シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

妖(あやかし)と獅子たちの伝奇の世 -第2話-

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 生ぬるい秋風の吹く、夜の新宿駅。私は新幹線の中にいた。いよいよ霧生ヶ谷に誘拐されるのである。

 失礼、向かう、の間違いね。つい本音が出てしまったのはここだけの話でお願いしたい。

 「ねーちゃん、うまそうなのばっかで迷っちゃったよっ」

 ひょっこりとドアからやってきた弟の雪祥。まったく元気である。

 「あれ? ふたつ多くない?」

 「え? 明日の朝飯だけど」

 「ドライアイスないのに大丈夫なわけ」

 「平気だよ、オレもってるし」

 何でドライアイスを持ってるのよ、あんたは。違う意味で用意周到だから呆れるわね。

 ドライアイス以上の温度の視線を送る私をよそに、ユキはお弁当の紙と格闘する。圧勝すると、箸をわってにこや

かにほおばり始める。

 ユキがお弁当を食べはじめ同時に、私たちの旅も始まった。

 乗り継ぎにつぐ乗り継ぎ、さらに乗り継ぎの、合計4回だろうか。引っ越しの準備に追われた私の脳みそと体は、ほ

とんどいうことを利いてはくれないよう。

 とりあえず、何かに導かれるままに、不思議と間違えることなく、巨大な人工的な蛍光の大群がいる霧生ヶ谷の玄

関駅に着いた。名前は霧生ヶ谷中央駅。霧生ヶ谷市の中央区の真ん中にある、そのまんまの駅である。

 「ねーちゃん、大丈夫?」

 「んー、何とか」

 ミント系のお菓子を口にするものの、体内からでる疲れには勝てないみたいだ。背伸びをしてその場を乗りきろうと

すると、目の前をものすごいスピードで何かが横切っていった。

 私は腕を空に伸ばしたまま止まってしまう。

 「ユキ、今何か横切んなかった」

 「へ? しらないよぉ」

 また、横切った。音がまったくせず、私の目の高さを、しかも地面と水平に高速移動する何か。相変わらず、霧生ヶ

谷ではわけのわからないことが起こる。

 3回目が通り過ぎたとき、真正面からは、人工物の光しかなくなった。一体なんだったのだろうか。

 「ねーちゃん、こんなところにつっ立ってないで、座らない?」

 「それもそうね」

 近くにあるベンチを指差して歩いていく弟。不思議な物体が通りすぎたところをすり抜け、ベンチに腰かけた。どうや

ら、彼には何も見えていなかったらしい。

 空を見上げると、生ぬるい秋風と、東京では見られない星空が広がっている。静かな片田舎で見れるきれいな星と

は違う、何とも神秘的で、かつ、不気味に手招いているように感じた。

 「かーえーでーちゃーん!」

 のんびりした口調の誰か。独特の伸びた話しかたで、やってきた人物がすぐにわかる。

 「やっほー、カラちゃん! きちゃったよっ。あれ? その子は?」

 「いらっしゃい、雪祥君。この子は弟の加悧琳(カリン)っていうんだ。こないだ会わなかったよねー?」

 「うん。こんばんは、カリンちゃんっ」

 愛嬌のある笑顔で、かがみながら自己紹介するユキ。しかし、カリンちゃんは、兄のズボンのすそをつかみながら、

背中に隠れてしまった。数秒ぐらいすると、ゆっくりと頭を外側にだし、おっかなびっくりの両目でしっかりと初対面の

人物の顔を見る。

 まるで、恐怖を知っている赤ん坊が見つめているかのようだ。

 「ああ、ごめんね雪祥君。この子、人見知りでさー。慣れれば大丈夫だから気にしないでね~」

 ほら、あいさつしなきゃ、と促すカーラ君。カリンちゃんは、しばらくユキを見ていたが、やがてメモ帳を取りだした。

何かを書いて、ユキの前にそろそろと差しだす。

 メモには、こんばんは、なかよくしてください、と書いてあった。

 ユキは一瞬だけとまどったらしいが、すぐに笑顔になり、よろしくねっ、とカリンちゃんの頭をなでた。

 「本当は妹も来るはずだったんだけど、今日これなくなっちゃってさぁ~」

 「妹もいんの? 兄弟おおいなーっ」

 「ん~、4人兄妹だからねぇ~」

 カーラ君は、軽く笑い飛ばしながら歩きはじめた。数歩で振り返り、

 「今日は疲れたでしょ? ホテルとってあるから、案内するよ~」

 と、手を挙げながら、私たちについてくるように促した。

 朝になり、土曜日に変わった。私たちは荷物を置き、昨夜待ち合わせした場所に歩いていく。5分ほどの待ち合わ

せ場所には、実家にいたときにきたお客人のふたり。

 つまり、カヌスという名のセミロングの少年と、カーラという名のショートカットの少年である。

 「おう、昨日はよくねれたか」

 「おかげ様でぐっすり眠れたわ」

 「楓ちゃん、疲れて死にそうだったもんねぇ~」

 「短時間であれだけの荷物をつめこめば、そりゃー疲れるって」

 適当に雑談しながら歩く私たちがむかったのは、私が転校する高校と、同じくユキが転校する中学校。下見をして、

両校の中間ぐらいの住まいを探そうしているのだ。

 彼らいわく、私とユキの住まうところは、中央区だという。交通に便利なのはもちろん、買い物にも行きやすいで、

生活するにはよい条件がそろっているらしい。

 「あと水路の近くが条件だな」

 「何で?」

 「不審者の侵入が防げるぜ」

 「そりゃいいやっ」

 ちょっとユキ、なんでそーゆー反応するんだよ。

 私が疑問に思っていると、隣にいたカーラ君が頭を少し下げ、口元に手を持ってきていた。視線を感じたらしい彼は、

 「大事にされてるんだねぇ~」

 「うーん、リアクションに困るんだけど」

 「いいことじゃないのー? ここ最近、家族間のジョウっていうのが薄いみたいだしねぇ~」

 まだ笑いをこらえているカーラ君。ひとつ息をはき終えると、

 「ところでさ、雪祥君におれたちのこと話したの?」

 「いや、詳しくは」

 「それは良かった~。いずればれるだろうけど、余計なことは言わないでほしい~」

 「それはいいけど。ところで、私は何をすればいいわけ」

 「また今度話す~」

 相変わらず、カーラ君は何を考えているのか読みづらい。微笑んでいる下で何を考えているのやら。

 ホテルから歩いて、大体20分ぐらいだろうか。1軒の不動産屋にたどり着いた。彼らは、私たちがすぐに部屋を見

つけられるよう、いくつかの物件を選んでくれていたらしい。

 「一応選んどいたけどー。あとは2人の好みで決めてね~」

 「担当の人と知り合いでよ、案内もかねて1日つきそってくれるんだと」

 「マジで? うわー、助かるっ」

 「だろ? ついでに地理も覚えちまえって」

 話しながら扉を開けると、何と、私もよく知っている顔がいた。赤毛の、サービス精神旺盛の彼である。

 「やあ来たね。彼女たちが話してた人?」

 「そうそう。後はお願いね~」

 「了解、決まったら連絡するさ」

 「おう。合流できたらする」

 じゃあ、と手を振りながら店をでるふたり。残った私とユキは、さっそくカウンターに案内された。

 「いらっしゃい。急に引っ越しになったんだってね。あ、私、春夏冬 瀧(あきなし たけし)と申します」

 接客を心得ている笑顔でのおもてなし。以前もそうだったと、思い起こす。

 「物件がこちらになります。時間ももったいないですし、他に条件が合うものも出しておきましたので、車の中でご

覧になってください」

 そういって他の店員に声をかけると、鍵を持ちさっそうと外にでた案内人。ちゃっかりお店の水を飲んでいた弟を引

っ張り、タイミングよくやってきた車に乗りこんだ。

 少し肌寒い時間帯になると、私たちを乗せた車は店の前へと戻ってきた。運がよいことに気に入った物件に出会え

たのだ。少し急ぎつつも、慣れていない契約書の作成や今後のこと、家賃の支払いの確認などを行う。必要な書類

は事前に教えてもらっていたので、案内人の人は困ったことがなかったらしい。

 私は親に電話して荷物を届けてもらうように伝えると、携帯をバックにしまった。すると、待っていましたとばかりに、

カーラ君とカヌス君が現れた。

 「決まったみたいだね~。よかった~」

 「うん、ありがとう。助かったわ」

 「これでロトーに迷わなくてすむよっ」

 「んなことさせるかって。オレたちが呼んだんだからよ」

 「次は役所だねぇ~」

 「役所? 何するの?」

 「住民票移さなきゃならねぇだろ」

 「ジューミンヒョウって何?」

 「お前らな……。いいや、教えてやるからとりあえず飯食いにいこうぜ」

 どうやら、引っ越すといろいろと必要な手続きがあるらしい。これで終わりだと思っていたのに、ちょっと残念だ。

 私よりはるかに経験豊富な2人は、ヒヨコたちを連れだち、巨大な蛍がともる町の中へと歩いていった。



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