とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part09

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匿名ユーザー

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― ホワイトデー ―


 同日19時、常盤台女子寮

「疲れた…とにかく今日は疲れたわ……」

 美琴は寮の自室に着くやいなや、一目散に自分のベットへ向かい、重力に逆らわずベットに倒れ込んだ。
 あの後、電撃により負傷した初春と佐天を病院まで見送り(黒子は空間移動でファミレスから脱出し、無事だった)、ファミレスの店長に頭をこれ以上ないくらい下げて、自分の漏電による被害の弁償のお金を支払った。
 勿論、弁償はお嬢様の美琴であるから払えた額である。
そして他の客達にも色々と謝罪などをしている内にこの時間にまでなってしまった。
 さらに幸いにも、門限ギリギリだったため寮監の制裁は避けられたが、注意はされ、それにも精神をすり減らした。

「なんで今日はこんなについてないの…?本当にアイツの不幸が移ったかなぁ……」

 ベットに俯きながら一人ごちる。
 ちなみに黒子は美琴の謝罪巡りに付き合わず(美琴が拒否したため)、先に寮に帰っており、今は美琴に背を向けて何やらパソコンをいじっている。

(そういえば今日の黒子はなんか変だったわね……会話にもあまり絡んでこなかったし、いつもに比べてものすごく大人しかった…いや、暗かった…?)

 様々なことが起きた今日であったが、美琴には気にしていたことがあった。
 それは今日の出来事の発案者で美琴をそれに誘った白井黒子のことである。
 初春と佐天による集中的な攻撃で、会話中は話すことができなかったが、今となってはやはり気になる。

「ねえ黒子、なんかあったの?いつもより元気ないみたいだけど」
「……」

 黒子は視線こそ美琴に向けるが、口を開こうとはしなかった。
 しかし、その視線にはどこか寂しさを思わせるものがあることに美琴は気づく。

「えっと……なんかあるんなら相談のるよ?」
「……いえ、大丈夫ですの。これは黒子の問題ですから」
「水くさいなぁ、私にできることならなんでもするよ?」
「だったら、私の願いを聞くことはお姉様の幸せを邪魔することになりますので、尚更結構ですの」

 黒子の口調はどこか素っ気ない。
 それは恐らく黒子がそれを美琴のことについて知っている人の中で一番わかっているからこそであった。
 今の自分の願いの根元はただの嫉妬。
 もっと美琴に自分を見てほしいという身勝手極まりない願い。
 それを今、幸せを享受している美琴が叶えられるはずがない。
 ましてや美琴はあんなネックレスまで送っている。
 だからこれは黒子の問題。
 黒子自身で解決するしか道はない。
 それでも美琴は生来、困っている人や悩んでいる人、苦しんでいる人などをほっとけない性格だ。
 なんと言われようと、そこは譲れない。

「私の幸せの邪魔ってのが気になるけど、それでもいいから話たけでも聞かせてよ」

 黒子は思った。
 やはり美琴は優しすぎる、と。
 わざわざ自分の幸せが邪魔されると言われてもなお、踏み込んでくる。
 そして思い出す。
 自分はこんなお姉様だからこそ慕っていることを。
 きっとお姉様はこの自分の身勝手な願いですら真剣に考えてしまう。
 それが少しの嬉しさはあるものの、それ以上に許せなかった。
 あまりの自分の身勝手さが。
 結局はあの頃と何も変わっていない。
 自分の身勝手加減で、自分だけならまだしも美琴にまで危険な目に合わせてしまった九月のあの頃と。
 美琴のいる世界へ追いつこうと頑張り、迷惑をかけまいとしてきたのに、また迷惑をかけようとしている。
 それがどうしても許せなかった。
 そう思うと、黒子の目から涙がこぼれだした。
 無意識の内に流れた涙は簡単には止まらず、それを隠そうとする彼女の服のそでを濡らす。
 それを見た美琴は始めはギョッとしたように驚いたが何も言わず、ゆっくり彼女に近寄り、自分の方を向けさせて抱きしめた。
 顔を隠していた黒子も、やがてそれを外し美琴の胸に顔を埋め、美琴の服をまた濡らす。

「……私の推測だけど、もしかして私がアンタに構ってあげてないのが嫌なの?」

 黒子は口は開かず、黙って頷く。

「そっか……まあ最近はアイツばっかりで黒子に構ってあげれなかったわね。……それに私はアイツのことが心底好きだし、いつまでも一緒にいたいとも思ってる」

 美琴の口調は優しく、黒子はその声を聞いている内に次第に落ち着いていった。

「でもね黒子。私は同様に黒子も好きよ?大切な後輩であり、パートナーなんだから。……だから私は黒子を無視してアイツと付き合ってくつもりはないわよ。あくまでもアンタにも認めてもらいたいしね」
「そう、ですの…」
「うん、そうよ。だから安心して」

 黒子はいつかは美琴に追いつきたいと思っていた。
 能力者としても人間的にも。
 しかし、この優しさだけはいくら頑張っても真似できないと思った。
 美琴の優しさは生まれつきの度量があってこそ。
 こんな些細なことで嫉妬している内は到達できる域ではないと思ったからだ。
 だから、彼女は答えた。

「お姉様、私はこれ以上お姉様に迷惑はかけたくありません。ですからこの件に関しては忘れてくださいませ」
「アンタね、この期に及んでまだそんなこと言ってんの?というか迷惑なんてそんな…」
「お姉様はお姉様の幸せを離さないことだけを考えてくださいな。私の問題は私で解決しますので」

 美琴はそれ以上は何も言わなかった。
 彼女自身はこの問題を迷惑とは思っていない。
 むしろ、越えねばならないハードルだとも考えていた。
 だが、黒子の言い分に対しての反論はしなかった。
 自分の問題は結局は自分で解決しなければならない。
 黒子がそれを望むなら、この場は何も言わない方がいい。
 美琴はそう思ったからだ。




 同日21時、上条宅

「お、終わった……とりあえずはこれでいいだろう…」

 上条は美琴と別れて帰宅した後、昼食をとりつつ作業に没頭した。
 彼が作っていたのはクッキーであり、生地を作ること自体は全体のかかった時間から考えれば大したことはなかった。
 だが問題は焼く時間だった。
 いくら一人当たりの数は減らしたとはいえ、クッキーの枚数は必然的に多くなり、その一般的な家庭の環境では膨大とも言える量のクッキーを一回でこなせるわけもない。
 ましてや今回の作り手は上条当麻である。
 一般的な家庭でのオーブンでも数回に分けなくてはいけないであろう量なのに、貧乏な彼が持っているオーブンはそれよりもサイズが小さく、より多くに分けなくてはならない。
 それにより彼自体は意外と手持ち無沙汰ではあったものの、時間は恐ろしくかかってしまった。

(問題は美琴の分だよなぁ…作ってはみたものの、どうしたものか)

 一応その余った時間で案は出してあった。
 そしてその時間で準備も下拵えもして、最後に焼いて完成してはいた。
 だが、バレンタインにもらったケーキを思い出すとどうしても霞んでしまう。

(大切なのは気持ちってのもわかるけど、やっぱりな……)

 比較対象が悪いのはわかっている。
 気持ちが大切なのもわかっている。
 しかしそれでも気になる。
 上条の料理の腕は一人暮らしのためか、並かそれ以上の腕はある。
 かといってお菓子は頻繁に作っているわけではないので、それに関してはあまり経験豊富とは言えない。
 だから、明確に失敗したというわけではないがやはり少し自信がない。

(まあなんにせよ、美琴が満足してくれればそれでいいんだが、相手はまがりなりにもお嬢様。……果たしてどうなることやら)

 彼女がちゃんと喜んでくれるだろうか。
 だが、彼にはそれでは足りないような気がしていた。
 バレンタインのあの日には、自分はあれだけのことをしておいて、ホワイトデーのお返しが単なるお菓子一つ。
 本当にそれだけでいいのだろうか、と。
 そんな一抹の不安を胸に秘めて、作業を終えた上条は一旦台所から離れて自分のベッドに腰掛け、目の前のガラステーブルの上に置いてある携帯電話へ手を伸ばした。





 同日22時頃、常盤台女子寮

 美琴は自分の枕に顔を埋め、決して中学生向きとは言えないカエルをモチーフにした携帯電話を手にしてベッドに俯せになっていた。

「アイツ、夜にまた連絡するって言ったわよね…?うん、言った言った……もぉ、早くしてよね」

 明日は朝早くに用事があるためか、それとも泣きつかれたのか、この時間にもかかわらず、既に寝てしまっている黒子を横目に美琴は一人呟く。
 美琴は黒子が落ち着くまで彼女を抱きしめていた後、彼女から離れベッドで今の体勢のまま、考え事をしていた。
 黒子のこと、上条のこと、自分のこと、そしてこれからのこと。
 黒子は自分については大丈夫と言った。
 上条のことは今まででは他人対して抱いたことのない程、好きだった。
 自分はもっとこれからも彼と一緒に進んでいきたいと思っていた。
 ではこれらから、これからとるべき行動は?
 一見すると簡単なことだ。
 上条と一緒にいていればいい。
 だが、美琴はその判断を下していいものかと悩んでいた。
 黒子はああは言っても、ずっとは放っておけるわけがない。
 かといって、そっちに気を向けると今度は上条に会えない。
 そのジレンマが美琴を苦しめていた。
 ずっと考えていても答えはでない。

(こんな時、当麻なら…)

 そんなことを考えると無性に上条の声が聞きたくなった。
 こんなとき、いつも救ってくれるのはいつも決まって上条だから。
 自分にとってのヒーローであり、自分がこの世で一番大好きな人の。
 そうして今に至る。

 ゲコゲコ、ゲコゲコ

 不意に美琴の携帯からカエルの鳴き声と思しき着信音が発せられた。
 美琴は慌てて携帯を開き、ディスプレイを見る。
 上条からの電話だ。
 心待ちにしていた彼からの電話。
 美琴は急いで通話ボタンを押して電話にでる。

「も、もしもし…?」
『うーす、今大丈夫か?明日のことなんだけどさ』
「うん、大丈夫…」
『…?なんか元気ねえな、何かあったのか?まあそれはおいといて、明日は12時にいつもの場所でいいか?あ、昼飯は食うなよ』
「えっと、いつもの場所って…自販機前よね?」
『そうそう……って本当に元気なさそうだな、大丈夫か?』

 開口一番の声だけで見抜かれてしまった。
 特に隠そうと思っていたわけでもなく、こっちから話そうとしていたことでもあったので、聞かれること自体は嫌ではなかった。
 むしろ気づいてくれて少し嬉しい。
 声だけでも自分の変化がわかってくれることが。

「うん、ちょっと考え事をね……ねぇ当麻」
『ん?』
「当麻は…今、幸せ?」

 だから聞いてみようと思った。
 自分が心配していたことを。
 悩みの種の一つを。

『……なんで今そんなことを聞くかは全然わかんねえけど、今俺は幸せだと思うぞ。少なくとも不幸ではないよ』
「そっか、そうよね…うん、ありがとう」
『何かあったのか?……もしかしてまた何かに巻き込まれて!?』
「ううん、違う。ちょっと考え事してただけだって。……だから心配しないで?」

 美琴は我ながら酷い声だと思った。
 こんな弱々しい声では彼でなくても心配する。
 するなと言う方が無茶かもしれない。
 それほどその声には力がなく、心細さに満ちていた。

『そうか…ならいいけど。……あんまり無茶はするなよ?何かあれば相談しろよ?』
「うん、ありがとね。それじゃあね、また明日」
『ああ、また明日な』

 返事が返ってきたのを確認すると、美琴は電話をきった。
 彼女は相談と言える相談はしてない。
 質問を一つだけしただけだ。
 それでもその答えを聞いて、電話をする前に比べて、した後では心が少し軽くなった気がした。
 特に問題の一つも解決したわけでもないのに。

「そっか、幸せか…ならとりあえず明日は今まで通りでいいのかな」

 上条の声を聞いて多少なりとも安心した美琴は、疲れもあってか携帯を片手にそのまま眠りについた。


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