たくっちスノーは実を言えば事業をして疑問に思うことが多い。
時空の危機のために善人を目指し始めたら、途端に自分は慕われるようになり褒められるなんて初体験も出来た。
その一方で黒影は空回りして変なことばかり言い出して市民から受け入れ難い存在になっていった。
その様子を咎めたりもするが、その一方で考えることもある……『自分が仕事の成果を横取りしているのではないか?』という気持ちだ。
時空という存在の絶対的な主人公
シャドー・メイドウィン・黒影と、それに立ち塞がる史上最悪のライバルたくっちスノー。
時空はこのバランスで成り立っていたのだが、たくっちスノーは時空崩壊を防ぐため善人になる道を選び……そのバランスは一気に崩れた。
たくっちスノーが善人になると逆に黒影は悪人扱いされてしまう?
黒影が悪く言われるのは嫌だ、確かに黒影は相手して問題あるところばかりだったが自分が
時空犯罪者だった頃はもっと慕われていたような気がする。
たくっちスノーの理想としては局長・副局長が揃って慕われること、それが
時空監理局の未来になる。
「……んでだ、問題はそれ以外にもだ、レッド……長年英雄として見てきた人間からすれば黒影と同じか、これでも自分なりにいい奴になろうと苦労してたんだけどなぁ……ヒーローは厳しいな」
「……そうだな、今度はゴクレッドとして話したい、アンプルを貸してくれ」
「ああ、オレが管理してる」
マゼンタが薬を打ち込み改めてかすみはゴクレッドの姿に戻ってさくらの隣に座りまるで三者面談のように恋の様子を語る。
いや、これはもはやさくらのコンプレックス解消とかそういう次元の話ではない。
レッドは感じる……本格的にゴッドイベントに足を突っ込み始めたことを生で感じ取る。
ゴッドイベントでは関係者以外は関わることも出来ない、隅に追いやられるようにベビー達は眺めることしか出来なくなっていく。
「時空と世界で生きる人間には……なんというか、大きなズレがあるんだ、監理局に限らずメイドウィンも含めてだ、新時代で気軽に時空を超えられるようになった俺達にとってこのズレは深刻な問題になっていくことだろう」
「ズレ……うん、理解する必要があるな、そのズレというのはまあ察せられる、付き合いも長いからね」
「どういうことですか?」
「この世界を守り続けてきたのは?時空という見えもしなかった概念に居座り、コントロールという形で傍観を続けて都合良く手を伸ばした監理局か、本を通して歴史を作ってきたメイドウィンか?そして……その中で実感した歴史、数百年の中で実際に世界を生きて守ってきた俺達現地人か?」
「…………誰がこの空間を成り立たせてきたか、メイドウィンと監理局も昔からそれで対立することが多かったよ」
「でも実際の答えは……作ったのは監理局とメイドウィンの頂点、黒影……私達としては一番どうにも良く分からない人ですよね」
「それはまあそうだ、監理局は以前はサポートに回ることが多かったからな……」
時空犯罪者だった頃のたくっちスノーは事件を起こした際に監理局が派遣されて時空案件を解決、一番の脅威であるたくっちスノーを黒影が撃退。
その為歴史に残るのは現地人であり、監理局は影として積極的に関わらない。
黒影とたくっちスノーの戦いを除いて……ということになっているが。
「待った」
なんと外部から声をかけてきた。
その声の相手は……シエルだった。
会議室はコントのセットのようにバタンと倒れて劇場の席でスポットライトを浴びてゴクレンジャー一同(グリーンはイエローが遺影持っている)や桃の園一同、コバルトや巡まで待機している。
ゴッドイベントが盛り上がっていくのを感じたミスティーローズはレッドの間に現れて膨れ上がる
はじまりの書を見せる。
ゴッドイベント開催!!と大きくネオンで輝いて世界がぐるぐる大回転。
たくっちスノーは桃の園特別講師として、時空監理局として共存していくためにこの答えを探る。
そう、今回『桃の園』世界が辿ったルートはシエルにとって妥協を交えながらも最も理想としている流れ。
時空で生きていく上で必要なのは正確な情報と結論。
『時空共存ルート』開幕である。
「先生、今度は私達が貴方を指導すると生徒一同気合い入っています」
「御手柔らかに行く必要はない、僕らにとっても必要なことだ……exe!田所!」
「んじゃ俺達も」
席に立って質問に答えるたくっちスノー達、舞台の主役というよりは記者会見みたいだ。
まあ、たくっちスノーにとっては記者会見なんて慣れたものではあるがここに黒影がいないのは寂しいものがある。
「まあ……黒影が関わってこないうちに私たちもはっきりしたもと聞きたいのがゴッドイベントの目的だし」
「さて改めて、そういう立場として質問にしっかり答えていかなければね、聞きたいのは?」
「この情報……正確か?」
「え?」
「新時代以前、たくっちスノー先生が悪だった頃から監理局が私たちのような世界の人々と協力して事件解決していたという情報、よほど隠蔽技術が上手いと見た……まるで存在していなかったかのように」
「何も珍しいことじゃないでしょ?フィクションでも混乱を防ぐために基本は介入せずなんて作品は結構ある、君らが認識していないだけで……」
「では監理局の人間は全て覚えていると?ましてや先生、貴方は過去の犯罪の殆どに関わった存在」
「自分一人が時空犯罪者じゃないがまあそうだな、しっかり覚えているよ……といっても、シエル達にそれをどうやって証明すればいいんだ?ミリィ」
「じゃあ聞くけど桃の園世界に犯罪者だった頃に来たことはある?それこそさくらちゃん入学前、ゴクレンジャーが現役だった頃に」
「あーー、ある、あるんだけどさ……ゴクレンジャーって5人揃うこと滅多にないだろ?その時に参加してたのって……先代ブルーとグリーンなんだよね」
「オレのおやじか、グリーンはああ見えて年長者だったからその時から居たと聞いたことがある」
「え?たくっちスノー先生が時空犯罪者として暴れるくらいだったのにレッドさんが出撃してないんですか?」
たくっちスノーの言う通りゴクレンジャーは戦隊にしては珍しく滅多に揃わない、エレボスの真実の事を考えると当然のことではあり5人揃えばニュースにもなる。
しかし時空案件こそそれこそそのレベルの規模の事件になってもおかしくないはずだがゴクレンジャー通のさくらはたくっちスノーのことを全く覚えていない。
レッドに気付かれることもなく黒影が倒したとしか成立しない……。
「えーっとレッドでも分かるように言うと……エレボライト事件」
「あーっ!!それは知ってます!!25年前!エレボスの力が込められた鉱石を狙うエレボスとゴクレンジャーの大決戦!映画にもなりましたよねえ!?」
「僕は聞いたことないな……」
「自分もエレボライトが目当てだったからな、時空犯罪者だった頃は
マガイモノの研究を重視していたからどうしても欲しかったんだよ、手段を選ばずにね」
「それってどうなったのさくらちゃん」
「エレボライトは結局破壊されたんですよ、怪人に移植されてA級並みになりレッドさんの逆転勝利!」
「……その際に先生は黒影に倒されたと」
「まあそんなところ、ほらちゃんとあるでしょ?エレボライトの事だけしっかり残して映像媒体にも残……」
「今更だけどエレボライトを作ったのはメイドウィンの独断でいいの?それとも監理局の命令?」
「えっ急に私!?」
質問の矛先が急にメイドウィン側に飛んできたので驚クミスティーローズ。
イベントの問題点はむやみやたらと付けられるが怪しまれることもある点だ、エレボライトはエレボス細胞やウイルスの事を考えると突然変異でも現れるのはおかしいのだ。
ゴクレンジャーが徹底的に監理や監視しているというのにここまでのことが起きるわけがない。
となると……時空から来た人間がエレボライトを横流ししたか、メイドウィンがそういうイベントを考えたかしかないが。
「……ミスティーローズって黒影からはじまりの書の扱いどう言われてた?」
「私は別に好きにしていいって……桃の園に花岡さくらが入学さえしなければ……」
「え?私?」
「やはりそうか……」
「なにか分かったんですかゴクレンジャーの皆さん!!」
「時空というものは他世界を媒体作品として認識できると俺は聞いているんだぜ、アニメやゲームも実際に存在しているんだぜ」
「即ち、物語も現実でありそれを救うことが立場であるならば……更に言えば黒影は率先して彼らを救うことが趣味であるならば、疑問が生じる」
ブルーが手招きすると、ベビーが大量の漫画を担いでくる、その全てが
リアルワールドでも覚えのある単行本であり人気作品だ。
一つ一つを手に取りながらブルーはたくっちスノーの方を見る、たくっちスノーもマンガを広げられるとついつい読んでしまう悪癖があり夢中になる。
「たくっちスノーが管理している世界『リアルワールド』でも公開されている世界の本、これを例えに使わせてもらうが……イエロー、質問責めは任せた」
「世界を安定させることが監理局の仕事?その為に自分から悪いことしたり放置するというのは正直ヒーロー組織のやることじゃないんだぜ、建前でも人を救うって言うべきなんだぜ」
「言いたいことは田所が受け止めるから、こいつマシンガントークをのらりくらりとかわすの得意だし」
「は?(威圧)」
「なんでこいつらを救ってやらなかったんだぜ?神様なのに、何でも出来るのになんでやらないんだぜ?黒影様の手を持ってすれば」
【鬼滅の刃】では炭治郎の家族は殺されず禰豆子は鬼にならなかった、【呪術廻戦】では虎杖悠仁が宿儺を呑み込むこともなかった、【ガン×ソード】ではエレナが死なないで済んだし【ダンガンロンパ】は絶望的事件が起きることもなかった、【機動戦士ガンダム】は連邦とジオンの戦争を個人で止められるし【スーパーマリオブラザーズ】はマリオいらずで一瞬でピーチ姫を助けられる……例えに出すとキリが無いので大半省略したが、
結末のない物語といえど早急にことが起こるまでに助けられたはず、ましてや黒影は
リセットという単語を使ったこともある。
それなのに現実はというとかなり大混乱。
実を言えばミリィも同じ疑問を抱いたことがある、世界を解決するにしてもそうやって問題を払拭しておけばコネ作りなどで有利になるはずなのに……!
「俺はこれをはじまりの書のルールにあると推測している」
「る……ルール?」
「そう、いわゆるマンガやアニメで言う主人公、はじまりの書は絶対に主人公となる存在を軸として進めなくてはいけない……黒影はそれを知っていると見た、何が何でもそれは撤回できない」
「主人公を消すってのは?」
「その程度の発想とっくに試しただろう、そして失敗したと見た」
「!!?」(す、凄い……3週目の出来事までなんとなく把握した!?)
はじまりの書は黒影でも完全に掌握出来ない、ゴッドイベントを扱いきれてないのもそうだが一度動き出した主人公を止めれないのもその一環である。
だから黒影は後から便乗して動かざるを得ない、必ず主人公は一定の活躍をして何個かのゴッドイベントを済ませてしまう。
たくっちスノー達が普通に手を貸せばコンプリートまで到達するように、彼らの力は絶大。
メタ的に言えば彼らは経験値4週目でとてつもないパワーを持っているのに対して黒影は2週目の力を又借りひているので出力に差が出るのは当然だが気付くわけ無い。
つまり、花岡さくらが災害に巻き込まれてエレボスが台頭して女嫌いになるのは、止められない。
「そうか!分かった、分かっただべブルー!!黒影が時空を未完成って言ったのは!ゴッドイベントの発生をたなるべく止めてえと言ったのは!!はじまりの書を扱いきれてねえ!黒影は完全に本の流れをコントロールして時空の話の流れを完全に掌握し、思い通りの話を作ることが目的だったんだべ!!!」
「な、なんだってーーー!!?」
コバルトの衝撃的な仮説によって一昔の予言漫画みたいなリアクションをしてしまうシュンヨウジャー一同。
たくっちスノー達も正直そんなことありえるのか……?と狼狽えているが、コバルトの発言はまだ止まらない。
「と、ここで一旦レッドが言いてえ事まで話を振り替えるべ、さくらちゃんとたくっちスノーセンセの恋愛模様を受け入れ難いと感じたのは黒影とたくっちスノーの善行悪行が鏡合わせになっているように一致して信用し難い……それの答えだかシエルちゃんばもう分かってきたんじゃないだか?」
「……ああ、ある意味では先生にとっては救いにもなるが無慈悲にもなる答えだがな」
「どういうことだ?」
「黒影の善行も悪行も全て本物じゃない、いや……結果的にそうなっているだけだが本気ではない、簡潔に言えばどちらにしてもただの『キャラ付け』で完結している故の薄っぺらさだ」
「つまり黒影は……どっちにしても本気の感情を見せていない?」
「まるでシャドー・メイドウィン・黒影という男を演じているに過ぎない……シエルちゃんはそう言いたいわけだべ」
「!!?」
ミリィはもう動揺を抑えきれない、善も悪もどちらの感情もまるで表面上で真意が見えてこない、ゴッドイベントの時の態度も焦ってはいるのだろうがそこで見せる口ぶりやたくっちスノーへの対応からしてまるで誰かのマネをしているように歪だったという。
もしアレが素だとしたら感情が乏しい精神異常者だ。
……下手したらこいつら、
カーレッジ・フレインのことを真っ先に見抜くのではないのか?たくっちスノーはとんでもない世界で教育を行い情報を広げすぎたのだ、間違いなく。
「つ、つまりは……黒影にはあの態度も誰かのエミュであり、これまた別の本性が秘めていると?」
「そうですね、それが先生の望む聖人君子の英雄なのか醜悪な化け物なのかはまだ誰にも分かりません、しかし黒影が誰かの真似をしているように見えたというのがシエルさんの答えです、もしかしたらアレは元々黒影じゃないのかも……」
「ああああ〜〜〜ッ!!!やめなさい桃の園!!!」
「み……ミスティーローズ?」
ミスティーローズが叫んだ、普段おどおどして陰キャムーブしている彼女がまるで触れてはいけない領域から引っ張ったように止めにかかる。
しかしその反応こそがシエル達が求めていたもの、まだ状況証拠に過ぎない黒影という存在に対しての、同等の神様によるお墨付きの答え合わせであった。
メイドウィン達は黒影と接するうちに黒影の真実に遅かれ早かれ気付くのだから。
ミスティーローズもこの発言の直後、ミリィの顔などを見て自分がハメられたことに気付く。
「わ……罠に……かけたの……メイドウィンを……!!」
「ああ、はっきり言って神に喧嘩を売るなど冒涜的な行為だが先に近づいてきたのはそっちだ、土足に上がるなら泥をかけられることを覚悟しておけ」
「な……なんてこった、まさかメイドウィンにここまでやるやつがいるなんて、というかよくやろうと思ったね君等!?」
「当然です、我々は桃の園で育った戦隊のピンク!後手に回りサポートと諜報を武器にして平和を導く!これはこの世界では私達女性しか出来ない、誇り高い役割です!!」
ピンクはレッドになれない?だがピンクは何も待遇が悪くぱっとしない仕事ではない。
ゴクレンジャー達が世界を守る際、ピンクが必要無かった任務はどこにもない、教えられてきた技術は決しては無駄ではない。
桃の園に生きる全員がこの学校で覚えたスキルを存分に活用したからこそ……このルートをここまで進めて、メイドウィンの予想すら超えた真実へと向かおうと足を進められた!
「……なるほど、僕でも知り得ぬ黒影の真実か……やばい、やばいなさくら君!!最高だよ君は!!そんなものがあるなんて知ったら久しぶりに時空犯罪者として燃えてきちゃうじゃないか!!」
とんでもない情報漏洩なのにたくっちスノーは闇のような笑みを浮かべる。
こういう状況でも余裕が崩れないどころかより燃えてくるのは覚えがある、何が何でも屈しないまさに主人公像、ただしその姿はどうにも不確定で不安定。
「……そうか、そういうことだったんですね、たくっちスノーさんも真似をしていたんですか、貴方にとって一番近しい英雄を」
「ああその通りさ、僕は善人になる上でこう考えるようになった!『自分の知る黒影ならこうするだろう』それをモットーにして生きていた……その結果はすごいぜ?マジで黒影みたいに慕われるんだからな!」
「しかしこの結果は真似をしている人物の真似をしていたと、それがレッドさんに見えた歪さの正体……紛い物の感情」
「ふっ、ひへへへ、これでも作り笑いから卒業したんだけどなぁ……真にトラウマを解除すべきは僕だったか?ああ愉快愉快!まさかよりによって戦隊ヒーローのピンク共に!それも手塩にかけて育ててきたチワワに手を噛まれるとはな!!時空犯罪者だった頃でも清々しい気持ちになってきそうだ!!」
たくっちスノーの爆笑は止まらない、ストレス解放によるハイか?久しぶりの悪が正義に負ける瞬間による高揚感?それとも満足のいくヒーローが生まれたことによる……満足感?
一つ言えることは。
「さくら君!!こんな中で改めて言わせてもらうよ!僕はやっぱり君が好きだ!!ゴッドイベント達成だ!!」
「……でしたら、やっぱり私と結婚してください先生」
「人の話聞いてたかこのバカチビ共がァァァ!!!」
最終更新:2025年08月06日 23:03