とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part10

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― ホワイトデー ―



 3月14日12時、自販機前

 美琴は普段通り先に待ち合わせ場所に着き、上条の登場を待っていた。
 約束した場所は最早二人にとっては外せない自販機前であり、時間は12時ジャスト。
 そして今はその約束の時間である12時。
 しかし、集合時間になっても当の上条はまだ現れていなかった。

「遅いわね…何かあったのかしら。それとももしかして何か厄介事?」

 上条の遅刻は別に今に始まったことではなく、付き合う前は毎回遅刻していたくらいだ。
 だが付き合うようになった後は美琴の呼びかけもあり、回数は激減し、上条はここ一カ月に遅刻を二、三回はしたが、それでもその程度にまでなった。
 それ以外は十分前には集合はできるようになり、最近では遅刻の方が珍しい。
 だからこそ、最近の早めの集合に慣れてしまった美琴はすっかり遅刻の耐性がなくなり、苛立ちを覚えていた。

「……まあ、今までが出来すぎていただけであって、むしろこっちが本当のアイツなのかな…」

 いくら付き合うようになってからは彼の厄介事が激減したとはいえその可能性は拭えない。
 上条の不幸や厄介事の元々の原因とも言える彼の右腕は未だ健在なのだから。

「今日は長期戦かなぁ。……まあそれならそうで、貸しができるから悪いことづくめってわけじゃないけど」

 美琴は今までの経験と上条の彼女たる美琴の勘が若干の嫌な予感を訴え、長期戦を覚悟した。
 貸しができるから何をさせようか。
 最早美琴はそこまで思考を張り巡らせていた。
 今からその時が楽しみで仕方ない。
 とりあえず長期戦に備えて何か飲み物でも買おうと自販機に目を向ける。
 以前ならばお金を入れずに、自販機回し蹴りをいれてジュースを手に入れていただろう。
 だか美琴は前に上条に自販機に回し蹴りをいれることについての注意を受けたことがある。
 それ以来はちゃんとお金を入れて買っている。
 そしていつも通りに財布の中の小銭を取り出して、自販機に入れようとした、
その時だった。

 ――――ゲコゲコ、ゲコゲコ

 不意に美琴の携帯電話が着信したことを告げる。
 美琴は慌ててとりあえず手にした小銭をしまい、ディスプレイを見るとそこには、美琴の待ち人、上条当麻の名が表示されていた。
 時間は集合時間をとっくに過ぎていることから、これは上条が遅れるという連絡であると判断するのが妥当だろう。
 しかし、美琴は何故だか嫌な予感がした。
 普段の彼なら遅れるとしても連絡も特にしない。
 その彼が今回に限って連絡をよこした。
 その原因は不明であるが、それでも美琴には何かが起きたとしか考えられなかった。

(いや、でも……まさか本当には…ねぇ?)

 美琴は恐る恐る携帯の通話ボタンを押し、携帯を耳にあてる。

「…もしもし」
『美琴…か?…悪い、ちょっとそっち行けなくなった。そっちに行く途中、なんか変な連中に追われて、なんとか撒いて、家に戻ったんだが…』

 彼の息絶え絶えの声を聞いて美琴の背筋に嫌な汗が流れた。
 今のところは上条は無事らしいが、この後は何が起こるかはわからない。
 その彼が言うところの変な連中が直に彼の家の場所をつきとめるかもしれない。

「ちょっと、大丈夫なの!?何か、私にできることはある!?」
『……もしかするとお前の所にやつらが行くかもしれない。今のところ家の周りには連中はいない様だから、今の内にうちに来い』
「はぁ!?アンタは私を誰だと思ってんのよ!私は学園都市に七人しかいない超能力者の第三位なのよ!?アンタを追いかけまわした連中なんて、この私がぶっ飛ばしてやるわよ!!」
『馬鹿野郎!!それでもしお前に何かあったらどうすんだ!!俺は自分が襲われるより、そっちの方が嫌なんだ!!』

 上条はいつでもこうだ。
 誰かを思うあまり、自分のことを全く考えていない。
 もし彼に何かが起きた時、それを悲しむ人のことを全く考えていない。
 そんな考え方しかしない彼に、美琴は腹が立った。

「私はアンタが、当麻が傷つく方が嫌!!もっと自分を大事にしてよ…!!」

 上条は少し黙った。
 それが何のためかは今の美琴にはわからない。
 美琴の悲痛とも言える心からの叫びが彼に届いたのかもしれない。
 少なくとも美琴はそう思った。

『……わかった今後は気をつける。でも今は、今回だけは俺の言うことを聞いてくれないか?』

 上条の声は穏やかだった。
 泣いている赤ん坊をあやす時のように優しく、包み込むような声。

「……わかったわよ。行けばいいんでしょ?それじゃ家の場所教えてよ、行くから」

 別に美琴は上条の言い分を納得したわけではない。
 でも彼にあんな声で頼まれたら、断れる気にもなれなかった。

『俺の家の場所は今からGPS情報を送る。それでわかるよな?』
「うん、大丈夫。あと今回だけだからね、こんな頼みを聞いてあげるのは」
『わかったわかった。それじゃあな』

 上条がそう言うと一方的に電話は切れた。
 そして間もなく彼からのメールが届く。

(ここか…まあアイツの家を知れたところだくは良しとするわ)

 上条の家までの大体の道のりを確認すると、美琴は携帯を閉じて、目的地に向かって走り出した。
 怒りと心配な気持ちを早く彼にぶつけるために。





 美琴は目的地である上条が住む学生寮に着いた。
 この一ヶ月で上条とはかなり親密になり、様々な所へと出かけたことはあったが美琴が彼の部屋に訪れたことは未だない。
 初めての来訪がこんな形になってしまったのは彼女の心の中では残念としか言いようがないのだが、今はそのことについて怒っている場合ではない。
 走っていたためかそれほどの時間はかかっていないのだが、彼女には長く感じられた。
 自分が着くまでに彼に何か起きてないか。
 それがとにかく心配だったからだ。
 今美琴が辺りを見回す限り、その学生寮には特に変わったところは見られない。
 この静けさは何も起きてないためのものなのか、それとももうすでに事が起きてしまった後によるものなのか。
 そこまでは判断できなかったが、とりあえず先程の上条からのメールに書かれていた彼の部屋に向かうべく、美琴は学生寮のエントランスをくぐる。
 無論、一応自分が誰かに尾行されていないか、学生寮の周りに不穏な動きがないかを確認してからの行動である。

(全く、ここのセキュリティーは一体どうなってんのよ。これじゃ誰でも自由にお入り下さいって言ってるようなもんじゃない)

 確かに美琴の思うように、この学生寮にはセキュリティーと言える代物はほとんど見受けられない。
 辛うじて監視カメラ程度のものが見られるものの、こんなものは今時どうとでもなる。
 とはいえ、あくまで彼女の基準は自分の住む常盤台女子寮なので、余計に目につくのだが。

(まあそれについては今はおいといて、早く当麻の部屋に行かないと)

 美琴は周りを見回してエレベーターを見つけると、真っ先にエレベーターに乗り込み、上条の部屋のある七階のボタンを押した。
 学園都市特有の揺れを感じない高速エレベーターにより、あっという間に七階に着き、上条の部屋を目指す。
 美琴が上条のであろう部屋の前に着くと、とりあえず周りを見回し何もないことを確認する。
 美琴の目では学生寮付近同様、特におかしな点などは見られず、普通の日々の学生寮と何ら変わりないように見えた。
 なので、上条の部屋のインターホンを押す。
 インターホンの無機質な音が鳴り響き、上条の応答を待つ。

 ―――しかし、返事はない。

(ッ!!うそ…嘘でしょ!?)

 微かな不安が彼女の脳裏をよぎった。
 美琴は手を震わせながらも、無我夢中にドアの取っ手に手を伸ばす。
 幸い鍵はかかっておらず、ドアを引いた時の手応えはなくあっさりドアは開いた。

「当麻!!」

 パァンッ!!!

(ッ!!……えっ?)

 ドアを勢いよく開けた瞬間、銃声にも似た音が部屋中に響いた。
 その音に驚き、美琴は肩を大きく揺らしたが、彼女はそれどころでは済まない。
 美琴は何が起きたかは全く理解できなかった。
 やがて何もかもがわからない状況下で、少しぼんやりしていた視界は次第にはっきりしてゆき、美琴は目の前の光景を目の当たりにする。
 だが、それでもその光景を理解できなかった、いや、理解したくなかった。
 今までの自分の十分すぎると言える程の警戒、彼の身の心配、万が一のときの恐怖。
 その光景はそれら全てを馬鹿にするような光景だったからだ。

「あ、あ、アンタはあああああぁぁぁぁあああ!!!!!!」

 先程の銃声に似た音にも負けず劣らずの怒号を美琴が発して、上条の部屋に彼女の電撃が放たれる。
 部屋のことなど全く考えていない無配慮の数億ボルトにも達する無慈悲なる電撃である。

「どわああああぁぁぁぁあああ!!!!!!や、やめろおおおおぉぉぉぉおおお!!!!」

 そして、その美琴の怒号にも負けない程の声量で上条の部屋にいた誰かから発せら、美琴に飛びついた。
 その声の主とは。
 そう、ここの部屋の主である上条当麻であった。

「きゃあ!……あ、アンタ!!なにしてんのよ!!」
「はぁ!?んなもんお前がいきなりそんな全開でビリビリしだすからだろうが!!」

 今の彼らの態勢は上条が玄関に立っていた美琴に飛びついた形であったため、ちょうど上条が美琴を押し倒したような態勢だ。

「違うわよ!なんでアンタはこんな時にあんなことをしたのかって聞いてんのよ!!」

 美琴の言うところのあんなこと。
 つまり、先程の銃声に似た音の原因となる上条の行為のことだ。
 勿論、美琴に向かって本当に銃を撃ったなんてことは決してない。
 では何だったのか。
 答えはクラッカー。
 上条は美琴に向かって三個程のクラッカーを同時に放ったのである。
 それらのクラッカーの中から放たれた長い糸状の紙や紙吹雪が美琴にかかるその光景は、美琴がつい先程まで醸し出していた緊迫した雰囲気を一気にぶち壊す程、非常に馬鹿げたものだった。

「え、えーっとですね…それは…」
「アンタは変な連中に追われてたんじゃないの!?それをこんなことして…馬鹿じゃないの!見つかったらどうすんのよ!!」
「み、美琴!落ち着けって!!」
「これが落ち着いていられるもんですか!!大体なんでアンタはこんな時でむッ…!!」

 美琴のすぐ近くでする上条の匂い、彼女の視界いっぱいに広がる彼の顔、そして口元の柔らかくも、熱く、とろけるような甘さの感触。
 上条は美琴にキスをしていた。
 彼らはバレンタインの日には三度ほどしていたのだが、それ以降は頻繁にしていたわけではなく、キスは稀にしていた程度。
 なので美琴はこの感触に慣れているわけではなく、さらに突然されたことにより顔を急激に赤く染める。
 そしてその熱はすぐに美琴から離れた。

「…落ち着いたか?」

 コクコク、と角張った動きで美琴は黙って頷く。

「はぁ…お前がいきなりところかまわずビリビリすっから、玄関の壁が焦げちまったじゃねえか……不幸だ」
「ご、こめん……で、でも、アンタがこんな時にあんなことするからでしょ。…ちゃんと説明してよね」

 美琴は鋭い目つきで上条を睨めつける。
 対して上条は少し疲れたようにため息をつき、そして睨めつけてくる美琴の視線に対してしっかり目線を合わせて、

「ああ、アレな。アレは全部嘘。別に俺は誰にも追われてなかったし、ずっと家にいたよ」
「………………は?」
「いやな、一昨日も昨日の昼にも言ったとおり、昨日に今日渡す菓子を作ったんだよ。でもそれだけじゃお前を喜ばせる自信がなくて、隣りに住んでる土御門って奴にちょっと相談してみたんだよ。そしたらな『それはもちろんサプライズが一番だにゃー。女の子というのはみんなサプライズに弱いものぜよ』って言ってきたもんだから…」

 そこから上条は説明をさらに続いていた。
 だが、そこからの話は全て美琴の頭には入っていっていなかった。
 今の美琴の頭には、あれだけ心配させといて実は嘘という怒りが七割、自分を喜ばせようと上条なりに頑張っていたことによる嬉しさ二割、諸々のこと一割で占められていた。
 なので新しい情報をいれるなどという余裕は全くなく、まさに右から左の状態である。
 ただ今の美琴に言えることは一つだけある。
 そして美琴と上条の態勢は始めからあまり変化はない。
 ただ始めに比べて上条が少しだけ起き上がり、彼の右手で美琴の左手を握っているぐらいの変化だ。
 だから美琴は今能力を使えない。
 だから美琴の持てる力全てを振り絞って、

「……といてっ…!」
「だからだな…って美琴聞いてんのか?」
「人にあんだけ心配させといて!!!謝りもせんのかアンタはあああぁぁぁああ!!!!」
「ごばあぁ!!!」

 上条の頬を右から左へ美琴の全身全霊を込めた横薙の一撃が彼女の怒号とともに炸裂した。


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