンタのことが好き。一番好き」

答えはすごく簡単なことだったようだ。
美琴がどれだけ傷つけられても、怯えた眼を向けられても、拒絶されても、心が折れそうになるくらいになってでも、優しく包むことができたのは。
御坂美琴が、上条当麻のことを好きだから。
たった、それだけの理由。
だけど、それは美琴にとってはすごく大きな理由で。
恐らく、美琴にとってはそれが全てで。
何物にも代えることのできない理由。

「はは………。やっぱり、御坂は強いよ」
「……強くないって言ってるのに」

本当に、感服した。
同時に、自分は馬鹿だと思った。
どうして気づかなかったのか。
今までの自分を思い切りぶん殴ってやりたい。

「……ゴメン」

美琴の身体がビクリと震える。
その様子に気づいてはいるが、上条は続きをいうことにした。

「ゴメン。気づいてやれなくて」

美琴の身体から少しだけ緊張が抜けたのがわかる。
だが、上条は聞かなくてはならない。
それは、確認。

「でも、こんな俺でいいのかよ?」

美琴はその言葉を聞いて、心底安堵した表情になって、優しく微笑みながら当然のように答えた。

「ええ。そんなアンタだからいいのよ」

上条は驚いて目を見開いた。
もう、何度驚いたかわからない。
美琴は本当に何もかも、全てを受け入れようとしてくれている。
上条の弱さでさえ。
本当に、強い。と思った。
自分が不釣り合いだと思うくらい。
それなのに何故俺なんかを好きになったのだろう?
疑問に思った。
だけど、そんなこと今は聞くべきではない。
今言うべきことは他にある。

「……ありがとう。美琴」
「どういたしまして。当麻」

自分一人ではきっとトラウマには立ち向かえない。
だったら、二人で立ち向かえばいい。
美琴にも背負わせてしまうことは嫌だが、美琴は一緒に背負うことを望んでいる。
ならば、もう少しだけ、甘えることにしよう。

「……俺と一緒にトラウマに立ち向かってくれるか?」
「当然。最初からそのつもりよ」

即答されて、上条は半ば呆れた。
強すぎだろ、と。
だけど、美琴がそこまでしてくれるのなら、自分もそれに応えなくてはならない。
上条は覚悟を決める。
美琴の弱さも何もかも全てを受け入れよう。
そうしなければ、美琴に見せる顔がない。
だから、上条は宣言する。

「俺は、絶対にお前を護る。何があっても、お前の味方で在りつづける」

その宣言は、奇しくもあの約束と似ていた。
美琴は少し驚いたようだった。
だけど、すぐに顔は戻り、言う。

「私は護られるだけの女になるつもりはないわよ。逆に当麻を護ってあげるわよ」
「…恐ろしいお嬢様だな」
「何よ」

そう言って2人は笑いあう。
美琴はとても強く、それでいて優しい笑顔をしていた。
◆         ◇         ◆         ◇         ◆

「なあ。なんでそんなに強いんだ?」

突然、質問が飛んできた。
上条にそんなことを聞かれるとは思ってもいなかったので驚く。
正直に言うことにした。

「……別に、強くなんかないわよ。むしろ弱いわよ。アンタよりも、ずっと弱い」

私は、弱い。
上条よりも強いはずがない。
もし私が記憶喪失になったら、全てを抱え込んで周りを騙してまで隠そうだなんて思えない。
私が強いと思えるのは、表面上だけ。

「…そんなわけないだろ。どれだけ傷つけられても、優しく包んでくれたお前が俺より弱いわけ、ない」

だけど、上条はそれを否定した。
そんなに過大評価されても、困ってしまう。

「弱いわよ。今でも、折れそうだもの。すぐにでもどこかに行ってしまいたいくらい。今すぐ泣きじゃくりたいくらいに」

上条の顔が苦虫を潰したような表情になる。
自分を責めているのだろう。
この少年は、優しすぎるから。

「なら、なんで俺に優しくしてくれたんだ……?」

質問されて、何故だか自然と口から言っていた。
本当の、今までずっと言いたかった気持ちを。

「………アンタのことが、好きだから」
「…………………………………え?」

上条はキョトンとした顔になる。
理解できていない顔だった。
もしかしたら、勘違いをしてくるかもしれない。
けれど、別にそれでも良かった。
少年の心を少しでも救えたことが嬉しかったから。

「そう、なのか?」
「そうよ。私は、アンタのことが好き。一番好き」

何故だか、素直に気持ちを伝えることができている。
覚悟をしたからかもしれない。
嫌われても構わないという覚悟を。

「はは………。やっぱり、御坂は強いよ」

まだ言ってきた。
さっきから言っているのに。

「……強くないって言ってるのに」
「……ゴメン」

その言葉に美琴は自分の身体が震えるのがわかった。
それは、何に対しての「ゴメン」なのか。
そして、一つの可能性に思い至る。
告白に対しての言葉であることを考えたのだ。
嫌われても構わないとは決意した。が。
やっぱり、怖いものは怖い。
フラれるのではないかと考えると、その場から逃げ出したくなる。

「ゴメン。気づいてやれなくて」

だから、その言葉を聞いた時、美琴は少しだけ安堵した。
だけど、まだわからない。

「でも、こんな俺でいいのかよ?」

その言葉を聞いて美琴は心底安堵した。
それは、告白を受け入れるという意味で、最後の確認だった。
だけど、そんなことをされなくても、美琴の答えは決まっていた。

「ええ。そんなアンタだからいいのよ」

言ったら、上条が目を見開いていた。
どうやらそこまで驚いてくれたらしい。
だが美琴の言った言葉に偽りはない。
弱いところを見せられても、美琴の想いは微塵も変わらなかった。
むしろ、弱いところ見せてくれたことが嬉しかった。

「……ありがとう。美琴」
「どういたしまして。当麻」

当麻の背負うものはとても大きい。
だけど、美琴は既に覚悟はできていた。
一緒に背負っていく覚悟を。

「俺と一緒にトラウマに立ち向かってくれるか?」

その質問は美琴にとって愚問だった。
最初からそのつもりだったから。
だから、美琴は即答する。

「当然。最初からそのつもりよ」

当麻はどこか呆れているように見えた。
少しして、当麻は何かを決意したようで。

「俺は、絶対にお前を護る。何があっても、お前の味方で在りつづける」

美琴はその言葉に少し驚いた。
あの約束に酷似したことを、改めて面と向かって言われるのは、少し恥ずかしかった。
でも。

「私は護られるだけの女になるつもりはないわよ。逆にアンタを護ってあげるわよ」
「…恐ろしいお嬢様だな」
「何よ」

そう言って、2人は笑いあう。
当麻の顔は恐怖のない、いつも通りの笑顔だった。

「さて、と」

上条は立ち上がる。
もう、力は普通に入る。
歩むことができる。

「頑張りますか。……2人で」

そう言って、当麻は手を差し出してきた。
美琴はそれに従って、立たせてもらう。

「……うん」

返事をして、美琴は手を離さなかった。

「あれ? 美琴さん? 手―――」
「2人で頑張るんでしょ?」
「………ああ、そうだな」

当麻は、少し恥ずかしそうにしながらも、笑いかけてきた。
その手は、離さないまま。
しっかりと握って。

「「………」」

2人は沈黙のまま歩き始める。
少しして、同時に言った。

「「ありがとう」」

2人は同時に笑って。歩いていく。



美琴にとって、上条は支えであり、大切な人。
上条にとって、美琴は支えであり、大切な人。
2人は互いを支えあい、一緒に道を歩んでいく。
背を向けて逃げ出す必要なんてない。
2人だから。





終わり。


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