ナイトテイル 序:しょう
霧生ヶ谷市の南西部に位置する六道区の左下にその橋はある。市内に縦横無尽に張り巡らされた水路の一つを跨ぎ、その両端にはそれぞれ三本の道が合流している。
六道の名の由来となった六本の道が交差していたと言う六道辻には程遠いが、あるいはこのように賑やかであったのだろうかと思い馳せさせる位には人の通りも賑わいもある。橋の名は、灯橋。此岸と彼岸を隔てる川と辻の両方を備えた場所である。
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欄干の上に幾つも小さな輝きがあった。小さな、蛍ほどの大きさで、瞬きもせずそこにある。霧は一段と濃く、空を覆う。月も星も白い霧に覆い隠され、淡い光だけが空から降って来ている。
時計の針は午前二時を回り、既に人通りは絶え、静けさに支配されている。例外は水路を流れる水の音だけだ。そこに鈴の音が混じる。
チリーン。チリーンと。
よく響くように、ゆっくりと優しく、導くようにはっきりと。
そして幾つもの人影が辻に集まり出す……。