2022年。それはクソゲーオブザイヤーinエロゲー板(KOTYe)にとっては、「クソシナリオ(orテキスト)での殴り合い」の一言に尽きるだろう。
シェアハウスのバーベナ荘、もしくは時を停めた館のどちらが決戦の地か、
そう思った住人に、福袋から『悪魔と夜と異世界と』が華麗にアンブッシュを決め、
クソテキストの極限を見せつけ、大賞のチャンピオンベルトをかっ攫っていった。
翌年の半分を過ぎ、酷暑の中ようやく提出となった22年の宿題レポートには、
ただただ夜よりも深い闇の【重さ】だけがあった。
兎年にかこつけて、月を眺める余裕も総評審議の合間はなかったに違いない。
ところで兎と言えば、何かと性欲に絡めて語られることが多い。
事実「子孫繁栄」の象徴の意味合いもあるらしく、先に述べてしまうがそれを受けて、2023年度のKOTYeは、
32件もの忌み子の悲鳴があげられたのである。
ここまでの大量発生には前例が無い。故に、一部のエントリー作品には軽くしか触れられないことも明記しておこう。
兎の脚力の速さを具現化したのか? 初の選評報告も、
今までに無い程早く、初報は2月末というスピード感。
『JINKI -UNLIMITED-』。すでに業界からはサヨナラ宣言した戯画の、ほとんど最後の花火。
しかし、このときはまだ全容が把握し切れておらず、
「右クリックの動作がおかしい」
「UIが不便すぎる」
「FPSの制限かかってないっぽい」
などの断片しか把握できなかった。というのも、完全クリアに至るまでの難易度が異様だったからだ。それ故にシナリオなど細部の精査が見送られ、
戯画マインは文字通り、マイン(地雷)としてスレに埋められたままとなった。
地雷を撤去しようとした探知機は、別の遺物を発掘するに至る。
North Boxの『高嶺の花と魔法の壺』。
公式サイトのストーリーやキャラ紹介からして
「生徒会長のA先輩」だの「身長170程度」だの
キャラの個性ってこの程度でいいでしょ、感が見てとれる。
徹底的にボイスを省く、今度はシナリオをとにかく薄める、
HシーンのBGMが雅の一言のそれ→お城の舞踏会みたいな洋風へと変化、などと前科二犯でありながら全く成長していない、どころか退化の面まである有様で、第二の門番へと名乗り出たのだった。
壺の選評に秘孔のツボを突かれたか。
毎度おなじみ、アトリエさくらが『他人棒でイキ狂い快楽に溺れていく最愛妻 ~見せつけられた快楽に絶頂する妻の痴態』で乗り込んできた。
NTRをいまいち描き切れていないのも毎度おなじみなのだが、
何故か間男の行為が「AV(市販の普通の)を送りつけてくる」、しかも旦那が開封という
もはや出前サービスでは? なシナリオには誰もが困惑の声をあげた。
作中の「その前に一度イクからちょっと待ってて」と言うセリフに
選評主だけでなくスレ住人も、口にしたくなるときめきを感じたが、
これでも、アトリエさくらの中ではまだジャブに過ぎなかった。
この選評が来ていた3月末に向け、地獄行き片道切符のダイヤがひっそりと組まれていたのだ。
戯画マイン、壺、アトリエさくらの初手。
そんな流れでもスレは雑談に花咲かせていたが、それはいずれ来たるパンデミックの予感、その不安の裏返しでもあった。
そこで、evoLLが雨の中提供したセーフハウス、その名も
『ラブカフェ ~童貞な俺でも、巨乳女先輩と同棲できるってマジですか?~』。
当作品を一言でいうなら、あらすじ詐欺。
「(前略)こうして4人の同棲生活が始まった。」
この一文をあらすじにわざわざ記入しておきながら、プレイヤーへと、いきなりの三択(プラス1)を迫ってくる。
そう、三人の先輩のうち、一人としか、同棲できないのだ。
しかも、作品内の選択肢はそこだけ。
全員のルートをコンプすると一見ハーレムルートへの道が開けるように見えたが、
その先には先輩達の全員ビッチ化、からの妄想オチという
結局何だったんだ? という感想だけが残る。
その中で、頻繁に使われる「放精」という表現。
一般的には魚類などの水生生物に使われる単語で、ひたすら単調なクソ要素の中、不思議な存在感をスレ住人に見せつけてくれた。
酷いあらすじで拵えたセーフハウスはやはり安全圏ではなかった。
すぐさまSUKARADOGの刺客、『虜囚の女ヒーロー ~怪人たちとの闇の狂宴~』の襲撃を受けてしまう。
「突破戦隊テクノブレイカー」だの「犯罪結社ポルチオーン」だの、頭が痛くなりそうな固有名詞。
変身ヒロインの悪堕ちものでありながら、怪人との戦闘描写もない。開始時点で既に捕まってしまっている。
戦闘の代わりにバトルファックを突然繰り広げるが、そんなものでニーズを満たしたつもりなのだろうか。
ふたなり化もできる女幹部以外のグラフィックもしょぼく、一部の文章は改ページ前後で明らかに繋がっていない、声優の演技が棒読み気味で悲壮感無し、
またしても
女幹部「情報を渡しなさい。さもなければ…」→三択の中から1つ(選択肢はこれのみ)
という、早すぎるデジャブまで。
しかし、本当の狂宴はまだ始まってもいなかった。
幹部から悪女つながりのバトンを受け取ったのは、
EvilHealの『Aphrodisiac -女神の欲望-』。
製薬開発者として賞賛されるも、本性は実験中毒のマッドサイエンティスト、な女医。
そんな悪女と大学生の主人公、同級生のヒロインと同じ大学のギャル。
彼女たちの間でインモラルなキメセクが……という作品だったのかも知れない。
繰り広げられたのは、オクスリの注射よりも赤ペン先生の注釈の方が必要だろ、と思うほどの度重なる誤字。
ギャルキャラが「また嫉妬がボンバーしちゃった?」というのはキャラ設定のバカさの表現だと解釈できても、
主人公が「え、それは早くマジいですね」と返答するシーンがあるのだ。
マジで何を言っているんだ、となってしまうが、一応パッチでこれらの誤字は直っている。
ただ、あえて選評からほぼ引用させてもらうが
しかしながらそもそもの話、発売後にパッチで修正すれば良いだろうという考え自体が普通に考えたらおかしいのである。
(中略)
だが本作は所詮数時間程度で終わる低価格抜きゲーである。
こんなボリュームも糞もないような作品で一度推敲すれば分かるようなレベルの誤字を何箇所も見逃すのははっきり言って手抜きと言うほかないだろう。
その意見を、作り手だけでなくスレ住人たちも一度しかと受け止めるべきだったのかも知れない。
だが、パッチでの弱体化に納得できなかったのか、未知のウイルスが流出し暴走、パンデミックを巻き起こした。
ここから先、1週間に1度以上のペースで選評が届くという、異常事態が(途中に20日の間をあけてだが)5月下旬まで続く。
ここまでされてしまうと、もはや総評を書いている筆者のキャパシティもボンバーしかねない。
故にここからは、いくつかのエントリー作品に触れず省略することをお許し頂きたい。
未知のウイルスだろうと既に病気さ、なんともないぜ、と言わんばかりに
わるきゅ~れが『病みつきヤンデレハーレム!』で迎撃態勢に入る。
昨今のファッションヤンデレ(或いはメンヘラ)たちに見せつけるかのように、
今作のヒロイン達は「狂い」と「愛」とを両立させている。
だが彼女達以上に狂ってしまっているのがテキストで、例としてよく挙がる「馬から落馬した」を十倍以上に酷くした、主語と述語の錯綜した文章。
いつぞやの自動台車《キラキラルビ》にも劣らない、テキストの障害物走を我らに強いてくる。
開幕先輩キャラから「誤字や脱字が随所に見られるわ。(略)それとも『ながら作業』でもしていた?」
と主人公が注意されるのだが、まさに「お前が言うな」である。
しかし文章を直したところで症状は治まらない。
何故なら地の文がほとんど三人称だからだ。
それが効果的に使われているわけでもなく、先ほどのように、テキスト自体の解読作業まで求められる。
「病みヒロインに詰められる恐怖」を味わうには、そのハードルが高すぎると言わざるを得ない。
精液の表現に「生殖汁」、「遺伝子汁」、「オス汁」など多彩なバリエーションを織り込んでいたりと、褒められ、もしくは十分なネタ要素もあるにはあるのだが。
エロゲーと言うより校閲者の修行向けになった文章を完走したランナーに、
作中の誤字をもじって「選評頑張たわね」との賛辞が贈られたのは言うまでもない。
その後にはMielの
『上司の巨乳騎士団長は俺の肉オナホ! ~年下恋人から中出し漬けで寝取って孕ませ穴に!~』が、後陣を務めようとし、KOTYeの「騎士枠」を担わんとした。
しかし、ボリューム不足の羊頭狗肉っぷりや、もはや基本芸とまでの誤字脱字、スクリプトの指示ミスなどの問題点。
何より「金髪ツインテの甘ったれ娘の方が似合いそう」とまで称された、騎士団長を名乗るには名折れ過ぎるミスマッチな声が最大の難点だった。
そんな中では主人公に固有名詞も名前設定もないことなど些細なこと、のように見えたが、これが後のゲリラ戦の予兆だとは誰が予測できただろうか。
巨乳団長の惨劇ヴォイスに震えるスレは、突如ゲリラ戦の如き混乱事態に巻き込まれる。
iMelが、Rosettaブランドの名で放った光学兵器、
その名は『星と乙女が占う未来』。
発売日は、Switch版がなんと2022年12月22日で、Steam版が2023年1月26日。
この内、「これこそクソだ!」と掲げられたのは、後者の方である。
発売日だけをみれば、JINKIの前日故なのか、真の門番としてスレを賑わせた。
一旦、Rosettaブランドに関して軽く説明をすると、ニンテンドーSwitchとSteamで「百合(風)ADV」を提供している。この内デビュー作以外にはSteamでR-18パッチを配布する、という手法をとり、今回はその2例目となる。
ブランド自体が「百合恋愛」→「女装男子と少女のドタバタ恋愛」と来て、今回はキャラ紹介に男性がいない。
つまり百合ゲーだな? と予期してコイツに触れた者の末路は、3つに分けられる。
1つ、Switchで百合風ノベルを楽しむもの。
2つ、Steamにて、パッチを当てずに以下同文。
3つ。パッチを当てて、エロゲーとしてのクソ要素に触れてしまい、爆殺されるもの。
スタンド能力『キラークイーン』の如く、穏やかな雰囲気の百合ノベルに擬態しておきながら、プレイヤーの心を始末させようとする蛮行が、スレへは悲痛な叫びで届いたのだ。
このゲームには分かりやすい恋愛要素もあえて(?)描かれない上、男性的存在も限りなく抹消されている。
モブキャラの占い対象と、前作主人公だけが例外だが、モブには当然立ち絵やボイスもないし、先述の通り前作主人公は男の娘だ。
それなのに、エンドロールの後、ノベル部分における主人公(もちろん女性)のいずみは、何者でもない竿役の「あなた」と、エロシーンを繰り広げるのだ。
この竿役だが、ありとあらゆる要素が、存在しない。
立ち絵もない、CVもない、名前もない。ここまではよくある。
台詞がない。エロCGにおけるグラすらない。ノベル部分本編での絡みさえもない。いわゆるチンファンネルという手法すら取らない。性別さえも明記されない。
だのに「太くなったモノをいずみに挿入する」というニュアンスのテキストはあり、下手すればこの竿役、ふたなり女子なのかも知れないのだ。
上記のような、ないない尽しのエロ部分。
キレイな姿だけはしているが、「ベッドに裸体でまたがっているだけ」の様を騎乗位だの言い張るなど、エロゲーとしては失格点すら危ぶまれかねない。
スレから一部抜粋するが、
「これを商業エロゲと認めるのだいぶ癪だな」
「全裸でポーズ取ってるだけって言われても信じる」
「なんならヌードアートの被写体と言われたらそうだよねって感じだな」
と、名目だけの"忍び"ばっかりだったKOTYeに真の忌み、ならぬ意味でのニンジャっぷりに住民達はリアリティショックを起こし、
(そもそも「男性向けエロゲー」の基準って何だっけ・・・?)
との議論が始まりそうになった。
そんな大いなる意思のオモチャにスレをされてたまるかと、
アトリエさくらから送られた
『好きだった幼馴染がクラスメイトのオモチャになっていた件』が事態の収拾に動こうとする。
しかしその正体は、2019年に選評が届けられた『淫らに堕ちる、最愛彼女』のコピーロボットだった。
導入、展開、選択肢、背景までもを使い回し。
その上で2周目のヒロイン視点では選択肢をドカ盛りにして、
最低限の労力で、最大限の苦痛を与えんとするかの愚行。
ともあれ、スレの混乱を鎮めるには十分であった。
JK従属学園(選評:4/11) 以下いっぱい省略
お願い もう許してください は、まさに今の自分の気持ちかも
色々飛ばして次点と大賞。
さて、ここで2023年度のKOTYeの次点と大賞の発表に移りたい。
次点は
『JINKI -Unlimited-』
『ナマイキユメちゃんはおにぃとメチャクチャHしたい! ~ギャルと教師のドキドキ同棲生活~』
『モラトリアム ~ブルーアワー幸せの時間~』
大賞は
『星と乙女が占う未来』
とする。
おいちょっと待て、という声を挟みたいかもしれないが、
まずは、一旦次点以上の採用基準を述べさせて頂きたい。
今期も例によって例のごとく、テキスト主体のゲームばかりが担ぎ込まれる事態となった。
希有な例外こそが『JINKI』ではあるが、
その上で「クソテキスト・シナリオの中での斬新さ」を基準とさせてもらった。
『ユメちゃん』はケツあな確定という時事ネタとの偶然の一致による笑いもさることながら、「主人公」の文字列がもたらすバグ、という今までに無い手法で勝負してきた。
ただ、『モラトリアム』は、評価点の部分において一切張り合える部分がない。
一応のジャンル要素、作品として楽しめる部分が存在すること、
頑張った姿勢は見受けられる他のエントリー作品に対しても、負の方面でしか張り合うことができない。
絵のクオリティの低さ・システム面での拙さを『悪魔』から引き継いだ上で、あちらとは違うやり方でシナリオまでダメにしてくれた。
唯一、「突然の民主化」で笑いを取ることはできたが、
それすらも"乾いた"笑いでしかなかっただろう。
悪い意味での「斬新さ」には、困惑しか生まれず、
これはこれで究極のクソエロゲーとでも言うべきだろうか。
こいつらに比べると、他のエントリー作品は総じて「どうせクソでも比較すれば小粒だろ」の域を出ず、斬新であるとまでは言い過ぎの感が拭えなかった。
あえて語らなかった『JINKI-U』だが、「斬新さ」においても異端であった。
『JINK-U』はUIのクソさ、フレームレート無制限、ゲーム自体の難易度で、
肝心のエロ自体にも易々とたどり着けさせてやくれず。
そのエロすらも、グラもリョナ描写も満足には程遠い。
まさに、最上級の戯画マイン。
……では、どうしてそこまでの特級呪物を差し置いて、
筆者は『星と乙女』を大賞に選んだのか。
一見、世間の評判も良く、百合風ノベルとしての部分を褒め称える声もネット上では散見される。
しかしコイツもまた、“クソエロ”ゲーとして見れば最上級なのだ。
理由はシンプルで、「エロ要素の入れ方がおかしい」、このたった一つの答えである。
しかしその上で、作り手の苦悩が生み出した「透明なエロ表現」、とも推測できる。
いまや、人種から性別までも多様性が叫ばれる時代。性のマイノリティーにもスポットライトが与えられる、そんな今。
エロゲーの竿役は、その「多様性社会」から逃げていいのか? そこから逃げずに、おセックスを表現するなら?
その苦悩の果てに、「竿役の個性を、極限の極致まで殺す」という結論に至った。
或いは、「今回も追加のエロシーンよろしくね、だけどイラストと声優雇うお金はケチるから(^ ^)」という上からの無茶ぶり故の特大ボーク。
このようにも、推測できないこともない。
ここで、あえて忌まわしい記憶を掘り起こそうか。
あの、戦場の宙を舞い、シリーズファンの心をブレイクした【新月の煌めき】を。
悪しき個性の塊とでも言うべきあの輩とは、『星と乙女』は全く以て違う存在でありながら、両者には全く同じ部分がある。
「竿役一つで、クソエロゲーになった」
という点だ。
ベクトルは全く逆方向のはずなのに。結果は恐ろしいほど一致してしまう。
これを“クソエロ”ゲーと言わずして何と言うのか?
ゲームとして、及第点でも。百合風ノベルとして、楽しめた部分があったとしても。
最後のトッピングで全てを、狂わせてしまえる。
あえて、いつぞやの『チーズ』へのアンチテーゼとして。
「クソエロゲー」としての、レベルが他者とは違っても。
「クソなエロ」の突き抜けっぷりで、コンパクトな箇所でもインパクトを残した。
このような理論ではあるが、挑戦者の、全く新しい、ステルスキルに敬意を表し
『星と乙女が占う未来』へKOTYe2023大賞の座を与えよう。
そして願わくば、作り手にもユーザーにも、
安心して眠れる夜が、過ごせる未来が訪れんことを。
23年度のKOTYeは、どうしようもない何かばかりが、まるでオールスター大乱闘の如く入り乱れ、
そのクソたちの中にも(何故そこでクソ要素を出す?)と思いたくなるような、斬新な切り口を披露するソルジャー達が存在した。
その一方で、業界の縮小傾向、並びに「ポルノ作品の入手の容易さ」が垣間見えるような、そんな閉塞感も、2023年度には漂っていただろう。
たびたび某所では総評動画の終盤を「哲学」とコメントする者が見受けられるが、
エロゲーの作り手や受け手、KOTYeスレもまさに哲学的な目線で、「エロ」と向き合わなければならない時間が迫ってきているのではなかろうか。
そう考えると、我々が迎えるべき「未来」とは? 業界の動乱は、決して「ゆっくりと動き」はしない。
それでも、今はあえてまだ猶予期間(モラトリアム)だと、笑いながらも全力疾走してやろうじゃないか。
クソと虚無とが漂う、未来に向かって、だとしても。
最後に。
『星と乙女』の題名にカケて、または業界の未来に対する不安や終焉の予兆を打ち砕く意味も込め、
とある音ゲーの楽曲
「BREAKING THE FUTURE」から、印象的なシャウト部分の一単語だけを差し替えて、
この総評の結びとしたい。
――We can take the “keeping” as long as we do it together!!
(我々が一緒にやる限り、保持し続けることが出来る)