監理局壊滅直前

時空監理局……それはあらゆる並行世界を繋ぐ時空に存在する、全ての規律を司り、秩序を守る組織。

その部署の一つ……『紅蓮隊』。

やりたい事しかやらない監理局達に放置される資料以外の雑用をこなすが、その実態は時空監理局局長代理で過去に最悪の犯罪者と言われた『宅地雪』に復讐とは裏腹に逆恨みばかりの問題児しか居ないプチ前科者集団である。

宝石が無い世界で宝石と偽って詐欺行為を行っていたヤマタニ。

女に飢えた世界でパパ活行為で大金をせしめていたチェリー。

武術を極めようとしてその際に色んな意味で必要のない犠牲者を増やしたロンギヌス。

そして単純にクソ不味い団子を売りさばいて集客力で負けたアマツキ。


たくっちスノーが関わってはいるが、問題は当人の自業自得。
局長代理時代になって未だに犠牲者!犠牲者!などと言ってるような人間などそんなものである。

何せ、真剣に被害を打ち明けた人々は精神的ノイローゼで既に皆参ってしまったのだから。



………

新人の月影はサークルクラッシャーである。
単純な言葉で人間関係を崩壊させてしまうことから部署を雑用と一緒にたらい回しされ、いよいよ紅蓮隊でも倉庫と一緒に置き去りにされてしまった。


「あー………」

特に恨みのない月影は復讐には興味がなかったが、普通の仕事さえさせてもらえず
、倉庫の雑用も途中で放り出されてしまった。
「どうしよう……私、せっかく田舎から来たのに」
一人で呟いた後、しばらく時間を空けてから何故こんなことになってしまったのか考え、
月影は何の役にも立てていないからという結論を出した。

「そうだ!私が素晴らしい研究をすれば、皆が認めてくれる!」

「月影さん?一体何を?」
突然閃いたように声を上げると、彼女はその勢いで走り出した。
……
新人の月影は形だけの肩書きで与えられた仕事は特にない。
だが幸いにも、彼女には時間だけが大量に残っていた。
何のノウハウも無い人間が一から大きな大発見をするなど無謀に等しいが、1%でも上手くいくだけの余裕は充分にあった。

「ふふふ、見てなさいよ!私はいつか世界を救うんだから!」
月影は楽しそうにそう宣言し、自分の研究室に戻った。
そしてすぐに研究に没頭したのだった。
3ヶ月後、新人の月影はようやく形になった新薬を発表した。
それは従来の素材に特殊な成分を加え、特殊な機械で調合した薬だった。

「ついに出来た……これで皆を救える!でも、ここまで来るのは本当に大変だったなぁ……」

完成した薬を手にしながらしみじみとして、眺める。

月影は早速その薬を使う為に、宅地雪の居る局長室に向かった。


(ココ最近は精神的に疲労してるし、気にされず薬を入れられる)

月影は最近雪が使用する紙コップに、薬を混ぜた。
数分後……『それ』が起こった。


薬を飲んだ雪が、ぴくりとも動かず倒れた。


「局長代理、局長代理!!」


「局長代理………」



「ついにやりました!!」

倒れた宅地雪と月影の周りから次々と白衣を着た者達が集まってくる。

「遂に成功したのか!!」

「素晴らしい!君の出世は約束された……」


「まさか、まさか本当に君が……マガイモノ成分を破壊し、記憶を完全に消滅させる薬を完成させるとは!」

「これで遂に『たくっちスノー量産化計画』が始められる!」

「後はさらに大きな事を進めれば、遂に時空監理局が全ての世界を本当に監理できる」

「冷遇されてきた我々がヒエラルキーの頂点になる!」

局員達が歓喜に震える中、新人の月影は一人、違う事を考えていた。

(え?あれ?これ私が、宅地雪への復讐果たしたことになったんじゃ……)

何かおかしいなと月影が思った瞬間、局長室のドアが開いた。
そこには、アマツキ達紅蓮隊のメンバーが待っていた。

「あ、リーダー……す、すみません、あの、私上の階級になったんですけど……」

「そうか、もう私たちにはどうでもいい」

紅蓮隊は解散だし、我々全員辞めるからな」

「え!?」

アマツキはそう答え、月影の作った薬を手にする。
「記憶消去、そして量産化か……確かにあの男は不老不死の男だ、何個も作れば我々のような雑用係は不要だな」

「いや私はそういうつもりでは」

「何より」


「全てを失った奴にもう二度と我々は復讐することは出来ない……」

「時空のサークルクラッシャー、噂通りの腕だな」

「…………」

「くだらない理由で復讐なんか考えて悪かったな」

「でも私にとってはあの団子屋は大事な我が家だった」

アマツキはそこまで言うと、話が終わったかのように局長室から出て行った。
そして、残りの局員達も後を追うようにその場を去った。

(あれ?もしかして私……何も無いのに復讐成功した!?)
月影は一人取り残された部屋で呆然としていた。
監理局内で4年後……

月影は時空監理局のあちこちへ向かい、量産型たくっちスノーを派遣させながらあちこちの仕事をアピールするために動いていた。

紅蓮隊の頃と比例してかなり忙しくなったが、月影は今の境遇に不満は無かった。


時折アマツキ達は何をしているのか……を考えるが、過去の自分達のようにパッとしてないのだ、何がどうなってようとこの大発展した時空には関係ない。

月影は時空を、世界を、監理局を飛び回り。
今は時空監理局こそが素晴らしく、何よりも上であることを証明する為に働いている。



だが……
この時代の中で忘れているが、月影は『時空のサークルクラッシャー』と言われるほど無自覚に場の空気を乱し、人間社会を崩壊させてしまう。
月影も知らないが、そのサークラぶりから家族にも諦められて田舎から追放され、事実勝手にたくっちスノーを量産体制に入れたことで紅蓮隊を崩壊させた。



【そんな彼女を時空監理局で自由にさせたらどうなるか………】


あの組織が内部で腐敗化する。
それまでの時間は決して短くはない。


最終更新:2023年08月08日 19:58