とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

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日常の記憶


 トントントンと、綺麗なリズムを鳴らす音で上条は目を覚ました。
 晴天の空の明るさが、窓から部屋を照らしている。上条はまぶしさに目を擦りながら、ベットから起き上がった。
「あ、おはよう。どう、眠れた?」
 美琴の声は眠そうではなく、すでに目覚めた声であった。対して上条はまだ完全には眠りから覚めてなく、おうと情けなく返事をした。美琴はそれを見て、相変わらずねと言ったが上条は特には気にしなかった。
「朝飯、作ってるのか?」
「まぁね。もう少しかかるから、顔でも洗ってくれば?」
 上条はそうすると手を上げて答えると、洗面所に向かって歩いた。のだが…。
「あれ…?ぐごがぁ!!」
 ベットから降りた瞬間、足を何かで滑らせ顔面から床に落ちた。ちょっと大丈夫?!と美琴からの声が聞こえた。そして、これが記録に書かれた"あれ"だと理解して、上条はため息混じりにいつもの口癖を呟いた。
「…不幸だ」
 上条当麻は、どんな状況でも常に不幸であった。
「ホント、相変わらずね。毎朝こんな感じだったのかしら…」
「……毎朝こんな起きていたと想像したら、上条さんは毎朝鬱になってると思うんですが」
「でもまあ、こればかりは私にはどうしようもないわ。それよりも、いつまでそうしているつもり?」
 もっともなご意見です、というと上条は起き上がってひりひりと痛む顔を摩りながら、転んだ原因を手に取った。
「なんでこんなところに、マンガ雑誌があるんでせうか?」
「ああ。それはさっき私が読み終わったやつ。ちょうどこの場所にあったのね」
 納得をする美琴だが上条からしてみれば、原因となった美琴を黙って見過ごすことわけはない。言うなれば、美琴への八つ当たりだ。
「なんでお前は、人のベットの下に雑誌を置いてるんだ!!しかも、ちょうど立つ位置に!!!」
「しょうがないじゃない。私だって、悪気があったわけじゃないのよ?」
「悪気があろうとなかろうと、上条さんの不幸体質はお前もよく知ってるはずだろう!!!お前が少し注意すれば、上条さんは床にキスをしなくても済んだんだぞ!!!」
「なによ!私のせいだって言うの?!」
 美琴は料理そっちのけで、台所から出てきて、上条に怒鳴り返した。こうなると、いつもの通りのケンカだ。
「どう考えてもお前のせいだろうが!!雑誌がここにあることも、雑誌を置いておくことも!!!」
「アンタが勝手に踏んだだけでしょう!!私は何もしてないわよ!!!」
「嘘付け!!雑誌を読み終わったら、机においておくもんだろう!!!なんで床においておく、床なんかに!!!」
「なっ?!偉そうなこと言ってるけど、アンタだって床に教科書や雑誌を巻き散らかしてたわよ!!!」
「それは記憶の前の上条さんであって、今の上条さんでは関係ございませんよー」
「なんですって!!!!」
 上条が美琴を責めている会話が、知らない間に今の上条と前の上条の態度は別人と言う方向転換に、二人は気づいていない。そして、台所で火の元を放置していることにも気づいていなかった。
「今の上条さんは、そんな間抜けなことはしません。生活だってしっかりするし、身の回りの整理だってお茶の子さいさいです」
「よく言うわね。どうせアンタのことだから、実際にその状況に立たされたら、なんにも出来ないんでしょうけど」
「その言葉、そっくりそのまま返させて頂きますよ。常盤台のお嬢様」
「……アンタ、お嬢様お嬢様って馬鹿にするのもいい加減にしなさい」
「本当のことではなくて、姫?実際にその状況に立たされたら何も出来ないって言うのが、お姫様・お嬢様の基本だろ?」
「アンタはお嬢様に何を想像してるのよ!!」
「目の前の中学生にだが、何か?」
 当然だろとでも同意するような表情を見せられ、美琴は我慢の限界を越えた。
「……そうよね。記憶を失ってもアンタはアンタのままだってことを、気づいたばかりじゃない」
「………あの御坂さん。上条さんはものすごく嫌ーな予感を感じたんですが」
「だったら、我慢しなくても、いつも通りに電撃を浴びせて問題ないわよね」
 一応、恋人となったことを気に電撃を自粛する気だったが、変わらない上条の態度はそんなことをしなくてもいいと、言っているように聞こえなくもなく、自分から進んで行おうとした自粛も馬鹿みたいに思えてきた。
 そして美琴は、上条に電撃を浴びせることはやめなくてもいい。むしろ、良い刺激になると判断し自粛をやめた。
「とりあえず、アンタは元気そうだしいくつでもいけるわよね?」
「やめてください美琴様。ここで電撃なんてものを出されたら、電化遺品のみならず壁まで真っ黒になって大変な部屋になりそうです。そして、わたくし上条当麻が死にます!!」
 上条は反射的に土下座をして、美琴に許しを願った。上条の言うことは確かに筋が通っているのは、美琴にも理解できる。だがそれで許しているのであれば、日々上条を追いかけたりなんかしない。
「とりあえず。もう一回だけ、床にキスしてくれないかしら?もちろん、私の電撃で」
 もうぶち殺し確定なのですねと、上条は気づくころにはこの部屋は修羅と化していた。そして、今日も不幸な一日が不幸に始まったなと実感する、上条当麻の二日目が始まった。

「……御坂、何か言うことは?」
「うぅっ…でもあれはアンタが」
「火の原因は上条さんにはございません。というか、火の扱いぐらい心がけて置けよ」
 二人は今の真ん中で正座しながら向かいあっていた。上条の言葉に、面目ありませんと美琴はしゅんと小さくなった。対する上条は二日目で別の部屋へと変わってしまった真っ黒な自室に、ため息を隠せなかった。
 あのあと、美琴が無我夢中で追いかけてきた結果、火の始末を疎かにし、それが原因で出火。騒ぎにはならずに済んだもの(もっとも騒ぎにならなかったのは、上条の部屋だからという住人たちの暗黙の了解があったからだが)を、結果とし部屋は真っ黒に焦げてしまい、無事だった部屋は洗面所と風呂場だけであった。
 そして、この現状に上条は美琴を責め立てていた。当然、火の原因に関しては美琴も全面的に認めたため、責任に関しては美琴が追うこととなったが、一番痛い目に会った上条は、不幸だと思いながらこれからどうやって生活をすればいいかと頭を悩ませていた。
「それにしても、この部屋どうするんだよ。これじゃあ、寝ることも出来ないぜ?」
「とりあえず、業者に連絡してみない?それなりのとこ知ってるからなんとかなると思うんだけど…」
「でも治るのは時間がかかるだろ?下手すれば追い出されるし…はぁー不幸だ」
 上条の心配は、この部屋を追い出されることであった。いくら自分の住まいでも度が過ぎた迷惑は、他の住人にも迷惑を与え、その結果追い出されることだってある。現実にも、うるさかったり、自分勝手な振る舞いを行ない、出て行って欲しいといわれる住人も少なくない。
 もっとも上条の事に関しては、住人も管理人も理解しているし、学園都市は能力者の集団。大規模な出来事があっても、納得が言ってしまう出来事も少なくはないが、記憶を失った上条にはそれがまだ理解できていなかった。
「大丈夫よ。一日耐えれば、前とは比べもにならないほどの腕利きだから」
「上条さんはその業者さんの腕ではなく、その住まいに関して頭を悩ませているのですが?」
「一日ぐらいホテルでいいじゃない?」
「とても簡単はご意見ありがとうございます!でも上条さんの生活費ではホテルなんて、無理です!!」
 一応、どれだけのお金を持っているか昨日のうちに確認してある。はっきり言うと、上条はホテルに一日泊まることは意外と命がけだった。
「大丈夫よ。私も一緒だし、払ってあげるから」
「…………はい?」
 美琴は自分がいつも行う(と言っても稀であるが)ことを何事もなく言うが、それがどういったことを招くのか美琴は理解していなかった。対する上条は、ホテルに泊まると言う選択肢のことの大きさに気づき、それを全力で拒否した。
「ダメダメダメだ!!ホテルなんて絶対にダメ!!!」
「別にいいじゃない。そんなにこの部屋がいいの」
「そういう意味じゃねぇよ!大体、お前は俺と一緒にホテルに泊まるって意味、理解してんのかよ!!」
「部屋が別々だから、気にすることじゃないじゃない?私だって、そんなことぐらい心得てるわよ、馬鹿」
 美琴は赤くなりながら、答えた。一応、男女が一緒の部屋は危ないとわかっているようだ。
「それに、ホテルに泊まるって言っても、アンタが想像するホテルじゃないわよ」 
 そういう意味ではないんだがと、様々な心配があったが、それは後に決めればいいかと、宿の件は保留にすることにした。
「……その話はあとでいい。それよりも、朝飯はどうするんだ?」
「うーん。どこかコンビニで買ってくしかないわね。私としては、作った朝ごはんを食べて欲しかったんだけど、それは持越しね」
 残念だわと肩を落しながらも、美琴は携帯電話を取り出すと業者に連絡をする。上条は、この件は任せようと思い、とりあえず着替えようと私服を持って、別室の洗面所に向かった。
「無事だ……でも喜べねぇ」
 洗面所だけが綺麗であることは少々複雑であったが、とりあえず考えないことにした。全部真っ黒よりはいいかと思い、顔を洗って、パジャマを洗濯物とし洗濯機に入れ、今日初めて着る私服に袖を通した。
「はぁー上条さん、恋人同士の件もあるけど、他にも色々と面倒でなんだか複雑ですな」
 上条は悩みが尽きないことに頭を抱えながら、美琴の元に戻った。


 上条と美琴は邪魔にならないように部屋を出て、とりあえず最寄のコンビニで朝食を買おうと歩いていた。
 時刻は九時前。この日は春休みの真っ最中であったため、学生はいても制服姿の学生の姿はほとんどいない。しかし、校則で外出時も制服着用の美琴は、常盤台中学の制服を着て歩いていた。
 上条は厳しいもんだなと思いながらも、昨日一日で見れなれてしまった制服をもう一度見てみた。ベージュのブレザーに紺系チェック柄のスカートという、どこにでもありそうな制服だが、細かい部分はお嬢様学校なのか、高級感があるオーラーのようなものを感じる。もしこれを弁償するとなるといくらになるだろうと、一瞬考えたが泣きたくなりそうな金額になりそうなので考えないことにした。
 対して比べるように自分の服装を見た。細かい解説をする前に、心が折れそうだった。
「…?深刻そうな顔してどうしたの?」
「いえ、階級の差を実感していただけです」
 中身はお嬢様らしくないが、見た目はどう見てもお嬢様だと上条は涙を流しそうになった。そして、横にいる自分と美琴とでは圧倒的に何かが違うと感じてしまい、並んで歩く姿は一切つりあっていないのだろうと思った。だが美琴はそんなことをいっさいお構いなく、上条の横を歩いていた。
「そういえば、アンタの部屋にこれがあったわよ」
 というと、美琴はスカートのポケットから携帯電話を取り出し、上条に差し出した。
「あん?携帯電話?」
「そっ。アンタのケータイよ。部屋の中におきっぱなしだったから、持ってきておいたわよ」
 美琴から渡された携帯を手にとって、開いてみると電源がついていなかった。これでは話にならなかったので、電源をつけてみると、デフォルトの待ち受けが液晶に浮かび上がった。
 まず最初に行ったのは、電話帳を見てみることだった。やはり友人関係もあるが、他にも色々な知り合いを知るにはこれがいいと思って、電話帳の一覧を覗いてみた。
「………あれ?」
 出てきた結果は、病院と御坂美琴という名前だけに上条は驚きを隠せなかった。美琴から話を考えると、もっと多いはずだと思ったのにと思ったが、それに気づいた美琴はこう細くした。
「アンタが記憶を失った日にね、衝撃でケータイがバラバラになったの。それでメモリーとかあるかと思ったんだけど、色々あって…だから契約したのは私だけど、持ち物はアンタのものよ」
 なるほどと上条は知っている限り、携帯を弄ってみた。といってもあまり携帯を使わない上条が見たのは、履歴にデータフォルダぐらいであった。そのどちらもデフォルト通りで、いっさいのデータは入っていなかった。「これって新品か?」
「そうよ。アンタは携帯電話をその通りにしか使わないから、簡単なものにしてみたんだけど……気に入ってもらえた?」
「まぁ、電話とメールが出来ればそれでいいからあんま気にしないが、な。でもお前が選んでくれたやつだし、大事にはする」
 上条は携帯をポケットに突っ込み、美琴に微笑んだ。
「あ……うん。……ありがとう」
 美琴は自分に向けられた笑みにドキッとしてしまい、視線を逸らした。美琴には上条の笑みは、チョコや生クリームよりも甘すぎた爆弾だったのだ。
 そして、恋人同士となったことにより、上条の笑みの甘さが倍増し、もはや感情のコントロールも出来なくなる寸前であったことを上条は知らない。
(なんだか世話になりっぱなしだな。ここはちゃんとお礼を言った方がいい場面か?)
 だというのに上条は、ここで世話になりっぱなしであることを気にした。それらは全て美琴の好意であったということを知っているのだが、それでも上条からしてみれば人に頼りっぱなしはどうにも気が引けたのだ。
(やっぱりこういうときというのは、真面目にお礼を言った方がいいよな?そうですそうだろうそうなんですね)
「気にするなって、むしろ昨日からずっと付き添ってくれてた御坂に、に大切なことを言い忘れた」
「大切なこと……?」
「ああ。んじゃ改めて言わせてもらう。
 昨日からずっと何から何まで、ありがとな、"美琴"」
 そして繰り返されるのは、ふにゃーの悲劇だった。やはり上条は、どんな場面でも不幸であった。


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