人のふり見て…
「なんかイライラする……」
御坂美琴は腕組をしながら考えていた。
この一週間、アイツに会っていない。いつものように待ち伏せして空振り、
探しても空振り、自動販売機前ですら空振りと散々だ。
ここまで会えないとなるとまた何かやっかいごとに巻き込まれているのだろうか。
それとも他に何かあるのだろうか。
「もしかして私のことを避けてるとか……」
いや、それは無い、と頭を振る。
ちょっと頭がくらんくらんとするくらい全力で。
(ない……よね)
考えてみればいつも電撃を撃っては追っかけてるかなんか言い争いをしているか、どっちかな気がする。
(……あれ?冷静に考えればアイツが私にいい印象抱く理由がない?)
あごに手をあてて考え込んでしまう。ちょっと冷や汗も出てきた。
いや、ときどきいい感じにはなってる気もするし
宿題もいっしょにやったし
大覇星祭の時にはアイツから罰ゲームを持ちかけられたし、
電話で唐突に頼みごとをされたこともある。(内容はアレだったが)
と美琴は上条に対して好感度があがるかな?といった行動を思い出していたとき
「不幸だーっ!」
待ちに待った声が聞こえてきた。
こらえることのできない笑みを浮かべながら美琴は
「ちょっと!アンタ!みつけたわよとまりなさ」
「わりい!急いでる!」
待ちかねた相手はこっちを見向きもせずに走り抜けていった。
笑顔のまま凍りつく。頬の筋肉が痙攣してヒクヒクと音を立てる。
こみかめに青筋が浮かぶ。
そしてあたりにバチバチという音が鳴り響く。
「ふ……ふざけんなこるぁ!」
ちょっとだけ目に涙を浮かべながら
いままでの鬱憤とか今一瞬で起こった出来事の寂しさとか愛情とか色んなものがいっぱい詰まった一撃を放とうとしたそのとき
美琴の真横を光の塊、つまりはレーザーのような攻撃が通っていった。
ひゅごっと空気を切り裂く音が辺りに響き渡る。
それはまっすぐ上条当麻へと向かっていき、上条はそれを打ち消すと路地裏へ入っていった。
「っ!また何やっかいごとに!?」
美琴はすぐさまレーザーが飛んできた方向へと振り返る。
すると
「うへ?」
間抜けな声を出した。
なぜならそこにはお嬢様がいた。
見た目からしてお嬢様だとわかる。
なぜわかるかというとそれは気品を感じさせる長い黒髪でも派手にゆれてる胸でもなければ
バイオリンを持っているからでもなく、見慣れた制服を着ているからだ。
ぶっちゃけると常盤台の制服を着た少女が全力で走っていた。
なんだか、手の辺りから外見からは似つかわしくない凶暴な光を放っていた。
彼女は、普段はこんな大声をださないだろう、というような大声で
「お待ちなさい!ツンツン頭!」
と叫ぶと美琴を見ることすらなく上条が消えていった路地裏へと同じように走っていく。
「えっと……」
ぽつーんと言う擬音がとても似合う感じに御坂美琴は完全に取り残されてしまった。
なにがなんだかわからずに放心状態でボーっとしていると先ほど二人が消えていった路地裏から
常盤台の制服を着た少女だけが戻ってくる。
そして辺りをきょろきょろ見回しているようだった。
ふと美琴と目が合った。同じ制服だからか、こっちに走りよってきて口を開いた。
「すみません、こちらにツンツン頭の高校生が走って……御坂様!?」
さすがに常盤台の学生には御坂美琴は有名人だ。先ほど気がつかなかったのはそれほど必死にアイツを追いかけていたのだろうか。
美琴は頬をヒクヒクとさせながらも何とか答えた。
「あ、あはは、こっちにはこなかったわよ……」
「左様ですか……あの方の逃げ足はレベル4くらいあるのでしょうか」
考え込んでいるようだ。
ちょっとの時間、お互いに沈黙した。が、その沈黙を破ったのは美琴だった。
「えっと、アイツとどんな関係?」
「宿敵です」
瞬時にすごいきっぱりと言い返された。
「えっと、どうして宿敵に?」
なんか冷や汗が止まらないが聞いてみるしかない。
彼女の答えはこうだった。
大覇星祭、玉入れのとき、自分の能力を消した人がいた。
最初追っかけいた人を追い詰めたときに、先ほどの少年が消したことを聞いた。
で、調べてみたのだがその中学にそのツンツン頭は居らず、探し回っていたのだが
「ついに!偶然ですが先週にみつけたのです!」
それからその道の近くを探索し、毎日勝負を挑んでは逃げられているらしい。
逃げるルートはいつも違うので追いかけるのが難しいともいっていた。
つまり
(アイツを見つけられなかったのはこの子のせいかーっ!)
と、声には出せない叫びを放つ。
「ところで、御坂様」
「なに?」
「先ほど、アイツと仰っていましたがあの男性をご存知なのですか?」
びくぅ!っと肩を震わす。そりゃご存知ですよ。あはははーとはいえず
「え、えっとねまあなんというか……まあ、そのことはどうでもいいじゃない」
「はあ……」
彼女はちょっと納得がいかないようだがそれでもとりあえずはうなずいてくれた。
常盤台の寮へと帰る途中、彼女は自分の能力ことを話し始めた。
彼女の能力は基本的に攻撃にしか使えないようだ。
光の砲弾や先ほどのレーザーのように攻撃の用途は多いのだが
「どうも攻撃一辺倒になってしまうのです」
光を屈折して別の場所を見せたり、目くらましのように輝かせたりはできないらしい。
なんだか学園都市第四位を髣髴とさせる能力だ。
「代わりに大覇星祭の様に、自分の能力を生かせる場所ではそれなりの自信があったのですが」
「それを砕かれた、と」
なんとなーく美琴にはその気持ちがわかる。自分も似たようなものではあったのだから。
(けど……)
自分の居場所が奪われたようでなんとなく気持ちが落ち込む。
しかし彼女はそんな美琴の様子など気にせずに自分の言葉を続ける。
アイツのことを話すことができる相手ができたからだろうか、どうも彼女はテンションがあがっているようだ。
「そこで!あのツンツン頭に『参りました』と言わせてみるべく努力を続けているのです!」
大きな胸をどーんと張って彼女は答えた。
いろいろはた迷惑な努力だ。だが
(どうしよう……)
なんかある意味妹達よりも自分に似ているのではないか?
という少女を見つめて考え込んでしまう。
(体系も似てればよかったのに)
このお嬢様、全体スラっとしてるのに一部分ボリューム満点である。
なんかいろいろショックを受けつつも常盤台の寮に着いた。
「それでは、わたくしは別の寮ですので、ここで失礼いたします。」
彼女は礼をして、優雅に立ち去った。
「お姉さま、どうしたのですか?」
ルームメイトの白井黒子が常盤台のエース、美琴に心配そうに声をかける。
なぜなら常盤台のエースは部屋の隅で体育座りをしていた。
なんか右手でのの字を書いている。
「そりゃ、誰がアイツを追いかけようと勝手だけどさ。けどさ。けどさ」
なんか呪いなのか新手の超能力開発なのかわからないがぶつぶつとつぶやく愛しのお姉さまをどうしようと
白井黒子は真剣に悩んでいた。
もちろん御坂美琴も床にのの字を書きつつ真剣に悩んでいた。
もちろんあのツンツン頭とそれを追いかける彼女のことだ。
(私がやめなさい、といっても意味がないのよね)
どう考えてもあの二人の問題でしかない。
部外者である自分が何を言っても無駄なのはわかっている。
なんせ、自分が誰かに『上条当麻を追いかけるのをやめなさい』といわれてもやめないだろうとわかっているから。
つまりはあの彼女に自発的に追いかけることを止めさせなければいけないのだが
(なんか、それはそれで……)
彼女が追いかけるのをやめると、自動的に自分も追いかけるのを止めないといけない気がする。
そもそも
(もし、アイツが追いかけられるのを嫌がっているなら)
それは自分が追いかけているときも同じなのでは?という考えにいたってしまう。
そう考えてしまうととてもモヤモヤとした感じがする。
思い切ってアイツに聞いてしまえばそれで済む話なのかもしれないけど
(怖い……)
アイツの本音が怖い。本当に嫌われていたら……
その場合、自分はどうすればいいのか。
アイツの傍にいる方法がわからない。
「寝よう……」
とりあえず明日だ。明日になればきっとなにか……
「変わるわけないわよねー……」
当たり前だが何の解決策も出さなければ一日がたとうが何も変わらない。
美琴は常盤台中学からの帰り道でため息をつきながらとぼとぼと歩いている。
思い切ってこちらから探しに行こうかとも思う。
彼女より先に見つけられれば、と考えはしたが
「だめだあ」
仮に先に見つけても解決にならない。彼女がそれで攻撃をやめるか分らない。
まさか、自分以外にアイツを追いかけてる人が一人いるだけで自分の行動が八方塞になるとは思っても見なかった。
結局、良い考えも浮かばず夕方まで一人でとぼとぼと歩いてしまった。
と、そのとき偶然通った河原で二つの影を見つけた。
その影はひとつはツンツン頭でもうひとつは長い黒髪のお嬢様の形をしていた。
時間はちょっと遡る。
ツンツン頭の少年は正直ちょっとうんざりしていた。
理由はこの一週間毎日追いかけてくるお嬢様だ。
「相手が御坂ならまだしもなあ」
あのビリビリお嬢様ならいくらでも相手になる、それくらいには気心も知れている。
が、今度の相手は見知らぬお嬢様。
なんだかとてもやりづらい。
(それになあ)
なんとなく調子が出ない。
(御坂に会えてないしなあ)
と漠然といつものビリビリお嬢様が思いつく。
(ってなにを考えてるんだ!俺は)
今湧き上がった複雑な感情はさておいておいて、あのお嬢様の攻撃を何とかしたいのだが、
対策を立てるまもなく彼女は今日もやってきた。
「見つけましたわ」
「あー、不幸だー」
「その台詞、いい加減聞き飽きましたわ。」
上品な唇を少し歪ませている。
「で、お前は何を一体どうしたいんだ?」
上条当麻はいい加減うんざりといった感じで彼女に問いかけるのだが
「当然、あなた様に参った、といわせたいのです」
うーん、それって
「つまり勝負でもすればいいのか?」
「そうですわね」
「なら、相手になってやるよ」
というわけで、移動してきたのだが
「なんかデジャヴを感じる」
「何かいいまして?」
「いや、なんでもない。いつでもいいぜ」
「ではいきますわ!」
いい終わる早いか、お嬢様はレーザーを放ってきた。
いつもどおり右手で打ち消す。
次は光の砲弾をいくつも投げてきたが上条が右手を振り払うとあっけなく霧散する。
「何度やっても同じ結果じゃねーか!」
「うっ」
どうも彼女は応用力はあまりないらしく、本当に攻撃一辺倒なのだ。
あしらうだけならそう難しくない。
だけど彼女もそれなりに考えているようで
「これならっ!」
光の砲弾を地面に撃ち込んだ。
かなりの量の土砂が舞い、上条に襲い掛かる。
それを壁にして、後ろからもう一発のレーザーを放とうとする、が
目の前の土砂などお構いなしに上条はその土砂に自ら突っ込み、かいくぐった。
「え!?」
驚愕するお嬢様。上条はそのままお嬢との距離をつめる。
そしてお嬢様の目の前まで来て右手を振りかぶり
(って、この先どうすりゃいいんだ!?)
まさか悪人でもないのに殴るわけにもいかない。どうしよう?と心の中にクエスチョンマークを浮かべたのがいけなかった。
不幸体質の上条が気を抜けば、そこに不幸が舞い降りる。
上条当麻は先ほどの砲弾によりえぐれた地面に足を引っ掛けた。
「うおっ!?」
突然崩れた自分のバランスに驚愕しつつ、何かをつかむように右手を伸ばすと
「え?」
お嬢様をつかんで倒れこんだ。
「いてて……ってなんか柔らか……い……」
もにゅ
という音が出そうだった。上条の右手はとあるお嬢様の自己主張の激しい物をつかんでいた。
まあ、要するにラッキースケベだった。
しかし、つい先ほども言ったが上条当麻は不幸である。
ラッキーという言葉にはとても程遠い人生を送っている。つまり
「ア、ン、タは一体何をやってるのかしらっ!」
不幸の現況となりえる存在。つまりは怒りに震える学園都市第三位がそこにいた。
「ふ、不幸だー!」
立ち上がり、わき目も振らずに逃げ出す上条。そこへ全力のレールガンを叩き込む御坂美琴。
「まてこんのエロ野郎!」
壮絶な追いかけっこが始まった。
「殴りたい!ついさっき追いかけてくるのがこのビリビリならいいやと思った自分の幻想を思い切りぶち殺したい!」
「なに言ってるのか分らないわよっ!」
あたりの地形が変わるのではないか?という感じで電撃やらレールガンを打ち込む美琴と
それを平然と打ち消し逃げる上条。そしてその影で
「えっと……」
ぽつーんと言う擬音がとても似合う感じにお嬢様が一人取り残されてしまった。
日付が変わるころ、御坂美琴は常盤台の女子寮へと戻ってきた。
「まったく、あの馬鹿は!」
怒りのこもった口調と、どすどすといういかつい足音とは裏腹に
「お姉さま、なんかとっっっても嬉しそうですけど?」
「え?そう?」
そうにしか見えないため、白井黒子はため息をついた。
「あの殿方となにかあったんですの?」
びくっっと全身を震わせて見る見るうちに顔が赤くなる。
「な、なにもないわよ!」
とはいうものの
(あー、やっぱりなんというか……楽しかったなあ)
久しぶりに全力を出しまくった美琴はそのままベッドに倒れこんだ。
そしてそのまま枕を抱きしめてスースーと寝息を立て始めた。
(なんですの!その幸せそうな寝顔はなんなんですのー!)
しかも時折まちなさいよーとかつかまえたーとかなぞの寝言を発する。
それを聞いて白井黒子が床に何度も頭をたたきつけつつ、夜は更けていった。
翌日、ルンルンという音が聞こえてきそうなくらい軽快なスキップで登校中の
御坂美琴の前に例のお嬢様が現れた。
「あの、御坂様」
「ん?何かしら?」
満面の笑みである。ちょっとお嬢様は気後れしたようだが
「わたくし、あの殿方を追いかけるのはやめにいたします」
「へ?」
彼女は告げた。
御坂美琴の全力を防げるあの人を倒すにはまだ実力が足りないことを悟ったらしい。
「なので!まずは自分のレベルを上げることに全精力をつぎ込みます!」
なんか後光がさしてるようにも見える。こんなところで応用力あげなくても。
「それにですね」
「ん?」
お嬢様は本当にお嬢様らしくにこりと笑って
「はぁ、疲れたぜ……」
夕暮れの学園都市をのそのそと歩くツンツン頭の少年がいた。
彼は昨日結局一晩中美琴と追いかけたあと、ほとんど眠らずに学校に来た。
そのせいで授業中に爆睡したところ親船先生に居残り草むしりを命じられてやっとこさ先ほど終わったところだ。
そして例のごとく終バスはもう終わっていたため自宅の寮へと徒歩で帰宅中だった。
「あー、早く家に帰りたい」
とそこへ
「いたいた、見つけたわよ!」
振り返るとそこには
「御坂……?」
常盤台の制服、しかし最近のお嬢様ではない、見慣れたお嬢様
なんだか楽しそうに笑うよく御坂美琴がそこにいた。
なんだかつられて少し笑ってしまう。
「さあ!勝負よ!」
「えー!?いきなりそれですか!?もう上条さんの体力はゼロよ!」
といって一目散に逃げ出す。
それを追いかける美琴。
美琴は逃げ出す前の上条の顔をしっかりと見た。
笑っているアイツ。楽しそうなアイツ。
(よかった)
美琴ももう一度笑って目の前の少年を追いかけ始めた。
にこりと笑って、お嬢様はこういった。
「あの殿方と御坂様、とても楽しそうでしたので邪魔はできませんわ。」