焦土と化したクソゲー界にも、芽吹き綻ぶ花はある。
2009年覇者の『りんかねーしょん☆新撰組っ!』は、倫理の破綻した掃き溜めの底で、バグも手抜きも無くても凄いクソゲーはできるという希望を見せてくれた。
しかし世の風は冷たいもの。2010年のKOTYinエロゲー板スレにも、数多のクソゲーが吹き荒んでいた。
一番槍を勤めたのは130cmの『鬼まり。~鬼が夢見し常の世に、至る幼き恋のはじまり。~』である。
これは前年に変態バカゲーとして宣伝されていながら、蓋を開けると姉シナリオが「メインキャラが全員死ぬか狂う」
という救いの欠片も無い超展開欝ゲーだった『鬼うた。』の救済ファンディスクのはずだったのだが、
話が盛り上がる前に終わってしまう薄く短いシナリオと本番はサブキャラの妄想Hのみという薄すぎるHシーンで批判を浴びる。
そんな中でブランド代表が「あれじゃ、あきまへんか?」「つーか、本番ないとあかんのですか?」と空気も男の下半身も読めない発言をして、ブログ大炎上という騒ぎになった。
これ自体は「エロ薄のぼったくりファンディスク」でしかなく、後日Hシーン追加パッチも出たためクソゲーではないとする声も多い。
だが同日には人気投票1位でパッケージ中央のキャラのHシーンが無いファンディスク『花と乙女に祝福を ロイヤルブーケ』も出ており、
2010年に多発するガッカリゲーでは括れないほどユーザーのニーズを敢えて完全無視した展開──
思わず「どんな判断だ」と製作者に突っ込みを入れたくなる、 「どん判展開」とでも言うべき作品の先駆けとなった。
2月には前年本家KOTYで見事上洛を果たした「姫」の続編・『戦極姫2 ~戦乱の世、群雄嵐の如く~』が故郷に錦を飾るが、
CS版のユーザーを生贄にして特殊召還した甲斐あってか猛威を振るった数々のバグの大半は駆逐され普通に遊べるようにはなっていた。
しかしそれ以外のバグは相変わらず多く、場面によって性格や一人称がバラバラの主人公やHシーンで原画が変わるヒロイン等そのツギハギ感も健在。
「-100点かと思ったら-10点でほっとしたけど、よく考えてみたらマイナスなことに変りない」とは本スレ住人の弁である。
続く2本目にはビジュアルアーツの核実験場・ZEROの『オレの妹のエロさが有頂天でとどまる事を知らない』が参上。
これは某ラノベのまんまのタイトルとパッケージに「純愛に限る」という謳い文句と萌えゲー路線で売り込みながら「トゥルーエンド直前で妹が絶対にレイプされる」など、
元ネタの妹がプレイしたらディスクを叩き割りかねないような顧客のニーズをぶん投げた展開で「エロゲ版恋空」と揶揄された。
そして2月の本命、今やクソゲーメーカーとしての地位を確立したアーベルソフトウェアの『恋刀乱麻 ~わたしが、アナタを、守るからっ!!!~ 』が着弾する。
本作はあらすじこそ「主人公を巡って美少女達の体を賭けた学園バトルロイヤル」というありふれたものだが、ゲームの根幹を成す「五行バトル」が曲者だった。
これは互いの属性により有利不利が決まり、ダメージを受けるごとに服が破れていくという相性重視の戦闘システムのはずなのに
使用キャラは最後まで固定で相手の行動は完全なランダム、固有の特殊行動等も無く駆け引きや戦略性はほとんどゼロ。
演出スキップも不可で時間は無駄にかかり、一人脱がしきるには15回程度の先取が必要、攻略法と呼べるものは連打ツールの導入くらいと
ぶっちゃけると捕獲も成長も存在しないポケモン、あるいはテンポ最悪の野球拳である。
無論戦闘スキップのような気の利いたシステムなどあるはずもなく、ユーザーの気力と時間を無駄に削り取る「苦行バトル」とでも言ったほうがいいものだった。
また、パッケージにさもヒロインのように描かれている五人のうち二人はルートの無いただの脇役でHシーンも片方に至っては足コキが一回あるのみ、
公式で「体を重ねてしまう」と紹介されたキャラとは冒頭でキスするだけといった宣伝詐欺も健在。
後にアーベルの代名詞となるアドオンプログラムという名のパッチでもそれらは改善されず、
各キャラのエピローグも口調を変えただけのコピペでスタッフロールも無しと存分にその手抜きっぷりも見せつけ、
評価の分かれるクソゲーが多かった2010初頭の中で誰もがクソと認める直球の一本として住人達に支持された。
こうしてスレも日差しも暖かくなってきた3月、いよいよKOTYスレにも春一番が吹き荒れる。
「あの」伊藤誠を生み出し数々の伝説を残したDaysシリーズ最新作・0verflowの『CrossDays』が登場。誰もが修羅場や寝取られといった超展開を予想した。
……だが、それでも、「主人公が女装して前作ヒロインから誠を寝取る」という展開を一体誰が予想できただろうか。
これは後半の約半分が「主人公が女装して誠とセックスし、誠が事情を知らないまま溺れていく」という展開となっており、エロシーンが男で埋め尽くされるのである。
例えそれに耐えたユーザーも、ほとんどの場合Theガッツ!のタカさんばりの筋肉女とゴエモンインパクトのようなアヘ顔を晒す贅肉女に逆レイプされるエンドに心を折られる事になる。
これだけならまだ怪作で済まされたのだが、これら男と筋肉で全Hシーンの4割を占めている上に雑誌で紹介されていたはずの姉・乙女・光のHシーン等は存在せず、
代表のメイザーズぬまきちは「雑誌やサイトのCGは開発中のモノだから削除ではなくボツなんです、よくある事」と釈明。
更に発売直後の某動画サイトでの生放送では「ホモ」「ガッツ」「クロスゲイズ」等をNG指定した上に
「アンケート葉書以外の意見は見向きもしません」「2ちゃんで宣伝ありがとうございます」等の火に油を注ぐ発言を連発した。
ゲームの方も内部数値のバグにより攻略は難航、一時は18個中11のEDに行ける可能性は11億6226万3515分の11とまで言われ、「手元のロムにはバグは無いが製品版にはあった」と言い訳する始末だった。
これが定価13440円の高額タイトルかつアクチで中古売却不可だったものだから、ユーザーの怒りは逆鱗を剥ぎ取られたかの如しだっただろう。
しかし、奇しくもこの時期には更なる春嵐が巻き起こった。biscottiの『Floating Material -The hill where the star born-』の登場である。
無名だったこの作品だが、OPムービーに『明日の君と逢うために』の背景に似たものが見つかったことを皮切りにその全貌が暴かれていくことになる。
有志の手によりイベントCGのトレスやキャラ紹介のコピペが続々と判明、タイトルを挙げると『Flyable Heart』『遥かに仰ぎ、麗しの』『明日の君と逢うために』
『School ぷろじぇくと』『シュガーコートフリークス』アニメ版『プリンセスラバー!』『借金姉妹2 AfterStory』『id [イド] - Rebirth Session -』……
更に「とある魔術の禁書目録」等のウィキペディアの記事からの多数の転載、背景はググれば簡単に見つかる転載不可の写真素材。
果てはメーカーロゴ・必要スペック・コピーライト・OHPの各種パーツ等に至るまでトレスとコピペで構成されたそれは正にその名に違わず、
ネットの海に浮かぶ素材を継ぎ接ぎしたフランケンシュタインの如き化物だった。
パクリ元が見つかる度に延期と差し替えと言い訳とOHP404を繰り返した結果、製品版ではそれらは全て修正されていたものの、
なんの起伏も愛も感じられないシナリオ、大幅に減ったCG、一部BGMの無いシーンがあり効果音は皆無、理不尽に高い難易度に加え既読・演出・EDスキップが出来ないため周回プレイには極めて優しくなく、
差し変えられたCGも「両方左手」「肩脱臼」「チャックからほど遠い場所からこぼれる超空間チンポ 」など全てにおいて低クオリティであり、
スレでも当初の「ただの駄作」という評価を覆しトレス無しでも2010の底辺を担う一作として再評価されることとなった。
この年末の魔物ならぬ年度末の化物2匹のせいで同時期目立ったのは「無料の風俗がモンスターハウスだった的な」と例えられた無料DLタイトル『se・きらら』くらいだが、
それでも4月のういんどみるの『色に出でにけりわが恋は』を忘れるわけにはいくまい。
萌えゲーメーカーの安牌・ういんどみるの新作がこのスレに来るとは、誰も予想しなかっただろう。
体験版ではごく普通の萌えゲーだったのに、その箇所が終わるや否やお嬢様のはずのヒロインは風呂場で「前後おォォン♪」と腰を振りながらダンスして気絶するわ、
主人公は「勃起ン勃起ンの、ボッキンボッキンスティック☆ 」等言い出すわと知性と品性を全力で投げ捨てたかのようなお下劣極まる言動を晒しまくるのである。
このあまりに酷いセリフ群のせいでメインヒロイン役の声優が逃げた、とも噂されている。
共通ルートもダラダラ長い上に選択肢の数は100以上。
既読スキップを用いても延々と同じようなシーンが続く反面、
ある個別ルートでは重要イベントの学園祭をわずか2クリックで片付ける等テキスト配分も明らかにおかしく、シナリオの出来は惨憺たる有様だった。
CG・音楽・演出等のクオリティは従来通り高く、シナリオも一部ではバカゲーとして評価する者もいるにはいるが、このメーカーはういんどみるである。
ういんどみる本家とういんどみるOasisでは作風の違いはあるものの、曲者集団13cm系列や0verflow、クソゲーの雄たるアーベルやげーせん18とは違い
安心感が武器のブランドから出てしまったこれはどん判極まる本年最悪の不意打ちだったと言えるだろう。
そして6月、アーベル第二の刺客『デュアル・エム―空の記憶―』が現れる。
「サイコメトリー能力制御のため常に手袋をしているはずなのに立ち絵は常時素手の主人公美香・ヴァーミリオン」といった頭を抱えるような厨二設定はまだいい。
ボイス無しも予想内、Hシーンがやたら少ないのもジャンルが「ちょっとHな本格推理ADV」なのだからよしとしよう。
だがそのトリックが囮捜査をしたら犯人が勝手に自白する・犯人をヒント:左利きだけで探す・犯人選択では身内や未登場人物や犠牲者などを除いていけば消去法で特定できる・
後日修正されたものまで含めれば「左利きなのに右手で銃を撃つCG」「暗号そのものに誤植」と推理ものとして致命的なミスまであるという適当っぷりで、
そもそも犯人を間違えても相棒が勝手に正解を当ててくれるためバッドエンドもルート分岐も無く全く同じ展開を辿るようではとても本格推理ADVとは言えまい。
また製品として何より問題なのが、本作は本来4話構成なのに3話までしか収録されておらず、最終話アドオン(曰く追加シナリオ)配信まで発売後1ヶ月もかかったこと。
加えて発売2ヶ月後に配信された追加シナリオは各話の合間にちょっとずつ挿入されるという形のため再度一からやり直さないと見れないという不親切極まる作りであり、
アーベル本来のお家芸のはずの『ミステリート』に連なる探偵紳士シリーズ最新作がこれではファンが打ちのめされた事は想像に難くない。
この夏は世間とは違いスレは熱くはならなかったが、秋に入ると住人待望の大物・Purplesoftware delightの『Orange Memories』が現れる。
Purplesoftware(通称紫)の萌え・エロ特化ブランドから出た本作の特徴は、「薄さ」である。
純愛ゲーとしては「共通ルートでツンデレが足を捻挫して保健室に連れていってもらっただけで股を開く」等シナリオあまりに薄っぺらく、
かといってハーレムものとしては「回想では全てのHシーンがエロCG一枚、というか二枚使われたシーンは分割扱いでわずか36クリックで終了するものもある」とエロが薄すぎる。
これは恐らく大幅にエロシーンがカットされており、それを裏付ける点としてラブホテルでHしてたハズなのにピロートークは星空のCGの中と文章とCGが噛み合っていない箇所がある・
該当シーンが無いのに「昨日のこと、とは、もちろん、後夜祭でのエッチのことだ。」という一文とそのシーン用と思われる未使用のエロボイスが発見される・
作中に「心者」「伴心」といった意味不明の単語がありその理由がヒロインの「心」の名前が「奏」から変更され全置換した結果こうなったという説が有力、などがあり見切り発車で発売したことが伺える。
その萌えもエロも足るべきものが足りないあらゆる点での「薄さ」は凡作・地雷に慣れたはずの訓練された紫信者をして「紫の最底辺」と称された。
これに続いてアーベル×新撰組の黄金コンボで期待を集め、恒例のアドオンという名の未完成商法と
描写も情動もはしょり過ぎの手抜きシナリオを誇る『萌恋維新!アタシら、じぇいけー、新閃組!』等で場を暖めつつ、いよいよ年末の魔物達が襲来する。
「戦極姫はどれだけAVGが酷くてもSLG部分はマトモに遊べたが、これは本当に良い部分が見つからない」とも言われた3代目「姫」『三極姫 ~乱世、天下三分の計~』。
運命改竄ループもので「どの行動で過去を変えるか」という点を楽しめると思いきや「トゥルーエンドに辿りつく為にはそれ以外の17個全てのエンディングを順序通り見せられる」という一本道シナリオや、
ヒロインの表情差分が極端に少なく父親が倒れても笑顔が張り付いたまま、アドオンでやっと改善という素材の足りなさが光るアーベル四天王最後の一角『まるめる ~ソウシンシャは@未来~』。
そして一際輝いたのがHammerHeadsの低価格タイトル『熟処女~私、はじめてなんです~』である。
低価格タイトルは評価は甘くなりがちだが、それでも作中に選択肢がひとつだけ・ヒロインが即落ちするため寝取りゲーの美学・快感・背徳感が皆無・
それまで関係に悩んでいた相手と開始25クリックで何の脈絡も無く「思いに応えることにした」と処女を奪う等、悪い意味でのお手軽さは流石に無視できない。
だが、それらもHシーンで「ひっかかかかかか ひっ か か んふ ひっか かれて うふっ テイクツー」というNG音声が収録されている台無しっぷりに比べれば些細な問題である。
加えて”東海林”香奈とのHシーンで「谷原さんの膣内、もう奥まで熱くなってますね……」「谷原さんがこの間よりも……締まってるんですよ」と
誰だよ谷原さんってと突っ込まざるを得ないテキストまであり、これは別ブランドの『熟恋願望 ~秘めた想いと淫らな愛のカタチ~』のサンプルテキストの転用だと判明した。
これ以外にもテキストと音声が丸1クリックずれる・状況的にも日本語的にもおかしい地の文が入るなどそのやっつけ仕事っぷりを存分に見せ付け、
公式サイトのサンプルCGが発売後も公開されていないことも相まって誰がどう見てもクソと言えるクソゲーとして住人達に称えられた。
それでは一年を振り返ったところで大賞の発表に移る。
2010年は『アイ惨』『りんかね』並みの異形は現れないながらも、数多のクソゲーが出続けた年となった。
そんな百鬼夜行の中、次点に選ばれたのは
『CrossDays』『Floating Material -The hill where the star born-』『色に出でにけりわが恋は』『デュアル・エム―空の記憶―』『Orange Memories』『熟処女~私、はじめてなんです~』
そして大賞は
『恋刀乱麻 ~わたしが、アナタを、守るからっ!!!~ 』
とする。
2010年は突出したクソゲーが存在せず、大賞の選考は大変難航した。
そこでクソゲーがクソゲーたる最もシンプルな理由・「苦痛は多く見返りは少ない」という点を基準として評価した。
『CrossDays』『色に出でにけりわが恋は』はそれぞれごく一部のファンからは評価された上、豊富なアニメーションや業界屈指のCGなど得がたい長所はある。
『デュアル・エム』『Orange Memories』『熟処女』は得られるものは極端に少ないもののプレイしたユーザーを苦しめるという点では弱い。
『Floating Material』はそれに加え、発売前のインパクトが強すぎたせいで作品そのものから強烈にネガな印象を受けづらいという側面もあった。
それらと比較し、『恋刀乱麻』は宣伝詐欺という聞くだけでわかるクソさと五行システムというやって初めてわかるクソさを併せ持ち、
特に五行システムは「それなりに上手いCG」というわずかなご褒美のために
戦略性皆無で何の面白みもなく、時には完全な徒労にしかならないという賽の河原の石積みのような苦行を強いられる点が
読み進めた分は確実にコンプへと近付き、未読スキップという逃げ道もあるノベルでは至れない独自のクソ要素であるとして決め手となった。
ただそれでも『恋刀』が明確に一歩抜けているとは言えない。次点以上の作品はどれが大賞をとっても不思議はなく、またどれが大賞をとっても疑問が残ったという点は理解して頂きたい。
2010年はKOTYスレとしては大きな嵐もない平坦な年だった。
だが一般ユーザーにとって平穏な年だったかというと、それは断じて否である。
完結編で未完成という原点に立ち返った『暁の護衛~罪深き終末論~』麻枝氏の「で、どこで泣くの」の一言で全てが中途半端になった『クドわふたー』
初代メインヒロインの出番のかわりに内輪ネタを充実させた『真・恋姫†無双~萌将伝~』「未編集で垂れ流されるホームビデオみたい」と評された『星空へ架かる橋』
等々、年間売り上げトップクラスの作品群に片っ端から選評が届く有様だった。
また、シリアルキーを入れ忘れた『カスタードクリームたい焼き』盗作問題が囁かれる『メルクリア~水の都に恋の花束を~』『ふぇいばりっとSweet!』
製品に他メーカーのデータが混入、謝罪文でそのメーカーに対し「誠実な対応をして頂き」とのたまった『恋と選挙とチョコレート』等々、ゲーム以前の問題を起こした製品も存在した。
単純な被害者数においては前二年など比べ物にならず、えげつない小粒なクソゲーを大量排出したこの年はある住人から「クソゲーのクラスター爆弾」と例えられたほどである。
大作が次々と発表されている2011年はどうか表裏双方のユーザーにとって幸せな年になることを願ってやまない。
KOTYは権威などではなく、泣いた誰かの涙を拭って笑いへと昇華するもので、皆が笑えるに越したことはないのだから。
最後に、無計画な自転車操業を繰り返し一年を通して一本も外すことなくクソゲーをリリースし続け、見事KOTY大賞も受賞した
アーベルの社長・管野ひろゆき氏に以下の言葉を贈ることで2010クソゲーオブザイヤーinエロゲー板を締め括ろうと思う。
「燃える車輪でのサイクリングはもう終わりにしませんか?」