とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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上条兄妹シリーズ 3 とある魔術の上条兄妹 中編



「は~い、おーけーですかみなさん?それじゃあ先生プリント作ってきたのでまずは配るです~。今日はそれを使って補習の授業を進めますよー」

とある高校の1年7組の担任である月詠小萌先生は一学期が終わって夏休みに入ったとしても未だにありえねえと思う。身長は135㎝で、
安全面の理由からジェットコースターの利用を断られたという伝説を持つ、学園都市七不思議に指定されるほどの幼女先生なのだ。
「お喋りは止めませんが先生の話を聞いてくれないと困るですー。先生、気合いを入れて小テスト作ってきましたので点の悪い人はすけすけ見る見るですー」
「はあー、また目隠しでポーカーやって10回連続で勝たないと帰れませんとかいうものでしょう。んなもんやってると朝まで帰れなくなると思うのですが」
「はいー。けれど上条ちゃんは記録術の単位が足りないのでどの道すけすけ見る見るですー」
幼女スマイルで残酷なことをさらりと告げる先生に当麻は絶句してしまった。
「はあ、小萌先生はカミやんのことが可愛くてしょうがないんやね。カミやんもあんな可愛い先生にテストの赤点なじられて、あんなお子様に言葉で責められるなんて経験値高いで~」
隣の席の青髪ピアスはまた訳の分からんオタク用語を言ってくる。
「ロリコンな上にMかてめぇは!全く救いようがねえな」
「あっはーッ!ロリが好きとちゃうでー、ロリもなんやでー!!それにカミやん、あんな可愛い妹を所持してるシスコンさんなんかに絶望されたくないでー」
「!!な、何でお前が知っている!?おい、土御門!!てめぇ口にすんなって言っただろ!?」
「カミやん、俺は別に何にも言ってないぜい。ただ俺の言えたことではないけど可愛くて純情な妹がいて手を出してないだなんてあり得ないにゃ~。
てかあの後、ホントに手を出したのか、カミや~ん?」
「!?っく、図られたか。だがな、俺はお前らのような変態とかシスコン軍曹とかとは違って―――」
「はーい、そこっ!それ以上一言でも喋りやがったらコロンブスの卵ですよー?」
コロンブスの卵とは文字通り逆さにした生卵を何の支えもなく机の上に立ててみるというものである。例によって成功しなければ朝まで居残りが決定である。
幼女先生から笑顔の警告を喰らいさすがにデルタフォースはおとなしく固まってしまった。
「おーけーですかー?」
小萌先生のにっこり笑顔はとても恐ろしかった。小萌先生は可愛いと言えば喜ぶが逆に小さいとか幼いとか呼ぶと激怒するのだ。
この辺は美琴も同じのようだが彼女の場合、ビリビリとかちびっ子とか言うと雷神の如く怒り始めるが、可愛いとか似合ってるぞとか言うと顔を真っ赤にさせてもじもじとしてしまうのだ。
その光景があまりに可愛すぎて理性が吹っ飛びかけたことがよくあるのは当麻にとって悩ましい問題の一つだ。
「なあ、カミやん?小萌先生に説教されるとハァハァせえへん?」
突然青髪ピアスがそんなことをほざいてきたので当麻はついていた頬杖がガクッと外れた。
「てめぇだけだ馬鹿!もう黙れ、ずっと黙れ馬鹿!!念動力にも目覚めてないのに卵と一緒に戯れていたら夏休みが終わっちまうわ!」
そう言って青髪ピアスを一蹴し、はあ、とため息をついて窓の外を眺めた。
先生が割と本気を出している補習ではあるが、自分にとってはあまりに無駄な時間だ。こんなことならあのインデックスとかいう少女の側にいた方がよかったかもしれない。
確かにインデックスの着ていた修道服「歩く教会」は当麻の右手に反応したけど、だからといって「魔術」そのものを信じたわけではない。
インデックスの言っていたことが仮に嘘をついていないとしても、それは実は単なる自然現象がオカルトに見えていただけかもしれない。
それでも、こんなクーラーの壊れた蒸し風呂のような教室でただひたすら授業を受けるより不思議な世界に飛び込んだ方がよかったかもしれない。
綺麗とは言い難いが可愛い少女とお知り合いになれそうだったわけだし。
そんなことを考えているとふと家に置いてきたシスターのフードを思い出した。足早に去っていった彼女だがそろそろ自分の頭が寒いと気づく頃だ。
今頃必死になって町中を探し回っているに違いない。思えば美琴が気づいたときにすぐ追いかけていれば間に合っただろう。にもかかわらずそうしようとはしなかった。なんでだろうか。
当麻は今になって気がついた。自分はあのフードを返せなかったのではない。
返さなかったのだ。そう、今になって思えば自分はあの少女との繋がりがなんだかんだ言ってほしかったのだ。
いつか忘れ物を取りに彼女が戻ってくるかもしれないと。
あの白い少女が美琴と同じくらいの完璧な笑顔を見せるから、何らかの繋がりがないとそれが幻となって消えてしまいそうで、恐かったんだと思う。
…なんだ、結局俺はあの少女が嫌いではなかったのだと当麻はわかった。
もう二度と関わらないと思いながらこんなにも小さな未練を残してしまった。後からこんなに気になるのなら無理にでも引き留めておけばよかった。
「…あー、くそ」
当麻は舌打ちをした。そして彼女の言っていたことを思い出していた。
彼女は10万3千冊の魔道書を持っていると言っていた。一体それは何だったのだろうか。それは多くの魔術師とかいう連中に狙われていると言っていた。
インデックスはそれを一冊残さずに持って逃げているらしい。大量の本が入っている倉庫の地図や鍵を持っているとかそういう例えではなく。
だがインデックスを見る限りではそんな大量の本を担いでるような感じではなかった。第一、自分の部屋にそんなものを入れるスペースなどない。
「……何だったろうな?」
上条当麻は思わず首をかしげた。
インデックスの修道服が幻想殺しに反応する本物だった以上、彼女の言っていることは100%妄想ということではないと思うがオカルトはなかなか信じられない。
やっぱり魔術なんかではないのでは……

「センセー、上条クンが窓の外の女子テニス部のひらひらに夢中になってまーす」
と青髪ピアスが突然叫びだしたので意識を教室に戻してみると、
「…うぅ……ぐすっ……」
小萌先生が涙ぐみながら沈黙していた。授業に集中してくれない上条当麻君にものすごいショックを受けているらしい。
子供の人権を守るべくクラス中の野郎どもは敵意ある視線を当麻に突き刺してきた。完全下校時刻まで居残り確定が決まった瞬間であった。

美琴は病院の玄関でルームメイトでありレベル4の白井黒子と会った。なぜか不機嫌そうな表情だった。
「黒子!あの爆弾魔が意識不明って!?」
「お姉さま、こちらに来ていただきありがとうございますの。しかしお姉さま、そろそろブラコンから脱却していただきませんと――」
「う、うるさいわよ黒子!そんなことより爆弾魔は?」
「はい、こちらでございますの」
美琴は黒子の先導に従い病院に入っていくと救命救急の一角が慌ただしかった。黒子は風紀委員の腕章を取り出し袖に取り付けると担当医と思われる男性に話しかけた。
「風紀委員の白井です。患者の様態は?」
「ジャッジメントですか、ご苦労様です。様態についてですが…最善を尽くしていますが依然意識を取り戻す様子は…」
医者は困惑気味に答えた。意識が戻らない言うとやはり頭にダメージがあるのだろうか。
「あのー、私この前あの人の頭をおもいっきりぶん殴っちゃったんですけど?」
「いえ、頭部に損傷は見受けられません。そもそも身体にはどこにも異常がないのです。ただ意識を失っているだけなので、原因がわからず手の打ちようがありません」
「このようなケースは希なのでしょうか?」
「…稀少だったと申し上げるべきだったのでしょうか。つい先日までは私もこのような症例など診たこともありませんでした。
しかし、今週に入って次々と同じような症状の患者が次々と運ばれるようになりました。他の学区の病院でも事態は同様です。
この症状の患者が回復したという事例は今のところありません」
医者はまるで得体の知れない病魔に対してどうしようもないと言いたげだった。
「伝染病みたいなものですか?」
「いえ、ウィルスなどは検出されておらず患者の関係者への二次感染も確認されていませんので、その可能性は低いと思います。ただ、必ず共通の要因があるはずです」
美琴と黒子は先日佐天から聞いたレベルアッパーという都市伝説を思い出した。
「(ねえ黒子、やっぱりレベルアッパーかしら?)」
「(断定はできませんが、そういう患者は全員身体検査の時のレベルより格段に上がっていますの。しかし今の段階では情報があまりに不足していてなんとも…
ですが仮にそうだとすると、事態は深刻ですわね)」
黒子は険しい顔つきで話した。
美琴はそれについて考えてみた。
どんな能力であってもその効力を高め、身体検査におけるレベル判定の値を格段に上げる道具、レベルアッパー。
使用者は主にレベル0~3くらいまでの低位能力者達、特に使用者達はレベルが低いことにコンプレックスを抱いていた。
もしかするとそういった心の隙をついて使用に至らしめたのかもしれない。
では、実際レベルアッパーとは何なのか。学園都市には学生向けにレベルを上げるための矯正器具や補助食品を開発し販売もしている。
だが、その一種であれば意識を失った人たちの回復手段はすぐに分かるはずだ。分からないものとするのなら、それは臨床実験が十分にされていないものか、
学園都市の外で出来上がった全く別物の…。
ふと、美琴は朝ベランダに引っかかっていた白い少女のことを思いだした。彼女は外から来た人間であり、外では魔術という人の持たざる異能の力がありそれが当然だと言っていた。
それを100%鵜呑みにするつもりではないが、こうも訳の分からない事件が発生したのが魔術の仕業ではないのかと本気で考えてしまった。
(でもインデックスは魔術に詳しそうだったけど超能力は全然知らなかったようだし、関係ないか)
美琴はそう結論づけ、頭から魔術の文字を消し去った。
「情けない話なのですが当院の施設とスタッフでは手に余る事案ですので、外部から大脳生理学の専門チームを招きました。まもなく到着の予定です」
医師は美琴達にそう言って患者の元へ向かった。
しばらくして、玄関の方から白衣を纏う研究者の一団が現れた。その代表と思われる目に隈を付けた女性が白井に話しかけてきた。
「水穂機構病院院長から招聘を受けた木山春生というのだが、意識不明の患者というのは?」
「はい、こちらの病室ですの。中に招聘をかけた医者がおります」
「ありがとう、ジャッジメントの…」
「白井です。よろしければ後で診断した結果を教えていただけないでしょうか?」
「ああ、ジャッジメントの捜査に全面的に協力するよ。患者全員診る必要があるから2、3時間待っていてくれ」
そういって研究者達は病室へ入っていった。

三時間後
とあるファミレスに美琴と黒子、それと木山教授がいた。既にお昼の時間となっているが比較的空いているところまで行き、ドリンクとコーヒーを注文して席に着いた。
「改めて自己紹介しよう。私は木山春生。大学で大脳生理学を研究している。
専攻はAIM拡散力場―能力者が無自覚に周囲に放出している力のことだが…常盤台の生徒さんにはいらぬ説明だな」
「常盤台中学の風紀委員一七七支部の白井黒子です」
「同じ中学の寮のルームメイトの上条美琴です」
「ほお、カミジョウ…君が上条美琴か」
「?知ってるんですか?」
「常盤台のレベル5超電磁砲上条美琴は有名人だからね。学園都市で知らない人はいないんじゃないか?」
やはり7人しかいないレベル5は必然的に注目の的になるだろう。特に美琴は元はただのレベル1だったのだが、努力を積み重ね学園都市第三位にまで上り詰めた実力者だ。
各学校のお手本として紹介されるなどその名を知らぬ人などいる訳がなかった。
それぞれの自己紹介を終え、本題に入り始めた。
木山は意識不明となった患者一人一人を診て回り脳波などのデータを集めた。それらのデータは同行した助手達に先に持ち帰らせまとめさせたそうだが、
木山自身はそれらのデータだけ見ても原因が究明できるかどうか不明だと言った。
黒子は最近勃発している事件と都市伝説であるレベルアッパーの存在を木山に伝えた。
今回の意識不明患者とレベルアッパーに何らかの関係があった場合、学生に注意を呼びかけ所有者を保護すること、
レベルアッパーを発見した際には木山教授にも調査の協力をしてもらうことを話した。木山教授も概ね承諾してくれた。
それどころか木山教授はレベルアッパーに興味を示し、分かったことがあればすぐに知らせてくれと頼んできた。黒子と木山は連絡先を教えあい登録した。

「ところで上条君、君はお兄さんでもいるのかな?」
突然、木山教授は美琴にこんな質問を投げかけてきた。
「へっ!?い、いきなりなんですか!?」
「いや、以前車をどこの駐車場に置いたか分からなくなってしまってね、困り果てているところを『上条』と名乗る男性に助けてもらったんだよ。
 彼はスーパーの特売とやらに向かっていたそうだが車が見つかるまで半日付き合ってくれて、碌なお礼もできなかったのだが感謝しているのだよ」
「はあ……たぶん兄ですね…」
そんなことをするのはあのバカ兄しかありえない。あのバカ、一体どこまでフラグを立てれば気が済むのかしら。
美琴がそんな風に考えていると自然とアイスティーを持っていた手がプルプルと震え始めた。
顔には出ていないが美琴から出る殺気を感じた黒子は別の話題はないかと慌ててキョロキョロと店内を見渡した。
すると同僚の初春とその友達の佐天が来店したところだったのですぐに呼び寄せた。
「白井さん、上条さんこんにちは!えっと、こちらの方は?」
「紹介しますわ。こちらは大脳生理学の木山教授ですの。今回の一連の意識不明患者と噂のレベルアッパーの関連性を調査してくれる方ですの」
「へー、脳科学の先生ですか。てっきり白井さんの脳に異常が発見されたのかと思いました」
「…後でお仕置きですわよ、初春」
「冗談ですよ!それより何で今回のこととレベルアッパーが関係しているんですか?」
「急激にレベルが上がる副作用として意識喪失という症状が出る可能性がありますの。だからレベルアッパーの所有者を全員保護しておく必要がありますの。
 それにレベルが上がったことによって学生が犯罪に走ったと思われる事件が数件確認されておりますので」
「ふーん、って佐天さん?どうしたんですか?」
「!!え、えーと、なんでもないよ別に!」
佐天は急にあわてて何かを隠した。
だがそのとき思わず佐天の手が木山のアイスコーヒーに当たってしまった。中のコーヒーがこぼれ、木山のストッキングを濡らしてしまった。
「あ、すいません木山先生!!」
「気にしなくて良い。濡れてしまったのはストッキングだけだから、脱いでしまえば…」
木山はおもむろに立ち上がるとその場でスカートを脱ぎ、ストッキングを脱ぎ始めた。まるでストリップダンサー(美琴は見たことがないが)のようだ。
「木山先生!?いきなり人前で服を脱ぎ出すのはお止めくださいませ!!殿方の目があるでしょうが!!」
「いや、私は気にしていないし、第一起伏に乏しい私の体を見て劣情を催す男性がいるかどうか…」
「度を超えた露出は風紀委員が許しません!!それに趣味嗜好は人それぞれですし、歪んだ情欲を持つ同姓だっておりますのよ!」
「女の人が公共の場でパンツが見えるようなことしちゃダメです!!」
木山の反論に黒子と佐天が必死に説得したが美琴と初春はお前等が言うなとばかりに冷たい視線を送っていた。

午後4時30分
美琴達はファミレスを出て木山と別れた。佐天は初春に見せたいものがあると言っておきながら、いきなりまた今度と言ってすぐに別れてしまった。
黒子と初春はそのまま調査のため風紀委員の支部に戻ることにした。美琴もそれについて行こうとしたが、突然美琴のレーダーが兄を感知したのでそちらを追いかけに離れた。
少し走って駅前まで行くとそこに学生鞄を提げた当麻がのんきに歩いていた。
「いたいた、おにーちゃーーん!!」
美琴はミルキーな妹ボイスで兄に呼びかけてみると、当麻はビクッと震え美琴の所まで急いで戻ってきた。
「美琴…あのな人前でお兄ちゃんって呼ぶなって言ってんだろ…この前なんか青ピに聞かれちまってぶん殴られたんだからさ」
「だってお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだし別に良いじゃない。それとも彼女っぽく当麻とでも呼ぶ?」
「お前な…それこそクラスの奴らから袋叩きだ。あいつ等に巻き込まれちゃ……」
とそこで当麻は喋るのをやめた。何か考え事をしてるようだった。
「…厄介事で思い出したんだが、あのシスターさん家に戻ってくるかな?」
「えっと、確かインデックスさんだったっけ?あのフードを取りに来るってこと?」
「ああ、彼女の言ってたことが本当ならあのフードも修道服と同じくらい大切なものだろ?俺も悪い事したな。
 すぐ追いかければ渡すことも出来たのに」
「…お兄ちゃん、まさかフード置き忘れたのってわざとだったの?」
「うーん、わざとと言えばそうかもしれないよなー。何かの縁で出会った――っておい美琴何でバチバチいわせてるんだ!?俺なんか悪い事したか!!」
「十分悪いわよバカ兄!!また変な厄介事に巻き込まれるといけないからあのシスターだってとっとと去っていったのに、また取りに来るじゃない!
 そのとき彼女を追ってきた奴まで一緒だったらどうすんのよ!!」
怒りを込めた美琴の踏みつけは高電圧とともに地面に放たれた。強力な電気ショックは当麻だけでなく周囲の人の携帯電話や警備ロボを故障させた。
信号も全ての色を失なってしまったので美琴の怒りは相当なものだった。
「少しは自重なさい。バカ兄がやってるのは所詮――!??」
当麻はいきなり美琴の口を右手で塞いだので美琴はドキッとした。
「(バカ野郎!!今のお前の電撃のせいで人様のケータイが全部お釈迦だろうが!1台1台賠償だ慰謝料だとか受けられると思うか!!)」
「(むがー!ふぐぐぐ、むがむが!!)」
美琴はなんか反論したいそうだが当麻が必死に抑えたので声にならなかった。
だが、後ろでいきなり警報音が鳴り響いたので思わずその手を放してしまった。
『メッセージ、メッセージ、電波法ニ抵触スル攻撃性電磁波ヲ感知、システムノ異常ヲ確認、サイバーテロニ備エテ――』
一台120万円する警備ロボが自動で危険を感知したので防衛行動を始める。それは電撃を放った張本人への攻撃。
学園都市の警備ロボは他のよりずっと優秀であるため、警備員が来る前に取り押さえているだろう。
そうなる前に当麻は美琴の腕を掴み、
「三十六計逃げるにしかず!!!」
と言って現場から一目散に離れていった。いきなりすぎて美琴はびっくりしたが、当麻に握られていると何故かとても幸せな気分になっていた。

とある空き地に上条兄妹はいた。二人とも全速力で逃げて来たので、息を切らせてしゃがみ込んでいた。
「ぜぇぜぇ、あぁ、あの警備ロボ…1台120万円……母さん、出来損ないの兄貴ですみませんでした…」
「はあはあ、そんなに落ち込まないでよ。あの警備ロボ、私の電撃喰らっても動けるくらいタフだから大丈夫だって。そんなことより…」
美琴はすうと息を整えると、当麻の顔を真顔で睨みつけた。
「もう、あのシスターさんがフード取りに来ても、それ以上関わらないでよね!!
 ただでさえ心配かけさせてんのにこれ以上変なのと関わったらホントに怪我どころじゃ済まなくなるわよ!!」
「でも美琴…あの子はどうみても助けが必要だっただろ。それでもあんな強がりみせて去っていったのに、これじゃあなんだか――」
「それこそ私たちに危険が及ぶかもしれないから、あの子から関わりを断ち切ったんじゃない!だからもう私を心配させるのはやめて!!
 昨日の夜に約束したじゃない!私の笑顔を見るために帰って来るって!お兄ちゃんがこれ以上怪我でもしたら私…もう笑えないじゃない……」
「美琴……」
美琴は本気で当麻の心配をしていた。だからその目から大粒の涙がこぼれ落ちているのを見て、当麻は何も言い返せなくなった。
当麻はポケットからしわしわのハンカチを取り出すと美琴の涙を拭き取った。そして美琴にハンカチを手渡すとそのまま抱き寄せてきた。
「ごめんな美琴。いつもお前が心配してくれるから俺もあまり無茶なことはしないって心がけているんだけど、後悔だけ残してその人を見殺しにするようなことは出来ないんだ。
 お前にも分かるだろ?」
美琴は顔を当麻の胸に当てながら頷く。美琴も助けると決めたことで後悔を残したくない。最後はみんなが笑えるようにと行動している。
兄妹故の性なのであろう、この自己犠牲の精神は共通して二人に宿っている。だからいくら心配だからと言って当麻の行動を邪魔することは美琴には出来ないのだ。
「さて、そろそろ学生は家に帰んなきゃいけないし、お前のとこ門限厳しいんだろ?まっすぐ帰ってゆっくり休め。俺の方は大丈夫だから」
「うん…分かった。何かに巻き込まれたらすぐに連絡よこしてね」
「ああ、そうするよ。じゃあな、美琴」
「うん、おやすみ…」
当麻は美琴に背を向けると真っ直ぐと寮の方へ帰っていった。美琴は当麻の背中が見えなくなるまでずっと佇んでいた。

このとき、美琴は胸騒ぎがしたのを感じた。この後、何か大変なことに巻き込まれていくような、そんな嫌な予感を感じた。

当麻は冷蔵庫の中身について考えていた。
昨日美琴と一緒にスーパーに行って買い足したはずだったのだが、突然現れた暴食シスターのおかげで残り少ないはずだ。あの小さな体のどこに食料を蓄えられるのか。
あるいはベランダに引っかかるまで飲まず食わずで逃げ回ってたのか。どちらにしろ明日の朝食の分を考えて夕食を少なくするしかない。
あのシスターはまた来ていいからなと言ってもお腹が空いたら来ると言っただけであった。
そんな理由だけで家の食料を奪われるわけにはいかない。フードを返すときについでに忠告しておくか。
当麻はのんびりとそんなことを考えながら、当麻の男子寮に着いた。人の気配はない。みんな夏休み初日といって遊び呆けているのだろう。
典型的なワンルームマンションのボロッちいエレベーターに乗って7階まで上がっていった。
エレベーターを出て通路を歩いていく。すると当麻の部屋の前で3台の清掃ロボが小刻みに動いているのを見つけた。
驚異的な洗浄力を持つ清掃ロボが一カ所に3台も集まっているということは、もしや誰かが人の家の前で盛大に吐捨物をまき散らしたのではないだろうか。
嫌な予感がしたので急いでその中心点に向かったら、

そこに白い修道服を着たインデックスが倒れていた。それも真っ赤な血溜まりの中にうつ伏せになって。

当麻は思わずぎょっとした。物理的な攻撃を一切受けないという修道服は背中を横一線に切られていて本来の役割を果たしていなかった。
そして真っ白な修道服は切り口を中心にまるでケチャップを付けたかのように赤く染まっていた。
清掃ロボはその血を吸い上げようとするハイエナのようにたかっていた。
当麻はその光景にピントが合っていなかったのだがようやく我に返ると清掃ロボを必死にどかした。
「やめろ!この、どけって!!くそ、いったい誰がこんな事を!?」
当麻は思わず叫んでいると、その独り言に対する答えがすぐに返ってきた。予想はしていたが信じたくなかったその答えが。

「うん?僕達『魔術師』だけど?」



美琴は常盤台の女子寮に戻った。結局嫌な予感はしたものの、門限のことを考えると兄の後を追うということは出来なかった。
しかも許可があったとはいえ、外泊をしてきた美琴は寮監から目を付けられているに違いないと思い、立場的にも帰らずにはいられなかった。
しかし、帰り道を歩いている途中も兄の事が気がかりだった。あのインデックスとかいう少女が一転して助けを求めるようになったら美琴はどうなるのか。
後先のことを考えずただ突っ走っていくような兄である。
面倒見もあるし、あの子も小動物のようなオーラを出してた気がしたし、もし解決するまであのシスターと同居なんてことになったら……
美琴はネガティブな考えに突入していったが、寮に着き身だしなみを整え直すと、どっと疲れが押し寄せベッドに倒れ込んでしまった。
ふかふかのベッドに体を預けていると、だんだんと気持ちよくなってきて、すぅっと意識を手放してしまった。

         ◇

コンコン
『しつれいしまーす』
『どうぞあいてますよ』
ガラガラガラ
『おー、みことか。よくきたね』
『おにいちゃん、その…おなか、もうだいじょうぶなの?』
『ああ!まだほうたいがとれないけどな、じぶんでふくきれて、病院の中あるいてジュースをかいにいけるぞ』
『ホント!?じゃあやっとここからでられるのね!』
『ああ、あのカエルのおいしゃさんはあといっしゅーかんでうちにかえれるよっていってた』
『よかった!じゃあおいわいになにかしなきゃね!』
『そんなにきにすんなよ。けっきょく、ほうちょうでさされてからずっとがくえんとしにいるわけだし。小学校だってもうはじまっているし』
『ふーん、いそがしいんだ。じゃあこんどわたしががくえんとしをあんないしてあげる!
 こうえんいったり、ちかがいいったり、あとときわだいのあるところにもつれてってあげる!!』
『ははは、みことはホントにやさしいんだな。
 でものうりょくかいはつってやつがあって、それでまたすぐに病院にいかなきゃならないからそれもむずかしいな…』
『…じゃあわたしは何ならできるの?おにいちゃん、こっちきてからわらってないよ。わたしはおにいちゃんがよろこぶようなことがしたいの…』
『……みこと、おまえがここにきてくれておれはじゅーぶんうれしいぞ。そうだ!みことはがくえんとしにきて1年間なにができるようになったかおしえてほしいな』
『え!で、でもわたし、まだれべる1だしみせられるようなことできないよ…』
『なにいってんだよ。むかしはベッドの中でいつもビリビリみせてくれたろ。ここにきてどのくらいできるようになったかみせてみろよ』
『…うん、でもまだちょっとしかできないからね。それでもいいの?』
『ああ。いますこししかできなくてもだいじょーぶだ。おまえのがんばりはおれが1ばんよくしっているから』
『うん!じゃあとっておきのことやってみせるから、おにいちゃんのケータイかして?わたしがじゅーでんしてみるから―――』

         ◇

「……あれ…?…今のは、夢?」

午後6時
美琴は常盤台の女子寮のベッドの上で目を覚ました。そのままバタンと倒れるように寝てしまったので制服姿のままだった。
夏至の日は一ヶ月前に過ぎていったのだが、まだこの時間でも外は明るかった。しかし同僚の黒子はまだ風紀委員の仕事から帰ってきてなさそうだった。
夕飯にもまだ早い時間だったのでやることがなく暇を持て余していた。
普通の学生なら大量に出ている夏休みの宿題に手をつけ始めているかもしれないが、常盤台にはそのようなものはなく生徒自身の判断で自習することとなっている。
「あーあ、こんなに暇ならお兄ちゃんの宿題でも持ってきて遊びたかったなー」
美琴は度々当麻の宿題に手を付けて解いているのだがあまりに簡単なので全ての教科を見るのに1時間もかからなかった。
そのあまりに屈辱的な光景を隣で涙を流しながら当麻は見ているしかなかった。
自習しようにもするほど苦手な科目がないため机に向かう必要がなかった美琴は体を伸ばしながら先ほどの夢を思い出していた。
(あのベッドはいつもの病院の所だったなあ。なぜかいつも同じ病室だったんだよなあ。それにしてもお腹に包帯巻いてたってことは……)
美琴は幼い頃の辛い時期を思い出した。
(私がまだ幼稚園でお兄ちゃんが小学校に上がった頃だ。小学校に上がる前、お兄ちゃんを中心に不幸なことが毎日続いたのよ。
 ギャグとは思えなくなるほど。お兄ちゃんの幼稚園の友達もそのことが怖くなってだんだん離れていったのよね。
 しかもその親たちが根も葉もない噂として週刊誌やテレビにまで広げて騒いでたんだ。おかげで世間から不吉な子とか言われて差別されたのよ。
 子供だけじゃなく大人達まで毛嫌うようになって、毎日泣いて帰ってきたんだよなー)
当麻は確かに運が悪い。だがそれは何か確証があった訳ではない。
しかしそのことをテレビ局のオカルト番組は自称霊能力者やインチキ占い師によって当麻を疫病神などと呼ばせ恐怖のイメージを植え付けた。
だから当麻は理不尽に拒絶されることにいつも泣いていた。
だが美琴はそんな当麻をいつも慰めていた。部屋の片隅で泣く兄を抱きしめて励ました。
おかげで当麻は世間からの冷たい目線を耐え抜くことができた。不幸なんかに負けないと自信もついてきた。

しかし、美琴がいち早く能力の適正が認められ、幼稚園に上がると同時に学園都市に送られてしまった。当麻は何の適正も認められなかったので一緒に行くことはなかった。
一人残された当麻は心の支えをなくし辛い日々が続いた。罵倒され傷つけられて、美琴への電話の中でいつも泣いていた。
そして二月が終わった頃に事件は起こった。
当麻とは何の関わりのない男が突然家に押し掛け、当麻の腹を包丁で刺したのである。男は多額の借金を抱えていたのだが、何故か疫病神がいるせいだと言って刺したのだ。
そのとき美琴は学園都市の救急車とともに駆けつけたのだが、一緒についてきたカエル顔の医者が学園都市の病院を薦めると同時にそのまま学園都市に預けることを推してきたのだ。
両親は悩んだが今の周りの状況が酷すぎるため、そして既に美琴が滞在しているためそのまま承諾することにしたのだ。
(学園都市の医療のおかげで一命は取り留めたものの、それからしばらくは病院のベッドで塞ぎ込んでいてすごく悲しかったな。
 自分は周りに不幸しか振り撒けられないから死んじゃえばいいやとか、今でも忘れられない言葉だわ)
美琴はそのときの当麻の絶望に満ちた顔を覚えていた。だからあんな顔は二度と見たくないと決めた美琴は能力開発だけに力を注いだ。
レベルが上がれば当麻はすごく喜んでくれた。携帯電話の充電だけでなく様々なことを覚えて当麻に披露すると、まるで自分のことのように喜び美琴を褒めた。
そしてレベルが上がれば兄の不幸を消し飛ばせるに違いないと思った美琴は、努力し続けてついにレベル5にまで上り詰めた。
(けど、あの兄の不幸体質は今でも手に負えないなー。今日だって自称魔術師がベランダに降ってきて――)
美琴がそんな風に考えていると突然携帯電話が鳴りだした。
美琴は発信者の名前を確認すると「当麻」と書いてあった。何事だろうと思い、通話ボタンを押した。
「もしもし?どうしたの?」
『美琴!無事か?今どこにいる?』
「?私は寮にいてさっきまで寝てたけど……どうしたの?息上がってるようだけど?」
『さっきインデックスが言ってた追っ手に襲われた。何とか追っ払うことができたけど、インデックスが重傷なんだ』
「え!!ってか何でインデックスと一緒なのよ!?まさか探しに出かけたとか言うんじゃないでしょうね?」
『違うんだ!!インデックスが俺の部屋に来てフードを持って行こうとしたんだ。でも魔術師にそこを狙われて危うく殺されかけたんだ。
 今小萌先生の所にいて治療してもらってるんだけど…』
「ちょっと待ってよ!魔術師って何よ?殺されかけたって?それに何で小萌先生!?」
『そんなに質問ばっかすんなよ。俺だって混乱しているんだから。まず、確かに魔術師はいた。それも炎を使ってくる奴だ。幻想殺しが効いてなければ消し炭になってたと思う。
 それにインデックスは背中から切られて倒れてたんだ。あいつは学園都市に不法で侵入してきたと思うから、病院には運べなかったんだ。
 でもインデックスは能力者でも魔術師でもない一般人なら魔術で傷を癒せるって言うから小萌先生の所に行ったんだ。』
「じゃあ、お兄ちゃんは今インデックスと一緒に小萌先生の所にいるのね?今からそっちに行くから待ってて」
美琴はそういうと出かける支度を始めた。だが当麻は少し間をおいて話し始めた。
『…いや、美琴は寮にいてくれ。また追っ手が来るかもしれないし』
「ちょっと!!私はレベル5なのよ!拒否する理由なんてないじゃない!」
『あいつらはいつもの能力者とは訳が違う!どんな奴らかわからないし、お前に何かあったら俺が困るんだ。
 だから美琴、俺のことは気にすんな。お前は普段通り過ごしていればいいから』
「でももしお兄ちゃんに何かあったら…私……」
先ほどの夢のことを考えると心配して思わず涙が出てきた。しかし、当麻は明るい声で言った。
『心配すんな!これでもレベル5の兄貴やってんだ。ちっとは俺のことを信用しやがれ!』
「…………うん、わかった」
当麻の元気な声を聞いてそう答えるしかできなかった。事態が収まるまで小萌先生の所で寝泊まりすると言うことを美琴に伝え、当麻は電話を切った。
美琴は途絶えた携帯電話を見つめながら当麻のことを思った。
女たらしであるのでインデックスに手を出すんじゃないかとも思ったが、そんなことよりも夕方兄と別れたときの胸騒ぎを再び感じ始めたことを気にしてた。
今朝に見た夢といい先ほどの夢といい、当麻が酷い目に遭うんじゃないかと心配した。
それに自分と血の繋がりがあるはずなのに、その絆が途切れてしまいどこか知らない世界に消えてしまうのではないかと思い恐くなった。
「お兄ちゃん………」
美琴はきるぐまーのぬいぐるみを取り出しギュッと抱きしめた。そして誰にも見られないようにきるぐまーの胸の中ですすり泣いた。兄の無事を祈りながら。


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