小ネタ 御坂美琴の好感度を上げてみた? 2
「御坂さんですよ」
学校からの帰宅途中、横を歩いていた初春飾利の声に釣られて、指差されたほうを見てみると、公園の自販機に体を寄りかからせて御坂美琴が立っていた。
「あ、ホントだ。御坂さぁ~…ん?」
声をかけようとした佐天だったが、不意に疑問を覚えて、尻すぼみになった。
振り上げた手を下ろし、隣に立つ初春に顔を向ける。
「どうしたんだろ、御坂さん?」
「…さあ?」
同じく、疑問を抱いたのであろう初春も、小首をかしげた。
なんというか、美琴の様子が変なのだ。いそいそと携帯電話を取り出すとパカパカと蓋を開け閉めし、じっと画面を見つめたと思えば、いきなり自販機の陰から顔を出して、通りを様子を窺っている。
「…何してるんでしょうね? 御坂さん」
「う~ん。匂う、匂うよ。何だか面白そうな匂いが」
「え、どういう事ですか佐天さん」
そこで佐天はニヤリと笑って、いそいそと茂みの影に隠れた。初春も慌ててそれに続く。
「このあたしの直感が告げている。ズバリ、御坂さんは待ち合わせをしている。それも男の人と!」
「え、ええぇ~! 本当ですか?」
「ここはなんとしても、お相手の顔を拝まなければ」
「だ、だめですよ。そんなことしちゃ!」
口ではそう諌めつつ、当の初春自身しっかりと佐天がいる茂みの影に身を潜めた。
ガサガサと茂みが不自然に音を立てているのだが、当の美琴自身はそれに気付いた様子がない。
そんな事に気を回せる程の様子がないのではないかとは佐天の見立てだ。
ソワソワと落ち着かな気に時間を確認し、時折胸に手を当てて深呼吸をしている。
どこをどう見ても恋する乙女。常盤台のエースにここまでさせるなんて一体どんな人なのか。
興味津津で見守る二人。最早出歯亀以外の何者でもない。
と、
「ぁぁぁ――――」
そこで、遠くから声が聞こえてきた。
ビシリと美琴が体を硬直させる。
「来たみたいだよ。初春」
「そうみたいですね。佐天さん」
二人の興奮も最高潮に達する。茂みから飛び出さんばかりに身を乗り出した。
同時に、気合を入れ直した美琴が自販機の陰から躍り出る。そして、
「不幸だぁぁぁぁぁぁ―――――――――っっ!!!」
そんな台詞を叫びながら、スプリンターもかくやという速度で駆け抜けていく一人の男。
声をかけようとしていた美琴の存在など、ぶっちぎりに無視して、ツンツン頭の少年はあっという間に視界から消えていく。
続けてその少年を追うようにして現れる、人、人、人。
みな一様に目を血走らせ、口からは怪気炎を吐かんばかり、足音に混じって聞こえる振動音はよもや能力の共振か。
不倶戴天の敵でも討とうと言うのか、身にまとう気迫が尋常ではない。
「上条ハーレムは断固阻止するんや! 野郎、立てたフラグを片っ端から回収するつもりやで!」
「許すまじ、上条ぉぉぉ!」
「上条当麻に災いあれ!」
「マルクス主義は死んだ!何故富の格差がここまで拡大したんだ!」
先頭をひた走る青髪の少年以下、全員がこの有様だ。
もはや形容する言葉が見つからない異様(カオス)な集団も、やがて公園を通り抜け、消えていった。
後に残されたのは、声を掛けようとして手を伸ばした体勢のまま固まっている美琴と、同じく事態についていけない佐天と初春だけ。
水を打ったように静まり返った公園を、ヒュウと一陣の風が通り抜ける。
ガチャリと音がした。
それは、茂みに隠れる時に立てかけた佐天の鞄が倒れこんだもの。
我に返った初春が慌てて回収しようしたが、もう遅い。
その音を合図にしたように、ギギギッと効果音が付きそうな動きで、口元を引きつらせた御坂美琴が振り返る。
そして、佐天と目が合った。
なんかもうどうしようもない空気が漂い始める。
…どうしよう。こんな時、どんな顔すればいいのかわからない…