15:総評2:2025/02/17(月) 23:53:29 ID:???0
巨星墜つ――
2023年のクソゲーオブザイヤーinエロゲー板(KOTYe)は、ファイナル戯画マイン『JINKI -Unlimited-』の炸裂によって終結した。
過去最多のエントリー作品群を吹き飛ばし、また一段クソの深淵を掘り下げる戦果を上げて、古参メーカーの終焉に徒花を添えたのである。
爆風が弔鐘を鳴らす中、「誰もが自律的に悲劇を語り、エロゲーへの不満を共有・昇華する」との誓いも新たに、住民たちは次なる戦いの舞台へと身を投じてゆく。
そこで待ち受けていたのは、昨年とは真逆の事態であった。
昨年の上半期は20本ものエントリーが殺到したのに対し、本年はまさかの0本。
つかの間の、とするには長い平和が訪れる。
その一方で住民たちは、まだ切られていない堰に溜まりゆく不気味な圧を感じとっていた。
沈黙が破られたのは8月半ば。
古豪アパタイトが3日間で4本のエントリーを成し遂げた。
アパタイトは毎月2本、年24本の超ハイペースでロープライス作品を出し続ける多産メーカーであり、中には佳作以上も含まれるため余計タチが悪い、模範的な地雷原である。
開幕を飾った4者4様の爆発を順に紹介しよう。
1発目は、アパタイト第250弾『ウチの妹はアナニーがお好き ~兄を想う妹とのアナル拡張性活~』
タイトル通りアナル一徹を貫き、そのこだわりは感動すら生むも、最後の最後でノーマルプレイに走って失望され、“The Last of Ass”のトロフィーを獲り逃した。
2発目は、第251弾『異世界チョロインは、いとも簡単に堕とされる ~あれ、ボクの彼女…寝取られちゃいました?~』
一昨年エントリーのゲテモノヒロインもの『イキ過ぎ異文化交流』の転生進化モンスターである。
異世界からの帰還についてきたヒロインの即堕ちNTRモノであり、悪い意味でタイトル通りすぎる。
冒頭の選択肢「派手なギャル」「外国人のような風貌」「魔王の手先」のいずれを選んでも、直後に完堕ち変体済みで登場。
本当に“いとも簡単に堕とされる”回想の後、ヒロインがステレオタイプなハイテンション下品モードでひと暴れしてBADエンドとなる。
さらに、3ルート走破後には隠し選択肢「この世の者とは思えない姿」が解放され、3種の変体先を統合した濃青肌の究極形態が降臨。
主人公はヒロインに同化吸収され、現代文明が滅ぶ。
「いや、本当に何がやりたいのか。私は抜きたいだけなんだが。」
とは、選評者の弁である。
3発目は、第253弾『ご主人様は妹ですか? ~Mっ娘好きの俺が、なんで妹のM男に!?~』
タイトルとあらすじから実妹からのM調教ものと察せられるが、それはごく一部。
選択肢でSM逆転や純愛、あてつけNTR等々、ロープライスの短い尺で属性がコロコロ変わる。
例えば、主人公が野外露出からの青姦で射精して気絶、その間に警察沙汰になり、自分だけ逃げた妹への復讐と称してM彼女を作り見せつけエンド、という展開まである。
まったく定まらない方向性に、プレイヤーは翻弄されるばかりであった。
締めの断撃は、第255弾『妻の面影残る娘に、疼く欲情 ~俺のモノで教えてやる!~』
レ○プされた実娘を見て性癖が開花し、追いレ○プからの調教が始まるド鬼畜モノである。
コンセプト通り調教性癖が目覚めていく様は、ロープラ抜きゲーの醍醐味と称賛されるも、一転、オチで地雷と化した。
すなわち、予測不能なタマヒュン事案の発生である。
最後の選択肢で「公園に連れて行く」を選ぶと、雰囲気が変わった娘による緊縛プレイからハサミでチョンされてしまう。
鬼畜モノの主人公が報いを受けるとしても、回避できる配慮は必要であろう。
突然の去勢は昨年にも発生したが、今回は強制かつ生々しく、衝撃で縮み上がった玉の数を想像するのも憚られる悲劇となった。
アパラッシュの撃ち終わりを待って現れたのは、アトリエさくら勢である。
昨年の9本エントリー後、焼き直しならばもはや扱うまでもないとする空気すら広がりつつあったが、事前情報はNTR風を維持しつつ中身は純愛マシマシのサイレント路線変更で注目を集め、参戦と相成った。
1作目は、『快楽堕ちさせられる義妹・実奈美 ~淫らな肢体は快感にイキ狂う~』
NTR成分は薄く、3つのエンディングのうち2つが純愛である。
冒頭、両思いながらも主人公が義妹との関係を躊躇するところから開始。
最初の選択肢で告白を受け入れると即純愛エンドとなり、間男の付け入る隙どころか登場する暇も与えず終了する。
拒絶すると義妹は傷心から間男と関係を持つが、未練を断ち切れず完堕ちしない。
そもそも、振った相手が他人と寝たとてNTRとは呼べまい。
次の選択肢で、主人公がヘタれて諦めるBADルートと、奮起して竿役から義妹を寝取る真ルートに分岐。
真ルートを良い話と解釈したとしても、NTR風要素は純愛のスパイスにしかなっておらず、本末転倒感が拭いきれないのであった。
2作目は、『ビッチになっていた俺の幼馴染について ~俺と真凛(まりん)とセックスフレンド』
そもそも主人公にヒロインへの恋愛感情がなく、腐れ縁の妹のようなものと断言しており、コンセプトとの乖離が甚だしい。
その後、ヒロインに複数のセフレがいることにショックを受け、流れで童貞を奪われて独占欲とNTR性癖を同時に自覚するややこしい展開となる。
どちらに転ぶかは選択肢次第ながら、真ルートでは独占欲が勝ってヒロインに説教じみた説得を始めるため、主人公が寝取る側となってさらにNTRから外れてゆく。
対して、ヒロインと竿役は「遊びたいので恋人は作らない、恋人がいるのにセフレと遊ぶと浮気になるから」というスタンスを貫いており、性に奔放ではあれど筋が通っている。
このため、主人公の方が自己中心的な邪魔者に思え、感情移入が困難なのである。
そして真ルートのオチは、竿役に恋人ができてセフレ解消という棚ぼたと、愛あるセッ○スでヒロインを寝取る相思相愛エンド。
いったい何をもってNTRとしているのか、謎は深まるばかりであった。
常連組の後には、著名ブランドからの意外な伏兵2作が、隠れずに堂々と姿を表した。
先んじたのはHOOKSOFTの『シークレットラブ(仮)』
学園生活の「バレない恋」を楽しむ秘密の恋愛ADVを称し、オープンとクローズの両ルートを用意するも、売りのはずのクローズルートがコンセプト崩れを起こしている。
というのも、共通ルートでヒロインたちは表立って主人公を奪い合い、共に過ごすと恋が実る伝説の文化祭を経て付き合い始めるのである。
そこから秘密の恋愛に繋げるのは無理があろう。
その無理を通すべく、クローズルートでは非選択ヒロインたちはあっさり引き下がり、モブたちは適当にごまかされると納得してそれっきり疑わなくなる力技が使われている。
これでは「バレない恋」というより、「見て見ぬふりされる恋」である。
しかも、バレない恋愛エピソードの引き出しが少なく、「人通りの少ない階段の踊り場でイチャイチャ」「デート中に知り合いとニアミスして咄嗟に隠れた物陰でイチャイチャ」といったイベントが、全ヒロインで使い回されている。
ヒロインが違うだけでシナリオの骨子が変わらないのでは、マンネリ感は否めない。
結果、これならクローズルートをクローズし、オープンルートに注力した方が完成度が高まるのではと、身も蓋もない総括が下された。
続いて、あざらしそふと+1から『僕と先生の個人授業2』も参戦。
教師であるヒロインが不眠症の主人公を案じ、夜間に別人のフリをして交流する物語のはずが、設定が十分に機能していない。
まず、ヒロインが教師にもかかわらず、教師の姿と夜間の変装姿とのギャップや、生徒との禁断の関係性が希薄である。
学校生活の文量は全編の5%程度と少なく、ヒロインの教師としての印象が薄すぎてギャップの生じようがない。
バレてはならない禁断の関係という意識も薄く、一線を越えてからは互いの自宅で寝泊まりを繰り返し、ヒロインが白昼堂々主人公の家に乗り付けてデートに向かうようになる。
Hシーンも、学内どころか教師姿でのシーンすらなく、教師と生徒に設定した意義がない。
また、不眠症とされる症状が深刻かつ頻繁すぎる。
連日まったく眠れずに苦しんだ末に副作用の強い睡眠導入剤を使うといった描写が多く、イチャラブに水を差し、物語全体に暗い影を落としている。
不眠の原因は両親を失ったトラウマであり、オチとしてヒロインが「ずっと一緒にいる」と約束し安心させてからの、寝かしつけックス中出し気絶で幕引きとなる。
一連の流れは「ああ…もう寝そう」といつものずっぷ構文集に加えられ、「中出し気絶部」と命名されて流行語大賞への道を邁進していく。
全体のクオリティは低くなく、教師設定を削除して年上彼女で通していたなら不満は少なかったであろう。
秋にはルーキーとベテランが対峙した。
先攻は、降って湧いた謎のメーカーMAYHEMのデビュー作『奈落ノ胤~堕淫調教SLG~』
公式サイトからして問題含みであり、調教対象の「彼女」と「従姉妹で幼馴染」を「従姉妹と幼馴染」と誤記載。
さらに、従姉妹を「処女、勉強、スポーツ、何を取っても非の打ち所のない完璧な女の子」であり「ドSな冷笑タイプで友達が少なくメンヘラ気質」と紹介し、矛盾RTAに挑んでいる。
また、パッケージ版は中身の入れ間違いで発売延期されており、内容以前の掴みだけでも話題に事欠かない有様であった。
話の導入は、謎の巨女によって主人公と2名のヒロインが異空間と化した屋敷に閉じ込められ、脱出には調教による性的興奮や絶頂が必要という強引なもの。
しかし、主人公は状況を超速理解して調教を受け入れ、彼女は3クリックで納得してしまう。
なお、両者は付き合い始めで互いに性経験はない。
SLGパートでは、毎日いずれかのヒロインに対し、体力に相当する「淫丹」が尽きないようコマンドを選び調教してゆく。
調教でヒロインのパラメータが変化し、調教の種類が増えていくシステムであるが、説明が不足しすぎているばかりか、失敗すれば理不尽なBADエンドが待ち受ける。
調教実行時のパラメータ変化量も淫丹の消費量も表示されず、各調教の開放に要するパラメータも不明瞭。
そのくせ、淫丹が尽きるとヒロインが突然死して即終了であり、しかも調教のレベルが上がると淫丹消費が密かに増えるため、予期せぬ即死が起こりやすい。
調教コマンドは19種類・各7段階と豊富ながら、いかにもな調教は少なく、キスや正常位などのノーマルプレイや、逆に触手・深界生物・精神破壊やら人体改造系など規格外なものが多い。
また、パラメータが上がると低段階の調教ができなくなるため、全シーンの回収には無駄に緻密な計算を要求される。
それでいて片方のヒロインのみに注力すると、通称「嫉妬がボンバー」が発生。
放置されたヒロインが、もう一方を殺害してBADエンドになる。
苦労してシーンを回収していくと、複数の調教にまたがるCGの差分使い回しが浮き彫りとなってゆき、回想のページによってはほぼ同じ画像で埋め尽くされる。
また、本作において調教は目的ではなく脱出の手段であり、パラメータの変動によってヒロインたちの性格や容姿が変わる要素はない。
調教の配分次第で結末が変わるのみである。
それらもろくなものではなく、前述の淫丹切れや嫉妬がボンバーのほか、ヒロインの片方を捨て置いて2人で幸せエンド、巨女と一緒エンドなど、いずれも後味が悪いか腑に落ちない。
ストーリーも同様に酷く、主人公は最大で三枚舌の風見鶏となる。
というのも、ボンバー回避のため両ヒロインを調教すると、巨女も絡んできて3人同時攻略じみた流れになるのである。
進行次第では、彼女と付き合いつつ、「そうだ、早月(従姉妹)と結婚しよう」と京都行き感覚で乗り換え宣言し、「二人のことなんてどうでも良い」と巨女エンドを迎える。
シナリオとシステムが渾然一体となってやる気を削ぐ一作ながら、Hシーン後の暗転代わりに主人公を気絶させがちな手法は「中出し気絶部」の再来としてもてはやされた。
新星を迎え撃ったのは、古参Calciteの『異世界娘と秘密のコンカフェえっち』
概要は、「AI生成かと思ったら~、違法風俗クソ客ストーカー事案でした~。チクショー!!」である。
AI生成画像が使用されていると見られるが、その画像の質に問題があり、立ち絵の切り抜き残し・ファスナー・髪の編み込み・背景に至るまで、細部のディテールが破綻していて違和感が拭いきれない。
タイトル詐欺もやらかしており、そもそも店のシステムがコンカフェではない。
コンカフェのキャストはウェイトレスかバーテンダーであり、接客は飲食の提供やカウンター越しの会話が主となるが、本作はキャストであるヒロインといきなり個室で二人きりになる。
完全に仕切られた個室でのボディタッチに留まらず、裏オプションで性行為まであることも踏まえれば、タイトルは『異世界娘と違法な接待営業店えっち』が適切であろう。
そして何よりも問題なのは、不快な主人公である。
おうちデートへの妄執をこじらせすぎており、丸出しの下心のせいで彼女に振られて機会を逃して「ちくしょーーーっ!」と人目をはばからず絶叫。
過去にも同じことを繰り返していることを思い出しつつ「ほんと……何が悪かったのかなぁ……」と自覚と反省のなさを露呈する。
かと思えば、おうちデートをコンセプトにした店を見つけてすぐさま機嫌を取り戻す。
店に入ってヒロイン1人目の接待時には、明らかな営業トークに「俺のことを分かってくれる」と舞い上がり、2人目では「俺に気があるよな……!」「俺でも落とせるかもしれない」とストーカー化するクソ客そのものの思考を垂れ流す。
3人目は勝手に好感度が上がるも、主人公への感情移入など望むべくもなく、クソ客が余計な成功体験を得てしまったおぞましさに身悶えるばかりである。
その後、主人公は妄執が抑えられなくなり、疑似ではなく実際におうちデートしてほしいと、段階をすっ飛ばして3人全員に同時に頼み込む。
その異様さは、プロ意識が高いヒロインが、接客中にもかかわらず「私達はお兄さんの恋人じゃない」とはっきり釘を差すほどであった。
さらに幕間では、有能すぎてパワハラされる俺つれーわムーブを「これじゃない感」などのふわっとしたワードで行い、別角度から嫌悪感の掘り下げに成功している。
本作は、クソの地力とは生成AIの利用云々など超越したところにあると知らしめ、さすがは常連の剛腕と称えられた。
クリスマスには、住民サンタがPurple softwareの『リップリップルズ』を投下。
ボリューム不足が顕著であり、フルプライスながらプレイ時間は10時間にも満たない。
こだわりのあったファーストキスを奪われた主人公が、犯人探しを始める話とされているが、そのテーマの回収が弱い。
犯人は体験版の範囲であっさり判明し、告白されるとあっさり受け入れて共通ルートは終了。
こだわりとは何だったのか。
また、真ルート以外の個別はワンパターンであり、デートとセッ◯スを何度か繰り返した後、ヒロインから幼少期に主人公に惚れた理由を聞かされるのみ。
しかも、これらは真ルートの前座でしかなく、すべて夢オチで終わる。
真ルートでは、もうひとつのテーマである7つの大罪にオチがつくが、またも期待外れ。
前座ヒロイン4人が1つずつ担当し、残りは誰に割り振られるのかと思いきや、主人公がすべて担当というまさかのダイナミック回収であった。
傲慢・憤怒・怠惰の不人気属性をヒロインに回さぬため、全部掛け持つ主人公の漢気には涙を禁じ得ない。
物語の骨子は上記でほぼすべてであり、肉付けは下ネタギャグに終始する。
オナニー時に2mジャンプした瞬間しかイけない性癖や、彼女の手料理は脇おにぎりが良い等バリエーションは豊富ながら、高密度な下ネタの連続は合わない者にはとことん合わないであろう。
公式ジャンルの「水面下ハーレム探索型ADV」のうち、水面下とハーレムは行方不明、探索要素はわずかであり、ほぼADVしか残らないと嘆かれたのであった。
予備期間に入ると住民たちはギアを上げ、三が日明けには縁の『だから私は魔法少女を辞めた』がエントリー。
一見オーソドックスな魔法少女凌辱モノながら、シナリオ構成が悪い意味で凝っている。
Hシーンが、謎の記憶としてぶつ切りで挿入されるのである。
プレイヤーの混乱を招いたのはもちろん、敗北した状態から始まるため戦闘シーンがほぼないという問題まで生じている。
後半でネタが割れると理解できるものの、驚きは薄く、上述のデメリットの方が大きい。
また、本作はボイスにも深刻な問題を抱えている。
演技力の問題に加え、音質が非常に悪いのである。
常時くぐもっているのみならず、陵辱シーンで叫ぶたびに高音が割れるのが耳障りであり、選評者をして「ミュートにした方がマシ」とまで言わしめた。
おそらく宅録を採用したことが原因であり、「だから私はスタジオ収録をやめた」と揶揄されるのであった。
次いで、あざらしそふと+1第二の刺客『夢幻のティル・ナ・ノーグ』が異世界から来訪した。
導入のあらすじは、「妖精の血を継ぐ幼馴染との再会をきっかけに、ゲートを通して行き来できるようになった異世界の島で冒険に乗り出す」というもの。
しかし、その冒険とやらは視覚的にも内容的にも変化に乏しく、しかも冗長である。
無人島であるため異世界ならではの人物や建物がなかなか見当たらず、異世界生物を見つけてもCGがなく表示されない。
背景も、最初はただの海辺と森の中しかなく、港町の跡地を見つけてもCGはなく、森を抜けるとXPの壁紙のような草原がお出迎え。
安全もほぼ保証されており、異世界冒険のワクワク感は皆無である。
CGの不足はこれ以降も目立ち、重要人物に立ち絵がないせいで、延々と背景だけが表示され続ける場面も多い。
また、文章量確保のためにメタ自虐や天丼が多用されている。
グダグタ展開の最中にグダグタを自称し、ことあるごとに「一体いつから錯覚していた?」と発言しては「天丼が過ぎる」と返すのがお約束。
島の謎を解く手がかりである手記も、多量の下ネタで水増しされている。
冗長極まりない共通ルートの先に待ち受けるのは、突然かつありきたりなシリアス展開である。
交通事故・多重人格に記憶喪失・心臓病、と無駄に重く、空気が急に変わりすぎて温度差が激しい。
挙句、ご都合主義能力やら普通に手術やらであっさり解決するため拍子抜けは必至。
美点もあるだけに、そこに至れぬ脱落者を量産しそうなグダグダ天丼構成が惜しまれる。
そして締切間際の1月末には、前々から話題には上りつつも選評が届かずにいた3作が、ジェットストリーム滑り込みを果たす。
まずは、ninetailがでっちあげた鋼の竜騎兵『GEARS of DRAGOON 3 ~竜刻のレガリア~』が、シリーズの歴史に反逆を試みた。
2度の延期を経てなお未完成感は否めず、発売1ヶ月後のver2.00パッチで一応の完成を見るが、いまだ十分な仕上がりとは言い難い。
ハクスラRPGを謳いながら、あらゆる面でテンポが悪く、UIも操作性や視認性に欠けている。
そのため、「戦闘→アイテム獲得→スキルや装備の強化→より強い敵との戦闘」のサイクルが多角的に阻害され続けるのである。
戦闘にはスピード感がなく、演出オフの最速設定でももたつく。
マップ移動ですら、スムーズには行えない。
マウスでの移動は、ワンクリックでの行き先指定はできず、1マス隣をクリックし続けるか、ドラッグ&ドロップを要する。
キーボード移動もWASDのみで、キーコンフィグは不可。
パッチを当てていなければ、キーボード移動自体が不可能である。
移動時に、すごろくのように1マスごとに停止するのも煩わしい。
これについて、戦闘リザルト時に主人公が「ここで立ち止まるつもりはない」と煽ってくるが、なら立ち止まるなと返すほかない。
スキルは、前提スキルを取得しないとツリーの先が見えず、取得計画を立てづらい。セット済みのスキルが強調表示されないため、付け直す際も不便である。
装備画面も使いづらく、装備可能アイテムだけを表示することができない。
アイテムアイコンにマウスオーバーして確認する必要があるが、オーバーレイではなく僻地に表示されるため、無駄な視線移動が頻発する。
しかもアイコンが小さすぎて見づらい。
自動装備機能もなく、頻発するキャラ離脱と再加入のたびに手動での再装備を強いられる。
クエストは、マップに入るとボス撃破まで途中退出できず、詰まると過去データからのやり直しかレベリングを強いられる。
クリアしたクエストへの再入場はできず、パッチ前はフリークエストすら存在していなかったのである。
ソケットに嵌める強化アイテムにしても、クエスト中は着脱不能であり、ドロップ品のその場でのセットや、敵に合わせた最適化もできない。
おまけに、バフ・デバフ・パッシブの説明はExcalのような画像でみっちり8ページに及び、検索やジャンプによる直接のアクセスはできず参照しづらい。
バランス調整も甘く、大々的に喧伝した主人公の変身システムからして使い物にならないことから、レベルデザイン能力そのものに疑念を抱かれた。
RPG部分はとにかく作りが荒く不親切であり、プレイ時間に比例して徒労が積み重なってゆくのである。
ストーリーは、RPG部分に比べればまだ上出来といえようか。
ただし、倒しては逃げられ死んでも蘇り幾度も戦わされるライバルキャラの異常なしつこさと、問題を根本的に解決せず先送りにしただけにも見えるエンディングには不満が残る。
「ラウンド経過でボスが地面にめり込んでいく」や「挿入直後からBGVだけテンションMAXになる」といった笑いどころも作ったものの、焼け石に水。
これがあの九尾の現在地かと、プレイヤーは竜刻ではなく慟哭するのであった。
次なるは、『PureCafe ~癒やしのカフェに通い詰める、僕の地方転勤生活~』
一昨年大賞、昨年次点の強豪WendyBellの新作ゆえ、発表当初から注目を集めていた。
にもかかわらず選評が遅れたのは、挑戦者が新手のリアル・キング・クリムゾンに阻まれ、一時撤退を余儀なくされてしまったからである。
すなわち、この作品の前ではすべての感情は消し飛び、プレイヤーは物語の内容を覚えていない。
感情の消し飛んだ世界では時間はすべて無駄となり、つまらなかったという結果だけが残る。
この能力の謎を解き、作品の正体を掴まぬ限り、選評を書き上げることはできない。
それを、二度の撤退を経て三度目の正直を掴んだ挑戦者と、助太刀に入った者の両名が成し遂げた。
明らかになった問題の本質、それは「無感動」である。
ストーリーには起伏も緩急もフックもなく、心理描写もなく、さりとて手抜きでもなく、ダダ滑りしているわけでもない。
描かれているのは、架空の田舎の「夢のないもっともらしさ」
田舎すぎず都市でもなく、持ち上げるでも馬鹿にするでもなく、社会問題に鋭く切り込むでもない、リアルに基づいた悲観寄りの田舎あるある。
それを軸に、変わり映えしない日常における、ヒロインたちとのちょっとしたイベントが織り交ぜられている。
人口減少と高齢化・産業の衰退・インフラの老朽化の具体例が雑談として語られつつ、買い物やデートといえば隣町の"イヨンモール"といったささやかなお出かけと施設の紹介を淡々と綴る話は、心を踊らせも逆撫でもしない。
そして主人公と2人のヒロインは、物語を内包していない。
それぞれの過去・抱えている問題・人間関係・成長などの要素が、ほぼ描かれないのである。
唯一、都会に出るか地元に残るかの悩みは両ヒロインにかろうじて存在するが、掘り下げは行われない。
個別ルートは、悩むばかりで進展がないまま、何度かデートを重ねるのみ。
そのうち主人公が解決策を提案すると、数年後に飛び、それなりに幸せになりましたというエピローグがさらっと流れて終わる。
都会エンドと地元エンドの分岐はあれど大差はなく、ウェイトレスのヒロインであれば、主人公と都会に出てそちらの喫茶店で働くか、主人公が田舎に残って助力することで実家の喫茶店が存続するかといった程度。
終始つまらなさで満ちているが、それゆえに浮かび上がってくる粗だけが、わずかに心動く要素である。
喫茶店の常連さんたちの引っ越し先が天国か病院。
就業時間中に社用車でヒロイン2人と2回ずつデート。
夏祭りで告白が成就すると永遠に幸せになれる伝説の神社で、告白後即青姦。
職探しに行く場所は遊園地や離島。
主人公の自室は逃亡犯の潜伏先のように殺風景で、家具を買っても変化なし等々。
また、エロワードにはこだわりがあるのか、「剛棒」「肉筒」「そそり勃ち」、 「愛の雫」「愛のエキス」「愛の液体」「快感の証」「白き流れ」等、無駄に熱いパラフレーズが飛び交う。
こうした要素はプレイヤーの意識と精神状態を保つのに貢献するが、泥沼に投じられた小石のごとく、波紋を起こすこともなく静かに沈み消えてゆく。
かくして本作は、田舎あるある・進展しない悩み事・お出かけ・粗をバランスよく配置する巧みな構成により、調和の取れたつまらなさを終始維持してのけた。
最後に、失踪した選評者の遺志を継ぐ者により、まどのそふとの『セレクトオブリージュ』が解体された。
問題点は、またもコンセプト崩壊である。
「学園生活X成り上がり」を掲げ、あらすじは「スラムに生まれ育った主人公が、完全アウェーのハイ・ソサエティで 生き残りと栄光を懸けた日々に挑む」、ポイントは「身分違いの恋・カタルシス・豊富なH」ながら、豊富なHを除き形骸化している。
まず、身分が違うことによる障害がほぼ描かれない。
華族の当主で学生会長、武術に長けたエージェントで運動部総括、天才エンジニアで文化部総括と、仰々しい設定が並ぶヒロインたちは、共通ルートも終わらぬ間に主人公へと信頼を寄せる。
うち1人は個別前に告白してくるほどである。
結果、ヒロインたちの絶大な権力や武力は早々に味方として振るわれるようになり、「様々な困難を乗り越え、栄光の階段を駆け上がる」との売り文句に「※ほぼヒロインの力で」と注釈がついてしまう。
その力も、いかに得て、どう発揮されるかの描写がなく、結果だけが示されるため説得力がない。
ときには、主人公の預かり知らぬところでこういう経緯があった、という伝聞が数行で記されて最終的な解決をみる。
唯一エリート側ではない妹分のルートは、妹分そっちのけで「男3人による起業」が描かれる謎展開と化す始末。
そもそも、キャラゲー寄りの作風で、ヒロインを権力側に置いて主人公の成り上がりを描くのは難易度が高い。
高慢すぎればヒロインの魅力を損ない、チョロすぎればコンセプトにそぐわない。
その答え無きまま創作に挑んだ無謀が招いた惨状であった。
以上で今回エントリーを果たした全16作品の紹介を終え、結果発表に移る。
次点は、
『奈落ノ胤~堕淫調教SLG~』
『GEARS of DRAGOON 3 ~竜刻のレガリア~』
そして大賞は
『PureCafe ~癒やしのカフェに通い詰める、僕の地方転勤生活~』
とする。
2024年のエントリー数は16本に留まり、昨年比で50%減となった。
とはいえ昨年が歴代最多エントリーの異常事態であり、むしろ落ち着きを取り戻したといえる。
傾向として、コンセプト倒れの作品が目立ち、「面白そうな設定」と「面白い作品」の間にある壁の高さを痛感させられた。
中には、創作理論を根本から誤り、物語やゲームとして破綻寸前の作品すら見て取れる。
個性的ではあるものの、インパクトのある欠点を持つ作品が少なく、「静」の傾向が強い年であった。
飛び抜けた強者が不在の混戦から僅差で抜け出したのが、次点以上に入賞した厭世三強の面々である。
調教しづらき調教SLG『奈落ノ胤』
ハクスラしづらきダンジョン探索RPG『GEARS of DRAGOON 3』
心動かぬビジュアルノベル『PureCafe』
ジャンルが異なる三者三様の三つ巴戦の勝敗は、基準次第で変動しうる。
完走までの精神的苦痛の総量で比較するならば、プレイ時間が長くなるRPGとSLGの両名いずれかに軍配が上がるであろう。
されど今回は、未知を切り開いた新規性と独自性をもって『PureCafe』を大賞とした。
「徹頭徹尾つまらない」
これまで履いて捨てるほど見てきた特性のはずが、実際にプレイした者の体験談は住民たちの好奇心を刺激し、質問や考察を次々と誘発。
つまらなさを語っているにもかかわらず、詳細を知りたい、同じ目にあってみたいとすら思わせる。
特異点を超えて性質が転換する「クソのシンギュラリティ」に到達したのである。
従来、そこに至れるのは、見栄えのする「動」のクソのみと考えられていた。
しかし『PureCafe』は「静」のスタイルでそれを成し遂げてみせた。
量を確保しつつ薄さを極め、題材・構成・あらすじ・表現すべてを感情の動かぬように設定し、夢のないもっともらしさを丁寧に書き連ね、嘘のないつまらなさを空前の高純度で具現化する。
拙く短いだけのゲー無には決して成し得ぬ離れ業で、「夢のある嘘」たるべきエロゲーの理想像から、遠くかけ離れてみせたといえよう。
以上の理由で、『PureCafe』を2024年の「一番のクソゲー」に奉る。
とらえどころのないつまらなさを形にする難行が一段落した今、改めて思いを馳せる。
「人はなぜ選評を書くのであろうか。」
その動機は様々あろう。
使命感や責任感、探究心に好奇心、不平不満の解消、自己表現や共感・承認の欲求、エロゲー愛の裏返し――
これらが複雑に絡み合い、人を選評執筆へと駆り立てる。
そしてその目標は、エロゲーにまつわる怒りや悲しみの前向きな発散であり、理念である「笑いへの昇華」にまで至るのが理想である。
もともと笑える要素がある作品ならば、欠点も伝えやすく、選評執筆の苦行性は緩和されよう。
直感的・表面的に理解しやすい矛盾やバグは、説明要らずで共有でき、共感を得やすく話題にもなりやすい。
手軽で即効性も備えた笑えるクソゲーは、KOTYeの華である。
反面、抽象的でわかりにくい欠点は、説明が難しく共感が得にくいため、笑いへの昇華は困難を極める。
それでもなお自ら苦難の道をゆく者に、先程の質問を投げかければこう答えるであろう。
「そこにクソゲーがあるから」
遭遇してしまったからには伝えずにいられない、因果な本能である。
そして困難は成長の機会でもある。
作品内容の把握と伝達が難しいほど、本質を掴む批評眼、論理的な分析力、柔軟な思考力、多様な表現力が磨かれてゆく。
そうして数多のクソゲーに挑み鍛えられてきた者たちこそ、いうなれば千差万別なクソを浴びて肥えた土であり、笑いの華を咲かせるための礎なのである。
挑戦者たちの苦難が、その足跡としての選評が、どこかの誰かに希望として伝わっていくことを希う。
最後に、キング・クリムゾンを打倒した主人公の台詞を借り、KOTYe2024の結びとする。
「『選評』とは………………復讐の心ではないッ!
『選評』とは!!暗闇の荒野に!!豊饒の大地を切り拓くことだッ!」