ディスペクターVSマガイモノ

宅地タスキが『たくっちスノー』ではなくなってからどれくらいたっただろうか。
宅地雪になってからは文字通り感覚すら無かったが、改めて感じる人間になったという感触。
時空最悪の犯罪者と言われた頃なら信じ難い出来事だろう。
しかし今では心地よい、今自分は…満たされている。

だがタスキは忘れない。


「よう、タスキ……戦え」

自分もまた、たくっちスノーであったことを。

………

始まりは唐突だった、物語を進めるためのありふれたフレーズ。
しかし奴を前にしてはどんな物でも唐突にならざるをえない。
どんな願いでも叶えられるスターアベネスの前では。

「一応、スターアベネスでいいのかな、君1人だけど」

「元からベルなんか頭数に入れてねえよ、たまたま顔の片方が別人だっただけ、オレは
オレ1人でスターアベネスだ」

スターアベネス
いつの間にか現れて定着したようなしてないような、たくっちスノーのライバル。
どんな願いでも叶えられる『ネガイモノ』の王にして、神のなり損ない。
生きる理由はただ一つ、たくっちスノーを超える……。

「と言ってもだ、人間なんかになったお前を一方的に願いでなぶり殺しでもつまらん、だから……デュエマしろ」

「デュエマ?そういえば君、ディスペクターとかいう変なヤツら創れるんだっけ、僕らのパクリみたいな奴ら」

そこからは早かった、やるとも言っていないのにアベネスは願いの力でデュエマのフィールドへ転送、しかもダメージがそのまま連動する真仕様のガチのヤツである。

「せめてデッキ出させてよ」

「そうやって余裕こいていられるのも今のうちだ、これは勝負じゃなくて処刑なんだからな……」

せっかちな勢いで仕方なくタスキは適当に組んでそのままにしていたデッキを取り出し、スターアベネスと戦うことになる、デュエマで。

デュエマスタート…!



スターアベネスが使うディスペクターというカードはデュエマにおいては全てが切り札級の性能、ただしコストが高いので出すのには時間がかかるのだが……
なんとアベネス、余裕の全40枚全てディスペクターという激重デッキで舐めプ状態。
デュエマには5つの色があり、2つでも混ざった色のカードは扱いが非常に難しい、それを……。

ターン5

「オレのターン、金鳥縫合ナガレホシ召喚だ」

わずか五ターンで召喚。
アベネスの前にシャッフルは意味なし、全て都合のいい手札が揃うのだ。
だがアベネスはまだ動かずターンエンド、一方タスキは……

「呪文!鬼寄せの術!シールドを1枚回収して次の火か闇のクリーチャーのコストを4まで軽減!」

タスキが使用しているのは鬼札王国、『鬼タイム』というシールドが減ると本領発揮する特別なカード達で構成されたデッキだ。

「1マナでキズグイ変怪!更にイタチ変怪召喚!」

シールドを減らして本領発揮のデッキの為、タスキは速攻で殴らなくてはならない。
ディスペクターが本格的に動くには時間がかかる、出遅れたら負ける…。

「この2体はスピードアタッカーだからそれぞれシールドを攻撃!」

2体の妖怪がアベネスを守るシールドを粉砕する、このフィールドのシールドは実体化しており……壊れた破片で頬を斬ることも珍しくない、アベネスは破片からシールドに入ってるカードをしまう。
アベネスのディスペクターにはシールドを増やすEXライフが存在しない為お互いに2枚シールドを失い6枚、鬼タイムの条件は成立しここからが鬼札の本領発揮となる。
だが……

「トリガー無しだがもう勝ちは決まった、オレにカードゲームの常識が通用すると思ったか?」

何故デュエマのルール解説を地の文で行わないのか、それはこれから行われる物はデュエマといえるかも怪しい物だからだ。

「遊戯王の方だが、こんな言葉があったな?最強の決闘者は全てが必然……ドローカードさえも創造してみせる、と、こんな風にな」

アベネスは雑にドローしたカードをわざとタスキに見せつける、勝利宣言のように。
そしてタスキもこれカードにしちゃダメだろと言いたいが、アベネスはそういうやつなので何も言えなかった。

「こいつはオレのエースカード、ジジイが言うにはこの時空において重要と言われる2人のキャラクターを元にしたディスペクターだ、そいつを出す方法は簡単……GR・V!」

「ガチャレンジ・ボルテックス…!?」

「エクストラデッキにある!GRカードを10枚!バトルゾーンに出す!!」

まさかの10連ガチャ、GR召喚というのは要は効果さえ通ればもう1つのデッキからノーコストで適当なクリーチャーを出せるのだ。
そして現実でも今アベネスがやっているように1ターンでぶん回せばいいという曰く付きの代物である。
アベネスは豪快にカードをドローして10体のゴミを並べる、比喩抜きで本当に『ゴミ』としか書いてないのだ、手抜きである。

「そして!GR召喚したクリーチャーのコスト合計が50以上になればV条件成立だ」

『ゴミ』のコストは5、10枚でピッタリ50。
全部を縦1枚に重ねてアベネスはクリーチャーをたたき落とす。
今ここに史上最凶の願いが込められたディスペクターが降臨した。
タスキの周囲に大きな影が出来る、自分を守る3枚のシールドも心許無い大きさに見えてくるほどの巨体。
その姿はデュエマ世界においても最早幻となった伝説の怪物、フェニックス……。

「コスト50!聖火連結鳥天ファリティ・フェニックス!!」

「うっ……でも鬼札にはブロッカーも居るんだ、トリガーだって」

「じゃあファリティ・フェニックスはQブレイカーでスピードアタッカーでマッハファイター、シールドは墓地に送られるしフィールドに居る場合ブロッカーは出せなくなる、もう終わりだ、死ね」

フェニックスとナガレホシの攻撃でシールド全消滅からのトドメ、本来ならこれで終わる、命も尽きる。
なんでもありとの戦いなんてそんなものだ、これはカードゲームでも真剣勝負でもない、既存の物を利用した一方的な俺ルールだ、相手をするのも馬鹿らしい。
攻撃がとんでくる瞬間、タスキはそんなことを考えていた。

「………にしてもお前、デモニオに鬼札王国ってどんだけ旦那好きなんだよ、お前の息子だってお前よりそいつ中心で引き継いだんだろ」

「人の息子に文句でもあるの?」

「あるに決まってるだろ、そんな奴がお前の息子、少なくともオレが戦ってお前より楽しめることはないんだからな」

「は?」

聞き捨てならぬその言葉
タスキのさっさと終わらせて楽になろうという気持ちは一瞬で消失した。

「お前言ってくれるな、僕の息子と旦那が弱き者と?」

たくっちスノーなら片足1本でフェニックスを蹴り返すことなど容易、昔ならゼロ・フェニックスを叩きのめしたこともあった。

「ば……馬鹿!!ダイレクトアタックを蹴りで無効化するな!!」

「ルール無関係にめちゃくちゃしてたのはそっちだろ?」


「僕が心から愛した男の血筋を…それを愛したマガイモノの力を…その身を持って知るがいいーーーーーーっ!!!」

たくっちスノーは最強のマガイモノであり、一番最初のマガイモノメイカー
それは人間となり、宅地タスキと名を変えても変わらない。

タスキはカードを広げ、一瞬で60枚もののデュエマカードを作り出し、デッキの上限を増やす『ルール・プラス』のカードを4枚叩きつけた。

「第2ラウンドだクソアマ!!もう遊びでデュエマるのは辞めだ!」

「最初から………遊びじゃねえっての!!!」

たくっちスノースターアベネスとは少し違う。
アベネスはルールを破壊するのに対し、たくっちスノーはルールを気にした上で滅茶苦茶にする。

「今やアーキタイプと言われた僕のマガイモノ達だが……ディスペクターを倒すには充分だ!!」

デュエマ、再始動__

……

デッキを一新したタスキに対して、スターアベネスはもう手加減無用と3ターン目からファリティ・フェニックスを用意するが……

(なんだ……なんだ?たくっちスノーとしてのアイツのデッキは!)

マナゾーンから見えるカードの能力はダイナモ、スレイヤー、ウェーブストライカー、ガチンコ・ジャッジ……デュエマに存在する既存の能力がバラバラに貼り付けられてる、それ以外はあまり書かれてないシンプルなもの。
人形のようにツギハギに貼り付けられたアーキタイプのマガイモノクリーチャー………。

コンセプトが一貫していた鬼札王国と異なり一体何をしてくるのか分からない為、アベネスといえど警戒していた。

「僕のターン!ビビッドロー3発動!ドローした時に相手に見せて3マナで召喚!原始爆滅ガンバルガー召喚!スピードアタッカーだからそのままシールドブレイク……する時!マジボンバー!」

たくっちスノーはその身に全てのキャラクターの設定を宿し、臨機応変に使い分けることで劣化版になるというマガイモノの欠点を克服した…例えるなら生きるピクシブ百科事典。
根底を壊すまでもない、既存の能力を状況に応じて繰り出すだけでゲームを支配できる。

「ガンバルガーはマジボンバー7だからドローしてコスト7以下のクリーチャーを出せる!来い!!ボルシャック・ドラエモン!」

これでこそ最強無敵、 興が乗ってきたスターアベネスは更に調子に乗り、更にディスペクターに狂った効果を乗せ始める。

「オレのターン!2マナで炎讐電融ブランドヴァーヴァ召喚!こいつは火のカード全てB・A・Dにして自壊効果を無視出来るようになる!」

スペックに対して低すぎるマナのスターアベネス
あくまで効果を使用した踏み倒しのたくっちスノー
やり方こそ違うが、互いに無法
究極天才と最強無敵、時空犯罪者と時空犯罪者のデュエルだからこそ許される行い。

「相手ターンだけど『無垢』の頂 シャングリラ・フロンティアのラビリンス発動!僕のシールドは今アベネスより多いからこのカードをシールドにして、代わりにシールドを1枚回収してそのままフィールドに出すよ!来い!サヴァキ龍ファイブディーズ!効果で山札の上から3枚表向きにして、全部手札に加えるよ!」

「ちっ……全部スピアタにしとけば良かったか……まあいい、次のターンで終わらせてやる」

「そっか、じゃあ次のターンでアベネス倒せばいいことだね」

あっけらかんと言い放つ、その態度が実に腹が立つ。
出来るわけがない、アベネスが居るのだから。

「僕のターン、えーと……今五マナだっけ、全然足りないと思ってない?マガイモノが三体いるからG・ゼロ発動、正義の調律ワンピース召喚!ワンピースの効果で超次元ゾーンから闇文明のドラグハートを呼び出す!」

「今時ドラグハートかよ!!」

ワンピースの右腕に巨大な刀が握られる

「卍解刀ブリーチ!でこのカードは装備しているクリーチャーと同じコストのクリーチャーを召喚した時、龍解成立だよ」

「ワンピースのコスト12もあるだろうが!出せねえよ!」

「それが出せるんだよ!呪文!超次元ダイナミックゾーン!グレートメカオーのサイキック・クリーチャーをコスト合計10になるように召喚する!」

スターアベネスがGRゾーンならたくっちスノーは超次元ゾーン。
別次元からスーパーロボットによく似たマガイモノ『グレートマジンガー』と『ゲッターロボ』を召喚し……サイキック・リンクで1つになっていく。

「覚醒リンク!マジンエンペラーG!効果の虹帝双極∞発動!山札3枚を見てツインパクトカードなら呪文を唱えた上でバトルゾーンに出す!!3枚というか60枚全部ツインパクトだ!!」


「1枚目!ドンドン踊るナウ!手札のカードと山札の1番上をアンタップした状態でマナゾーンに置く!唱えた後シャドーハウス召喚!」

「2枚目!地獄門バビロン!相手の手札を1枚墓地に送って、それがクリーチャーならそれよりコストが低いクリーチャーを墓地か手札から召喚!」

「ッ!しまった、ファリティ・フェニックスを温存しすぎていた……」

「コスト50のファリティ・フェニックスから………コスト45!!デ・スノート召喚!更にバビロンの効果が終わり、クリーチャー側のドロヘドロ召喚!」

「最後に3枚目!手札を任意の枚数捨てて、禁断のBB8!ヴァーヴァを封印しながらマナゾーンのマナを水晶化させる!クリーチャー側のザ・ブロッサム召喚!………忘れてないよな?龍解条件達成!!ブリーチをドラグハートクリーチャー バーン・ザ・ウィッチに変化!!」


「なっ……」

普通ここまでやるか、効果自体はめちゃくちゃだが全て別のカードにも存在しているものだ。
それをただ好きなように使い倒しただけで、あっという間にマガイモノクリーチャーがこんなに並んでしまった。
スターアベネスは成長していなかった、学んでいないという訳では無い、弱者を痛めつけていく内に次第に驕りが抜け出せなくなってしまったのだ。

(クッソ……あの時!さっさとファリティ・フェニックスを出して一気に殺しておけば……だが、次のターンで願いの力を使えば、シールドだって仕込めばいい!)

スターアベネスがシールドに仕込みをしているが、タスキは気に停めずクリーチャーで攻撃を仕掛ける。

「ボルシャック・ドラエモンで攻撃する時アバレチェーン発動、このクリーチャーが最初に攻撃していた場合………マッハファイターとスピードアタッカーをマガイモノ全てに付与、シールドブレイク」

「シールドトリガー!!スーパーデーモンハンド!バーン・ザ・ウィッチ…クソッこいつジャストダイバーだ!ならザ・ブロッサムを破壊!」

「エターナル・Ω発動!代わりに手札に戻すよ……次はワンピースでダブルブレイク!」

「シールドトリガー!スーパーナチュラル・トラップ!スーパーバイナラドア!消えろマジンエンペラーG!ドロヘドロ!」

「サイキックリンククリーチャーは分割して場に留まる!グレートマジンガーを残してドロヘドロの真・エスケープ!シールド2枚回収して場に留まる!デ・スノートでトリプルブレイクする時!シールドを減らしたから鬼タイム発動!マナゾーンと手札から計マガイモノを4体並べて無月の門を生成!でもルールだから発動するのはターンエンド後ね!」

「クソッ、シールドトリガー………ここで使えるのは……」

「無駄だ!ジャストダイバーのバーン・ザ・ウィッチが居る時点でもう止められないよ!そのままダイレクトアタックだ!!」

…………

マガイモノによる攻撃が届きそうになった瞬間、タスキはまたいつもの旅館に戻ってきていた。
いつもこうだ、都合が悪くなると願いの力で無かったことになる、しょうもねぇよなあアイツ!

「………まあ、こんなんだから僕も本当は真面目に相手したくないんだけど、ついムキになってしまう」

いつからスターアベネスはこうなってしまったのか、あるいは元からなのか。
最初こそライバルとして対等に戦ったこともあるだけにそれ相応の実力は知っている、だが今は……アベネスは周囲を見下す内に成長しなくなり、追い越されつつあることに気付いていない。

「悲しいよ……君は上手くやれば強いはずなのに、ライバル名乗ってんだから、もっとちゃんとしてくれよ……」

あのディスペクター達も、スターアベネスよりずっと使いこなせる人物は時空を巡れば何人か居るだろう。
最終更新:2024年08月21日 20:41