とある幻想殺しの同棲生活
3月23日。
話題となった常盤台の卒業式は沈黙に向かい、世間では過去の出来事として人々の記憶の一部となっていた。学園都市内でも、様々な動きがあり波乱であった卒業式後の一週間は、学園都市は上条当麻と御坂美琴の二人の話題で持ちきりとなっていたが、今はもう過去の記憶だ。
だが本人たちは、終わった話題であっても卒業式の出来事は過去の出来事と簡単に済ませることは出来ない。あれから様々なことが一気に起きたが、あの日は始まりの日であり記念日となった二人は大切な思い出の一部として永遠に残るのであろう。
さて、世間はホワイトデーというイベントが終了し、学生たちは春休みと言う新しいイベントを待つ日となった今日、上条と美琴の二人は今日も仲良く街の中を歩いていた。
「それで、目的地とやらはどこにあるんだよ」
「うーん。そろそろだと思うんだけど、多分この辺りだと思うんだけどな」
第七学区のとある住宅街。上条と美琴はこの場所にはほとんど来たことがないが、今日はこの場所に用があって二人でやってきたのだ。
恋人つなぎで歩きながら、美琴が用意した地図を持ってここまで来た時間は十数分。時刻はそろそろ12時を回ろうとしているが、二人はまだお腹はすいていない。
「って言われても、ここはアパートばっかだぞ?」
「そんなことぐらいわかってるわよ。それに、このあたりはアパートが多いって聞いたんだから、ないとおかしいじゃない」
そういう意味じゃなくてだな、と上条は高層ビルの立った場所とは大違いの、小さなアパート街とでも命名できる場所に来たのはいいが、目的の場所はまだ見つからない。
「普通、事前に行って場所を覚えてから来るのが普通だと思うんですが?」
「仕方ないじゃない。バカ母や黒子、土御門が勝手にやったんだから。それに、私がいなかった時だからどうしようもなかったのよ」
そうですかと上条はため息をつきながら、周りを見渡す。真新しいとは言えないアパートだらけの場所のどこに目的地があるのか、日が暮れるんじゃないのかとさえ思えてきた。場所もわからないのに地図を渡されても困るなと、今更ながらこの地図を渡した本人、土御門舞夏を少々恨んだ。
一方美琴は、上条は役に立たないと判断し、地図に書いてある場所を確認しながら目的地を探した。一応、細かな部分は書いてあるが少しばかり大雑把な部分も目立つ地図だが、まったくわからないわけでもない。むしろ、近くにあるアパートの名前や目印になりそうな家など、細かなことも書いてあったので適当に書かれるよりはよかった。
そして、地図に書かれたアパートの名前を発見し、それから次々と地図と周りを照らし合わせていく。
「うん…うん……このあたりみたいね」
母親のように上条の手を引きながら、美琴は大体の目星をつけた。角を曲がり、目印となるものを確認して、美琴はここかな、と地図に書かれた目的地の名前を照らし合わせてみた。
「ここみたいね。ちゃんと標識もあるようだし」
「えっと………マジ?」
様々なことを予想していた上条もさすがに目を疑った。
それは予想外のものであったが、よくよく考えてみればお嬢様である美琴らしいものだ。常盤台の寮から出て次にこれかよ、と相変わらずのブルジョワジーな様を見た気がした。
「美琴さん。一応、お伺いしますが、これが貴方様の新居になるのでせうか?」
「そうだけど、何かおかしい?」
美琴は何の疑いもなく、言い切った。だがそれでも上条はまだ納得できなかった。
お嬢様学校である常盤台の寮を出てきたと思ったら、次はこれだ。一体、どれだけ自分と階級は違うんだと、改めて超能力者の権力の大きさを感じた。
「ほらぼっとしてないで入るわよ。当麻の荷物だって、あるんだからちゃっちゃとやらないと」
「高校一年になって新居が寮じゃなくて、一軒家ってどういうことだよ! しかも標識の名前、絶対おかしいだろう!?」
上条はこの質問に、誰かに答えて欲しかった。だが、答えはすぐ目の前の新居の姿と『上条』と書かれた標識だけで十分であった。
話題となった常盤台の卒業式は沈黙に向かい、世間では過去の出来事として人々の記憶の一部となっていた。学園都市内でも、様々な動きがあり波乱であった卒業式後の一週間は、学園都市は上条当麻と御坂美琴の二人の話題で持ちきりとなっていたが、今はもう過去の記憶だ。
だが本人たちは、終わった話題であっても卒業式の出来事は過去の出来事と簡単に済ませることは出来ない。あれから様々なことが一気に起きたが、あの日は始まりの日であり記念日となった二人は大切な思い出の一部として永遠に残るのであろう。
さて、世間はホワイトデーというイベントが終了し、学生たちは春休みと言う新しいイベントを待つ日となった今日、上条と美琴の二人は今日も仲良く街の中を歩いていた。
「それで、目的地とやらはどこにあるんだよ」
「うーん。そろそろだと思うんだけど、多分この辺りだと思うんだけどな」
第七学区のとある住宅街。上条と美琴はこの場所にはほとんど来たことがないが、今日はこの場所に用があって二人でやってきたのだ。
恋人つなぎで歩きながら、美琴が用意した地図を持ってここまで来た時間は十数分。時刻はそろそろ12時を回ろうとしているが、二人はまだお腹はすいていない。
「って言われても、ここはアパートばっかだぞ?」
「そんなことぐらいわかってるわよ。それに、このあたりはアパートが多いって聞いたんだから、ないとおかしいじゃない」
そういう意味じゃなくてだな、と上条は高層ビルの立った場所とは大違いの、小さなアパート街とでも命名できる場所に来たのはいいが、目的の場所はまだ見つからない。
「普通、事前に行って場所を覚えてから来るのが普通だと思うんですが?」
「仕方ないじゃない。バカ母や黒子、土御門が勝手にやったんだから。それに、私がいなかった時だからどうしようもなかったのよ」
そうですかと上条はため息をつきながら、周りを見渡す。真新しいとは言えないアパートだらけの場所のどこに目的地があるのか、日が暮れるんじゃないのかとさえ思えてきた。場所もわからないのに地図を渡されても困るなと、今更ながらこの地図を渡した本人、土御門舞夏を少々恨んだ。
一方美琴は、上条は役に立たないと判断し、地図に書いてある場所を確認しながら目的地を探した。一応、細かな部分は書いてあるが少しばかり大雑把な部分も目立つ地図だが、まったくわからないわけでもない。むしろ、近くにあるアパートの名前や目印になりそうな家など、細かなことも書いてあったので適当に書かれるよりはよかった。
そして、地図に書かれたアパートの名前を発見し、それから次々と地図と周りを照らし合わせていく。
「うん…うん……このあたりみたいね」
母親のように上条の手を引きながら、美琴は大体の目星をつけた。角を曲がり、目印となるものを確認して、美琴はここかな、と地図に書かれた目的地の名前を照らし合わせてみた。
「ここみたいね。ちゃんと標識もあるようだし」
「えっと………マジ?」
様々なことを予想していた上条もさすがに目を疑った。
それは予想外のものであったが、よくよく考えてみればお嬢様である美琴らしいものだ。常盤台の寮から出て次にこれかよ、と相変わらずのブルジョワジーな様を見た気がした。
「美琴さん。一応、お伺いしますが、これが貴方様の新居になるのでせうか?」
「そうだけど、何かおかしい?」
美琴は何の疑いもなく、言い切った。だがそれでも上条はまだ納得できなかった。
お嬢様学校である常盤台の寮を出てきたと思ったら、次はこれだ。一体、どれだけ自分と階級は違うんだと、改めて超能力者の権力の大きさを感じた。
「ほらぼっとしてないで入るわよ。当麻の荷物だって、あるんだからちゃっちゃとやらないと」
「高校一年になって新居が寮じゃなくて、一軒家ってどういうことだよ! しかも標識の名前、絶対おかしいだろう!?」
上条はこの質問に、誰かに答えて欲しかった。だが、答えはすぐ目の前の新居の姿と『上条』と書かれた標識だけで十分であった。
この家は元々は新しい家ではなくボロボロの古家であったらしい。そんな家を美琴の母親である美鈴が目をつけ、リフォームしたらしい。ちなみにリフォーム代を払ったのは美琴であるようだが。
こんな豪邸みたいな一軒家に住む意味あるのか、と突っ込むほどにこの家は大きく綺麗であった。住み慣れていた男子寮とは違って、二人でも十分お釣りが来るぐらいの大きさを誇っている。見取り図によると、使用されない部屋も存在してしまうため、客間と物置として使うとか。
そして、何故この二人がこんなに家に住むことになったのかと言うと、
「これで四月は、ちゃんとした住まいに住める。貧乏学生の上条さんも、ホームレスならずにすんで安心しました」
「ちゃ、ちゃんと感謝しなさいよね。これからは、二人で一つ屋根の下なんだから」
二人は三月いっぱいで寮から出ないといけなかったからだ。
美琴は常盤台を卒業してしまったため、寮の部屋は次来る生徒に受け渡し、美琴は新しい寮で新しい生活をしなければならないとちゃんとしてした理由がある。だが上条が寮を出なければならないわけはそれには分類されず、本来行うことのない特例であった。
その理由は、先の卒業式の騒動で男子寮にメディアや美琴のファンが張り付いていたのが原因であった。メディアは学園都市の上層部が一日足らずで鎮圧させたが、美琴のファンであった人間は連日のように上条の住む男子寮に張り付いていたのだ。それが男子寮に住む人間たちの反感を買い、家に帰ってきた上条がまず最初に言われたのは、管理人直々の退去命令。その期限は3月以内。
そしてその話を美琴にしたところ、この家に住むという結論に達した。ちなみに学園都市上層部や上条と美琴が通う学校も首を縦に振っている。要するに、学園都市公認であったのだった。
「……お嬢様ってすげえや」
新しい家の玄関に入って一番最初の感想は、このセリフであった。
自分の寮とは比べ物にならないほど立派な玄関は、テレビで紹介されたりしている芸能人の家をこの目で見ているような感動があった。それに、玄関と言うものを見るのは帰省した時以来だったので、それと比べての感想でもあった。
「な、何言ってるのよ。もうお嬢様じゃないわよ、私は」
「いや、お嬢様だろう。古家を買い取ってリフォームするって発想が、もう俺とお前とじゃ差があるし」
「そうかしら? 私としては新居を建てたほうが良かったのだけど、時間がなくて…って何、泣いてるのよ」
「いえ。自分との階級の差を、実感させられまして…あはは、不幸だ」
肩を落す上条を見て、美琴は何に落ち込んでいるのと言って頭をかしげた。だがそれも当然と言えば当然。上条が感じているものと美琴が知りたいものは、どう頑張っても理解できないことであったのだから。
「それよりも、荷物はどこだ? 宅急便で送られてきてるはずなんだろう」
「ああ、そのことなんだけど。土御門が家に来て今やってくれてるらしいのよ。なんでも"お引越しの手伝いもメイドは仕事の一つだ"とかで」
「なるほど。ということは、この靴は土御門のやつか?」
上条が指差した靴に、美琴は頷いた。となると、手伝ってもらっている相手である土御門舞夏に、全てを任せるわけにもいかない。
玄関で靴を脱いで、長い廊下を歩いていく。まだ殺風景なこの廊下はこのままなのかと思うが、それは先のお楽しみとしてとっておくことにして、廊下の奥のドアを開けて居間らしき部屋に入った。
「おおー来たかー上条当麻、御坂。いやー"上条"美琴でいいのかな?」
ニヤニヤと笑って迎えたのは、シスコン軍曹と呼ばれた兄の義妹、土御門舞夏はメイド服姿で二人を迎えた。
どうやら二人が来るまでの間、居間に様々なものをセッティングしていたようだ。
「え…? あ、いや……って、まだ御坂よ!」
「照れるな照れるな。この家は"上条家"なんだから、今は上条美琴であってるんだぞー」
「そ、そう…だけど。私たちはまだ…ね、ねえ」
恥ずかしがっている美琴は上条に同意を求めた。それにそうだなと、あまり興味なさそうに答えると、舞夏はまたもやニヤリと笑って、今度は上条の方へと視線を向けた。
「なるほどー上条当麻はもう御坂を上条の人間だと思っているわけかー」
「は、はぁ?! あ、いや、違うぞ! お、俺はそういうつもりで言ったんじゃ」
「照れるな照れるな二人ともー。というよりも、二人はとっくの昔に肉体関係を持っているではないかー」
「「なっ!!!???」」
その言葉には上条も美琴も同時に驚き、一気に顔を真っ赤にした。勢いの止まらぬ舞夏はポケットからあるものを取り出すと、机の上に置いた。そしてそれが最新の音楽プレイヤーと居間に置いてあるデッキに繋ぐケーブルだとわかった瞬間、上条と美琴の予想したくないことを予想してしまった。
「つ、土御門さん。それは一体、なんでせうか?」
「知らないのかー? このケーブルでこのプレイヤーとデッキを繋げば、デッキで音楽を聴けるというやつー」
「それは知ってるけど、一体何を…?」
舞夏は、ケーブルをデッキとプレイヤーにつなげるとデッキを操作して、プレイヤーの曲を聴けるようにする。その後に音量をマックスに上げ、プレイヤーを操作して曲を選択した。
「美琴さん、不幸な香りがするのですが気のせいでせうか?」
「実は私もアンタと同じ香りがするんだけど…どう思う」
「多分…不幸です」
お互いに嫌な予感を感じつつ、舞夏は作業をこなし終えて二人を見た。最後にまたニヤリと笑って、行くよーというとプレイヤーの再生ボタンを押した。そして、流れてきたの、
『ねえ当麻。今日もするの?』
『なんだ、美琴は俺とするのが嫌なのか?』
『嫌じゃないけど……やっぱり恥ずかしい』
『そりゃあ恥ずかしいことするんだから、恥ずかしいんだろう。ほらほら脱いだ脱いだ』
『って、勝手に服脱がすな!!! あ、待って! まだ下着は』
『ダメ……か?』
『だ、だめじゃ……ないわよ、馬鹿。んっ』
『ちゅっ……好きだ、美琴』
『わたしも、好き。当麻が、好き。だから優しく―――』
「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
そう叫んで二人は同時に気絶した。何気に気絶の瞬間、上条の右手は美琴の手を握っていたのは褒めべきことだろう。だが上条の最後の力だったりするが、それに気づいてくれた人間は誰もいなかった。
「ふっふっふー。やはりまだまだウブだなー。さーて、では寝室に盗聴器でも仕掛けようかなー」
舞夏は気絶してしまった二人の写真を撮って、楽しそうに居間を後にした。向かう先は、もちろん寝室だった。
こんな豪邸みたいな一軒家に住む意味あるのか、と突っ込むほどにこの家は大きく綺麗であった。住み慣れていた男子寮とは違って、二人でも十分お釣りが来るぐらいの大きさを誇っている。見取り図によると、使用されない部屋も存在してしまうため、客間と物置として使うとか。
そして、何故この二人がこんなに家に住むことになったのかと言うと、
「これで四月は、ちゃんとした住まいに住める。貧乏学生の上条さんも、ホームレスならずにすんで安心しました」
「ちゃ、ちゃんと感謝しなさいよね。これからは、二人で一つ屋根の下なんだから」
二人は三月いっぱいで寮から出ないといけなかったからだ。
美琴は常盤台を卒業してしまったため、寮の部屋は次来る生徒に受け渡し、美琴は新しい寮で新しい生活をしなければならないとちゃんとしてした理由がある。だが上条が寮を出なければならないわけはそれには分類されず、本来行うことのない特例であった。
その理由は、先の卒業式の騒動で男子寮にメディアや美琴のファンが張り付いていたのが原因であった。メディアは学園都市の上層部が一日足らずで鎮圧させたが、美琴のファンであった人間は連日のように上条の住む男子寮に張り付いていたのだ。それが男子寮に住む人間たちの反感を買い、家に帰ってきた上条がまず最初に言われたのは、管理人直々の退去命令。その期限は3月以内。
そしてその話を美琴にしたところ、この家に住むという結論に達した。ちなみに学園都市上層部や上条と美琴が通う学校も首を縦に振っている。要するに、学園都市公認であったのだった。
「……お嬢様ってすげえや」
新しい家の玄関に入って一番最初の感想は、このセリフであった。
自分の寮とは比べ物にならないほど立派な玄関は、テレビで紹介されたりしている芸能人の家をこの目で見ているような感動があった。それに、玄関と言うものを見るのは帰省した時以来だったので、それと比べての感想でもあった。
「な、何言ってるのよ。もうお嬢様じゃないわよ、私は」
「いや、お嬢様だろう。古家を買い取ってリフォームするって発想が、もう俺とお前とじゃ差があるし」
「そうかしら? 私としては新居を建てたほうが良かったのだけど、時間がなくて…って何、泣いてるのよ」
「いえ。自分との階級の差を、実感させられまして…あはは、不幸だ」
肩を落す上条を見て、美琴は何に落ち込んでいるのと言って頭をかしげた。だがそれも当然と言えば当然。上条が感じているものと美琴が知りたいものは、どう頑張っても理解できないことであったのだから。
「それよりも、荷物はどこだ? 宅急便で送られてきてるはずなんだろう」
「ああ、そのことなんだけど。土御門が家に来て今やってくれてるらしいのよ。なんでも"お引越しの手伝いもメイドは仕事の一つだ"とかで」
「なるほど。ということは、この靴は土御門のやつか?」
上条が指差した靴に、美琴は頷いた。となると、手伝ってもらっている相手である土御門舞夏に、全てを任せるわけにもいかない。
玄関で靴を脱いで、長い廊下を歩いていく。まだ殺風景なこの廊下はこのままなのかと思うが、それは先のお楽しみとしてとっておくことにして、廊下の奥のドアを開けて居間らしき部屋に入った。
「おおー来たかー上条当麻、御坂。いやー"上条"美琴でいいのかな?」
ニヤニヤと笑って迎えたのは、シスコン軍曹と呼ばれた兄の義妹、土御門舞夏はメイド服姿で二人を迎えた。
どうやら二人が来るまでの間、居間に様々なものをセッティングしていたようだ。
「え…? あ、いや……って、まだ御坂よ!」
「照れるな照れるな。この家は"上条家"なんだから、今は上条美琴であってるんだぞー」
「そ、そう…だけど。私たちはまだ…ね、ねえ」
恥ずかしがっている美琴は上条に同意を求めた。それにそうだなと、あまり興味なさそうに答えると、舞夏はまたもやニヤリと笑って、今度は上条の方へと視線を向けた。
「なるほどー上条当麻はもう御坂を上条の人間だと思っているわけかー」
「は、はぁ?! あ、いや、違うぞ! お、俺はそういうつもりで言ったんじゃ」
「照れるな照れるな二人ともー。というよりも、二人はとっくの昔に肉体関係を持っているではないかー」
「「なっ!!!???」」
その言葉には上条も美琴も同時に驚き、一気に顔を真っ赤にした。勢いの止まらぬ舞夏はポケットからあるものを取り出すと、机の上に置いた。そしてそれが最新の音楽プレイヤーと居間に置いてあるデッキに繋ぐケーブルだとわかった瞬間、上条と美琴の予想したくないことを予想してしまった。
「つ、土御門さん。それは一体、なんでせうか?」
「知らないのかー? このケーブルでこのプレイヤーとデッキを繋げば、デッキで音楽を聴けるというやつー」
「それは知ってるけど、一体何を…?」
舞夏は、ケーブルをデッキとプレイヤーにつなげるとデッキを操作して、プレイヤーの曲を聴けるようにする。その後に音量をマックスに上げ、プレイヤーを操作して曲を選択した。
「美琴さん、不幸な香りがするのですが気のせいでせうか?」
「実は私もアンタと同じ香りがするんだけど…どう思う」
「多分…不幸です」
お互いに嫌な予感を感じつつ、舞夏は作業をこなし終えて二人を見た。最後にまたニヤリと笑って、行くよーというとプレイヤーの再生ボタンを押した。そして、流れてきたの、
『ねえ当麻。今日もするの?』
『なんだ、美琴は俺とするのが嫌なのか?』
『嫌じゃないけど……やっぱり恥ずかしい』
『そりゃあ恥ずかしいことするんだから、恥ずかしいんだろう。ほらほら脱いだ脱いだ』
『って、勝手に服脱がすな!!! あ、待って! まだ下着は』
『ダメ……か?』
『だ、だめじゃ……ないわよ、馬鹿。んっ』
『ちゅっ……好きだ、美琴』
『わたしも、好き。当麻が、好き。だから優しく―――』
「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
そう叫んで二人は同時に気絶した。何気に気絶の瞬間、上条の右手は美琴の手を握っていたのは褒めべきことだろう。だが上条の最後の力だったりするが、それに気づいてくれた人間は誰もいなかった。
「ふっふっふー。やはりまだまだウブだなー。さーて、では寝室に盗聴器でも仕掛けようかなー」
舞夏は気絶してしまった二人の写真を撮って、楽しそうに居間を後にした。向かう先は、もちろん寝室だった。
翌日の3月24日。
気絶から目覚めたあとは特に何もなく、二人と舞夏は引越しの作業を続けた。そしてそれが完全に終わったのは夜の話だったので、一日中忙しかったのが昨日のその後の話であった。
そして昨日からここに住み替え一夜を過ごした二人は、朝から住み慣れていない家で朝食を取っていた。
「あれ、味噌変えたか? 少しだけ薄味になった気がするんだが」
「よくわかったわね。そうよ、いつもの使ってるのとは別の味噌を使ってみたのよ」
美琴は気づいてくれたことが嬉しかったのか、箸を止めて笑って答えた。
根本的なものは変わっていないが、いつも使っている味噌よりは少し薄い。料理なんて食べれればいい理論の上条であっても、この違いはわかる。だが毎回使い、食べられていたからこそ気づけたことでもあるのは、美琴には少々皮肉でもあった。といっても本人たちはそのことに気づいていないようだが。
「朝はこっちの方がいいかもな。いつものでもいいけど、俺はこれぐらいの方が好みだ」
「だったら、朝はこれにして昼と夜はいつもの味噌にする?」
「それがいいな。二つ買うことになるけど、値段あんまり変わらないし、量も同じぐらいだろ?」
美琴は若干だが今使ったほうが安いと、上条に伝えるとだったらまた買いに行く時にと、あとで覚えておこうと言う結論に至った。美琴も買い物に行く時に覚えておこうと、呟くと小さな口でご飯を一杯食べた。
「……………………」
すっかりと主婦らしいことを考えるようになった美琴は朝食を進めていく。一応上条も、美琴からマナーに関しての手ほどきは受けていたので、人よりは礼儀作法が出来ている。
だが上条から見る美琴の食事はスムーズだと思った。マナーを学んだ上条だからこそ、それがよくわかるような気がした。
「どうしたのさ。箸が止まってるんじゃない」
上条の視線に気づいた美琴は、箸を止めて上条を見返してきた。
時折見せるその笑顔が、すっかり可愛く見え、美琴にすっかり惚れてしまっている自分に少しばかり呆れた。だがそれはあちらも同じだろう。
見てくる視線は、上条の一つ一つを観察しているように見える。小さな動作でさえ、美琴には見逃せない何かを感じているのかもしれない。でも、上条にはそれが何を思っているのかよくわからない。
お互いに見合って少し経つ。すると唐突に上条はあることを思って言った。
「最初は料理も出来ないお嬢様だと思ってたのに、今となっては主婦らしくなったもんだな」
「しゅ、しゅふ…??!! わわわわわわたしが!!??」
「??? お前以外誰がいるんだよ。確かに上条さんも主夫は出来ると思いますが、昨日来てからずっと美琴が家事をやってたじゃないか。だったら、お前しかいないだろう」
何言ってるんだと思いながら、上条は味噌汁を飲む。
昨日の舞夏との荷物整理から夕食の買出し、夕食にお風呂、そして朝ごはんの準備まで美琴はほとんどをこなしている。重たい荷物や自分の身の回りの整理しか行っていない上条と比べてみても、美琴の仕事は上条の倍は来ないしている計算だ。
せっせと動く美琴は、上条から見れば普通の主婦に見えた。しかも、これでお嬢様なのだから、お金持ちも馬鹿に出来ないなと上条は思ったりもした。
「で、でも……私は、そんな」
「何赤くなってるんだ? 昨日の疲れでも出てきたのか?」
持っていた箸を置くと、向かい側の美琴の後頭部に右手を回した。そのまま、右手を自分の方向に押して、美琴の額と自分の額を合わせて、美琴に熱はないかを計った。
「うーん。そこまで熱くないな。でも無理するなよ」
「…………うん」
そういって上条は額を離し、席に戻っていこうとした。
その時、美琴の手が上条の右手を掴んだ。
「えっと、美琴さん?」
「……漏電」
「へ…?」
「漏電…するかもしれないから。握ってて」
「あ、ああ。漏電、ね」
上条はそっぽ向きながら答えた。同時に予想もしていなかったので、いきなり握られた手を意識してしまい、その顔は少しばかり赤みをおびていた。
対する美琴は俯きながら、うんと頷いた。美琴も動揺に少しばかり顔が赤かったがそっぽ向いた上条は気づいていない。
「…………………」
「…………………」
手を握り合ったまま固まる二人。小さな手と大きな手は、力を強めたり、握りなおしたりするがそれも一瞬だけである。だが、それを頻繁に繰り返し、二人は互いの手の感触を確かめ合った。そんな嬉恥ずかしい思いをしながら、上条も美琴もしばらく無言のまま、真新しい床に目を伏せた。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………美琴」
「…………………………何?」
上条は小さな声で美琴を呼んで、会話をし始める。だが俯いた顔を上げて互いの顔を見るほどの会話までには回復していなかった。
「………………ご飯、冷めちまったな」
「………………うん」
「…………………まだ、漏電しそうか?」
「…………………うん」
「……………………………もっとこっち来いよ」
「……………………………うん」
そう言われ、美琴は上条の肩に身体を預けて、握っていた手の指を絡ませる恋人つなぎに変えた。上条はそれに従い、恋人つなぎになるとその手をぎゅっと握った。握られた美琴もぎゅっと握り返し、ふふふと小さく微笑んだ。
「何、笑ってるんだよ」
「…………嬉しいから」
「……そうか」
上条もつられて笑うと、伏せていた顔を上げ美琴を見ると赤みを帯びた耳が眼に入った
表情は俯いていたので上条からは見えない。だがほんのりと赤くなった耳は、果物のように綺麗な赤みと見るものを魅了する可愛さがあった。それに吸い込まれるように上条は開いていた左手で、耳に触れた。
「え……? ちょ、ちょっと」
実は他人の耳に触れたのは初めてだ。
自分の耳は、日常でも触れたりする。だが他人の耳に触れる機会は、日常ではほとんどない。以前、美琴に耳掃除をしてもらったことがあるが、その時は美琴だけが上条の耳を掃除したので、上条は一切触れていない(上条がやらなかっただけだが)。
つまり、他人である美琴の耳に触れるのは今回が初めての経験だったのだ。
「こ、こら……やめなさい」
これが女の耳か、と赤みを帯びた耳は上条の指で優しく揉んでみる。自分よりも柔らかい感触に、上条は何故か感動のようなものを覚えた。耳など自分にもあるはずなのに、美琴のものは自分よりも全然柔らかい。その事実が、今度は少しばかり興奮した。
「だから、やめなさいって! 人の耳なんて」
怒っているというよりも、嫌がっている。だが嫌がっているのは触られているからではなく、触られた感覚に嫌がっている。
夜の経験もしている上条は経験からそう判断し、今度は揉むのではなく少し引っ張ってみた。
「い、痛ッ! そんな強く引っ張らないでよ」
「あ、悪い。だったら、これぐらいか」
痛いと言われ、上条は少し引っ張ると言うより揺らす方向へと変えてみた。
すると美琴は痛みがなくなったのか静かになるが、俯いた顔を上げ上条をにらみつけた。
「アンタ、私の耳になんか触って楽しいの?」
「楽しいって言うか…触ってみたいなって思っただけだ。別に虐める気なんてさらさらねえよ」
「本当? アンタが私に触るのって大体何かあるときなのよね」
というと美琴の顔は少しばかり赤くなった。
一方の上条は、美琴の言葉に心当たりがあるらしく、しばらく考えた。そして、ああと納得すると嫌らしい顔で笑った。
「なんだ。お前、もうベットへ行きたいのか?」
「なっ!!!??? ななな!!!???」
「ああ、言わなくてもわかってるぞ。そうなんだよな! そうかそうなんですの三段活用ですよね美琴さん」
この何日かですっかりと理性を壊していい場面を判断できるようになってしまった紳士上条は、自分の本能をむき出しにして美琴に言うと、握っていた手を離すと、今度は美琴の身体を抱きしめた。
「あ、ぅ………と、とうま」
「お前が欲しい」
そして耳元で囁くと、上条は美琴の唇を奪った。奪われた美琴にはもう拒否権はなく、強引のお願いをする上条に折れて頷くしかなかった。
気絶から目覚めたあとは特に何もなく、二人と舞夏は引越しの作業を続けた。そしてそれが完全に終わったのは夜の話だったので、一日中忙しかったのが昨日のその後の話であった。
そして昨日からここに住み替え一夜を過ごした二人は、朝から住み慣れていない家で朝食を取っていた。
「あれ、味噌変えたか? 少しだけ薄味になった気がするんだが」
「よくわかったわね。そうよ、いつもの使ってるのとは別の味噌を使ってみたのよ」
美琴は気づいてくれたことが嬉しかったのか、箸を止めて笑って答えた。
根本的なものは変わっていないが、いつも使っている味噌よりは少し薄い。料理なんて食べれればいい理論の上条であっても、この違いはわかる。だが毎回使い、食べられていたからこそ気づけたことでもあるのは、美琴には少々皮肉でもあった。といっても本人たちはそのことに気づいていないようだが。
「朝はこっちの方がいいかもな。いつものでもいいけど、俺はこれぐらいの方が好みだ」
「だったら、朝はこれにして昼と夜はいつもの味噌にする?」
「それがいいな。二つ買うことになるけど、値段あんまり変わらないし、量も同じぐらいだろ?」
美琴は若干だが今使ったほうが安いと、上条に伝えるとだったらまた買いに行く時にと、あとで覚えておこうと言う結論に至った。美琴も買い物に行く時に覚えておこうと、呟くと小さな口でご飯を一杯食べた。
「……………………」
すっかりと主婦らしいことを考えるようになった美琴は朝食を進めていく。一応上条も、美琴からマナーに関しての手ほどきは受けていたので、人よりは礼儀作法が出来ている。
だが上条から見る美琴の食事はスムーズだと思った。マナーを学んだ上条だからこそ、それがよくわかるような気がした。
「どうしたのさ。箸が止まってるんじゃない」
上条の視線に気づいた美琴は、箸を止めて上条を見返してきた。
時折見せるその笑顔が、すっかり可愛く見え、美琴にすっかり惚れてしまっている自分に少しばかり呆れた。だがそれはあちらも同じだろう。
見てくる視線は、上条の一つ一つを観察しているように見える。小さな動作でさえ、美琴には見逃せない何かを感じているのかもしれない。でも、上条にはそれが何を思っているのかよくわからない。
お互いに見合って少し経つ。すると唐突に上条はあることを思って言った。
「最初は料理も出来ないお嬢様だと思ってたのに、今となっては主婦らしくなったもんだな」
「しゅ、しゅふ…??!! わわわわわわたしが!!??」
「??? お前以外誰がいるんだよ。確かに上条さんも主夫は出来ると思いますが、昨日来てからずっと美琴が家事をやってたじゃないか。だったら、お前しかいないだろう」
何言ってるんだと思いながら、上条は味噌汁を飲む。
昨日の舞夏との荷物整理から夕食の買出し、夕食にお風呂、そして朝ごはんの準備まで美琴はほとんどをこなしている。重たい荷物や自分の身の回りの整理しか行っていない上条と比べてみても、美琴の仕事は上条の倍は来ないしている計算だ。
せっせと動く美琴は、上条から見れば普通の主婦に見えた。しかも、これでお嬢様なのだから、お金持ちも馬鹿に出来ないなと上条は思ったりもした。
「で、でも……私は、そんな」
「何赤くなってるんだ? 昨日の疲れでも出てきたのか?」
持っていた箸を置くと、向かい側の美琴の後頭部に右手を回した。そのまま、右手を自分の方向に押して、美琴の額と自分の額を合わせて、美琴に熱はないかを計った。
「うーん。そこまで熱くないな。でも無理するなよ」
「…………うん」
そういって上条は額を離し、席に戻っていこうとした。
その時、美琴の手が上条の右手を掴んだ。
「えっと、美琴さん?」
「……漏電」
「へ…?」
「漏電…するかもしれないから。握ってて」
「あ、ああ。漏電、ね」
上条はそっぽ向きながら答えた。同時に予想もしていなかったので、いきなり握られた手を意識してしまい、その顔は少しばかり赤みをおびていた。
対する美琴は俯きながら、うんと頷いた。美琴も動揺に少しばかり顔が赤かったがそっぽ向いた上条は気づいていない。
「…………………」
「…………………」
手を握り合ったまま固まる二人。小さな手と大きな手は、力を強めたり、握りなおしたりするがそれも一瞬だけである。だが、それを頻繁に繰り返し、二人は互いの手の感触を確かめ合った。そんな嬉恥ずかしい思いをしながら、上条も美琴もしばらく無言のまま、真新しい床に目を伏せた。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………美琴」
「…………………………何?」
上条は小さな声で美琴を呼んで、会話をし始める。だが俯いた顔を上げて互いの顔を見るほどの会話までには回復していなかった。
「………………ご飯、冷めちまったな」
「………………うん」
「…………………まだ、漏電しそうか?」
「…………………うん」
「……………………………もっとこっち来いよ」
「……………………………うん」
そう言われ、美琴は上条の肩に身体を預けて、握っていた手の指を絡ませる恋人つなぎに変えた。上条はそれに従い、恋人つなぎになるとその手をぎゅっと握った。握られた美琴もぎゅっと握り返し、ふふふと小さく微笑んだ。
「何、笑ってるんだよ」
「…………嬉しいから」
「……そうか」
上条もつられて笑うと、伏せていた顔を上げ美琴を見ると赤みを帯びた耳が眼に入った
表情は俯いていたので上条からは見えない。だがほんのりと赤くなった耳は、果物のように綺麗な赤みと見るものを魅了する可愛さがあった。それに吸い込まれるように上条は開いていた左手で、耳に触れた。
「え……? ちょ、ちょっと」
実は他人の耳に触れたのは初めてだ。
自分の耳は、日常でも触れたりする。だが他人の耳に触れる機会は、日常ではほとんどない。以前、美琴に耳掃除をしてもらったことがあるが、その時は美琴だけが上条の耳を掃除したので、上条は一切触れていない(上条がやらなかっただけだが)。
つまり、他人である美琴の耳に触れるのは今回が初めての経験だったのだ。
「こ、こら……やめなさい」
これが女の耳か、と赤みを帯びた耳は上条の指で優しく揉んでみる。自分よりも柔らかい感触に、上条は何故か感動のようなものを覚えた。耳など自分にもあるはずなのに、美琴のものは自分よりも全然柔らかい。その事実が、今度は少しばかり興奮した。
「だから、やめなさいって! 人の耳なんて」
怒っているというよりも、嫌がっている。だが嫌がっているのは触られているからではなく、触られた感覚に嫌がっている。
夜の経験もしている上条は経験からそう判断し、今度は揉むのではなく少し引っ張ってみた。
「い、痛ッ! そんな強く引っ張らないでよ」
「あ、悪い。だったら、これぐらいか」
痛いと言われ、上条は少し引っ張ると言うより揺らす方向へと変えてみた。
すると美琴は痛みがなくなったのか静かになるが、俯いた顔を上げ上条をにらみつけた。
「アンタ、私の耳になんか触って楽しいの?」
「楽しいって言うか…触ってみたいなって思っただけだ。別に虐める気なんてさらさらねえよ」
「本当? アンタが私に触るのって大体何かあるときなのよね」
というと美琴の顔は少しばかり赤くなった。
一方の上条は、美琴の言葉に心当たりがあるらしく、しばらく考えた。そして、ああと納得すると嫌らしい顔で笑った。
「なんだ。お前、もうベットへ行きたいのか?」
「なっ!!!??? ななな!!!???」
「ああ、言わなくてもわかってるぞ。そうなんだよな! そうかそうなんですの三段活用ですよね美琴さん」
この何日かですっかりと理性を壊していい場面を判断できるようになってしまった紳士上条は、自分の本能をむき出しにして美琴に言うと、握っていた手を離すと、今度は美琴の身体を抱きしめた。
「あ、ぅ………と、とうま」
「お前が欲しい」
そして耳元で囁くと、上条は美琴の唇を奪った。奪われた美琴にはもう拒否権はなく、強引のお願いをする上条に折れて頷くしかなかった。
朝から全開に飛ばし、2時間近く愛しっぱなしだった二人はことを終えて、新しい家のベットの上で手を繋ぎながら転がっていた。
ちなみにことを終えた後なので、服はしっかりと着ており、部屋にこもった臭いを残さぬようにしっかりと換気もしていた。
「なんというか、まさかこんなに早くお前と住むとは思ってなかった」
「そうね。私も結婚した後に一緒に住むと思ってたから、まだそこまで実感はないわ」
男子寮のものとは違う綺麗な天井は、まだ見慣れていないせいかホテルにでもいるような違和感を感じさせる。だがここが二人の新しい家である。上条は自分にそう言い聞かせ、ホテルという仮の住まいの考えを打ち消した。
「というよりも俺たちが早いだけかもな。なんというか……手順が全部普通よりも早すぎる?」
「なんで疑問系なのよ。というよりも、それが事実じゃないの?」
「そうだよな。告白して、肉体関係作って、結婚の約束して、同棲しちまったんだ。しかもそれが数週間のうちに決まっちまったんだから、早すぎるとしか言いようがないか」
そう、展開が早すぎるのだ。何もかもが早すぎて、逆に不安になってくる。
不幸である上条だからこそ、こんなにまでいいこと尽くしであることが逆にものすごく恐ろしい。むしろ、何かあってくれたほうが気が楽になる気がするほどだ。そんな考えに上条は自嘲して、普段の自分らしくないと思った。
「………不安なの?」
不意に美琴は上条の心情を読んだかのように、問いかけてきた。タイミングのいい質問だったので少々驚きながら、質問されたことに素直に頷いた。
「ずっと不幸だったからな。いきなりこんなことばかりだと、あとが怖いって思うんだ。こんな幸せなことばかり起きてたら、いつか神様に大切なものを奪われるような気がして、幸せなんだけど不幸なんだ」
「………………」
「好きなやつと一緒にすごし、好きなやつと愛し合って、好きなやつと結婚する。でもそれって全部幸せだろ? 不幸ばかり経験してきた俺からすれば、ある意味その幸せって神の奇跡みたいなもんなんだ。でも俺には神の奇跡は通用しない。だから………何もかもが不安だ」
「でも……それがいいんじゃないかしら」
そういうと美琴は身体を起こし、上から上条を見下ろした。
そして上条から見た美琴は、不思議なことにとても嬉しそうに笑っていた。
「不安だから、幸せなことが起きたら嬉しいんでしょ。そんな幸せばかりが約束された世界だったら、アンタだって幸せだと思わないじゃない」
「それはそうだが」
「むしろアンタは幸せの価値が誰よりもわかる人間じゃないのかしら?」
「幸せの価値が…わかる?」
「だってそうじゃない。アンタも周りには不幸ばかり。道路を一歩歩けば車に轢かれそうになるし、財布を持てば途中で落す。さらにはトラブルに巻き込まれやすくて、最後にはボロボロになる。でも逆に考えれば、不幸だと思う以外のことで自分に得になることがあれば、それはアンタの幸になる。ほら、アンタは誰よりも幸と不幸がわかる人間じゃない」
「――――――――――――――――――、」
上条は今までそのような発想をしたことがなかった。
自分が不幸になれば、誰かが幸せになると考えたことはあった。だが自分が不幸になったから、得することがあればそれは幸だと判断できるなんて考えは、いっさい思いつかない発想だったのだ。そのような発想を美琴はして、誰よりも幸と不幸がわかる人間、その価値の大きさがわかる人間だと美琴は言ってくれた。
上条にはそれは好きな人に好きだと言ってもらうのと同じ、またはそれ以上に嬉しかった。
「だから、当麻は人より不幸だってことを、気にしなくてもいいんじゃないかな? って、不幸人生まっしぐらって言ってたし無理か」
「……………いや、無理じゃないかもな」
そういって自分も身体を起こすと、何も言わずにすぐに美琴の唇を奪ってすぐに離した。その時間は約2秒間。だが、今日してもらったキスのなかで一番のできのキスであった。
「………当麻ってキスが好きなの?」
「そういうお前こそキスばっかりするじゃないか。こっちに帰って来てすぐのころはまったくしなかったのにな」
「それはッ!? は、恥ずかしかったからよ、馬鹿」
思い出したのか、美琴は顔を赤くしながら俯いた。
そう二人がこうも自然になったのは最近になってからだ。名前で呼び合うのも、手を繋ぐのも、キスのするのも、身体をあわせるのも、最近一週間前あたりからだ。
そして、そのきっかけとなったのは………。、
「そういえば、ずっと忙しかったからホワイトデーのお返しまだだったよな。ほれ」
というと上条は自分のポケットから小さな箱を取り出した。それを美琴の手に置くと、上条は開けてみろと促して美琴自身に開けさせた。
「え…? これって…」
箱の中にあったのは小さなペンダント。銀色の輝きを放ち、真ん中にエンブレムと後ろに文字が刻まれている。美琴は後ろに刻まれている文字をゆっくりと読み上げる。
「『我が最愛の妻、上条美琴』って」
渡した上条は頬を掻いて、背を向いた。やはり送った相手が喜んでくれるのは嬉しいが、書かれたものを読まれると自分がどれだけ恥ずかしいことを書いたのかを、強く実感させられた。
でももらった美琴は本当に嬉しそうに笑ってくれた。上条はそれだけでもう十分だった。だがこのペンダントはこれで終わりじゃない。
「それの横に隙間があるだろ。その中に……入ってる」
「入ってるって何が?」
「ッ!!! いいいいいいいいからあけてみろ!!!」
思い出しただけで逃げたくなった。というよりも、逃げる気だった。だが喜びの笑顔を浮かべていた美琴の表情に見とれて、上条は逃げるのをやめた。その代わり、美琴の肩に右手を置いてもしもの事態に備えた。
(これは爆弾だからな……漏電じゃすまねえかも)
一日で家の中を真っ黒にされたらたまらない。それに冷静に考えてみると逃げるよりも、こうして右手で備えていた方が安全であった。
そして、美琴は上条に言われたとおり、ペンダントの中を開けてみた。そうして開けられた中に入ってたものを見て美琴は固まり、いつもの展開を迎える。
「ふにゃー」
ペンダントを持ちながら、美琴は表現できない顔をして気絶してしまった。上条はそんな美琴の顔を見て苦笑いすると、自分の用意したペンダントの中身を見て、それを確認するとすぐに目を逸らした。
「やべえ。これは………色々な意味で悪い」
空いていた左手で顔を抑えて、上条は自分がどれだけの勇気も持ってこんなものを入れたのか改めて実感した。そして、これは絶対に他人には見せられないなと思いながら、上条はそのペンダントを閉じて美琴の手のひらに置いた。
「はぁー当分の間は苦労しそうだな。ホント、幸せだ」
幸せを実感しながら、ペンダントの中身に入れた写真を思い出す。
その写真はパートナーであるシスターに頼んで教会で撮ってもらったもの。遅れてしまったホワイトデーであったが、全てはこの写真とペンダントを買えるまでの期間であった。
そしてペンダントの中身に入っていた写真は、白いタキシード姿の上条と純白のウェディングドレスの姿の美琴が教会の祭壇の前でキスをしている写真だった。
「あー幸せだ!! ちくしょう幸せすぎだぜ神様(ばかやろう)!!!! ははははは!!!」
上条を幸せの叫び声を上げながら、大声で笑った。その顔は、誰から見ても本当に幸せそうだった。
ちなみにことを終えた後なので、服はしっかりと着ており、部屋にこもった臭いを残さぬようにしっかりと換気もしていた。
「なんというか、まさかこんなに早くお前と住むとは思ってなかった」
「そうね。私も結婚した後に一緒に住むと思ってたから、まだそこまで実感はないわ」
男子寮のものとは違う綺麗な天井は、まだ見慣れていないせいかホテルにでもいるような違和感を感じさせる。だがここが二人の新しい家である。上条は自分にそう言い聞かせ、ホテルという仮の住まいの考えを打ち消した。
「というよりも俺たちが早いだけかもな。なんというか……手順が全部普通よりも早すぎる?」
「なんで疑問系なのよ。というよりも、それが事実じゃないの?」
「そうだよな。告白して、肉体関係作って、結婚の約束して、同棲しちまったんだ。しかもそれが数週間のうちに決まっちまったんだから、早すぎるとしか言いようがないか」
そう、展開が早すぎるのだ。何もかもが早すぎて、逆に不安になってくる。
不幸である上条だからこそ、こんなにまでいいこと尽くしであることが逆にものすごく恐ろしい。むしろ、何かあってくれたほうが気が楽になる気がするほどだ。そんな考えに上条は自嘲して、普段の自分らしくないと思った。
「………不安なの?」
不意に美琴は上条の心情を読んだかのように、問いかけてきた。タイミングのいい質問だったので少々驚きながら、質問されたことに素直に頷いた。
「ずっと不幸だったからな。いきなりこんなことばかりだと、あとが怖いって思うんだ。こんな幸せなことばかり起きてたら、いつか神様に大切なものを奪われるような気がして、幸せなんだけど不幸なんだ」
「………………」
「好きなやつと一緒にすごし、好きなやつと愛し合って、好きなやつと結婚する。でもそれって全部幸せだろ? 不幸ばかり経験してきた俺からすれば、ある意味その幸せって神の奇跡みたいなもんなんだ。でも俺には神の奇跡は通用しない。だから………何もかもが不安だ」
「でも……それがいいんじゃないかしら」
そういうと美琴は身体を起こし、上から上条を見下ろした。
そして上条から見た美琴は、不思議なことにとても嬉しそうに笑っていた。
「不安だから、幸せなことが起きたら嬉しいんでしょ。そんな幸せばかりが約束された世界だったら、アンタだって幸せだと思わないじゃない」
「それはそうだが」
「むしろアンタは幸せの価値が誰よりもわかる人間じゃないのかしら?」
「幸せの価値が…わかる?」
「だってそうじゃない。アンタも周りには不幸ばかり。道路を一歩歩けば車に轢かれそうになるし、財布を持てば途中で落す。さらにはトラブルに巻き込まれやすくて、最後にはボロボロになる。でも逆に考えれば、不幸だと思う以外のことで自分に得になることがあれば、それはアンタの幸になる。ほら、アンタは誰よりも幸と不幸がわかる人間じゃない」
「――――――――――――――――――、」
上条は今までそのような発想をしたことがなかった。
自分が不幸になれば、誰かが幸せになると考えたことはあった。だが自分が不幸になったから、得することがあればそれは幸だと判断できるなんて考えは、いっさい思いつかない発想だったのだ。そのような発想を美琴はして、誰よりも幸と不幸がわかる人間、その価値の大きさがわかる人間だと美琴は言ってくれた。
上条にはそれは好きな人に好きだと言ってもらうのと同じ、またはそれ以上に嬉しかった。
「だから、当麻は人より不幸だってことを、気にしなくてもいいんじゃないかな? って、不幸人生まっしぐらって言ってたし無理か」
「……………いや、無理じゃないかもな」
そういって自分も身体を起こすと、何も言わずにすぐに美琴の唇を奪ってすぐに離した。その時間は約2秒間。だが、今日してもらったキスのなかで一番のできのキスであった。
「………当麻ってキスが好きなの?」
「そういうお前こそキスばっかりするじゃないか。こっちに帰って来てすぐのころはまったくしなかったのにな」
「それはッ!? は、恥ずかしかったからよ、馬鹿」
思い出したのか、美琴は顔を赤くしながら俯いた。
そう二人がこうも自然になったのは最近になってからだ。名前で呼び合うのも、手を繋ぐのも、キスのするのも、身体をあわせるのも、最近一週間前あたりからだ。
そして、そのきっかけとなったのは………。、
「そういえば、ずっと忙しかったからホワイトデーのお返しまだだったよな。ほれ」
というと上条は自分のポケットから小さな箱を取り出した。それを美琴の手に置くと、上条は開けてみろと促して美琴自身に開けさせた。
「え…? これって…」
箱の中にあったのは小さなペンダント。銀色の輝きを放ち、真ん中にエンブレムと後ろに文字が刻まれている。美琴は後ろに刻まれている文字をゆっくりと読み上げる。
「『我が最愛の妻、上条美琴』って」
渡した上条は頬を掻いて、背を向いた。やはり送った相手が喜んでくれるのは嬉しいが、書かれたものを読まれると自分がどれだけ恥ずかしいことを書いたのかを、強く実感させられた。
でももらった美琴は本当に嬉しそうに笑ってくれた。上条はそれだけでもう十分だった。だがこのペンダントはこれで終わりじゃない。
「それの横に隙間があるだろ。その中に……入ってる」
「入ってるって何が?」
「ッ!!! いいいいいいいいからあけてみろ!!!」
思い出しただけで逃げたくなった。というよりも、逃げる気だった。だが喜びの笑顔を浮かべていた美琴の表情に見とれて、上条は逃げるのをやめた。その代わり、美琴の肩に右手を置いてもしもの事態に備えた。
(これは爆弾だからな……漏電じゃすまねえかも)
一日で家の中を真っ黒にされたらたまらない。それに冷静に考えてみると逃げるよりも、こうして右手で備えていた方が安全であった。
そして、美琴は上条に言われたとおり、ペンダントの中を開けてみた。そうして開けられた中に入ってたものを見て美琴は固まり、いつもの展開を迎える。
「ふにゃー」
ペンダントを持ちながら、美琴は表現できない顔をして気絶してしまった。上条はそんな美琴の顔を見て苦笑いすると、自分の用意したペンダントの中身を見て、それを確認するとすぐに目を逸らした。
「やべえ。これは………色々な意味で悪い」
空いていた左手で顔を抑えて、上条は自分がどれだけの勇気も持ってこんなものを入れたのか改めて実感した。そして、これは絶対に他人には見せられないなと思いながら、上条はそのペンダントを閉じて美琴の手のひらに置いた。
「はぁー当分の間は苦労しそうだな。ホント、幸せだ」
幸せを実感しながら、ペンダントの中身に入れた写真を思い出す。
その写真はパートナーであるシスターに頼んで教会で撮ってもらったもの。遅れてしまったホワイトデーであったが、全てはこの写真とペンダントを買えるまでの期間であった。
そしてペンダントの中身に入っていた写真は、白いタキシード姿の上条と純白のウェディングドレスの姿の美琴が教会の祭壇の前でキスをしている写真だった。
「あー幸せだ!! ちくしょう幸せすぎだぜ神様(ばかやろう)!!!! ははははは!!!」
上条を幸せの叫び声を上げながら、大声で笑った。その顔は、誰から見ても本当に幸せそうだった。
上条は美琴に頼まれた夕飯の食材を買って、家に帰っていた。その途中で上条は良く知る人物と会う。
「上条ちゃーん」
見知った顔の教師が上条に声をかけてきた。上条はその相手、月詠小萌に振り返ると、元気そうで何よりですと答えた。
「それで、何か用ですか?」
「はい。始業式ですけどちょっと変更になったので、これを渡しに来ました」
そういって小萌先生は、持っていたカバンから一枚のプリントを取り出し上条に渡す。上条は全ての買い物袋を片手で持つと、渡されたプリントのタイトルが目に入った。
「『始業式・入学式の日時変更のお知らせ』。ということは両方ともずれるんですか?」
「書いてあるとおりです。あ、それともう一枚」
次はなんだともう一枚もらうプリントの中身に興味がひかれないまま、小萌先生はもう一枚のプリントを取り出すと上条に渡す。だが、もう一枚のプリントは予想外もいいところ。内容を見ずともタイトルを見ただけで、驚きのあまり買い物の袋を落としてしまうほどであった。
「…………先生。わたくし上条当麻は幻覚を見ているのでしょうか? なんだかものすっごく信じられないことが書いてあるですが、嘘ですよね?」
「いいえ、本当です。それに書いてある中身は正真正銘の真実。間違いなんていっさいありません」
中身に間違いはないと断言しきった小萌先生は、笑顔で答えた。そしてそういわれてしまった上条は、引きつった顔で笑うと肩を落とした。
「先生。僕、入学式を休みたいです」
「ダメです。それに休んだりしたらどうなるかは、上条ちゃんが一番よーく理解していると思いますけど?」
「ははは……ははは。幸せなんて、本当に一瞬だけ。やっぱり上条さんは不幸でないと」
不幸の涙を流しながら、上条はプリントに書かれたタイトルをもう一度読んだ。
『入学式のプログラムとご案内(上条当麻・上条美琴、夫妻版)』
学園都市公認の学生夫妻とはまさにこの二人のことであった。
「上条ちゃーん」
見知った顔の教師が上条に声をかけてきた。上条はその相手、月詠小萌に振り返ると、元気そうで何よりですと答えた。
「それで、何か用ですか?」
「はい。始業式ですけどちょっと変更になったので、これを渡しに来ました」
そういって小萌先生は、持っていたカバンから一枚のプリントを取り出し上条に渡す。上条は全ての買い物袋を片手で持つと、渡されたプリントのタイトルが目に入った。
「『始業式・入学式の日時変更のお知らせ』。ということは両方ともずれるんですか?」
「書いてあるとおりです。あ、それともう一枚」
次はなんだともう一枚もらうプリントの中身に興味がひかれないまま、小萌先生はもう一枚のプリントを取り出すと上条に渡す。だが、もう一枚のプリントは予想外もいいところ。内容を見ずともタイトルを見ただけで、驚きのあまり買い物の袋を落としてしまうほどであった。
「…………先生。わたくし上条当麻は幻覚を見ているのでしょうか? なんだかものすっごく信じられないことが書いてあるですが、嘘ですよね?」
「いいえ、本当です。それに書いてある中身は正真正銘の真実。間違いなんていっさいありません」
中身に間違いはないと断言しきった小萌先生は、笑顔で答えた。そしてそういわれてしまった上条は、引きつった顔で笑うと肩を落とした。
「先生。僕、入学式を休みたいです」
「ダメです。それに休んだりしたらどうなるかは、上条ちゃんが一番よーく理解していると思いますけど?」
「ははは……ははは。幸せなんて、本当に一瞬だけ。やっぱり上条さんは不幸でないと」
不幸の涙を流しながら、上条はプリントに書かれたタイトルをもう一度読んだ。
『入学式のプログラムとご案内(上条当麻・上条美琴、夫妻版)』
学園都市公認の学生夫妻とはまさにこの二人のことであった。