1.訪問者
時を多少遡った学園都市第七学区、とある店の前。
時刻は夜の八時頃、空はすっかり暗くなり、申し訳程度に星が見えている。
時刻は夜の八時頃、空はすっかり暗くなり、申し訳程度に星が見えている。
「よー、姉ちゃんかわいいね、ひとりー?」
とある少女が複数の男に囲まれていた。
学生の町である学園都市といっても夜の八時では人通りもまだ多いはずだが
誰一人少女を助けようとしない、我が身が大切だからだ。
学生の町である学園都市といっても夜の八時では人通りもまだ多いはずだが
誰一人少女を助けようとしない、我が身が大切だからだ。
「こんな時間まで一人じゃ、危ないよ?俺たちが送ってってあげようか?」
下心全開の男たちの誘いに少女はやれやれ、と首を振っている。
少女は男よりももちろん華奢で、見た目か弱いはずであるが全く動じていない。
何を隠そう、彼女は
少女は男よりももちろん華奢で、見た目か弱いはずであるが全く動じていない。
何を隠そう、彼女は
(私が常盤台の超電磁砲≪レールガン≫って分かってやってんのかしらね?)
そう、学園都市が誇るたった七人しかいないレベル5の超能力者
そして、その序列内でも三番目の実力に位置する
『学園都市最強の女』御坂美琴その人なのだ。
そして、その序列内でも三番目の実力に位置する
『学園都市最強の女』御坂美琴その人なのだ。
その超電磁砲の少女、美琴は男たちなど眼中になく
道行く人をなぞる様に見つめた。
散歩のついでに探している人物がいるからだ。
道行く人をなぞる様に見つめた。
散歩のついでに探している人物がいるからだ。
(あいつは・・・・・・いないか、何で今日に限ってこないのよ!)
その怒りは理不尽なのだが、美琴はちょっと期待をしていたのだ。
いつもであれば、彼女の探し人であるツンツン頭の少年が
(不用意にレベル5に近づこうとする男たちを)助けに来るのだが
今日に限って、肝心の少年が割って入ってこない。
いつもであれば、彼女の探し人であるツンツン頭の少年が
(不用意にレベル5に近づこうとする男たちを)助けに来るのだが
今日に限って、肝心の少年が割って入ってこない。
(はー、今日はあいつに会って、絶対にデ、デートの約束でもしようと思ったのに)
「ねぇ、無視しないで答えてよ」
「へ?」
少年の事を考えていたせいで、男たちの言葉は耳に入ってなかった
見ると、自分の腕は握られて、車の中に引っ張られる途中だった。
見ると、自分の腕は握られて、車の中に引っ張られる途中だった。
(調子に乗って・・・・・・!)
先ほどまでボーっとした表情をしていた美琴だったが
流石に抵抗しないとまずいことになりそうだ。
何より、出会えなかった『アイツ』以外の男に触られるのが心外だった。
流石に抵抗しないとまずいことになりそうだ。
何より、出会えなかった『アイツ』以外の男に触られるのが心外だった。
「おー、こんな所にいたのかー」
そこで、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
(きた―――――!?)
タイミングを読んだかのように、男達の間を縫って出てきたのは
ツンツンした頭をした少年だ。
申し訳なさそうに右手を立てて、美琴の傍まで寄ってくる。
ツンツンした頭をした少年だ。
申し訳なさそうに右手を立てて、美琴の傍まで寄ってくる。
「心配したんだぞ、何で待ち合わせの場所にいなかったんだ?」
ニコリ、と笑いながら話しかけてくる。
その表情にドキリとしてしまった美琴、そして今までなら
その表情にドキリとしてしまった美琴、そして今までなら
「何してんのよ!アンタは!」とか「ストレス発散させろよゴルァァァ!」みたいな
お嬢様とは思えないような対応をしているところだが、今日は違った。
お嬢様とは思えないような対応をしているところだが、今日は違った。
「ご、ごめん・・・・・・そ、その遅かったから、探しに・・・・・・」
話を合わせる事に成功した。
「まったく、んじゃ、連れがお世話になりましたー」
男が持っている手とは逆の方向の腕を取って美琴を引っ張っていく
男のほうは力を余りいれていなかったので簡単に拘束ははずれ
男達の輪の中から脱出する事に二人は成功した。
あまりの突然の出来事に男たちは呆然として対応する事ができなかった。
男のほうは力を余りいれていなかったので簡単に拘束ははずれ
男達の輪の中から脱出する事に二人は成功した。
あまりの突然の出来事に男たちは呆然として対応する事ができなかった。
「いやー、もう大丈夫だな」
時刻は八時十分になる頃、美琴はとある公園にいた。
そこは彼女にとっては思い出の一つで大切な場所の一つでもある。
そこは彼女にとっては思い出の一つで大切な場所の一つでもある。
「ぇと、あ、ありがとね」
柄にもなく(失礼)お礼を言った美琴だが少年のほうは全く気にしていない様子だ。
「いえいえー、どんな見知らぬ女の子でも助けるのは当然だし、
君みたいに可愛い子なら尚更上条さんは見捨てませんよ?」
君みたいに可愛い子なら尚更上条さんは見捨てませんよ?」
「か・・・・・・かわ!!?」
一瞬、意識が飛びそうになったがそこでふと、違和感を覚える
少年は『見知らぬ女の子』といったはずだ。
だが、それならおかしい、美琴と少年は知り合いのはずだし
美琴のほうはともかく、相手の少年は彼女の事を苗字で呼んでいる。
少年は『見知らぬ女の子』といったはずだ。
だが、それならおかしい、美琴と少年は知り合いのはずだし
美琴のほうはともかく、相手の少年は彼女の事を苗字で呼んでいる。
(まさか・・・・・・記憶喪失!!?)
絶望的な現実が突きつけられそうになった。
だが、震える体をかろうじて支えながら、同じように震えた口から言葉をひねり出す。
だが、震える体をかろうじて支えながら、同じように震えた口から言葉をひねり出す。
「あ、あのさ・・・・・・」
「な・・・・・・なんでせうか?」
美琴のただならぬ気配を感じたのか少年はうろたえ始めた。
しかし、それには気にせず美琴は先を続けようとした。
しかし、それには気にせず美琴は先を続けようとした。
「ま、まさか、わたくし上条当瑠は何か間違いを起こしたのですかー!?」
「は?」
今、少年はなんと言っただろうか。
「い、今なんて?」
「だぁああああ!そんな不安げな目で見ないで!女の子を泣かせるなんて
俺は最低だ!親父にぶん殴られる!母さんに穴あきにされる!不幸だああああ!」
俺は最低だ!親父にぶん殴られる!母さんに穴あきにされる!不幸だああああ!」
無視だ。
「無視すんなやゴルアァァァァァァ!」
常盤台直伝の回し蹴りを少年の腰辺りにぶちかます。
変な声を上げて少年はぶっ倒れ、プルプルと震えている。
変な声を上げて少年はぶっ倒れ、プルプルと震えている。
「な、なぜ助けた女の子から回し蹴りがプレゼントされるんでせうか?」
「うるさい!あんたが無視するからでしょうが!」
「いたたたた、で、なんでしょうか?」
「名前よ、な・ま・え!」
ビシッ!と人指し指を向ける。
少年はその剣幕に多少たじろいだが、腰を抑えながら立った。
少年はその剣幕に多少たじろいだが、腰を抑えながら立った。
「はぁ、上条当瑠≪とうる≫と申しますがどうかしたんでしょうか姫?」
一瞬の静寂。
美琴と当瑠と名乗る少年は見つめ合っていたが
名前を聞いた美琴は先ほどとは違った感情で震えていた。
美琴と当瑠と名乗る少年は見つめ合っていたが
名前を聞いた美琴は先ほどとは違った感情で震えていた。
「だれええええええええええええええええええええ!!?」
「貴方様こそおおおおおおおおおおお!?」
実は両方とも全く面識がない人間と判明した・・・・・・?
「あ、アンタ一体何者なの!?よくみりゃアイツと髪の色が違うし!」
叫び声を止め、今度は喚き声を散らす美琴。
そう、改めて明るいところで見れば目の前の少年は彼女のよく知る少年ではなかったのだ!
髪はツンツンしているが毛の色は茶色がかかっており、顔も探し人より整っていた。
よく似てはいるが全くの別人、その事実を知って驚愕する美琴。
そう、改めて明るいところで見れば目の前の少年は彼女のよく知る少年ではなかったのだ!
髪はツンツンしているが毛の色は茶色がかかっており、顔も探し人より整っていた。
よく似てはいるが全くの別人、その事実を知って驚愕する美琴。
(全く、知らない男と何してんのよ私は!ア、アイツにあんなところ見られたら!)
探し人は超鈍感だ、きっと勘違いする・・・・・・だが
(あれ?コイツ上条って言ってたわよね?)
それは探し人と同じ苗字だったはずだ。
(も、もしかして兄弟!?でもアイツは一人っ子のはずじゃ?)
美琴は大覇星祭時の事を思い出す。
あの時いたのは上条の両親と本人のみ。
風邪で休んだとかならともかく、一度くらいは兄弟でいるところを見るはずだ。
親戚という可能性もあるが、あまりにも似すぎている気がする。
そういうこともあるのかもしれないが、それにしたって状況が妙だ。
あの時いたのは上条の両親と本人のみ。
風邪で休んだとかならともかく、一度くらいは兄弟でいるところを見るはずだ。
親戚という可能性もあるが、あまりにも似すぎている気がする。
そういうこともあるのかもしれないが、それにしたって状況が妙だ。
「えーっと当瑠だっけ?」
「は、はい?」
一人悶々と悩んでいた美琴に突然話しかけられビクッと震える当瑠。
「あのさぁ、か、上条・・・・・・と、当麻って知ってる?」
かなりどもってしまったが何とか言えた。
本人はいないのに、名前だけでなく苗字すらどもってしまうのはあまりにも純情すぎるのだが
当瑠のほうはその辺りには気にも留めないで、むしろ驚いていた。
本人はいないのに、名前だけでなく苗字すらどもってしまうのはあまりにも純情すぎるのだが
当瑠のほうはその辺りには気にも留めないで、むしろ驚いていた。
「ぇ?知ってんの!!って・・・・・・あれ?」
急に考え込む当瑠、そしてポケットに手を入れると写真のようなものを取り出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」
そして、慌ててそれをしまいこむといきなり後ろを振り向いた。
息を整えるように深呼吸を繰り返す。
息を整えるように深呼吸を繰り返す。
「み、美春!やったぞ!兄ちゃんはやったぞおお!」
なんか、ガッツポーズをはじめて叫んだ。
通行人がいないのが幸いしたが、いたら非常に恥ずかしい状況だ。
通行人がいないのが幸いしたが、いたら非常に恥ずかしい状況だ。
「ちょ!何叫んでんのよ!!恥ずかしいでしょ!?」
慌ててガッツポーズをとる当瑠を止めようとするが
「やったねー!お兄ちゃん!」
茶色の髪をした少女が突然現れた。
「はい?」
御坂美琴は目を見開き、唖然とするだけだった。
「はいいいいいいいいいい!?おと、お父さん!?」
第七学区裏路地に上条当麻の叫び声がこだまする。
なんだか、夢のような状況だった、いや夢であってくれと本気で祈る上条なのだが。
なんだか、夢のような状況だった、いや夢であってくれと本気で祈る上条なのだが。
「そうよ~、若い頃のお父さんって結構イケメン?じゃない?」
「若い頃って、上条さんは絶賛青春真っ盛り中を続けた記憶しかありませんが!?」
ちなみにその記憶もまだ一年も経っていないのだが、その説明は省くとする。
上条をお父さんと呼ぶ御坂美琴に似た少女はニヤニヤと笑いながら
上条との距離をさらに縮めてくる。
上条をお父さんと呼ぶ御坂美琴に似た少女はニヤニヤと笑いながら
上条との距離をさらに縮めてくる。
「ま、待て!近寄るな!一体何の能力でそんな姿で俺を騙そうってんだ!」
上条は近寄らせまいと距離をとる。
「ダミー系の能力なんて持ってないわよ、私。
信じるのは難しいかもしれないけど~現実を受け止めるのも大切よん」
信じるのは難しいかもしれないけど~現実を受け止めるのも大切よん」
少女が近寄ってくる。
「受け止めてたまるか!つか、御坂とそっくりなのが逆におかしいんだよ!
あいつが俺のことを好きになる訳がねぇし!
何より、妹達≪シスターズ≫とかいるしな!」
あいつが俺のことを好きになる訳がねぇし!
何より、妹達≪シスターズ≫とかいるしな!」
距離をとりながら鈍感さを爆発させる上条。
美琴の恋心を知っている人間からすればぶん殴られそうだが
そっくり少女(上条はイメチェンを画策した妹達の一人と判断)とさらに距離をとる。
美琴の恋心を知っている人間からすればぶん殴られそうだが
そっくり少女(上条はイメチェンを画策した妹達の一人と判断)とさらに距離をとる。
「妹達って何?」
しかし、とても演技とは思えない表情で返されてしまった。
「え?知らない?嘘?」
「だから妹達って何?お父さん」
なんだか、本当に知らない様だった。
というよりも、妹達であればもう少し感情表現が小さいだろうし
ダミー系の能力であれば上条の右手に宿る能力『幻想殺し』≪イマジンブレイカー≫を
警戒して近寄ろうとはしないはずだ。
というよりも、妹達であればもう少し感情表現が小さいだろうし
ダミー系の能力であれば上条の右手に宿る能力『幻想殺し』≪イマジンブレイカー≫を
警戒して近寄ろうとはしないはずだ。
「まさか、本当に俺の・・・・・・?」
それだけで信じるのは危険だ、と上条の脳が警告する。
だが、一方で出所の分からない暖かさにも包まれていた。
それは記憶を失った当時、自分の両親と再開を果たした時の感覚に似ていた。
そして、少女には上条が時々美琴といるときに感じる心地よさがあった。
だが、一方で出所の分からない暖かさにも包まれていた。
それは記憶を失った当時、自分の両親と再開を果たした時の感覚に似ていた。
そして、少女には上条が時々美琴といるときに感じる心地よさがあった。
「信じた?」
極めつけは、少女の嬉しそうな笑顔。
(ぐ・・・・・・!御坂に似ているせいで、あいつが笑っているように見える!
・・・・・・あいつも笑ったらこんな顔に何のか?だとしたら可愛・・・・・・
いやいや!まてまて!あのビリビリだ!こんな顔俺にしてくれるわけが・・・・・・
ん?俺がアイツをスルーしたりしなきゃもしかして?だあああ!何考えてるんだ!俺は!
理性をしっかり持てええええええええ!)
・・・・・・あいつも笑ったらこんな顔に何のか?だとしたら可愛・・・・・・
いやいや!まてまて!あのビリビリだ!こんな顔俺にしてくれるわけが・・・・・・
ん?俺がアイツをスルーしたりしなきゃもしかして?だあああ!何考えてるんだ!俺は!
理性をしっかり持てええええええええ!)
純情少年上条当麻は理性との戦いを本人がいないのに勝手に始めてしまった。
下手をしたら自分の娘を名乗るこの少女が犠牲になりかねないのだが
上条の脳内戦争では理性防衛軍が煩悩侵略軍を僅差で勝利したので、ぎりぎりセーフとなった。
下手をしたら自分の娘を名乗るこの少女が犠牲になりかねないのだが
上条の脳内戦争では理性防衛軍が煩悩侵略軍を僅差で勝利したので、ぎりぎりセーフとなった。
「ねぇねぇ、妹達とかも気になるけどさ、私会いたい人がいるんだけど」
「へ?」
脳内戦争に勝利した上条は間抜けな声を出してしまった
しかし、少女が言った言葉を反芻すると、さっ、と顔色が青ざめていく。
しかし、少女が言った言葉を反芻すると、さっ、と顔色が青ざめていく。
会いたい人、彼女は父親を探していた・・・・・・その目標は上条を見つけ達成された
ならば、次に会いたい人というのは、決まっているだろう。
親の片割れとなれば・・・・・・後は
ならば、次に会いたい人というのは、決まっているだろう。
親の片割れとなれば・・・・・・後は
「い、一応聞きますけど誰に会いたいんでせう?」
「ん?そんなの決まってるじゃない」
ふふん、と自慢するように胸を張ると(ちなみにまだまだその辺は成長過程の様だ)
「お母さんに会いたいなぁ」
予想通りの言葉で返された。