それが地元で人気の霧生ヶ谷市市役所の食堂ともなれば、なおのことだ。 その混雑の中、例によって例のごとく独裁者顔負けなオーラを纏った暮香は、それに気圧され離れた人々によってできた道を当然のように、食券片手に歩いていく。 もちろんその後からは、やはりおどおどしたりいこが、目の合った人全てに頭を下げて謝罪しながらついてきている。 彼女は顔なじみの給仕のおばさんから裏メニューの天カス丼(230円)を受け取り、迷いなくあるテーブルへと進む。 そこに座っているのは、三人。 ほっぺたに米粒をつけてカツ丼をかきこむどこか抜けた雰囲気のある好青年に、その青年をチラ見しながらスプーンでしきりにカレーを混ぜる若い女性。そして少し離れた位置で山菜の煮付けに箸を伸ばしている、厳しい印象のある中年男性。 「やっほー! 本田君に敦子ちゃん、あと茂のとっつぁん、元気にしてるっ!?」 「ふぁっ、ふふぇふぁふぁんふぁ、ふぁふぃふぁふぇんふぁ!」 「本田さん…飲み込んでからじゃないとわからないですよぅ…」 「あっ、りいこちゃんも久しぶり~」 「相変わらず騒がしいな、君は。 …あと、とっつぁんはやめてくれんか」 「ふっ、私にそんな言葉が通じるとでもっ!?」 「…だろうな… 小数点以下の可能性に賭けて、言ってみただけだ」 「いやぁ、褒めても何もでないわよっ!?」 「それは褒めてないですよぅ…」 「…んっく… …でも暮香さん達がここに来るなんて珍しいですよね」 「はい、それがかくかくしかじかという理由なんですぅ…」 「そりゃまた暮香さんらしい理由ね~」 「…本田も春林君も、それでよくわかったな…」 「なにはともあれ、まずは昼飯よ!」 「じゃあ、手を合わせて…いただきますぅ」 「いただきましたっ!」 「「「「早っ!?」」」」 なんだかんだで食事を始める一同。 ちなみに暮香は二杯目である。 ダイエットとは縁がないらしいが、そんな食生活ではそのうち太… うわ、ナレーターに何をする、話が進まなくな…! 「…?どうしたんですか、暮香さん?」 「ふっ、なんでもないわっ! 繊細な乙女の心を傷つけた愚者の頭を、箸で剣山みたいにしてきただけよ!」 「へ…?」 「本田さん、暮香さんの言葉は深く考えないほうがいいですよぅ…」 「日根野谷君、やつれたのではないか…?」 「そりゃ、暮香さんの相手じゃやつれもするわよね…」 「で、問題はこれからよっ!」 「ああ、探し物でしたよね」 「アテにしてた探偵も頼りにならなかったから、次は…」 「探偵って…アメリカ人のランディさん?」 「敦子さん、知ってるんですか?」 「ええ、下弦の月で飲んでるとたまに会うのよ」 「こらそこ、話の腰を折らない! …ま、そういうわけで、あんたたちが今作ってる『不思議マップ』の情報網を私のためにフル活動させて、いい案を考えなさい!!」 「…私の持病に胃潰瘍を追加するために来たのなら、今すぐ帰ってくれ…」 「やーね、つれないこと言わないでよとっつぁん!」 「そうですね~ ウワサのゲコガッパ専門店のお爺さんは物知りって話もありますし、黄昏に消える館にも何かあるかもしれませんよ!」 「本田さん、生き生きしてますねぇ」 「そりゃもう、不思議大好きですから!」 「ねぇ暮香さん、ヒントとかってないの?」 「ヒント…確かにこの先の段階に進むには、そろそろ何かしるべが必要ね!」 「これゲームなんですかぁ!?」 「うーん、この場所が何か引っかかるんだけど…」 「え!?」 「…でもやっぱり無理だわっ!! ごめん、わかんない!」 「…あ、そうですか…」 「それより、遺失物なら警察にでも行った方が早くないか…?」 「「「「あ」」」」 …まさか考えもしなかったとは、むしろ蓮川の方が驚きたいところだったのだが。 「…」 「…」 「…じゃあ、今すぐ行くわよっ!!警察署はここから近かったわねっ!!」 「あっ、まだ私食べ終わってませんよぅ…」 「大丈夫、そういうと思って私が米粒ひとつ残さず食べてあげといたわっ!!!!」 「うわーん!!」 目の幅涙で幼すぎる外見が更に強調されてパーフェクトに小学生な璃衣子を引き摺り、再び人ごみをモーゼのように割って彼女は往く。 職員優先時間なんてなんのその! それいけ我らが暮香ちゃん!! 「…行ったか」 「…行っちゃいましたね」 「まったく…本当に台風みたいな奴だ」 「ほんとですね… 台風の後みたいに、二人の昼ごはんもなくなってます」 「「…って、いつの間にーっ!!!!!!」」 |
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