■第三話「はっきりと……」
「ねぇ知ってる? この霧生ヶ谷市、怨霊がいるらしいよ」
「え?」
亜紗香がぴくりと、まるで猫が耳をそばだてる様に反応してしまった。
「怨霊」。それは大輔を黒猫へと変身させ、生きながらえさせた。怨霊なら怨霊で、その名の通り悪い事をしでかしそうなものだ。それなのに、怨霊は大輔を蘇らせた。それは一体、何の為であるのか、未だ見当もつかない。
「怨霊」。それは大輔を黒猫へと変身させ、生きながらえさせた。怨霊なら怨霊で、その名の通り悪い事をしでかしそうなものだ。それなのに、怨霊は大輔を蘇らせた。それは一体、何の為であるのか、未だ見当もつかない。
「亜紗香、なんか知ってるの?」
「え、いや。なんにも知らないよ。ってか怨霊ってほんとにいるの?」
高校での昼休み中。天気が良いからと言って、亜紗香は友達数人で屋上へ来ていた。食べ終わったらバレーボールをやろう、などと古い事を考えながら。しかし、亜紗香にははっきりさせたい事があった。怨霊は何を考えているのか……。
「いるらしいよ~。ただ、あんまり良いことはしないみたいね。誰かを呪うとか、誰かを人間以外の生き物に変身させるとか……」
そんな説明を聞きながら、亜紗香は自分の頭の整理をするべく務めた。
――えっと、怨霊は良い奴じゃなくて……呪ったり、変身させたり……
しかし亜紗香の脳内では全く答えが出ない。
「ちょっと、大丈夫? 亜紗香?」
心配そうに友達が皆こちらを向いている。
「ごめん。ちょっと考え事。気にしないで」
亜紗香の言った言葉に、「そう……」と言いながら、友達は皆亜紗香のことを心配していた。
なにかいつもと様子が違う。それだけは皆わかっている。きっと悩みがあるのだろう。しかしそれを口にするのは至極難しいのかもしれない。友達は誰も悩みの種を聞かずにいてくれていた。
しかし、亜紗香はそれにすら気付いていなかった。
そして、亜紗香ははっと気付いた。
なにかいつもと様子が違う。それだけは皆わかっている。きっと悩みがあるのだろう。しかしそれを口にするのは至極難しいのかもしれない。友達は誰も悩みの種を聞かずにいてくれていた。
しかし、亜紗香はそれにすら気付いていなかった。
そして、亜紗香ははっと気付いた。
――……大輔を猫にしてどうするの?
重症で、しかも絶対に死んでしまう事が解っていた大輔を、何故、怨霊は猫に変身できるようにし、助けたのか。
――……猫?
そこではっとした。やっと亜紗香は気付いたのだ。そう。キーワードは「猫」だ。
「ごめん!」
いきなり弁当箱を片付け始めた亜紗香に、皆びっくりしている。
「どしたの?」
「急用思い出した! 早退する!」
「はぁ!?」
「じゃ!」
そう言うと、亜紗香は猛ダッシュで屋上から降りる階段を下っていった。「午後の授業どうすんの~?」という友達の言葉も、聞こえてはいなかった。
――そうだ。「猫」だ!
「大輔!」
バーンと亜紗香の家のドアが開いたと思うと、亜紗香は必死に靴を脱いだ。キッチンやリビングを見るが、家族の姿は見えない。確か今日も、母はパート。父は残業で遅くなる。だから家のどこでも大輔とは会話できるのだ。
「大輔!」
探しても、いない。恐らく亜紗香の部屋だろう。亜紗香は必死に階段を上っていった。
「大輔っ!」
「うぉ!? なんだ?」
思ったとおり、大輔は亜紗香のベッドの上で丸まって寝ていた。いくらベッドの上に来るなと言っても聞かない大輔なのだった。当然、それを怒られると思っていたのだが……。
「解ったのよ! 怨霊が何故大輔を助けたのか!」
「何だって!?」
To be continue?